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愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第二章 死闘 修羅の荒野開演
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修羅の荒野開演編8

 こうして俺達はZⅡを停めた駐車場まで辿り着く。



「さてと、知り合いの修理工に引いていかなきゃな……」

 覚めたようにZⅡに歩み寄る一弥。ヘッドライトは取れかかり、タンクもへこんだ状態。交機のオッサンとの、激しい追走劇を勝利した俺達だったが、その代償は大きかったという訳だ。



「ご苦労だな、一弥」

 俺は右手をかざして投げ掛けた。

「なんでアスファルトのロードが、オフロードみたくなるかな。……神様にでも呪われたか?」

 あり得ないけど、賠償請求なんかされたら迷惑だ。ここはしらをきって逃げるのが正解だ。




「じゃおいら達は帰るね」

「いろいろお世話になりました」

 春菜と太助も伝える。


「ああ、俺とこいつは、こっちだから、ここで解散だな」


 少し前までその誰もが笑顔さえ忘れていた。目に見えぬ恐怖に震え、困惑し怯え抗い、光を求めて駆け抜けていた。

 だがこの瞬間、その場にあるのは満面の笑みだけ。だからこそこの一瞬の安らぎを大切なものだと感じていたんだ。



 それでも何故か浮かない表情の男がひとりいた。それは一弥だ。何かを考え込み、その答えを探り出そうと腕を伸ばした。その刹那、マリアの渾身のアッパーパンチが炸裂した。


「グギャー!」

 透き通った夜空に響き渡る悲痛な叫び。一弥の馬鹿は、正義だ友情だとほざいてる割には人の話を信じない。だからそうなるんだっての。







 俺はマリアを背負い、闇夜の支配する国道沿いを歩いていた。


 ブルルル……ケータイが鳴った。

「誰だ、おめー」

『ワシじゃ! マリアが、マリアがまだ帰っておらぬようなんだ!』

 相手は永吉のオッサンだ。


「何すか、俺にボディガード頼んでおきながら、いちいちチェック入れるのか?」

 呆れて返した。

『ま、まあな、たまにはよいじゃろ?』

「マリアなら無事だ」


『無事? マジなんじゃろうな小僧!!』

「ウルせーっての。大丈夫だって。ヤバかったけど何とか寸前で助け出したから」

 そして通話が途絶える。


『そうか。……良かった」

 やがて聞こえたのは、安堵するオッサンの声だった。口では金持ちだとか会社が大事とか言ってるが、流石は親だ。オッサンも所詮は人の親って事だろう。


「色々とゴタゴタがあってさ。とにかくこいつ寝ちまったから連れて帰るわ」

『ね、寝ただと!』

 そして再びオッサンの驚き声が耳をつんざく。

『マリアに近寄るなよ! マリアが寝入ってしまったら普通の男では相手にならん』

「何の話すか」

『マリアは寝入ってしまったら、直ぐには起きん。しかも男が近付くと無意識に拳を浴びせる。だから近寄るな』

 淡々と伝えるオッサン。

「なんだよそれ?」

『なんだといっても、そうなんだ。ワシの一族は武家の出身じゃからな。自らの身は自らで守る。故にたまにそのような者が生まれるのじゃ。高貴なる血は何者にも侵される事はないって事だ』


「金持ちの防衛本能って事か? 俺みたいな貧乏人には理解不能だぜ」

 俺は呆れて伝えた。それでも一応は納得した。天然で無防備なマリアだけど、その本能だけは誤魔化せないって事だろう。



 それでも、いやだからこそ納得出来ない情況もひとつだけあった。


「なぁオッサン、マリアは全ての男に暴力を振るうのか?」  

 それは今現在の情況だ。防衛本能が働いて男を容赦なく殴るってんなら、何故こいつは俺の背中で寝てるのかって事だ。


『いや、ワシや一部の従兄など、気を許す男には手は出さんが……それがどうした?』

 戸惑うようなオッサンの声が響いた。

「気を許すって……」

 俺は訳が分からなかった。愕然と宙を見据えその場に立ち尽くした。



『どうした、小僧? 何かあったのか?』

「いや、何もない。とにかくマリアは無事っす、安心しな」

『おい、どう言う意味だ? 答えろ……』

 そして戸惑うオッサンを無視し、通話を切ったんだ。


「……まさかな」

 そして背中で寝入るマリアを見つめた。マリアは相変わらずスヤスヤと寝ている。

 その寝顔を見ていると、考えるのが馬鹿らしくなった。


「帰ろうぜ、あのボロアパートに」


 それは、空気が澄み切って幾多の星が輝く、そんな夜だったんだ。


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