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愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第二章 死闘 修羅の荒野開演
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修羅の荒野開演編7

「確かにあんなボロアパート、知り合いには見せたくねーわな」

 俺はしみじみ思った。


「何の事だ、ボロアパートって?」

「ボロアパートって言ったらボロアパートだ。床は穴だらけ、壁は崩れる。お嬢様が住んでるなんて、普通じゃ考えられない」

 実際あのアパート、近所の住人は、化け猫屋敷、って呼んでる。インターネットの心霊スポットにも載せられるような、凄まじさを誇っている。あのアパートを見て、酷い祟りを受けた奴までいるらしい。


 俺は思う。それも白城一族が流したデマだろうと。そうする事で多くの奴らはアパートに寄り付かない。もし近づいても、祟りと称して何かしらの手段を講じる。結果そんな都市伝説が流れ出した、って。



 だが意気揚々と話し込む俺を、何故か太助達は怪訝そうに見つめている。


「シュウ、もしかしてマリアちゃんの住んでるアパート、知ってるとか?」


 そしてその問い掛けではっと我に帰った。しまったと思った。調子に乗って、いらない事まで喋ってしまった。





「な、何の事だ。俺は知らない、化け猫屋敷なんて。それよりあれだ。そいつの親に迎えに来てもらえ」

「だけどあたし、マリアちゃんの親の連絡先、知らないんだよ」

 今度は春菜が言い放つ。

「そいつのケータイ見ろ。白城永吉って名前で、載ってる筈だ」

「白城永吉? それが親の名か。何故お前が知ってる?」

 怪訝そうに言い放つ一弥。

「何となくだ。何となく。親が駄目なら、アパートの大家を呼べ。バカボンのパパさんみたいな大学教授」


  そこまで言って俺は息を飲む。注ぎ込まれる一弥、太助、春菜の冷たい視線。ここまで喋ったら全部バレバレだ。まるでストーカー。奴らの問い掛けに、俺はテンぱり秘密を暴露していく。喋れば喋るほど墓穴を掘るだけ。真っ赤に紅潮し視線を泳がすしか術がない。実際俺様は、隠し事は嫌いだ。




 ふっと浅い息を吐く一弥。

「とにかく、そいつの住むアパート知ってるようだな」

 そして伝えた。


「あれだ、たまたまだ。たまたまそいつの住むアパートを知ってたのさ」

 俺はそう答えるのがやっとだった。

「だけど、そいつを連れて帰るのだけはゴメンだぞ。殴られんのは勘弁だから」

 それでもそれだけは否定した。


 そして冷めた空気が包み込む。特に一弥の奴は、納得せず何か言いたげな視線を向けていた。


「ムカつくやろーだな! 分かったよ俺様が連れ帰れば満足なんだろ!!」

 堪らず吐き捨てた。確かにマリアの奇行は口で説明するのもめんどくさい。言い訳に聞こえるのも尤もだろう。実際一弥の奴、正義とか男気って言葉に過剰に反応する。このままじゃある事ない事、ほじくり出されるのがオチだ。



 殴られる恐れもあるが所詮女。我慢するしかないって思ったんだ。気合いを籠めて、マリアの腕に近づける。きめの細かい、透き通るような肌だ。力を加えれば、へし折れそうな脆さを秘めている。そしてゆっくりとその腕に触れた。


 人が思う常識は、他からすれば非常識だ。有り得ない出来事はごく一般に有り得る出来事。そしてその逆も然り。常識も非常識も、所詮人間が作り上げた目安にしか過ぎないのだから。



 マリアは穏やかなままだった。その腕を握っても襲ってくる気配はなかった。




「くだらない言い訳ばっかしやがって」

 呆れたように髪を掻き上げる一弥。

「言い訳なんかじゃなかったんだけどね」

 愛想笑いを浮かべる太助。

「気のせい、だったのかな?」

 同じく春菜も苦虫を潰したような表情だ。



「やっぱ気が立ってただけだべ。犬だって熟睡すれば危害は加えない」

 実際訳が分からなかった。背中にマリアをおんぶした状態で考える余裕なんかなかったから。背中越しに穏やかな寝息が感じ取れた。空気が揺れて髪の毛の香りが鼻孔をついた。安らぐような優しい香りだ。ふたつのふくらみが背中に当たり、命の鼓動も伝わってくる。


 まるで春の世の夢の中に誘われるような気分。ムカつきも戸惑いも、苦しみも憎しみも、全てがどうでもいい事に思えた。




「……シュウ?」

 そして太助の一言で慌てて我に返った。


 不思議そうに俺の顔を覗き込む太助。同じく一弥と春菜も怪訝そうに俺の表情を窺っていた。


「うるせえ、帰るぞ!」

 俺はそれらを蹴散らすように、叫んで歩み出した。

 多分俺の表情は、腑抜けたような馬鹿面だったろう。ホント調子が狂うと思った。マリアの警護なんて仕事を請け負ってからろくな事がない。



 だからこそ疑問が残る。三崎はどうして、あそこまで執拗にマリアを浚ったんだろう。あのナンパ師や土佐犬、鉢植えはマリアに向けて放たれたものだった。それに王城、奴はマリアと仲がいいようだ。だけど、それなら何故、マリアをここまで誘き寄せた。



 そして三崎が言った、この世界の王がリキ丸って台詞。それこそがあり得ない。仮にそうだとして、奴に何のメリットがある。こんな人間界の片隅、箱庭みたいな場所に何がある。とはいえそんな事、知ったからってどうにもならない。全ては俺が引き付けた宿命のせいだ。大いなる意思がもたらした、最悪の罰。修羅場な運命、それだけの事。

 

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