修羅の荒野開演編6
「とにかくこいつ、どうにかしないと」
言って立ち上がり、部屋を繋ぐドアを開ける。
「シュウ君!」
「勝ったんだね!」
雪崩れ込むように春菜と太助が駆け込んでくる。その視線が捉えるのは、すやすや眠るマリアと、床に倒れ込む三崎の姿。俺の勝利を確信し、喜びを爆発させるように手を取り合いはしゃぎまくる。
「とにかく帰るぞ。こんなエロの巣窟、いつまでもいる訳にはいかねー」
俺は言った。三崎が起き上がる恐れはないだろうが、他のアルタイルメンバーが加勢に現れる可能性もある。そうなれば面倒だ。とは言え課題は残ってる。
「ねぇ、シュウ。マリアちゃんどうしょうね。殴るのかな」
ボソッと投げ掛ける太助。
「確かにあのパンチは、俺様でもびびる」
そう問題はまだ残っている。危険な眠り姫をどうすればいいかだ。実際この女、マジ危険極まりない。三崎程のボクサーを打ちのめしたその能力。流石の俺も戸惑いを覚える。
「私が担いで来た時は、何ともなかったのに」
春菜が怪訝そうに首を傾げた。
「ここまでは私が連れてきたの。だけど殴られたりはしなかったんだ」
「そりゃーおめー。その時は満腹で機嫌が良かったんじゃねーか? 腹が減れば誰だって機嫌がわりー」
実際そういう事かも知れない。野良犬だって同じだ。奴らも空腹の時が一番強暴。だが太助は俺様の意見をあっさり断ち切る。『マリアちゃんはお嬢様だよ。そんな筈がある訳ないよ』だけどわかんねーだろ、お嬢様といえど生き物だ。
そんなふうにグダグダと討論を繰り出す俺達を余所に、春菜はじっとマリアを見つめてる。そして意を決したように、マリアに腕を伸ばした。
俺と太助、意味が分からず息を飲む。逆な意味で呆気に取られた。マリアは無反応だった、春菜に対し攻撃を繰り出す事はない。
春菜はホント肝っ玉母さんタイプだ。優しくマリアに語りかけ、その肩に担ぎだす。マリアは穏やかな状態。けして春菜に手を出すようには見えない。実際何でだ? 春菜が女だからか。そもそもそれが正解だとして、どうして意識がないのに性別が判る。何か特別な訓練してんのか。
「帰りましょ。シュウ君、太助君」
そんな困惑も余所に、春菜はあっけらかんと伝える。その何でもない台詞が、俺の戸惑いを吹き消した。確かにそうだ、考えても仕方ない。今は帰るのが先決だ。
こうして俺達はビルの外まで脱出する。
街並みは穏やかだ。空を覆う立派な三日月、それに照らされ水滴がキラキラ光る。
「追っ手がこねーうちに、バックレんぞ」
言って俺は国道方面に向き直る。
ガシャーン! 後方でガラスの割れるような音が響いた。
振り返る俺の視線に、飛び散るガラスの破片が映り込む。キラキラ輝く破片、それをバックに大きな影が宙に浮いている。やがて停めてあった車にぶつかり、ズルズル崩れ落ちた。
よく見ればそれは人間だ。ボーズ頭の男、一階の窓から吹き飛んできたらしい。
「おいおい、俺を忘れるなよ」
聞き覚えある声が響く。それは一弥だ。壊れた窓に片足をかけ、覚めたような視線を送っている。
「一弥、悪い忘れてたぜ」
「まったく」
「いいじゃんかよ。それよりそっちは終わったのか?」
「ああ、楽勝だよ」
俺の問い掛けに拳をかざす一弥。体も顔も傷だらけで、着てる衣服もボロボロだ。それでも浮かぶのは堂々たる表情。二階から一階にかけて激しい乱闘を繰り広げたんだろう。
「派手な争いだな。……ワカバヤシは死んだのか?」
「……誰だそれ。林田だろ」
「何だっていい。とにかくよくやった。流石は俺様の兵隊だ」
「誰が兵隊だ」
こうして全ての無事を確認した俺達。自然と言葉が溢れた、互いの勝利と無事を祝う。色々あったが、こうして無事帰れるんだ、それで良しとしよう。
だが一方の一弥は別の方向を見つめている。
「シュウ、その女、お前が連れて帰るんだろ?」
そして言った。その一弥の台詞は、俺に取っちゃ意外な台詞だ。
「この際、どうしてお前が、この場に殴りこんだのか、なんて気にはしない。隠しておきたい感情ってものあるだろうからな」
「な、何の事だ? 意味わかんねーぞ。それに俺は女が嫌いだ」
戸惑い返した。マジで意味が分からない。この男、何を勘違いしてるんだ?
「ストレートに言う。その女、お前が責任もって送り届けろ。お前が女嫌いだろうと、それが男としての使命だからだ」
それでも一弥は堂々たる表情。
「おいら、春菜を送っていくよ。一応男だし」
すかさず太助が言った。マリアに殴られるのが怖くて、安パイを取ったって構図だろう。
「ほら、傷だらけの斉藤までそう言ってるんだ。お前も男だろ」
更に言い放つ一弥
「だから、何で俺様がそんな事。おめーが送り届けろ!」
「馬鹿、俺はお前の加勢に来ただけだ」
「だったら俺も同じだ。太助の加勢」
「馬鹿、話をはぐらかすな」
こうして俺達は、マリアを送り届ける件で言い争いを続ける。
「マリアちゃん送っていくにしても、彼女のアパート、どこにあるか知っているの?」
不意に春菜がいった。
「えっ、春菜って、マリアちゃんのアパート知らない?」
呼応して訊ねる太助。
「そうなの実は」
項垂れる春菜。その様子に誰もが言を失う。確かに意外だ。マリアと春菜はかなり仲がいい。それなのに住んでるアパートを知らないなんて。
春菜がいうには、一度だけマリアの勧めでアパートに招待される機会があった。だがそれは現実とはならなかった。行く途中で謎の人物に道を訊かれて、そのどさくさでマリアとはぐれたらしい。
結論からいって、それは階下のソウイチロウの仕業だ。あのアパート、基本的に白城一族と、その護衛しか足を踏み入れられない。住宅街の、袋小路の一角に建てられているんだが、その一本道はいつでも工事中。ミカドグループによる規制だ。
俺がマリアの警護をする前は、かなり強引にマリアの警護が行われていたらしい。マリアに近づく者は容赦しない。男はお仕置き、女は排除。学園内じゃ、影で暗躍する黒服集団、と恐れられていた。
前に一度だけオッサンに聞いた事がある。『オッサンはマリアをカゴの鳥にする気なのか』って。そしたらオッサン『そんな訳あるまい。ただワシの部下共、たまにやり過ぎる事がある。悪党と友達の区別もつかんのじゃ』つまり春菜は、その大人達の馬鹿げた計画でマリアの住んでるアパートを知らないって事だろう。
レイアウト変更してます。詳しくは前ページで




