修羅の荒野開演編3
「言ってみれば第七の世界。だから簡単には抜け出せない。まさに、暴君が創り出した、時の迷宮だ」
「時の迷宮だぁ?」
俺は訊いた。実際興味があった。 確かに俺も感じていた。俺のいる空間が、他の世界と違う事は。普通に考えてあり得ないんだ、俺に降りかかる災いの数々。他人に及ぶ火の粉の凄まじさ。ルカ一人で画ける内容じゃねー。
窓の外は暴風雨。ごうごうと音をなし、闇夜に吹き荒れている。
「そうさ、時空のゆがみに創られた迷宮。時の大樹、によって形成された、逃げられぬ戦場」
静かに言い放つ三崎。静かだが、風の音さえ掻き消す強さが窺えた。
神話によれば、時の大樹の一番てっぺんには時計があって、それによって全ての生き物は転生してる。つまり命を刻む時計。六界の誕生と、終焉にも関わりを持つらしい。
「そもそもこの空間が誕生したのは、暴君が時の大樹を参拝した事に忌諱するんだ」
「暴君ってのは知らんが、つまり大樹参拝か」
六界に於いて、その世界を統べる王は、己の繁栄を願い、時の大樹に謁見する。時の大樹に己の血を捧げる事で繁栄が確約できる。
安国参拝と同じだ。畏敬の念ってより、己の力を示す意思表示になる。他人の意を傘に、やりたい事が出来るようになる。
最強神、聖霊王や閻魔王なんかもその儀式を執行したとされてる。結果他界からの同意を得たらしい。
とは言え、それらは全て、古い書物の中の出来事。神話の話。今から数千年前、魔王が魔界の王となったんだが、魔王はその儀式を執行しなかった。それ故その全容は、殆ど知られてない。
「大樹参拝の際、時空にゆがみが生じるのは知ってるか。ほんの数秒、秒針に狂いが生じる。それで産み出されたのがこの空間、閉ざされた世界。神話の中の話だが、この世界は各界の王が誕生する際に、その都度誕生してたそうだ。かつて最強神が誕生した際は、地上の桃源郷、って呼ばれた。閻魔王が誕生した際は、第七監獄、って呼ばれた。だから俺達のような前世の記憶を持つ者は、この空間を、修羅の荒野、って呼んでる。今回のこの世界は、修羅である暴君が創り出したからな」
一気に話し出す三崎。煙草を灰皿にもみ消し、新しい煙草をくわえ火をつける。
「修羅の荒野だぁ」
俺はごくりと喉をならす。
「ちょっとまて、さっきから何を言ってる、暴君って誰なんだ?」
堪らず訊いた。時の大樹に関しては理解した。難しい話だが、修羅の時代に神話で訊いていたし、ルカの奴もそんな話をしてたからだ。だけど暴君とか、修羅って何だ。三崎の話は大雑把過ぎる。
そんな俺を三崎は怪訝そうに見据える。
「修羅界の統一者、大阿修羅王リキ丸に決まってるじゃねーか。奴は尊敬する者には覇王とか呼ばれているが、俺らからすれば暴君。六界を奪おうとする悪党に他ならない」
煙草の紫煙が宙に棚引く。俺はごくりと唾を飲み込んだ。血が喉から流れ込み、鉄のような味がハラワタに染み込む。
俺達はリキ丸を覇王って呼ぶ。尊敬と敬愛を籠めてだ。だがリキ丸に刃向かう奴や、他の世界の奴らは、皮肉を籠めて暴君と呼ぶ。存在意義ゆえの呼び方だ。
「勘弁しろって。あの男がそんな事する訳ねーだろ。何を根拠に喋ってんだ」
俺はムカつを籠めて言い返す。確かにリキ丸は、時の大樹に謁見を果たしてる。
リキ丸が消え去るその時まで、リキ丸は修羅界の統一者になるって言われてた。六界の誰もがそう痛感せざる得なかっただろう。
しかしリキ丸がそんな事する筈がないんだ。何故ってリキ丸は大阿修羅王になれなかったんだから。修羅界から解脱したから。よりによって、俺達が見ている前でだ。
奴は言った。『私は進むべき道を誤った。故に修羅界を今一度混沌に落とす。新たなる修羅界の礎として。新たなる世界を創るのは、若き力なのだから』
確かにリキ丸は、修羅として高齢を誇っていた。『武人として生まれたからには、修羅界の統一を果たす』その目的の為に高齢になって妻をめとった。だがその事と、修羅界から解脱する事と何の因果がある。
時同じくして、西の大阿修羅ジンが挙兵する。奴はリキ丸が討ち取った筈だったんだ。だけど生きていた。連戦につぐ連戦を勝利すると、リキ丸に恨みを残す輩を纏めあげ、数千万の大軍をもって攻めこんできた。
総大将リキ丸を失った俺達の軍は混乱に堕ちる。結果、惨敗。以降、俺達はゲリラ戦に転じる__
多分三崎は、リキ丸が修羅界から消えた事実を知らないんだ、俺より歳が上だから。リキ丸が解脱したのは、俺が人間界に転生する一年前、その頃三崎は、人間として転生してる。
「根拠はあるさ。俺を裁き、ここに送り込んだのはリキ丸本人だから。その際奴は言った。『貴様の罪は根深い。全てを償うならば、あの荒野を駆け抜けてみよ。死ぬより辛い、あの荒野を』ってな」
それでも言い放つ三崎。
「つまりてめーは、リキ丸に裁かれたって訳か。だけど俺を裁いたのは天界のルカーディアだぞ」
「アルマの馬鹿息子、ルカーディアか。それは親の特権を使った行為だろう。リキ丸とアルマは、昔からの知り合いだから。だから協力してるのかもな」
「協力って、奴らは敵同士だぞ」
俺は三崎の台詞を否定する。結局話は平行線だ。互いの思想、思惑、生まれ持った価値観が、安易な妥協を許さない。
だけど心のどこかじゃあり得る話だとも思う。リキ丸とアルマ、あの二人しょっちゅう争っていたが、同じくらい信頼もしていた。それは事実。




