闇夜に輝く牽牛編3
「な、何でお前らここにいるんだ」
ツバサも事態に気づく。真っ赤に紅潮して慌てて立ち上がる。黒の革パンを穿こうと片足立ちするが、バランスを崩してシリモチをついた。
「えっ、シュウ君?」
同じく春菜もその様子に気づいた。少しばかり涙目状態だ。潤んだ瞼を右手で擦り、漠然と視線を向けている。多分俺様がここにいるのが信じられないんだろう。胸の鼓動がここからでも聞こえる。こんな変態野郎にブリーフ一丁で追いかけられたら、誰だって泣きそうになる。唯一の救いは、衣服に乱れがないこと。変態野郎が相手だったから、シチュエーションにこだわって、逆に救われたんだろう。
「春菜、無事なの」
そこに太助が駆け寄る。
はっと息を飲む春菜。湧き上がる安堵感からか、肩の力が抜けてへたり込む。
「よかった間に合った」
その肩を腕で支える太助。勇気を振り絞り敵わぬ相手に挑んだ男と、迫り来る危険を脱出できた女の感動の再会シーン。
ってもそんな茶番、俺様の前で披露すんな。やるなら舞台上でやれ。感動すんのはまだ先だ。現状ここは檻の中。欲求不満のサルがごろごろしてる
「ちっ。俺の神聖なシーンを土足で台無しにしやがって」
それを如実に物語るように、革パンを穿き終えたツバサが怒りと共に立ち上がる。
同じく後方では、四人の男達が立ち構えている。その誰もが俺の行動に怒りを覚えたか俺様を取り囲む。
「何だよ、てめーら、俺様に逆らうつもりか」
俺は拳をかざし、それを煽る。正直こんな雑魚に負ける気はしない。
「助けて下さい、野蛮な王子様!」
だが予測不能な事態が俺様を襲う。女共が腰を捻り抱きついてきた。そのせいで俺様は身動きできない。太助と春菜の覚めた視線が痛い。
「なんて野郎だ。正義の味方気取って、俺らの女、かっさらうつもりか! 石崎、俺のバット持ってこい!」
その様子に、怒りを撒き散らすツバサ。
「俺様は、野蛮だけど王子様じゃねー! 野蛮なだけの修羅! 三崎はどこだ! マリアって女をどこに隠した!!!」
俺も吠えた。俺は俺だ。野郎共に文句を言われるすじあいはねーし、女共に纏わりつかれる場合でもない。太助の馬鹿にあらぬ噂を広められるのも迷惑だしな。
「言ってる意味がわかんねーぞ! 俺のバットどこやった。石崎はいねーのか!? バットマンなめんな!」
「何がバットマンだ! てめーの言ってる意味がわかんねー!」
「俺は無敵のバットマンだ!」
「てめーのお粗末なバットか?」
「そのバットじゃねー! バット、バットマンだ!」
「だったら俺様は、不死身の阿修羅王だ!」
俺達は心から叫ぶ。場に漂う醜悪なる空気。女共もここが最悪の修羅場だと気づいたらしく、ゆっくりと入り口に向けて後ずさりする。そして一人二人と逃げ出した。
「マリアちゃんなら一番奥の部屋だよ。私がそこまで運んだから」
春菜が通路の先を指差した。通路の一番奥の部屋、うっすらと明かりがこぼれている。目指すべき場所はその部屋。その閉ざされた密室に、囚われのマリアとエロいボス猿がいる。
俺は込み上げる感情を押し殺しぐっと歩き出す。
「おんしゃ、リーダーの邪魔はさせんぞ!!」
その刹那、後方から茶髪の男が突進してきた。
「てめーが邪魔だ!!」
俺はくるりと回転し、その腹にヤクザキックを叩き込む。茶髪は身体をくの字に曲げ、後方に吹き飛ぶ。
「潰せ、潰せ!! あそこに入れるのだけは阻止しろ!!」
「当然だ!!」
今度はふたり同時に襲い掛かってきた。パーマの男とサングラスを掛けた男だ。
「邪魔だって言ってんだろ!!」
俺はその攻撃を咄嗟に躱す。そしてパーマの首根っこを掴み、もうひとりのサングラスの男に投げつけた。互いに顔面を打ち付ける二人。もんどり打って倒れ込む。
その様子をツバサがイラつきと共に見つめている。
「こうなりゃ俺が、直々に貴様を排除するのみ!」
俺目掛けて、怒涛の如くぶっ込んできた。
「女は友達。全部俺達の物! 市内制覇の手土産に、軽くひねってやるぜ!!」
俺の眼前、ぐっと拳に力を籠めるツバサの姿が映る。その顔に浮かぶのは、キザったらしい笑みだ。その類希なるルックスと、ボス猿気取りの腕っ節で、ナンパ師の荒野を駆け抜けてきた自信の表れ。
「ナンパ師が、邪魔だって言ってんべよ!!!」
俺はくるりと向き直り、その顔面に強烈なる蹴りを叩き込んだ。
場を愕然とした空気が包み込む。その視線が捉えるのは宙に浮くツバサの姿。背中を床に打ち付け、激しい悲鳴が鳴り響いた。どんなに強くたって、俺様の敵じゃないって事だ。
「さてと、出てこいボス猿」
最後のドアに歩み寄った。この中に、エロいボスざると、金づるのマリアがいる。ドアに蹴りをぶち込もうと体勢を立て直す。
「そいつを止めろ! 三崎さんに殺されるぞ!!」
ツバサの怒号が響いた。それに呼応して、サングラスの男が動き出す。床を這いずり、俺の足を握り締めた。同じく動き出すパーマ。何かを叫び、俺の背中に飛び付いた。
「ぶっ壊せねーべ!」
その行動に俺の体勢がぐら付いた。このままじゃ蹴りを入れるのは無理。
奴らを突き動かすのは見えざる恐怖感。つまり三崎はかなりのカリスマ性か腕力を備えてるって事だ。だけどもう遅い。俺はドアを蹴り破るのを諦め、ドアノブをぐっと引っ張った。




