闇夜に輝く牽牛編2
こうして俺は、隣の部屋の前まで駆けつける。
部屋っていうよりは、エントランスも兼ね揃えた立派な店舗だ。さっきの部屋は事務所だったらしい。営業自体はしてないようで、店の前のあんどんは、明かりが落ちてる。それでも中に人がいるようで、ドアの隙間から明かりが漏れている。
その横には、猛犬注意の貼り紙。そしてその下に犬小屋らしき檻がある。とはいえ犬は、隅の方で身体を丸めてるだけだ。デカいガタイが小さく見える。番犬にもならない馬鹿犬だ。
「ぶっ壊すか」
俺はそれを無視して、ドアを蹴破ろうと態勢を構える。
「あ~あ、あ~あ今日も、イッパツ打ちたいな~」
だがそのドアを開き、一人の男が現れた。坊主頭のおとなしそうな奴だ。何故かバットを大事そうに小脇に抱えてる。
「……何故バット、カンタくんか? 一応訊いとく、三崎はこん中か?」
俺はその姿に違和感を感じ視線をくれた。
坊主が視線をくれる。
「三崎さんなら、中にいるぜ。俺達はアルタイルだから」
さっとバットを振りかざし、室内を指し示した。使い古したバットには、所々に赤いシミが浮かんでる。つまり攻撃用の血染めのバット。カンタくんじゃない。
「油断させて、不意打ち狙ってんべ!」
俺は躊躇いもせず、坊主のわき腹に蹴りを叩き込む。古今東西、見た目で騙して寝首をかくのは常套手段。その手には乗らねー。
「ギャー、このバットは預かっただけだ!」
吹き飛ぶ坊主。勢いよく部屋のドアにぶつかり、反動で通路に倒れ込む。それでドアがなぎ倒され、俺は室内に足を踏み入れた。
「何だよドアが吹き飛んだぞ。石崎が買い出し、いった筈じゃ」
ロビーのような造りの室内には、アルタイルのメンバーらしい男が四人、ソファーに座り込んでいる。先程の男達とは違うホスト風の男達だ。
「嫌だ、助けて」
そしてその後方には数人の女の姿。青ざめて壁にもたれかかる女、オドオドと震える女。中には俺様の姿を見て、怯える女もいる。こいつらが騙されて連れ込まれた女のようだ。
「何だこの部屋は、馬鹿な商売でも始めるつもりか。マリアはどこだ」
俺はそんなその他大勢を無視して、その空間を見渡した。隣の部屋とは、完全に作りが違った。多分元々は風俗営業でもしてたんだろう。それを裏付けるように、ロビーの奥には通路が続いていて、まだいくつかの個室がある。多分にマリア達はその個室に連れ込まれていて、ここの奴らはその順番待ちをしてるって状態なんだろう。そうなると一刻を争う状態。つまりここで立ち止まってる余裕はないって事だ。
「ここは悪党とエロの巣窟って構図だ。全ての部屋、徹底的に調べるぞ」
「うん」
俺は気合を籠めて奥へと続く廊下に足を向ける。後ろからは太助も付いてきていた。春菜が不安で勝手についてきたんだ。弱虫の太助にしては、勇気ある行動だ。
「何なんだ貴様。ここは俺達の聖域だぞ」
俺の後方、短髪の男がムカつき気味に腕を伸ばした。
「何が聖域だ。エロの殿堂だべ!」
その行為に反応し俺は裏拳を放つ。『ぎゃっ!』と言う叫びと共に短髪の顔面がひしゃげる。白眼を剥いて崩れ落ちた。
その情況に、その場の男達の表情が一変する。口々に何かを叫び、ムカつくように俺を取り囲んだ。同じく女達の様子も一変する。いきなり現れた俺様をヒーローと勘違いして、救いを求めるように叫びを挙げた。
「三崎とマリアはここか!」
だが現状、そんな事俺にはカンケーない。雑魚と喧嘩する必要はないし、女なんか大嫌いだ。迷う事無く、通路の右側個室のドアを蹴破った。
そこは仄暗い空間だ。ピンク色の照明、それに照らされベットも壁もピンク色。ひどく不快感を覚える。何より愕然としたのは、床を這いずる男女の姿。
「あたしはあなたのお母さんじゃないですよ」
ひとりは春菜。床に腰を落とし、嫌がるように後ろに這いずってる。
「逃げないでママ。僕ちゃんはママを愛してるんだから」
そしてそれを一人の男が追いかけてる。バリバリ逆立てたウルフカットのイケメン。何故か真っ白いブリーフ姿におしゃぶりを銜えてる。
流石に呆気に取られた。まるでパイナップルだ。仲間の男達も呆れた表情。『ツバサさん、相変わらず幼児プレイに夢中だ』とか、『好みの女は全部、肝っ玉母さんタイプ』とか、愕然とした視線を投げ掛けている。
それで察した。この男はツバサって名前。イケメンな面構えと裏腹に、とんでもない変態だ。




