表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第二章 死闘 修羅の荒野開演
20/39

闇夜に輝く牽牛(けんぎゅう)編


「はぁはぁ、ここだな」


 問題のアジトは、繁華街から数本隔てた場所にあった。風俗店が軒を連ねる一角に建つ、五階建ての古びた雑居ビル。現在はテナントも入っていないようで、無機質なイメージを放っている。それでも行くべき場所は理解できた。二階部分に灯る明かり、三崎はそこにいる。



 後方の一弥は無言。擦り切れた頬、制服の袖がほつれてる。


「おめー、そんな事でどうすんだ。過ぎた事は忘れろ。戦争はこれからなんだぞ」

 俺は言った。少しばかり気合いをかける必要があると思った。


 力無く頷く一弥。実際ここまで来るのに様々な邪魔が入った。



 走りはじめて直ぐに、暴走族に絡まれた。神奈川県警、第一交通機動隊の追撃もあった。街中は酷い嵐。看板が飛び交い、濁流が襲い掛かる。

 俺達はそんなステージで逃走劇を繰り広げ、ここまで来たって寸法だ。因みに暴走族は、交機(こうき)のオッサンにビビって()えなく試合放棄。哀れなのは交機のオッサンだ。愛車の白バイ、CB750は、事故って完全スクラップ。しかも体中殴打、全治数ヶ月は確定。俺様の邪魔をした天罰だ。




 二階の一室にたどり着き、中の気配を探る。室内からはガチャガチャと何かの音が響いている。それと共に、なにかがすすり泣く声も。


「ぶっ壊すか」

 大きく息を吸い込み、そのドアを蹴破った。


「何事だ?」

「カチコミか?」

 室内に響き渡る驚愕の声。その場に居合わせた奴らの視線が飛び込んだ。


「何だてめーら? ここをアルタイルの事務所と知って、カチコミ掛けたのか」

 手前の長身の男が言った。手にゴルフクラブを構え、誰かを足蹴にしてる。

「シュウ……」

 その足下から響く掠れる声。それは太助だ。俺はその姿を認め、ホッと胸を撫で下ろす。どうやらまだ生きているようだ。それと共に怒りの感情がこみ上げる。


「知ってっから、ブッコミかけたんだ! 俺様の邪魔すんな、退きやがれ!」

 長身の肩を左手で奪い、そのどてっぱらに膝げりを叩き込む。響き渡る長身の叫び。腰をくの字に曲げ、悶絶の表情で崩れ落ちた。



「シ、シュウ、助けに来てくれたの?」

 よろよろと立ち上がる太助。頬を腫らし、唇も切れ、制服も髪の毛も埃でボロボロだ。目を真っ赤に充血させて、ずっと泣いていた事を思わせる。こんな傷だらけになっても、必死に頑張ったんだろうって事は理解できる。


「よく堪えたな太助」

 俺は言って、太助を後方に下がらせる。



「一応聞いとく、三崎はどこだ。室内を改めさせてもらう」

 室内は1LDKの造りになっているようだ。玄関と台所には、さっきの長身を含めて四人。その内三人は聖王の生徒。金髪にロン毛にサル面、堀田とその取り巻きだ。青ざめて壁際に立ち尽くしている。


「成る程てめーらも、この仲間だった訳だ」

 俺は耳の穴をほじくり言った。その視線が捉えるは、堀田の隣に立つロン毛とサル面。



 一人はF組のナンパ師。こいつもアルタイルのメンバーだったって訳だ。だから片っ端からナンパしてた。『悪かったシュウ』なんて言ってるが、今更だ。


 もう一人はサル面の男。だがこいつは俺様の言ってる意味がわからないようだ。おどおどテンパった面を見せるだけ。てめーはパンチラしか興味ねーのか。



「太助を殴ったのはてめーらか?」

  俺は訊いた。しかし奴らは答えない。何かに怯え、ガクガク震えるだけ。


「ちっ、まぁいい」

  言って俺は奥の部屋に進む。堀田を含めて、太助をこんな目に遭わせたのはこいつらじゃない。相手にするだけ無駄だ。



「何だこの野郎、川合を倒したぞ」

「ウチのリーダー捜して、何するつもりだ」

 リビングまで進むと、別の奴らが言った。見たことない奴らだ。年は俺より上、二十歳ぐらいに見える。

「三崎なら、別の部屋だぜ」

 ボーズ頭の男が言った。一人だけソファーに座り込み、ふてぶてしい態度だ。テーブルには無造作に麻雀牌が転がってる。四人して麻雀でもしてたんだろう。奥の部屋に明かりは灯ってない、つまりこの中に三崎はいない。



「三崎を捜して何をするつもりだ、女か?」

 タバコをくわえ火を点けるボーズ。後方では太助と堀田達が意味深な会話をしてる。『まさか女の為じゃねーよな』とか、『シュウは女嫌いだよ』とか、そんな会話。俺はその会話を聞き入り考える。迂闊にそうだとは言えない。言ったが最後、校内で噂される。



「おいらの為に、駆け付けてくれたんだね」

 不意に太助が言った。

「へっ? おめー、いまなんて?」

 俺は頭の中が真っ白になり振り返る。

「シュウったら、昔からそうだよね。おいらがピンチになるといつでも助けてくれる。だからシュウは好きだ」

 太助の表情はマジモンだ。本気で俺が救出に駆けつけたと信じている。確かに太助とは腐れ縁の仲。入学当初から俺様に付き(まと)い、いつの間にか俺様の(そば)にいる。その流れでこいつがいじめられてるのは何度か助けた事もある。

 だからこいつは本気で俺を信頼してるんだろう。だけどそれは太助から見た感情だ。俺にとっちゃ迷惑極まりない。




「成る程な。最近のガキは軟弱でいかん。ボーイズラブなんて言葉もあるし」

 ボーズが言った。明らかに俺様に対しての嫌味が込められている。そしてその台詞は拡散する。『女の為ならいざ知らず』とか、『やっぱあの噂は本当か』とか、堀田を始め口々に囁く。その場の誰もが、汚いものを見るような目つきだ。



「てめーら、どんな妄想してんだ!」

 俺は右腕を振り払い、その空気を払った。

「理由なんか、なんでもいい、俺様は正義のスーパーヒーローだ!!」

 そして男達を睨み付けた。どう思われようが、この際関係ねー。頭で考えるだけ無駄。だったら拳で語るだけだ。



「馬鹿なガキだな。そっちのガキの制裁でいささか疲れてんだがな」

 灰皿にタバコをもみ消し、ボーズが立ち上がる。一瞬たじろぐ太助。多分太助をこんな目に遭わせたのはこいつだ。爬虫類を彷彿(ほうふつ)させる冷たい視線。まるで小動物でも片手で(ひねり)り潰すような非情さが(うかが)える。

 それに反応して、他の男達が俺を取り囲む。どいつもこいつも、ムカツクような怒りの表情だ。



「よくもやってくれたな!!」

 俺の後方で声が響いた。それは川合と呼ばれた長身の男。俺の後頭部目掛けて、ゴルフクラブを振り落とす。


「この場は任せな」

 場に響く覚めた声。『えっ』と青ざめる川合の声。


「悪いな、一弥。俺は隣の部屋に行くからよ、こっち頼むわ」

 俺は言った。声の主は一弥だ。川合の放つゴルフクラブを左手で悠々と握りしめてる。そして戸惑うその川合の顔面に右のストレートを叩き込んだ。メキッという音が響く。ずるずる崩れ落ちる川合。歯が何本か折れて、血混じりの唾液を滴らせた。



「一弥だって」

 はっと息を飲むボーズ。俺の後方、一弥に向けて視線を向ける。


「久しぶりだな林田」

 言ってすたすたと室内に踏み込む一弥。奪い取ったゴルフクラブを肩に担いで揺らしてる。察するにボーズの名前は林田。二人は面識があるらしい。




「壊れたモンは忘れとけ。怒りの矛先は、あのボーズだ」

 俺は言った。後ずさり、一弥と身体を交差させた。


「そうするしかないだろ。無情に腹がたつ。神様なんかに文句は言えないからな」


 グッと気を吐く一弥。いつも冷静な奴にしては、ややムカついた表情だ。その理由は知っているが、今は触れないようしとこう。俺様に加勢するって言った以上、こいつの事はあてにしてる。俺様の兵隊として、いないよりはマシだ。




「シュウ、春菜を助けてくれるの。A組のマリアちゃんもいるんだよ」


「そうか。三崎って奴はドスケベだな。仕方ない三崎を倒して、女達も助けてやるか」


 こうして俺は、太助を伴いその場を飛び出す。いつまでもここで足踏みは出来ない。三崎を見つけて、マリアを助け出さなきゃならないから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ