欲望の街編2
「シュウ、止めとけ」
一弥が言った。
「ああ、だな」
「大丈夫だ、奴らだってヤクザじゃない。殺しはしないさ」
エロ雑誌に視線を落とし、無表情に吐き捨てる一弥。流石は元ナイトオペラリーダー。非情さは天下一品だ、魔王も形無しの悪魔振り。
まあ実際、仮に太助が奴らに刃向かっても、数週間入院すればいいレベルで済むだろう。実際女を助ける術も持たず、早まってぶっ込んだ奴が悪い。
だけど俺は、何か肝心な事を忘れてる気がしてた。体中を、嫌な悪寒が包み込んでいたんだ。
その時不意に、俺のケータイのバイブが震えた。
「誰だ、おめー」
俺は何気に耳にあて通話する。
『……こんばんはです。マリアです……』
相手はマリアだ。どこか騒がしい場所にいるのだろうか、背景からは賑やかな雑音が響く。
「何だ、何かあったか?」
『申し訳ないのですが、今日はリキちゃんのお相手は出来そうにないです』
ケータイの向こうで、申し訳なさそうに伝えるマリア。
「……そうか……分かった。……何か用があんだろ? 仕方ねーさ義理は大切だ」
俺は答えた。わざわざそんな事で電話してくるなんて、律儀な奴だなって思った。
『そうですよね。義理を欠いては渡世は生きていけない。仲いい友達の付き合いで、断り切れなかったのです』
だがそのマリアの返答ではっとした。
「友達ってまさか?」
嫌な胸騒ぎを覚え問い質す。
『えっとですね……『マリアちゃん、ここにいたんだ』……』
突然マリアの声を遮り、誰かが言った。
『ごめんなさい、遅くなるって連絡を……『いいからいこうよ。ケータイなんか切っちゃってさ……』……』
そして無情にも通話は途絶える。
「お、おい! おい!」
通話口相手に声を荒げても返事はない。
「何だよ今のやろーは!」
堪らずリダイアルした。だがやはりマリアの返事はない。
「くそっ! 電源が切られてる、今のやろーの仕業だな」
「どうした? シュウ」
その様子に気付き、一弥が言った。
「うるせぇ、黙ってろ!」
俺は声を荒げる。そしてイラつく感情を必死に抑える。焦っても仕方ねー、冷静になるんだ。それに今の声って、どこかで聞いた声だ。
「……思い出した、堀田だ」
そして気づいた。思いたくない事だが、マリアは春菜と一緒にいるって事だ。つまりそれはアルタイルの集会に参加したって事。そして奴らの狙いは……
「まったくソウイチロウのやろーは一緒じゃねーのかよ」
すかさずソウイチロウに電話を繋げる。今の時間、ソウイチロウがマリアの警護をしている筈。
焦れったい程の呼び出し音の後、奴が出る。奴は暢気な様子だ。『あれー、僕の番だったっけ』とか、『シュウ君の順番じゃないの』とか、呆れた返答。終いには彼女がどうだとか、ヒィヒィ言わせるとか、エロい話ばかり。まったく使えない変態だ。俺はムカつきと共に通話を切った。
その様子を、一弥の奴が怪訝そうに見つめてる。
「おい、シュウ?」
言ってエロ雑誌を本棚に戻した。その台詞で俺は少しばかり冷静さを取り戻す。
「何だよ、お前らしくないぜ?」
「アルタイルの集まりそうな場所はどこよ?」
一弥はストリートチームの情報に長けてる。もしかしたらと思って訊ねた。
「何でだよ?」
探るような視線で俺を見つめる一弥。
「は、何でって……」
俺は返す言葉に困った。確かにそんな事、俺だって分かんねー。頭で考えた言葉じゃなかったからだ、思わず口走っただけだから。
覚めたように頭を掻く一弥。
「今の電話は?」
「マリアからだ」
「マリア? 転校生の女だな」
その問いに俺はコクリと頷いた。
「あいつ、アルタイルの集会について行っちまったんだよ、多分春菜に誘われて。だから教えろ」
「だから何でだ? ついて行った奴がわりぃんだろ?」
それでも一弥は覚めた態度。確かに一弥の言い分は理解できる。さっきまでは俺だって、騙される方が悪いと言ってたくらいだから。自分でも意味不明だ、何故こんなにソワソワしてるのか。
続く沈黙の中、俺は必死に感情を整理する。
「銭だ。狂った人間社会。夢って何だ、希望なんざあるか。所詮この世は銭こそが全て……」
そしてひとつの答えを導き出した。そうだよ永吉のオッサンとの契約だ。この任務が成功すれば、オッサンから報酬と称しボーナスが出る。幾らかは知らんが、かなりの大金だろう。そうさ金の為だ、他に理由はねぇ。そう整理した。
「あれだ。太助の馬鹿、流石にあの状態じゃヤバイだろ。助け出してメシでも奢らせようって思ってな」
「斉藤の為か。珍しいよな、仲間を助けるなんて」
「馬鹿、俺様に仲間はいない。ほんとメンドーな事ばっか訊いてくんな。おめーには頼まねー」
実際根掘り葉掘り訊いてくる一弥にもムカつきを覚える。いったい何だこの野郎。そういえばあのマリアとのやり取りの時も、こいつは見てやがったよな。関わりにならないのが懸命かも知れん。
「悪いっすけど先輩、急用で少し出てきます!」
俺は横に視線を向け言い放った。今更になるが最初からモーリーは個室にいた。一弥の存在を恐れ個室に引きこもっていたんだ。
こうして一弥とテンパるモーリーを余所に、俺はコンビニの制服を投げ捨て外に飛び出した。
いまだにやり方が分からない。ランキングタグって何?読書数が増えない!




