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愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第二章 死闘 修羅の荒野開演
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欲望の街編



 夕闇が支配する街並み。俺はいつも通り、コンビニでバイトだ。


「なあシュウ、おいらに大根おごってくれよ」

 その店内、太助がおでんの入った器を見つめて言った。

「何故におめーに、俺様がおごらなきゃならんのだ」

「こう寒いと、あったかい物が食いたいよ」

「だったら金を出して買え」

「アハッ、金なんか無いじゃん」

 



 相変わらず馬鹿げたやり取りだ。考えてみりゃあ俺の人生は学校とバイトとアパートの三つしかない。特にこれといった趣味がないのが要因だが、高校生としてこれで良いのだろうか。例のごとく太助の馬鹿はいるし、雑誌コーナーでは一弥もエロ本読んでる。


 窓の外はごうごうと吹きずさむ嵐の世界。無機質な暗黒だけが支配している。



「ハァ、優しい彼女がいれば、おいらにも春が来るのに」

「俺様に付きまとう時点で、おめーの季節は万年氷河期だ」

「春菜はいいなぁ、春が来て」

 太助の奴は俺様の台詞に聞く耳を持たない。夢見心地で呟くだけ。

「あん? 春菜が春?」

  その意味深な台詞に、俺は訊ねる。


「春菜と春ってダジャレだね」

「おめーが言ったんだべ」

 てめーの脳ミソは石ころか、ギャグじゃねーんだぞ。実際こいつ、いつもよりも浮き足たってやがる。普段からお調子者だが、益々調子付いてる。


「じゃなくてよ、春菜は堀田と付き合う事になったのか?」

「うん、そうだよ。春菜『今日は堀田先輩とデートなの』って嬉しそうに言ってたもん」


 そしてその太助の台詞で気付いた。春菜と堀田がうまく行ってるから、太助はこんなに幸せそうなんだと。こいつにとって、周りの幸せは己の幸せ。そういう真っ直ぐな性格が唯一の太助のいいところ。己の損得勘定なんかどうでもいいんだ。とはいえ、そんな性格だからナメられる。調子に乗って他人の不幸を背負わされる。それが災いして、入学した頃ボクシング部に入部した程だ。結局いじめられ、俺様が動く事に なったが……




「堀田は既に廃人だぜ」

 だがそののほほんとした会話を断つように、一弥が言った。


「廃人だ。えらくトゲがあんな」

  俺は意味がわからず視線を向ける。太助はテンパった様子だ。おどおどした視線を一弥に向ける。


「堀田は伊勢佐木(いせざき)を拠点にする、アルタイルの兵隊だ」


 アルタイルってのは中規模クラスの武装チームだ。いつだったか一弥に壁ドンされた奴、奴もその一員だ。チーム名騙って、息巻いていたから覚えてる。



「だけどあそこって、リーダーがボコボコに叩き潰されて、解散寸前じゃねーのか」

 俺は返す。数ヶ月前、ウチのガッコーに殴り込み騒ぎがあった。その殴り込みをかけたチームが、アルタイル。だが逆に返り討ちに遭った。ウチのガッコーの恐ろしさ、理解してなかったんだろう。



「確かに解散寸前だった。だが今は完全に復活して、派手な商売に打ち込んでいる。リーダーが代わったからな。その新しいリーダーこそが三崎翔(みさき しょう)

「誰だそれは」

「三崎翔、聖王学園二年生。王城とつるんでる金髪の男だ」

 その一弥の台詞に、俺は思考をフル回転させる。王城がいつでも一緒にいる奴は二人。少し背の高い金髪と、熊みたいな大男。とは言え、三人共その素性はよく知らない。王城を含めて、三人共最近転校してきたばかりだから。



「奴こそが今のアルタイルリーダーだ」

「ちょっと待て、奴はブラックスじゃないのか?」

  堪らず訊ねる。俺は王城がブラックスのリーダー補佐をするぐらいだから、その取り巻きも同じブラックスだと思っていた。


「元々三崎は、ブラックスのメンバーだ。だがアルタイルが弱体化した事で乗っ取って、奴がリーダーになった。ブラックスは直参制度を利用して、傘下にいくつもの武装勢力をまとめてるから」

「成る程な。吸収したって事か。ブラックスは最近、勢力を増してっからな」


  市内最大規模の武装チームといえばブラックスだ。敵対する勢力を力で叩き潰し、その傘下に治めていく。ヤバい商売は、その傘下にやらせて、その売上を搾取する。それこそが奴らのやり方。



 だけどそんな俺らの会話、 太助にはちんぷんかんぷん。



「俺には難しい事、分かんないけど、それと堀田先輩がどう繋がるのさ?」

 困惑し訊ねる。

「堀田はその女に興味ある訳じゃない。ただ単に、チームの生け贄なんだろう」

「生け贄って……」

  ごくりと息を飲む太助。

「堀田は今夜、アルタイルの大規模な集会に参加してる筈だ。集会といっても、女を集めてのパーティーだがな」

 一瞬太助を見やる一弥。

「だけどパーティーなんてのは表向きのカモフラージュだ。実際の中身は女をかき集めて、浚って強引に犯す。アルタイルは影で売春の斡旋なんかもしてるらしいしな」

 そして一気に吐き捨てた。


「けっ、とんだコマシ野郎だ」

 俺の脳裏に浮かぶ三崎の面影は、軽薄そうで、薄っぺらなイメージ。確かにあいつなら、その辺の女をあっさりたぶらかす事も可能だろう。




「だけど堀田先輩は、春菜を彼女として……」

「いい加減気づけよ。堀田は三崎に利用されてるんだ。全てはチームの為、己の欲望の為」

 そこまで聞けば疑いの余地はないだろう。堀田は三崎の為に女をかき集めていた。それにまんまと引っ掛かったのが春菜。そして今現在、アルタイルの集会に参加している。


 その意味は流石の太助も理解したようだ。ケータイを取りだし、春菜に繋ぐ。だが春菜は出る様子はない。何度繋ごうと同じ結果だ。



「シ、シュウ?」

 やがて俺に縋るような視線を向けた。

「わりぃな太助。俺は動かないぜ」

「だって、俺が後押ししなきゃ春菜は」

「斉藤」

 一弥が言い放った。

「確かにこれは堀田や三崎の罠だ。だがそのぐらいの事、春菜って女も理解してなきゃおかしいだろ? 所詮男女の仲、肉体関係ぐらい分かってて付いていった。それだけの事じゃねーのか?」

 その一弥の台詞には、同意出来るものがあった。

 酷な言い方だが、男を見る目が無かった春菜も悪い。自分で付いて行ったんだ、自己責任だろう。



「だけどほっとけないよ。俺、行かなきゃ」

 しかし太助は納得しない。ふらふらっと外に向けて歩み出す。

「あ、おい!」

 俺は慌てて呼び止めた。それでも太助は、聞く耳を持たず外に消えていく。

「ば、馬鹿野郎!」

 俺も後を追い、レジを飛び出した。開いた扉から、強烈な風が吹き込んでくる。同時に若いカップルが入店してくる。



 怪訝そうな男。俺が謝ると、カップルは飲料コーナーに足を向けた。既に太助の姿は見えなくなっていた。外に広がるのは、所々に輝く明かりと、真っ黒な夜空のみ。

 風はその威力を増大していた。いつしか冷たい雨が、ポツリポツリと降り出していた。

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