電話番号と女帝編2
「ちっ、ウゼー奴ら」
耳の穴をほじくって舌打ちした。
「シュウの馬鹿が、マリア様と喋ってる」
「死ねばいいんだ、あんな外道」
校舎の片隅、数十人の奴らが、こっちを見てひそひそ喋ってる。その誰もが異質な姿格好だ。新撰組の衣装や連邦軍の制服、段ボールを紐で吊り下げた車掌の姿の奴もいる。
このガッコー、ヤンキー以上にヤバい存在がある。ファン倶楽部、って名の危険な集団。特定の女生徒を担ぎ上げて、それを崇拝する輩の事。倶楽部の会長である宅ちゃんは、可愛い女生徒が大好きなんだ。
今現在、奴らを率いているのは、倶楽部会長代行、佐藤ゴン太。宅ちゃんは現在冬眠中。その間奴が、倶楽部の全権を掌握してる。
あの男、自らを土方歳三と名乗ってる。新撰組に憧れて、浅黄色にだんだら模様の羽織りを着込んでいる。長い黒髪を蜂がねで整え、腰には大小の日本刀。とはいえ、本物かどうかは怪しい。普通あんなもの、校内には持ち込まないだろ。ってか銃刀法違反だ。因みに一弥とは仲が悪い。元々同じ中学出身なんだが、異質すぎるから嫌われてる。
俺はゴン太を始め、この連中にさんざん煮え湯を飲まされてきた。こいつら、ひとつの事に特化する努力と、異質すぎる強さなら、普通のヤンキーより始末が悪い。なにせ倶楽部規定に則って、数で攻撃を食らわせてくるから。倶楽部会長宅ちゃん、その代行ゴン太、平会員アムロ、同じく電車、そして服部。数を上げても限がない。
それも聖王学園の恐ろしさなんだ。力だけじゃ、このガッコーのてっぺんは掴めない。
だから俺としちゃ、そんな連中はおもいきり無視。
「やはり素敵だな、転校生のマリアさん」
「今度の姫は、あの子がいいな」
奴らは俺様の思いも知らず、馬鹿げた話に興じてやがる。
それより今は別にやることがある。マリアにケータイの番号を聞き出す事。昼間の定期連絡の際に、オッサンに怒られていたんだ。早く娘との、連絡手段をとっておけ、って。確かに契約時、そんな事を言われていたのを思い出す。だから俺は言った。だったらオッサンが教えてくれりゃいいだろ、って。だけど却下。ワシが教えたら、お主がワシの依頼でボディーガードしている事がバレるだろ。
確かに納得だ。情報元が不明なら、マリアだっておかしいって思う。こいつの場合、天然過ぎて気付かない可能性が高いけど。
「あのさ……」
かくして俺は、しどろもどろで会話を切り出す。
「はい」
まじまじと視線を向けるマリア。止めてくれ、その吸い込まれそうな純情視線。倶楽部の住人も、熱い視線で、睨んでるし。
「あのさ今日は……」
「いいお天気ですね。風さえなければ、もっとよかったのですが」
俺の思惑も余所に言い放つマリア。
「ああ、雨は降ってねーから、いい天気だ」
俺は答える。って違う、そうじゃない。
「今日の体育は……」
俺達は勢いのままに会話を続ける。マリアが『体育でバスケだった』と言えば、俺は『ダッシュかっぺい』と言う。……普通、今の時代、スラムダンク、だろ。とりあえずマリアが、今度読んでみるって事で会話は終了する。
このままじゃ電話番号交換なんて言葉には、絶対に辿り着けない。実際俺にはハードなミッションだ。分かんねーんだよ。どう切り出せばいいか、完全に分かんねー。ハァーっと大きく息を吸い込んだ。
「でん、でん……でん……」
まずは電話ってキーワードが必用だ。俺は気合いを籠めてその言葉を吐き出す。だが出てくるのは、でん、でん、でん、の繰り返し。
カタツムリですか、とマリアが言った。『ああ、そうだ。カタツムリ、フランス料理で食う奴』俺は答える。『エスカルゴですね。私、美味しい店知ってますよ』マリアは和やかに言い放つ。俺は高級レストランには全然興味ねー。大体にして貝は嫌いだ。コキコキした食感が嫌い。という事で店の住所訊いて、その会話も終る。
こうして再び無言の時間が支配する。
俺は混乱して髪をかきむしった。だいたいにして何故に俺様が、女などから電話番号を聞かなきゃいかんのだ。そうこうしてる内に俺達は校門までまで辿り着く。
「それでは私はこれにて」
言って頭を下げるマリア。アパートは右手方向、コンビニは左手方向、ここでおさらばだ。
「お、おう」
仕方ない、いわゆる交渉決裂って奴。また日を改め、次のタイミングを見つけるとするか。
「帰ってリキちゃんのお相手しないと」
マリアが呟いた。俺は咄嗟にその言葉に反応した。
「……リキ? あいつはまだ、お前の所に?」
「はい。リキちゃん、シュウさんが居ないからいつも私のお部屋に遊びにきてるんです」
「ち、ちょっと待て。あの崩れた壁は、昨日大家が直した筈じゃ?」
床が抜けて、壁が剥がれた俺の部屋だが、数日がかりの突貫工事て、直ってた筈だ。
「多分リキちゃんが開けたんだと思います。元々崩れかかっていたみたいですし」
「そうか。凄まじいボロアパートだな」
つまり元々がボロだから、表面上直しても綻びがでる。そういう事だ。どうせ雨風が凌げればどうでもいい。
「ご迷惑だったでしょうか? シュウさんに連絡したくても、連絡する手段がなくて」
しかしマリアは一人浮かない表情だ。申し訳なさそうにうな垂れる。
「いや、迷惑じゃねーさ。むしろすまん、謝るのは俺の方だ」
さすがの俺も気まずさを覚えた。実際この場合、一番悪いのはリキだ。俺はちゃんとメシは与えてる。ガタイに合うだけの量を。それなのに穴を開けてまで、マリアの部屋に進入するなんて、どんだけ大メシぐらいだ。帰ったら注意だな。
だけどそう考えてはっとした。
「リキの奴、ホント仕方ねーヤローだぜ。仕方ねー、これは飼い主の責任か。仕方ねー、あいつの為に連絡先教えてくれよ。リキがお前に、迷惑かけないようにな」
そうさ、全てリキのせいにしちまえ。全部リキの為。奴をダシにして、マリアの電話番号を聞き出せばいい。そう思うと、何故か舌が上手く回る。
「そうですね」
それが功を奏したか、マリアはニッコリ微笑みケータイを取り出す。俺もケータイを取りだそうと、学ランの懐に腕を突っ込む。
倶楽部筆頭会長宅ちゃんに関しては、活動報告『宅ちゃん』にて




