非日常は続かない
高校生って普通にライブとか行きますよね…?
5
いつものように教室に入ると、ドアの前に笑顔の上が立っていた。
「よぉ!」
「お、おはよ」
「緊張することねぇって。おれらカレカノだろ?」
にぱっと白い歯を見せて笑う。
(すごく嬉しいな)
でも、上を利用しているような罪悪感から上手く笑い返せない。
「おっはよ~!」
かわいい声がして、振り返ると小太郎が手を振ってこっちに走っていた。
「おはよう」
「お!コタロウか」
たたた…とまるで女の子のように走ってくる。
「こたろおおおおおお!!」
大きな声がして、コタロウに急ブレーキがかかった。
ゆゆと上もびっくりして肩が上がる。
後ろから走ってくるのは、灯だった。
「コタロウ!今度のことのっちライブのチケット、持ってきてくれたか?!」
「ああ、またそれか」
上がためいきをつく。
「…?」
ことのっちのライブのチケット?ゆゆは首をかしげる。
「今日公式ブログで見たんだ!しぞ~かに来るらしいじゃねーか!」
「あぁ、そういえばそんなこと言ってたような…」
小太郎が興奮をおさえきれていない灯から目をそらしてぼやいた。
話についていけないゆゆが戸惑っていると、上がこっそり耳打ちした。
「…あのな、ことのっちはコタロウの妹らしいんだ。
で、コタロウがことのっちのいい席のライブチケットを宣伝のために
持ってきてくれるんだよ」
「そうなんだ」
小太郎が嫌そうに眉間にしわを寄せて灯にチケットを手渡す。
「あ、上も行くだろ?」
でれでれっとした顔で上に言う。
「その日だったら、行けるな。
あ、でも、おれゆゆの彼氏だからゆゆと一緒に行きてェな」
ゆゆの方を見て誘ってくれた。
「わ、私も行きたいな」
言うと、灯ががばっと肩をつかんできた。
「!?」
目を見開いて戸惑うが、灯はゆゆのことなんて気にもとめず
ことのっちについて語っている。
(…呪文?用語が多すぎて分かんない)
「おい、ライト」
いつもより低い声が聞こえて上を見る。
(え、今の上?)
「ゆゆ困ってるだろ」
真剣な顔と目が、灯に向けられていた。
まだしゃべりたいと上を睨む灯。
しん…と、時が止まった。
(どうしよう。…喧嘩になっちゃったら困るな)
「はいはい。ライト、どうどう」
「んーんっ!」
「まだしゃべりたいかもしれねーけど、さすがにキモいぜ」
小太郎が灯の口を手でふさいでにこにこと言う。
場が和んだ。
(コタロウくんすごい)
「上も顔怖いぜ~?あ、もうすぐ授業始まるぜ!」
上の手を引いて教室の中に連れて行った。
ただかわいいだけじゃない。
小太郎は空気を和ませた。
(でも、私は)
『喧嘩になったら嫌』と思った。
(いやいや、今のも偶然だって)
よくあることだ。
きっと。
小太郎のチートさェ…。