皆が優しい理由を私は知らない
二―ソを探し始めて30分が経った。
「むぅ…なかなかないもんだな」
「えーすけ!これか!?」
「あっ!?きゅー!合ってるけど人がはいてるのは違う!
…すみません…」
英助は久登の幼児のような行動に振り回されていた。
「違うのか?でも盗んだのははくためだろ?」
「そう…かもしれないが、女の人がとったとは思えないんだ」
「何でだ?」
「んん…まぁいろいろあるんだ」
「そっか。えーすけ、ごめんな…」
「何がだ?」
久登が英助をじっと見上げる。
「おれのせいで、いろいろ迷惑かけてて…」
「あぁ、そんなのいいんだ。お前はまだ小さいからな。
おれに頼っていいんだぞ?」
「えーすけ…っ…!」
えーすけ、かっけぇ!と、飛び跳ねる久登の頭に手をおいてゆっくり撫でると
ふにゃり…久登の美顔がゆるんだ。
(わわわわわ私、今ファルマさんの隣にいるっ)
ずっと声しか聞いていなかった人の隣で歩ける。それだけで由々はとても幸せだった。
「ゆゆ…と言ったか?」
「は、はい!」
(ファルマさんの声が私の名前を!)
「おれのファンだと言っていたが…そ、そのどこら辺が…」
「ファルマさんは、カッコイイ高い声してるし、実況がとても面白いからです」
どきまぎして答えると、ファルマの顔が仮面越しに明るくなるのが分かった。
「そ、そうか!おれはカッコイイのか…ふふっ…」
「あ、あの今は仕事とか何してるんですか?」
「ん?それは闇からの使者としてこの地球を征服することだ」
「キャラ守ってるんですね!あの、リアルでは」
由々は春馬の中二病を『キャラ』と認識してスルー。
「ぐっ…いや、おれは19歳だから。あっ人間の年齢ではな」
「19ってことは、大学生ですか?」
「…」
春馬の顔が曇る。
(もしかして、大学行ってなかったかな。悪いこと聞いちゃったかな)
「…今は、えーすけの神社で雑用をしている」
「えーすけくんの家って神社持ってたんですか!?」
「あぁ。よくパワーをもらっているんだ」
(ん?闇から来た設定なのに神様信じてるの?)
少し気になることはあるが、楽しそうに話す春馬に何も言わないことにした。
「もうすぐライブが始まる時間か?」
「はい。こっちは見つかりませんね…あっ!上から電話!」
スマホには『上』の文字。
(お願い!見つかってて!)
『ゆゆ!そっちはどうだ?」
「うん…まだ見つからなくて」
『そうか…さっきコタロウが事務所に電話して替えを取って来てもらうことになっ たから、とりあえずあせらなくていいって』
「よかった…」
『まぁこの人混みだからな、あと1時間程したらさっきの所に集合な。
由々も見たいものあるだろ?』
「あ、それはもういいかな」
由々は隣をちらりと見た。
「もう、会えたから」
『会えた!?本とかじゃなかったのか…』
「上、電話ありがとう。じゃあ見つかったら電話するね?」
『おう』
電話を切ると、春馬に上の言ったことを伝える。
「そうか、よかった。ゆゆ、少し休まないか?歩きっぱなしで疲れただろう?」
「そうですね」
ベンチに腰を下ろすと、春馬がため息をついた。
「えーすけたちは見つけただろうか…」
「ことりたちは見つけたかな…」
「はるま」
綺麗な声がして、二人が顔を上げると
「のぞみんさん…!」
あの、有名アイドルのぞみんが立っていた。
「…のぞみか」
「ことのっち、どこにいるか分かります?」
のぞみんは春馬に高飛車な態度で聞く。
「あぁ、ライブ会場にいると思うが…どうしたんだ?その靴下」
「あっ!」
由々の視線の先には黒い靴下。
「そ、それって」
「裏に名前が書いてありましたの。これ、ことのっちのですわよね?
なくしたんですの?」
由々と春馬が同時に頷く。
「ふぅん」
「どこにあったんだ?」
「…それは口止めされましたわ。
でも、どこにでもいそうなことのっちファンでしたの」
のぞみんがめんどくさそうに言う。しかしこれで問題は解消だ。
「よかったぁ…」
「自分から名乗り出て渡してくれましたわ」
「そうなのか…ゆゆ、よかったな。とにかく電話しよう」
「はい」
上に電話をすると、ことのっちはもうライブに出ているようだ。
「では、私もそろそろライブに向かいますわ」
「あっ、のぞみもライブに出るんだったな」
「今回はライバルことのっちと一緒に歌わせていただきますの」
どうやらことのっちのライブ後半で一緒に歌うらしい。
「わ、私見に行きます」
「おれも」
「ありがとうございます…ですわ」
微笑してライブ会場の方に駆けて行くのぞみんを見送って、由々と春馬は安堵のため息をついた。
「はるまさんは、これからどうするんですか?」
「とりあえず、売り子を任せてしまっているからな。
おれは戻る」
「分かりました。本当にありがとうございます。
あと、会えて嬉しかったです…!」
「ふふっ…これからも、応援頼むぞ?」
「はい!!」




