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世界の支配者はリア充がしたい  作者: 魔月琴理
18/23

あの人もなんて知らない

「ゆゆ~!」

「上、ライトくん!」

「いやぁ、道に迷っちまった。あれ?そのコート…」

白いコート。由々はあの人に会えると思って少しおしゃれをしてきた。

「か、買ってもらったんだ」

「そっか、似合ってるぞ」

「ありがとう」

(上には悪いけど…でもこれってあれと同じだよね?結婚とかしても好きなアイド ルはいるってやつ。…ん!?結婚!?何考えてるの!?)

「おーい、大丈夫か…?」

一人で青くなったり赤くなったりしている由々を見て上が首をかしげた。

「あっ、ごめん。あれ?ライトくんは?」

「ああ。アイツなら…」

「ことのっち!」

上の視線の先を見ると灯が黄色のサイリウムを振ってことのっちを待機していた。

「…ライト、行くぞ~?」

「どっかで待ち合わせすりゃいいだろ」

灯は上の声を聞くと、それまで下がっていた眉をきりっと上げていつもの無表情イケメンに戻って面倒くさそうに言った。

「え、でもそれじゃあいっしょに来た意味が…」

「ゆゆ、おれはことのっちに会うために来た」

(いやそんな真面目な顔で言われても…)

由々が視線を泳がす。しばらく黙っていた上はあきらめたようにため息をついた。

「じゃあ、ここ…今ことのっちがライブの準備してる会場で2時間後に待ち合わせ な?」

「あぁ」

短く返答するとまたことのっちライブを準備している舞台袖をじっと見つめた。



「はぁ…ことのっちも大変だな」

「ま、まぁライトくんがあんなに応援してるなら嬉しいんじゃないかな」

「アイツもことのっちにデレデレしなきゃおれと同じくらいイケメンなのにな」

口角を上げてそう言う上は、昔と同じ表情をしていた。

「ふふっ…」

「なんだよ…?」

「上は相変わらず自信家だなって思って」

「どういう意味だよーおれが自信だけだって言いてぇのか?」

「違うよ…上は今も昔も」

かっこいい。

(なんて言えないけどね。恥ずかしすぎだから)

「だ、黙るなよ…気になるだろ~」

「何でもないかな!」

上とまたこうして普通に話せるようになって。本当に嬉しい。

「あ!上!由々ちゃん!」

「コタロウくん?」

金髪童顔高校生が女子走りで向こうから走ってくる。小太郎だ。

「コタロウ、ライブ今からだよな?ことのっちの傍にいなくていいのか?」

「うん…そ、それがな。…ねぇんだ」

「何かなくなったのか?」

小太郎は神妙にうなずく。

「…実は、ことのっちがはくつもりだった二―ソがどっか行って。

 ほ、本人はバッグに入れたって言ってておれも確認してたんだけど」

「二―ソって何だ?」

上が小声で由々に聞く。

「えっと、多分長い靴下のことだったと思う」

「そうだ、黒い靴下がなくなっちまったんだ」

「誰かが盗んだってことなのかな…」

「それもあり得る…」

ことのっちくらいのアイドルならライブで使う衣装を狙われることもあるのかもしれない。由々は、まさか。と思ってしまった。

「上…」

「ライトじゃねーと思うぞ。アイツはヤバいけどそんなゲスい真似はしねーか  ら」

「だ、だよね」

「そんな顔するなって」

「ライトだったらまだいいぜ!お、おれからことのっちに渡せるから」

((あっ…なんかそういう流れになってるよ。ライト(くん)))

「とにかく、ライトに聞こうぜ」

「うん」


「は?おれがそんなことするわけねーだろ」

「だよな!」

「よかった…」

「えぇっじゃあ誰が…」

「おいコタロウ」

沈黙がおりる。

「…どうしよう。すっげぇ楽しみにしてたのに」

「コタロウくん…」

「あれがなきゃ、ちゃんと衣装がそろわねーと歌えねぇよ…」

「命がけで探す」

灯が小太郎の両手をぎゅっと握る。

「おれが、ことのっちにそんなことしやがった犯人を探す」

「ライト…」

「おい、お前らも探せ」

「と、当然だよ」

「もちろんだ。小太郎は友達だしな」

「由々…上…!」

泣きべそをかいていた小太郎の顔が晴れていく。

「よし!ライブまであと少しだけど、探すぞ!」

皆で頷いて、バラけることになった。



「…って言ってもどこにいるのかな」

(鞄の中に隠してたら分からないよね…って、普通に持ってるわけないか)

もしかして、あの人?いや、あの人かも?

人が多すぎて犯人を特定できない。

(こうしてる間にもすれ違ってるかもしれない)

「あっ!ゆゆちゃん!」

高くて鋭い声が自分の名前を呼んで、由々はあたりを見回す。

「こっちこっち!ゆゆちゃんも来てたんだぁ」

そこには見慣れた黒髪とおでこと八重歯のクラスメイトが。

メイドのような格好をしている。コスプレだろうか。

「ことり!」

「このイベント、思ったよりも人が多いね~。ゆゆちゃんは誰目当て?

 あたしは歌い手さんと、本だよ!」

琴理は低い身長を使って人ごみの中をかきわけて由々の方に来た。

このイベントには、ことのっちのようなアイドルの他にも歌い手、同人作家なども来ている。

「私は…」

(ファルマさんに会いに来たんだった。でも今は)

「ことり、あのね、私たち実は今」

「ん?」

「ことのっちの二―ソを探してるんだ」

「ああことのっちってあのアイドルの?そうなんだ~あたしたちも手伝う?

 人数は多い方がいいよね?」

「えっ…あ、ありがとう!」

「きゅーちゃん!えーすけくん!りお~ん!」

(きゅーちゃん?えーすけくん!?)

琴理が呼ぶと、学生服をくずして『まさに不良』というような感じで着ている生徒が振り返った。真っ赤な髪。あの不良生徒だ。

しかもその隣にはこれまた見慣れたクラスメイト、英助が白い僧侶服を着て立っている。

「きゅーとくん!?えいすけくんまで!」

「あたしたち、仲間だからさ~。ほら、りおんもこっち来て?」

「りおん、じゃないのっ!りね、なのっ!」

勢いよく振りかえったのは黄緑髪の女の子。

(小学生かな…?)

不機嫌そうにこっちへ来た少女は由々より5センチほど低い身長。ことりと同じくらいだ。145センチ程度だろうか。

「あたしの双子の妹、りおん…じゃなくて。りね、だよ~。あたしと違ってかわい いでしょ?」

「バカ姉!うち、何でこの格好しなきゃいけないのっ」

「えー、まだ言ってるの?だってそれくらいしかないじゃん衣装…」

へらへらと笑う琴理。理音りねと呼ばれた少女は子供っぽいが琴理の双子ということは同級生だ。理音の衣装は『女勇者』というような感じだった。

(それにしても双子なのに似てない)

へらへらする琴理と、甲高い声で怒鳴りつける理音。全く似ていない。

「あっ、こんなことしてる場合じゃないよね。みんな、ことのっちのニーソを探 してほしいな」

「何でだ?」

「椿坂さんの頼み?じゃあ断れないな。きゅー、探すぞ」

「えーすけが探すならおれも探すぞ!」

「こと姉の頼みじゃないならやるの」

「よかった~、ってことでゆゆちゃん、みんなで探そうか」

「うん、ありがとう。ことり」

琴理は敵のはず。しかしこんなに優しくしてくれる。

(ありがたいよね…)

「なんだ?みんな集まって…」

ばさっ…黒いマントが翻る音がして振り向くと緑髪の青年が立っていた。

「あ~っ!はるまくん!」

(えっ!?ファルマさん!?)

「はるまくん、はるまくんも一緒に探してくれると嬉しいんだけど…」

(あ、はるま…さんって言うんだ…)

黒いマントとスーツっぽい服。さらに黒いズボン。それから顔の右半分を覆う白い仮面を身に付けた青年は何のコスプレだろうか。吸血鬼…?悪魔?

由々が首をかしげていると、琴理が「あっ、でも」と眉を上げた。

「でも、はるまくんは自分のところ忙しいよね」

「あぁ、それは大丈夫だ。同じ闇からの使者たちに任せてきたからな」

(ん!?闇からの使者ってまさか!)

まさかそんなわけないと自分に言い聞かせる。琴理の知り合いが人気な実況者なんてありえない。

「…あと、ことり。ファルマと呼んでくれと言ってるじゃないか…」

「ファルマさん!?」

由々が柄にもなく大声を出す。

「うっそ…本物のファルマさんですか!?わ、私ファルマさんに会いに来たんで  す」

由々はもう一度青年の顔を見る。深い緑色の髪、背丈は170センチくらいだろう。高めの声から連想はしていたが…由々が思っていたより目が大きく下まつげが長く…童顔だった。

「そ…そうなのか!」

由々の言葉を聞いた瞬間春馬の顔がぱぁっと輝く。

(か、かわいいっ!!)

子供のように眉を下げて笑う顔は、本当に愛らしかった。

「ふふっ…おれもお前に会えるような運命は感じていたんだ。お前とはきっと

 前世からの繋がりがあるな。おれには分かる…」

高い声を無理矢理低くして得意げに言う彼は、紛れもなく由々が好きな『ファルマさん』だった。

(嬉しい!!…でも、ことりの知り合いってことは…私の敵?)

そうなってほしくないが、想像は膨らんでしまう。




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