こんな展開聞いてない
いよいよ動き出します。
「なぁなぁゆゆちゃん、上、知ってるか?」
朝教室につくと小太郎が小走りで上と由々の隣に来た。
「何だ?」
「不良が出たらしいぜ?うちの学校で」
「どうせライトっていうオチだろ…あいつマスクつけて機嫌悪いとすっげー悪人面
してるし」
上が呆れたように言うと、小太郎が首を横に振った。
「ライトじゃねーんだ。おれも最初そう思ったけど」
「そう思ったんだ…」
「誰が不良だって?」
低い声がして振り向くと、マスクをつけた灯がこっちを睨んでいた。
「…あ、どぉも」
上が冷や汗を流しながら灯から目をそらす。
「ら、ライトくん知ってる?不良が出たらしいって」
「あぁ聞いた。校舎裏にいるらしい」
「えっ!?見に行こうぜ!」
上に腕を引かれる。どきっとする間もないくらい早く走りだす。
「わっ、上!?待ってくれ!」
「…まぁ行くか」
小太郎と灯も後ろから走ってついて行った。
「わぁ…」
校舎裏は人だかりができていた。その中をくぐるように前に行くと見えたのは乱闘の後のような状態の場所。
雑草が踏み荒らされ、土には血痕がある。
「なんだこれ…結構ひどい不良だったんだな」
小太郎が高い声を押し殺して上と灯を見上げる。
「おれらの学校の生徒って本当かよ」
「これヤバくね?」
周りの生徒もひそひそと話している。
「で、不良はどこなんだよ?」
灯がぼそっとぼやく。
その瞬間、あたりに硬いものが飛び散った。
「きゃっ!?」
周りにいた生徒たちがパニックになってざわめき出す。
上と灯が由々の前に立つ。小太郎と由々はおそるおそる目を開けた。
コンクリートだ。硬い塀が壊された。
「誰だ!」
灯が低くドスのきいた声で叫ぶと塀の向こうから青年が顔を出した。
「…!?」
真っ赤な長い髪をポニーテールにしている。高い背。着ているのは紛れもなく由々たちの学校の制服。そして
「えっ、何あのイケメン」
「かっこよすぎ~!」
女子たちから黄色い声が上がる。それほどに整った顔をしていた。
「どこ行ったんだ。出てこい!」
渦中の不良生徒が大声で叫ぶ。それもまた、よい低さでまさに『イケボ』と呼ぶにふさわしい声だった。
「人を探してるのかな…」
由々がつぶやくと、生徒が近づいて来た。
「えっ!?」
「つばきざか、ゆゆ…だよな」
「そ、そうですけど」
「おい!由々に手を出すなよ!」
上が不良を睨みつける。
「おれ、お前と戦うかもしれないんだ」
「…はい?」
至って真面目に言う。綺麗なオレンジ色の瞳は澄んでいて、嘘などには聞こえない。だが、にわかに信じられないことを。
「どういうこと…?」
「おれも、そうだから」
(な…こ、ことりみたいな存在なのかな)
きょとんとしていると「あぁそうだ」と生徒が由々を見つめる。
「えーすけ、どこにいるか知ってるか?」
低い声が無邪気に『えーすけ』とつむいだ。また思考がストップする。
「えーすけ?」
「東屋英助?」
「そうだ!えーすけに合わねーとなんだ!おれ!」
クラスメイトのフルネームを言った灯の肩をつかむ。
「お、お前は?」
「おれ、きゅーと!えーすけを探してるんだ!」
「えいすけなら、教室にいると思うが。3階の」
「そうか!ありがと!」
イケボに小さな子供のような口調が乗る。なんとも不思議な生徒。
しかも、きゅーと。と言った。
(きゅーと…かわいいの要素どこにあるんだろ)
だんだん冷静になっていく思考の中で由々はそう思った。




