お嬢様なトップアイドルの彼女が何を思うのか分からない
「はぁ…今日も疲れたぜ」
「じぇ、でしょ、ことのっち!」
「み、ミーコちゃん、もうライブは終わったからいいんd「じぇ!」
ミーコと呼ばれた女がことのの口を手でおさえる。
「…んんっ」
「どこで聞かれてるか分かんないでしょ、ことのっち♪」
「じぇったい、わざとだじぇ…」
「そ!それでこそことのっちね」
うふふっ。今度はことのの口に指をあてる。
ミーコこと『立花美子』は、27歳。
ことのっちのマネージャーをしている。スカウトをしたのもこの女だ。
そして、ことのっちの大切な秘密を知っているのも
ミーコだけである。
「ミーコちゃん、スカートは嫌だじぇ?」
「知ってるわよ。だから衣装全部短パンにしてるじゃない」
「…じぇんぶ、おまかせするじぇ」
「任せてVv」
ミーコがくるりと一回転して黒いポニーテールをゆらす。
「そうだわ、ことのっち」
唐突に声のトーンが下がる。
ことのが姿勢を正す。
ミーコがこういう低い声を出すときは、あの『秘密』についての話だ。
「今度の番組の企画なんだけど」
次の言葉を待つ。ミーコがことのの隣に座る。
「…実はね」
そのとき、楽屋のドアがばんっと大きな音を立てた。
ことのとミーコが顔を見合わせてそちらを向くと、ドアが開かれていた。
「ことのっち?いらっしゃいますの?」
「えっ!?」
「私が、次の番組で勝負いたしますわ!」
ふふんと鼻を鳴らして言った女の子には見覚えがあった。
「…えっと、たしか」
「『のぞみん』ですわ!『天野希未
トップアイドルの名前も知らないんですの?失礼な人ですわね」
(トップアイドルで自分でいうのか…。
そっか、のぞみんか。前に歌番組で歌ってて、すごいって思ったんだよな)
薄い桃色の長い髪を赤いリボンでツインテールにしている。
前髪はよく言う「ぱっつん」だ、それに隠れてときどき見える眉毛は少し太め。
大きな目の中の水色の瞳は、きらきらしていてかわいらしい。そして150センチ前後の小さな身長。俗に言う『ロリータ』を連想させるマスコット的な容姿。
…だが、このお高くきまったお嬢様気質。
ファンにはそれがいいらしい。
ことのっちは、ふわふわした金髪はショートカットで、前髪は長くて横に垂らしている。細い眉毛とタレた大きな目の中の深い青の瞳は、きらきらしている。165センチくらいの身長だって、運動の時には役立つ。『ロリータ』と言ったってすぐ通用するだろう。
…だが、語尾に「じぇ」をつけてしゃべるし、一人称は「おれ」である。性格だってかなり活発だ。
ファンにはそれが人気なのだが。
(ギャップってやつなのか?
でものぞみんって、いつもロリータな曲を歌うんだよな)
『♪かわいさだけで勝負しちゃダメダメ!
こっち向いてくれたら…ぎゅぎゅっ!』
(まぁ、おれは絶対歌わないけどな)
歌と衣装がピンクや白で統一されてるのだ。しかしトークのときは、とてもしっかり者のお嬢様だ。
「ちょっと聞いてますの?
今度の番組で、あなたと水泳で勝負いたしますわ!」
「…えっ?」
ことのがきょとんと首をかしげる。
「って、ことなのよ」
「まさか、ミーコちゃん!さっきの話って」
「そう。ことのっち、今度の番組で…」
「私と水泳勝負ですわ!!」
「えええええええっ!?無理だz…だじぇ!」
「何でですの?」
次は希未がきょとんとする。
「そ、それは」
「ははぁ…もしかして」
希未の口角がくいっと上がった。
「…ことのっち、泳げないんですの~??」
「!」
「ふふふ。それなら仕方ないですわね?」
「ち、違うじぇ!」
思わず大声が出る。
美子がはっと息をのむ。
「お、おれは学校代表で水泳大会行ったことあるじぇ!」
「そんなの、私だって普通にありますわよ」
「お前にはじぇったい勝つじぇ!」
楽屋にことのの声がこだまする。希未は驚いて固まっていたが、すぐにまた口角を上げた。
「楽しみにしてますわよ。まぁ、勝つのは私ですが」
楽屋から出ていく彼女。
ぱたんと閉まるドアの音で、ことのがへたりと座り込んだ。
「…やっちまった」
「どうするつもりなのよ…」
「何でちょっと楽しそうなんだよ!これ、ヤバいだろ!?」
「そうね、あと、ことのっち。口癖抜けてるわよ♪」
「どうすればいいんだじぇ~っ!!」




