第八話
第八話です。1日サボったわりに短めな投稿です。
一度出航した宇宙船では、意外と乗員の仕事が少ない。航路を設定すると、基本的にはオートパイロットで進む。人の手が必要になるのは、港での発着、戦闘行為、そして繊細なコントロールが必要な特殊な亜光速航行、《亜光速ジャンプ》通称ジャンプの時だ。
現在、メガロケートスは通常航行で航行している。このまま7日ほど通常航行で進み、行程の半程で亜光速航行を行う。直ぐに亜光速航行を行わないのは、後述の二点に於いてである。一つは、亜光速航行中の艦のコントロールが非常に難しいということ。殆ど光の早さで動くこの航法は、座標を設定してそこに瞬時に現れるような状態で進む。航行中は通常の宇宙空間を進んでいるが、最早それはSF小説のワープ空間。別次元を進んでいるかのような、錯覚をおぼえる。艦内では感じ辛いが、傍から見ていればマジックのように消えたり現れたりする。もちろん「ワープ空間」の中での制御を間違えれば、目指していた所とは全く違う所にでていたり、小惑星帯につっこんだりする。前者は大きな損失になるし、後者は即ち「死」だ。
もう一つは、惑星付近のデブリや他の船との接触回避のためである。今回の宇宙輸水水道社のように、亜光速航行を用いた航行行程を行う場合は各当然、港に予め予定を伝えておかなければならない。そうではない通常航行のみの場合でも、艦船情報を各港の管制で管理、共有され、航路の安全を守っているのである。
というわけで、通常航行中は船のデブリ回避システム(電磁シールド&迎撃システム)により、目視での警戒と航路の誤差補正ぐらいしかない甲板部は非常にのほほんとしていた。
「一平太、暇だから何か面白いことでも話せっ!!」
「無茶言わないでくださいよ、ローグ先輩。先輩こそ何かないんですか?宇宙おもしろ話とか……。」
「何がおもしろ話だっ!ねぇよ、そんなも……一つあったわ。お前、少し前まで《宇宙葬》ってのがあったの知ってか?」
「なんですか?それ。」
「少し前つっても、100年前ぐらいのことらしいんだが、宇宙で葬式挙げんのが流行ったんだと。そこら辺の時代は今ほど宇宙技術が進んでなくて、宇宙での航海を『飛ぶ』つってたぐらいだしな。」
一平太もそれぐらいは知っていた。航宙士の正式名称、惑星間宇宙船航宙飛行士は宇宙船が『飛行』していた頃の宇宙飛行士の名残だ。今でこそ火星までたった15日だが、100年前はそれこそ年単位。行ったら行きっぱなし、帰りたくても帰れない。なんて事もざらにあった。
「だからな、飛んでる途中で『人死に』も良く出た。船の宇宙線対策や無重力下での適応対策がよろしくなかったんだ。」
現在の宇宙船には、しっかりした宇宙線の対策がなされ、放射能などの人体に有害な物は艦内には入ってこない。また、無重力下適応対策もしっかり取られいる。艦船には遠心力を利用した疑似重力があるものも多く、小型な艦船は全体に疑似重力かかり、大型艦船は重力室という一時的に体調を整える場所がある。装置自体が大型でそのうえ、疑似重力の発生が限定的であり、かつ高価なので大型艦船全体に重力を発生させるのは効率が悪いのだ。結果、大型艦船には「重力室」という限られた場所にしか重力はない。もっとも、この大型水輸送船メガロケートスは、銭湯としても機能するため全体に疑似重力発生装置が施してある。メガロケートスにおける特殊な改造の一つである。
「人は死ぬと『モノ』になる。言い方は悪いがな。少しでも重量を減らしたい宇宙船にとって、余分な『モノ』は格好の減量材料なのさ。だから、彼らは棺桶代わりの宇宙服ごとマスドライバーで遺体を射出したのさ。第三宇宙速度でな。それが《宇宙葬》。宇宙飛行士もそれを望んだ。なんせ、文字通り『死ぬほど』来たかった場所だからな。」
第三宇宙速度とは、太陽の引力から脱出する最小のそくどのことである。
「宇宙飛行士が宇宙に死んでからも居たいってのは、分からないでもないですけど。それの何処が面白いんですか?ただの良い話じゃないですか。」
「なぁ~にが、『良い話ですねぇ』だ。お前ホントにスペースマンか?いいか、よく考えろ。宇宙は真空だ。当然遺体を分解するバクテリアもいない。どっかの星の引力やブラックホールが吸い込まなきゃ、宇宙をさまようわけだ。それにな、マスドライバーつったって百年前の技術だ。打ち出して、『ハイ終わり』だったんだ。何処に行くのか分かりゃしねぇ。」
「というと?」
「鈍いな。……戻って来ちまうこともあるんだよ。クフ王もびっくりのミイラでな。」
「うわぁ……」
それは、確かにトリビアだけど全然面白くない。一平太はそう思ったが、口に出さなかった。なんせ、ローグ先輩がどや顔でこっちを向いていたから。反応が薄いと思ったのか更に話を続ける。
「ついでに言うと戻ってきたミイラは見つかり次第、速攻撃ち落とされる。この船なんかにゃ近づいただけで燃えカスさ。迎撃システムでうちおとされるか、シールドに当たってな。元はヒトでも、今じゃ立派なスペースデブリだ。ステーションにでも当たって、ケスラーシンドロームなんて起こされたら俺たちおまんまの食い上げだ。」
とかいいながら、笑っている。ダメだこの人。
ケスラーシンドロームとは、デブリが他の物体(ステーションや小惑星等)にぶつかり、加速度的にデブリを増やす現象の事だ。
「先輩。もうそれただの怖い話ですよ。」
あきれてそういうと、先輩の交代の時間がやってきた。
「俺が死んだら、太陽に向けて飛ばしてくれ。お日様で火葬ならわるくねぇ!!おうっと、交代だな。ちょっくら変態ブラザーズの片割れ呼んでくるわ。……背後には気を付けろよ。」
ローグ先輩は、今日一怖い事をニヤニヤしながら言って去っていった。
そうして一平太は、ケツの穴を二重の意味で締めながらリー・チェインがくる間、一人待つのであった。
宇宙でのめくるめく冒険スペクタクル!なんて展開にはならずに、非常にのほほんとしたお話でした。
宇宙でミイラ。イヤですねぇ。そして一平太のブラックホールに、リー・チェインの帚星がせまる!頑張れ一平太
お読みいただき有り難う御座います。