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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第五話

 第五話です。一応めぼしい登場人物は出し切りました。

 次話からは、話が進みそうです。



 妖艶な美人「兄弟」に、毒気と生気。そして男としての大切な何かを抜き取られた後、館内浴槽を見る。《ルナ・ファミリア》内にある《想の湯》より幾分かスケールは小さいものの、広々とした大浴場に並々とお湯が湛えられている。

 「この浴槽は、男女合わせて一日、約300tの水を使用しているの。さっき話した、独自浄化フィルターを含めた浄化装置で、水の約八割を再利用しているわ。当然一度浴槽に使われた水は、輸送用の水とは別に艦載されているものよ。ちなみに、浴槽用の水は3000tほど用意してあって、最大50日連続で経営出来ます。」

 その分の水も輸送できれば大分利益は上がるのだけれど……。社長に恨み事を言うエレノア課長を同情の目で見ていると、その視線に気付いたのか、慌てて話題を変える。

 「……ゴホッ、ンンッ、それはさておき、貴方には船に乗っている間も掃除をお願いするわ。やる事は基本的に《本館》と同じで《別館》(アネックス)の場合は、日に一度掃除して頂戴。」

 「了解しました。」

 航宙士の仕事に、ちょっと広い風呂掃除が追加されるだけだ。もはや自然の成り行きだと、諦めて素直に頷いた。

 「それじゃあ艦橋に向かいます。」

 エレノア課長も特に言うこともなく次の目的地へと向かう。

 一平太の視界の端には、《垢擦り・マッサージ》とドギツイ蛍光色に彩られた看板と、ピンクいパーテーションで区切られたいかがわしい空間に、二つの影が蠢いているのが写り込んでいたが意識して見ないようにしていたのは秘密だ。

 「おぉ、新人かぁ?」

 艦橋に着いた途端、声がかけられた。

 「今日から、あなたの後輩になる小山一平太君よ。小山君、こちら先任航宙士のローグ・マクスウェル君。」

 「小山一平太です。よろしくお願いします。」

 そう言って今日初めて、自分から手を差し出す。ローグは求められた握手には応じず、差し出された手をチラリと一瞥すると、

 「今回の奴は、長く持ってくれるといいけどなぁ。」

 テンプレートに悪態をつかれると、人間笑ってしまうもので、思わず声を洩らした一平太に太った先輩は厳しい視線を向ける。

 「すみません。」

 しおしおと謝る一平太にエレノア課長が

 「彼は、いつもああなの。こう見えて面倒見が良いのよ。四人兄弟の長男だからかしらね?」

 「余計な事言わないで下さいよ。やりにくいじゃないですか。」

 照れたように、目を逸らしながら文句を言う姿は、課長の言うことは正しいと証明しているようだ。

 「前来た子は、単純に根性がなかっただけ。あの子はどこ行ってもだめだったと思うわ。心配しないで。ローグ君、あなたは、少しぶっきらぼうな所を直すべきね。」

 「へいへい、分かりましたよ。オイ新人、気合い入れろよ。航宙士はヤワな仕事じゃねぇからな。」

 まだ、微笑んでいるエレノア課長から逃れるように、吐き捨てるとさっきまで確認していたであろう航宙図に目を落とす。耳が若干赤くなっているのは、突っ込んでしまってはいけないのかも知れない。

 「さぁ、あなたの船室に行きましょうか。何か見たいところが有れば案内するけど。」

 特になかったので船室の案内を頼む事にした。船内通路を歩いていると、無線室と書かれた部屋を通る。中には、多くの無線用機械が積まれていた、レーダーなど計器類もある。そこには、一人の女性が詰めていた。金髪ショートのかわいらしい女性だ。女性にしては背が大きい。170有るか無いかだろう。スレンダーな体型だ。……スレンダーな体型。先程の美人兄弟の件があるので、少し疑っているが、まぁさすがにそこまで中間の性の方を雇うことはないだろうと当たりを付ける。

 (そう言えば同期の変わり者にまだ会ってないなぁ。)とぼんやり考えると、女性がエレノア課長に気付く。

 「エレノア課長、計器類のチェックおわりました。それから、ドックの方からパイロット(水先案内人)の方が明日の航海の確認をしたいと通信が入りました。ん?そちらの方は?」

 背筋をピンッと伸ばして、報告をする姿はかわいい所か凛々しさすら感じた。中々仕事がデキそうだ。若く見えるが有能なベテラン社員なのだろう。

 「小山一平太です。今日からこの船で働かせてもらうことになりました。よろしくお願いします。」

 「あぁ、君がそうか。同期が一人いると聞いてどんな奴かと思っていたんだ!イイ奴そうで良かった。なんで敬語なんか使っているんだ?」

 「小山君、何を勘違いしているのか知らないけれど、彼女はあなたの同期で、ユーリ・ノインツさん。22才の新入社員よ。」

 「ユーリ・ノインツです。私も今日から、ここで働かせてもらっている。仕事は見てのとおり、三級惑星間宇宙船通信士で無線部所属だ。よろしく。」

 「よ、よろしく。」

 慌てて返事をする。どうやら一平太が《変わり者》の称号を付けた同期は、23才の一平太より一つ下で、一平太より先を進む優秀なスペースマン、否。スペースウーマンらしい。

 「同じ航宙士じゃなくて良かった。」

 「何か言ったかい?」

 「何も。」

 さすが通信士。一平太の口から思わず出た小さな独り言に、気がついたようだった。

 「報告有り難う。あなたは休憩に入って良いわ。今日はもう仕事もないだろうから、休憩後一時間待機して、何もなければ上がって下さい。」

 「了解しました。先程の通信記録を書いて休憩に入ります。一平太も……あ、呼び捨てでよんでも良いかい?」

 一平太が頷くと、ユーリは満足そうに微笑んだ。

 「それじゃあ、一平太もまた後で。エレノア課長、お疲れ様でした。」

 「はい。お疲れ様でした。」

 出来過ぎる同期と別れると、当初、目指していた一平太の船室へと向かう。

 「これでだいたいの社員は紹介出来てしまったわね。後一人紹介出来てない社員がいるけど、今は営業に出ているはずだからいないわ。名前はラルフ・ブレタ。社長の息子さんで、腕の良い機関士だったけど、事故で右目を失って今は内勤が多いわね。腕はまだ確かなようよ。船が出ている間は彼一人で本館を回しているの。明日には帰ってくると思うから出港前に顔合わせしましょう。」

 ドンっ!!

 「僕のママとなに話してんだっ!!」

 「イテテ……。」

 何かが当たった軽い衝撃とともに、声変わりしていない男の子が降ってきた。

 「コラっ!アレックスっ!!何で船にいるの!!いつも、勝手に乗ってきたらダメって言ってるでしょ。」

 「だって、つまんないだもん。」

 「ママ、お仕事してるの。すぐ帰るから我慢して頂戴。」

 「あのぉ……」

 ほっとかれたままになっている一平太は、たまらず声を出す。

 「ごめんなさいね。この子は私の息子のアレックス。アレックスごあいさつしなさい。」

 「こんにちは、アレックス君。俺はこ小山一平太。よろしく。」

 「お前、見ないカオだな?シンニュウシャインとかいうヤツだろ。じゃあ、ボクよりコウハイなんだから、ボクのコト《センパイ》か《ボス》ってよべっ!!」 

 くぅ~!口の減らないオコチャマだぜ。何故か後輩扱いされた一平太だったが、そんなことよりも、エレノア課長が子持な事に驚いていた。

 「ごめんなさいね。きちんと言い聞かせておきますから。」

 「ママ、あやまることないよ。イッペータは、ボクのコウハイなんだから。」

 「コラッ!アレックス!!いい加減にしなさい。ちゃんと謝って!」

 再度落とされた雷にアレックスは「なんでボクが……」と呟きなら謝ってきた。……しっかりとカンチョーを添えて。

 「バーカ!」

 おまけに捨てゼリフまで吐いて走り去ってしまった。何故エレノア課長のような真面目な人から、アレックスのような子が生まれたのか一平太は心底理解できなかった。

 「いつもはいい子なんだけど、長い航海の前はいつもこうなってしまうの。《ルナ・ファミリア》にいる妹に預けて行くんだけど、やっぱり寂しがらせちゃってるのかしらね。」

 溜め息とともに、エレノア課長はそう言うと寂しげに微笑んだ。

 「そうですかねぇ。」

 一平太は曖昧に返事をすると、オフィスの落書きの犯人はアレックスだったのかと一人頷いていた。

 その後とくに何事もなく一平太の船室に着くと、今日はもうお終いにしましょうとエレノア課長に言われた。

 一平太は一日驚きっばなしで疲れていたので、この申し出非常にありがたかった。エレノア課長と別れ、通路を確認しながら、会社に戻ると会社の裏手にある寮を教えられたが、次の日から輸送船生活なので少しでも慣れるために一日早く自分の船室で休むことにした。

 

 ツンデレなセンパイと、出来る美人な同期。クソナマイキな上司の息子もでてきて、役者はほぼそろいました。

 話だけでもう一人で出来てない社員もいますが、次話でお目見えする予定。

 ようやく航海が始まります。


 読んでいただき有り難う御座いました。

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