第三十一話
まさかの復活。続くかも未定。趣味の書き物ゆっくりゆったりやります。
忙しさにおわれた一日が終わり、ようやく普段の姿を取り戻した想の湯は、気のおけない常連たちが思い思いに汗を流していた。
「聞いたか、例の話」
「何だよ」
「ほら、最近発見された、例の……」
「……ただの噂話だろ」
「何の話だよ」
「それがあながち嘘っぱち、ってわけでもないらしい」
「はぁ? 仮に真実だとしたら相当なコトだぞ。俺たちの生活がガラッとかわっちまう」
「なぁ、何の話なんだよ。俺にも噛ませろよ」
「だから…が……って」
この日の一平太はものすごく疲れていた。一日で、色々な事があった。
(風呂、はいるか、、、。 )
何故これ程まで疲れているのか。それはこの日の朝まで遡る。
(…なんだ?騒々しいな。こんな朝早くから…)
「おい!起きろ!えらいことになってるぞ!」
慌ただしい足音とともにかけられた声で一平太は目を覚ました。
「だから、起きろ!とんでもないことになってんだよ!」
「こんな朝っぱらからなにがあったっていうんですか、一体!?」
怒声をあげた先輩。ローグに説明を求める。
「見つかったんだよ!」
「だから、なにがですか?」
「水だよ水っ!!」
一平太はその言葉に首をかしげる。
「いや、水なら船のなかに浴びるほどあるじゃないですか」
何をそここまで慌てるのか。それこそこの船に読んで字のごとく"浴びる"ほど、水が蓄えられている。
「バカかっ!そんなことはわかってんだよ!!そうじゃなくて、水が宇宙で見つかったんだよ!!」
「宇宙で水が見つかるって、そりゃ、すごいですけど、そこまで驚くことなんですか?」
そんな呟きを聴いたローグが大きく息を吐く。
「あのな、宇宙で水は貴重なんだぞ?それこそうちの会社が成り立つ程にな!」
「そりゃ、貴重なのはわかりますけど、今までだって彗星を融解して水を作り出したりやなんかしてたわけだし、ゼロだった訳じゃないじゃないですか。それに燃料電池なんかから水は生成されるでしょ?まぁ、大したことない量だけど……」
「だーかーらー、そんなことを言いたいんじゃない。って言うか、そもそもおまえはもう少し他人の話を聞こうとしろ!」
パンッと小気味よい音で頭をはたかれると、「じゃあ、説明してくださいよ」と口を尖らせながら、乱暴な先輩に抗議の目線を送る。
後輩からのそんな目線を気にもせず、ローグは少し興奮したように続ける。
「ついに、水が見つかったんだ!液体の水が!!」
「え!ついに液体の水が見つかったんですか?!……それ、すごいんですか?僕らの運ぶ水も液体ですけど……」
一応大袈裟に驚いてはみたものの、ことの重大さに気づけない一平太に、ローグは半眼になりつつ再度と大きな大きなタメ息をつく。
「……おまえさ、よく航宙士の試験、ぱすできたな」
「三度目の正直、努力の結果です!」
尋常じゃない程の幸運で山勘が当たりまくり、滑り込みでなんとか合格できたことはとりあえず置いておき、鼻高々で自分の成績をつげると、一平太は鼻息を荒くした。
できの悪い後輩の意味のわからない自慢を聞かされ、呆れるローグ。(因みにローグは好成績で一発合格をしている)無駄な時間をこれ以上過ごすまいと、すぐに気を取り直して説明し始める。
「いいか?宇宙は全てを凍らせる冷凍庫みたいな場所だ。我らが母なる星である地球は太陽の恩恵をうけ、奇跡的に生物の住める豊かな水の惑星として存在するわけだ。太陽との位置が遠すぎても近すぎてもダメ。近けりゃ水星や金星みたいに灼熱の星になっちまうし、遠けりゃめちゃくちゃ寒い惑星の出来上がりよ。水の存在も可能性としては考えられてきたが、激しい温度変化で氷や水蒸気になっちまってるものがほとんどだ。そんな宇宙で、もし、人間が利用できるような液体の水がありゃそりゃ、世紀の大発見よ。ひょっとしたら地球外生命の存在さえ真実味をおびてくる。ウェルズさんの想像の産物が現実になる日がくるのもそう遠くはないかも知れねぇ」
まくし立てるように話すローグの勢いに若干引きながらも、事態をうっすら理解し始める一平太。ひょっとしたら歴史的な瞬間に立ち会えるのかもしれない。なんとなくすごいかもと思い始めた一平太の頭に、ふと浮かぶ疑問。
「それってひょっとして、うちの会社に大きな影響ありません?」
「お、ボーッとしてるお前でも気付いたか。おうよ、ひょっとしたらうちの会社の業態がかわっちまうかもな。仕事か減るのか増えるのか、ソイツはお偉方が考えるだろうが大きな影響が出るのは間違いない。……ホントに水があるならな」
こいつはえらいことになった。せっかく激しい受験競争をすり抜けて宇宙に上がったと思ったら、会社の一大事。一平太は波乱の幕開けに怯え、先輩の漏らした小さな呟きには気付くことがなかった。




