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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第三十話

物凄い久し振りの投稿となります。第三十話です。

 「アナタ達っ!! どこ行ってたのっ!? 今日は猫の手も借りたいほど忙しいのにっ!!」

 艦橋に入ってきた二人を出迎えたのは敏腕課長の怒声だった。

 「いやぁ……あの……『エレノア課長。 説明させてください。』ユーリガセツメイシマスデス、ハイ……。 」

 エレノアの勢いに言葉に詰まる一平太。ユーリが被せるようにフォローする。

 「我々は、今の今まで食堂におりました。」

 「食堂? まさか、ユーリ、昼休みからずっといた訳じゃないでしょうね。 そもそも小山君はラボの報告がまだなのだけれど?」

 ただでさえ強いエレノアの眼力が、怒気をはらみ二人に降り注ぐ。一平太は逃げ出したい気持ちで一杯になった。

 「その点については弁解の余地はありません。 私は昼の休憩時間を超過し、食堂に居続けました。 ただ……」

 「ただ? なんなのかしら?」

 (うわぁ……すげぇ怒ってるわ。 まじで帰りたい。)

 何も出来ずただ見守ることしかできない一平太。ユーリは頼りにならない共犯者を横目でちらりと見ると、すぐに視線を上司に向け直した。

 「………非常事態だったのです。 当時食堂は多くのお客様が見え、マーガレットさん一人では捌ききれないほどになっていました。 そこへラガー・マーズから帰ってきた一平太が支援に入り、偶々昼休みの食事に来ていた私も微力ながら手伝うことになったのです。」

 戦場のようになっていた食堂を思い出しながら、ユーリは当時の状況を説明する。エレノアはその言葉を眼を瞑りながら黙って聞いていた。心なしか表情から怒気が薄れているように見える。

 「……そう。 話はわかったわ。 今回は事情があったみたいだから、許してあげます。 でもいいこと、次はないわ。 特に小山君は報告を優先すべきだったわ。 ……それにうまくいったみたいだしね。」

 「「以後気をつけます。」」

 妙にあっさり引き下がるエレノアに少しだけ違和感を覚えつつ艦橋を後にしようとすると、二人の後ろから大きな声が投げ掛けられる。

 「外まで聞こえるような大声出しておきながら、妙にあっさり引き下がるじゃないか。」

 二人が感じた違和感をそのまま言葉に出してきたのは宇宙輸水社の女将である、マーガレットさん、その人であった。

 「……ふ、二人がとても反省してるようだから、今回は大目にみただけです。二度目はありません。」

 先程とはうってかわり、しどろもどろになるエレノア課長。容赦ないマーガレットさんの目線から逃げるように、彼女の目はクロールしっぱなしである。

 事態が読み込めないながらも、説教されていた二人は艦橋のただならない様子が気になって戻ってきていた。

 「そうかい。なら、私からも質問だ。今日の客入りがやたらめったら多いのは、何か理由があるのかい。」

 「特に、ありません。」

 「そうかい。ならエレノア、あんたが最後に呟いた『うまくいったみたい』ってのは、なんのことなのかねぇ。」

 「くっ………」

 マーガレットさんの追及に堪えられなくなったのか、呻き声を漏らすエレノア課長。その態度は今日の出来事の原因を知っていると白状したも同然であった。

 「……今回、新しいキャンペーンとして我が想の湯の隠れた名物、食堂のことを知ってもらおうと各所に、『のぼり』を設置しました。また、会員の方、特に一度きてその後ご来店いただけてないお客様に向けて、ダイレクトメッセージを送らせていただきました。地球から遠く離れたこのような場所で少しでも多くのお客様に、美味しいお料理とお風呂の癒しを味わっていただきたかったのです。結果として、今回のキャンペーンは成功といえます。利益はいつもより、三割弱程度増加しました。その中でターゲットなった、ご来店が一度しかなかったお客様の割合は六割強。これで継続的な客足の伸びが期待できます。さらに……」

 最初の態度から、うってかわって熱く語り出したエレノア課長にマーガレットさんが声をかける。 

 「エレノア。キャンペーンのことはよくわかったよ。今はそんなことが聞きたいんじゃない。今回の騒動の原因はあんたで、私になんの断りもなく、巻き込まれたやつもいるってことさ。あたしは仕事だ。客入りが多いのは結構なことさ。今日みたいなあんまり多いのは、事前に連絡が欲しいけどね。ただ……」

 マーガレットさんはエレノア課長から目線を外し、一平太とユーリの方に目を向ける。

 「巻き込まれて手伝ってくれた、若い子達を一方的に叱りつけるの筋が違うんじゃあないかい。」

 「それは……確かに私の落ち度です。二人には、結果的に迷惑がかかってしまいました。ただ私は会社のためを思って……」

 どうもは切れか悪い、エレノア課長に業を煮やしたのかマーガレットが軽く諌める。

 「エレノア、素直に言うことを言いなさい。」

  「……申し訳なかったわ。次はこういうことがないようにします。」

 「いや、あの、はい、どういたしまして。」

 突然のことに意味のわからない返事をする、一平太。ユーリは静かに頷いている。

 「よし、じゃあ一件落着だ。二人とも体を休めな。……さて、私はもう一仕事やらなきゃね。エレノア、手伝いなさい。」

 「……一体なにを。」

 エレノアさんは叱られた子供のようにシュンとしていたが、マーガレットに声をかけられて、疑問符を浮かべている。

 「……後片付けさ。」

 そういって、ニヤリと笑うとマーガレットさんはエレノアの腕をがっちりとつかんだ。

 「えっ!私はまだか今回のキャンペーンの事務処理が……」

 「何いってるんだい。自分のケツは自分で拭くんだ。子供じゃないんだからね。」

 「でも……」

 「早くしな。今回のペナルティだと思えばいいさ。なぁに、たかが皿洗いだ。普段のエレノア『課長』の仕事に比べりゃ楽なもんだよ。」

 「えっ!えっ!!ちょっ……まっ………」

 「グダグタ言ってないでいくよ。」

 そういって、マーガレットさんにエレノア課長はつれていかれました。

 そして、皆がくたくたに疲れきって寝ている頃、食堂から「お皿が……お皿が……」と泣き声とも叫びとも聞こえる、声が一晩中聞こえてきたといいます。

 

いやぁ、日々の忙しさに筆をとる暇もなく。大分時間が空きました。申し訳なかった。

 完璧なエレノアの失敗と、やっぱり食堂のおばちゃんはつよって言う話でした。

 話を覚えていらっしゃるかたもそうでないかたも、読んで下さったかたに感謝。

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