第三話
第三話です。投稿ペースは良い感じに進んでいますが、話が進んでいません。申し訳ない。もうちょっと待って貰えれば、船やら、癖の強い面々やら、ヒロインっぽいのやらが出てくると思いますので今しばらくご辛抱ください。
二話でも似たようなこと書いてますね。頑張ります。
社長室から出てくると、一平太はオフィスを見回す。いくつかのデスクと、パーテーションで仕切られた応接室らしき場所。壁には子供の書いたような落書きがちらほら。よく見ると所々修繕した箇所も見受けられる。どうやら、腕白なお子様が居るようだ。
先程からの、《驚き・オン・パレード》により一平太は多少の事では動じなくなっていた。(まぁ、業務内容は思った以上に普通だったし、こんなもんかなぁ。)すでに感覚が麻痺してきているのであるが、一平太生来のポジティブシンキングが物事を単純にしている。ように見えて、実際は抜け出せないぬるま湯に半身を突っ込んでいるだけである。
それはさておき、改めてデスクの数を数えてみると全部で12席。書類が溜まって雪崩を起こしかけてる机や、やたら本が多い机、二席にわたって少々いかがわしい雑誌がある机などがあって、どうやら現在使われているのは8席あるようだ。と言うことは最低8人は社員がいるのだろうか。
「あなたの席はここです。基本的には船で働いてもらうので、あまり使うことはないかも知れませんが、見ての通り社員が多くはいないので、あなたにも書類仕事が回ってくるかと思います。」
眼鏡を掛け直しながら、エレノア課長はいかがわしい本のおいてあるデスクの斜向かい、やたら本が乗っているデスクの隣を指した。まっさらなデスクに少しだけ社会人としての自覚が芽生える。
「今はそれぞれの持ち場に出払っているけど、社員は私と社長も含めて9名であなたともう一人、新入社員を加えれば11名ね。もちろんさっき下にいた二人も社員よ。」
番台(受付)にいた二人が社員であるという事に、衝撃を受けたがそれよりも、自分にも同期がいると言うことに驚きを禁じ得ない。
「僕以外にも新入社員がいるんですか?」
一平太は己の不勉強故この会社の特異性に気づけなかったが、一般的な就活生は入念な下調べの末、会社を決めるはずである。そうして入ってくる社員は、よっぽどの物好きか、己と同じ不勉強な計画性なしで騙された(向こうは騙すつもりはない。)仲間である。一平太はまだ見ぬ同期は己と同じだろうと、持ち前のポジティブシンキングで、勝手に仲間意識を抱いて安心していた。
そんな不純な安堵をエレノア課長は見抜いたかのように
「彼女は優秀な通信士よ。あなたより早くに来て、自分の持ち場で先任から話を聞いてるはずよ。」
「……そうですか。」
一平太の安堵は消え去り、騙された同期同士という、仲間意識から《変わり者》という不名誉で身勝手な称号にかけかえた。
「会社の案内を再開します。」
やけに事務的な声が聞こえた方向に首を向けると、いつの間にかオフィスの入口にエレノア課長が立っていて、急いで呼ばれた方へと歩き出した。先程上がって来た階段を降りて番台(受付)の方向のに向かって進む。
番台には先ほどの二人がまだ話していた。
「ようやく人手が増える。」
「まぁだ、わからないわ。前回の新人はすぐ辞めちまったからねぇ……「俺がやりたいのはこんな仕事じゃねぇっ!!」で泣きながらデッキブラシ持って走って行っちゃったし。デッキブラシ持ってかれて掃除するとき困っちゃったわぁ。」
そう言って笑うおばちゃんと、頷く老人をを見て、一平太は(掃除の心配かよっ!!)と心の中でツッコミを入れた。
「こちらの女性がマーガレット・ブレタさん。ノーマン社長の奥さんで、優秀な料理人でもあります。雑務の処理能力は社内で一番よ。」
そう言われた笑顔のおばちゃんことマーガレットさんはニコニコしながら、「ただやれることをやってるだけのおばちゃんよ」と言いながら右手をさしだした。
「私のことは、マーガレットとよんでくださいな。間違っても社長夫人なんて呼ばないで頂戴ね。後、出されたご飯は残さず食べること。」
一平太は小さく返事をして頷くと握手に応じた。「元気がないわねぇ。」と背中をバンバン叩かれ、涙目になってエレノア課長を見るとあからさまに目を逸らされた。
仕方がないので老人の方を見ると、エレノア課長が紹介を再開した。
「この方は花井寿さん、ボイラー担当兼機関部の長。機関長ね。みんなは寿ジィと呼んでいるわ。」
「よろしく」
言葉少なに差し出された手を握ると、小柄な体型とは裏腹に力強さが垣間見え、匠っぽさを感じる。
寿ジィ達から目を離すと、改めて番台の奥を見る。どっからどう見ても、銭湯にあるロッカーと定番のマッサージイスがある。本当に有り難うございました。
「見ての通り、会社は銭湯も同時に経営してます。船に乗ってない間は、内勤としてこちらで仕事をしてもらいます。内勤の主な業務は、書類などの事務処理よりこちらでの雑務の方が多いかもしれません。最早メインは銭湯の方ね。」
最後の方の言葉は、自嘲気味に言っているように聞こえた。そして、一つ判明したことがある。やっぱりそうだよなぁ、と今まで心の隅に追いやっていた事を再認識。
……ここ……《銭湯》だ!!
ついに会社の秘密が明らかにっ!!(棒
一平太がようやく銭湯であると気付きました。鈍い主人公ですね。
読んでいただき有り難うございました。