第二十八話
第二十八話です。久しぶりに女の子出てきます。
一平太が入った厨房はいつも以上の活気に満ち溢れていた。熱した鍋で炒められる食材はパチパチと小気味の良い音をたて、それを混ぜるお玉の音と相まって待つ者の食欲をそそる。
「Aセットのチャーハンあがりました!」
「限定のハンバーグ、あがったよっ!!」
流石に二馬力。一人増えただけでもお客の回転率は見る間にあがっていった。
「やるじゃないの、一平太。ここまで出来るなんて思っても見なかったよ。」
次の限定メニューの食材を手際よく準備しながらマーガレットは驚嘆の声を上げる。
「コレぐらい軽いもんですよ。チャーハンなんか、店以外でも夜食なんかで作ってましたから。十八番です。」
マーガレットに誉められては若干照れながらそう答える。勿論二人の手は止まることはない。
「なかなかの拾いもんだったわねぇ……」
しみじみそう言う彼女の声は、新たに入ってきた客にかき消されてしまった。
「おばちゃーん、Aセット一つ!!」
「あいよっ!一平太、追加でAだ。」
「了解です。」
オーダーが通る前に、食材を追加している一平太は振り向きもせずに鍋を振るう。マーガレットもまた、南蛮チキンを作るべく、鶏の胸肉に片栗粉を振って焼き目が付くまで火を通すのだった。そうして二人がオーダーの声と出来上がりを知らせる声がひしめき合う厨房で、互いに以心伝心で鍋や包丁を振るう様は夫婦で20年やっている料理屋の風格すら漂わせるのである。
「マーガレットさん、お昼ご飯を頂に来ました。」
戦場と化した食事処に新たな来訪者がやってくる。
「今日の賄いなんで……うわっ、めっちゃ込んでる。すごいな。なんでこんなに混ん……って、なんで一平太が厨房で料理作ってんの?」
連発の驚きに、若干情けない声を出していたのは一平太の同期にして完璧超人のユーリ・ノインツだ。どうやら彼女も昼休みをとりに来たらしい。
「ごめん、ちょっと待ってくれる?……Bセットあがりましたー!!」
「うぉう、俺のメシが来たぜ!おぅ、ちょっとネェチャン。退いてくんなぁ!」
「うわっ……スミマセン。」
ユーリはそう言うと、邪魔にならないように部屋の角にすっぽりはまる。そうやって何人かの食事客を見送った後、少しだけとぎれたオーダーの合間をぬって厨房に声をかけた。
「すごい忙しいな。」
「そうだな。」
何とか客を回しきり、一息つく一平太。心地良い倦怠感と充足感が彼を満たしている。しかし、その視線は油断無くカウンター越しにテーブルに向けられ、臨戦態勢は解いていない。
「で、なんで君がここで料理を作ってるのかな?」
口を挟む余地がなかった先程から我慢していた言葉を口に出す。
「イヤぁ、なんか流れでこうなっちゃった。俺も飯食いに来たんだけどね。」
そう言って経緯をユーリに話す。と言っても、先程までの喧騒からだいたいのことは察せられた。
「なるほどね。しかし一平太にそんな特技あったなんて、驚きだよ。」
「これでも腕に自信はあるんだぜ。」
この時代の地球では男女の社会的な格差はほとんどなく、民間の仕事はもちろん公的な機関においても性別による理不尽な縛りはない。故に、宇宙においてもその違いはなく、有るのは間然ない実力の違いだけである。女性の宇宙船艦長ももちろん存在するし、男性でも料理を得意にする物はいる。二世紀近く前に流行った「料理男子」なるものの系譜は脈々と受け継がれ、『胃袋を掴んで男を落とせ!!』なんてものは無くなっている。
「へぇーそうなのか。それは素晴らしい。じつは私も料理には少々煩い。お客様の波も今は落ち着いているようだし、注文お願いしてもいいかな?」
キュゥーー
と同時に可愛い催促サインがユーリの腹から聞こえる。
「……こんなになっているしね。」
真っ赤に顔を染めながら注文するユーリを心のカメラに納め、保護をかけて保存したところで一平太は注文を聞く。
「ん、わかった。で注文は?」
「そうだな、じゃあAセットを頼もうかな。チャーハンが料理人の個性を最も出せる料理だと思っているからね。存分に腕を振るってくれ。」
若干、物言いが上から目線なのが気になるが、一平太は素直に料理に取りかかる。やることは変わらない。先程と同じ様に、チャーハンを完成させ、キレイに皿に盛ってカウンターにだす。それをみたユーリは何もいわずにテーブルに運び、キチンと手を合わせてレンゲに手を付けた。そして、卵が米の一粒一粒に絡んで黄金色に染まっているそれを口に運ぶ。出てきた言葉は
「美味い。」
の一言だった。
「どう?なかなかのもんだったろ?」
得意気に一平太がどや顔を見せると、ユーリは素直に頷く。
「こんな美味いチャーハンが作れるなんて、一平太は良い嫁になると思うよ。」
チャーハンを口の中にかき込みながら、一平太を誉める。
(嫁になっちゃだめだろ。)
一平太は心の中でツッコミを入れつつ、美味しそうに食べるユーリの姿を見て目を細めるのだった。
「二人で仲良くやってるところ悪いんだけど、そろそろ団体さんが来そうだよ。」
先程、限定オーダーを終わらせて小休止を取っていたマーガレットが声を掛ける。
「さっきよりも勢いがあるねぇ。一平太には申し訳ないけど、もう少し力を借りても良いかい?」
助力を申し込むマーガレットに対して
「ここまできたら、最後までつき合いますよ。」
一平太も当初の目的(賄いを食べにきた)を完全に忘れて、力強く頷く。
「私も乗りかかった船です。お手伝いしますよ。」
ユーリも声をあげる。
「それは助かるねぇ。じゃあよろしく頼むよ。」
こうして二人から三人なった食事処の厨房部隊は、自分たちの何倍もの数の敵(客)に立ち向かうのだった。
ユーリのお腹は可愛く鳴りますね。所でやたらめったら客がやってくるのは、何故なんでしょうか。どうやらいつもより多いようですし……。
と、何気に後書きで伏線を張るという謎の手法でした。
お読み頂きありがとうございました。




