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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第二十七話

 第二十七話です。

 宇宙開拓において一番重要な仕事は何だろうか。宇宙船を駆りまだ見ぬ星々を探す宇宙飛行士であろうか。未知の物質、未知の生命体、未知の環境を研究し、科学の発展を目指す科学者だろうか。危険で難しい作業を黙々とこなす宇宙作業員か。それともこのお話の主人公が在籍する宇宙での癒やしを提供するサービスマンたちか。

 答えは……全て否。彼等が体を動かし、頭を使うには燃料がいる。そう、人間は食べなければならない。当然、宇宙には食事を提供する者は存在する。そして、この宇宙で癒やしを提供する《宇宙輸水水道社》にも社員の胃をしっかりと握る女性が居た。名をマーガレット。彼女なしでは、この会社は回らない。そしてこの会社が回らなければ、宇宙で働く多くのスペースマンたちもその歩みを止めるのである。


 「今日は忙しいねぇ。」

 そんな事を一人呟きながら、マーガレットは大きな鍋を大胆かつ繊細に振っていた。

 宇宙のスーパー銭湯《想の湯》ではお客様に最高の癒やしを満喫してもらうために、様々なサービスを提供している。温かいお湯の他に、マッサージ(男性優先)や地球からの物品販売。そして社長婦人にして船専属の料理人であるマーガレットが、腕を振るう食事処が密な人気を呼んでいる。

 銭湯である《想の湯》が食事を提供するようになったのはとある偶然からだった。ある日、マーガレットがいつものように社員の昼飯を作っていたところ、偶々食堂に迷い込んだ客がその香りを嗅ぎつけ、料理をねだったのがきっかけだった。それ以降その客は食事を食べに来続け、それがいつしか口コミで広がり、その人気に目を付けた会社の懐を預かる優秀な女性社員が正式なサービスとして売り出しだのである。彼女の料理は、精神的にも体力的にも非常に厳しい仕事をこなすスペースマンにとって『お袋の味』として重宝され、「食事ついでに風呂も入っていく」と言う客が出るほど無くてはならない存在になっていた。

 「おばちゃん、俺の頼んだチャーハンまだ?」

 「こっちもブリ照りまだなんだけど。」

 「ワターシのシチューはマダデスカァ?」

 「あいよっ!!今やってるところだから少し待ちなっ!」

 ご覧のように大変賑わっている。食事が出来るのを待つ客たちは飢えた雛鳥のようにピーチクパーチク煩い。彼らがここに来てから時間は数分とたっていないがこの騒ぎよう、それほどまでに彼らは彼女の料理を欲しているのである。その人気を伺い知ることが出来るだろう。そして、この人気にはこの食事処独特のシステムも一役買っている。そのシステムとは『食材持ち込み』。客が食材を食べたい日の前日に

持ち込む事によって、自分の好きなメニューをオーダー出来ると言うものである。基本的には一人分が作りやすい物になってはしまうが、カレーやシチューなどの万人受けする物はその日の定食として活用される。因みに、通常の定食はAとBのセットに分けられ、事前に予約された『持ち込む』以外の客はその二つから選ぶ事になる。勿論通常セットも非常に美味であるが、利用客には『持ち込み』の方が人気がある。難点としては『持ち込み』の料理は値段が張ることと、手間が掛かるため限定10食の先着順であると言うことが挙げられる。

 そうした制約があっても食べたいと言う客は多く、通信での予約は受け付けから数分で〆切となる。今回の火星でも、受付開始から五分で3日間の予約は全て埋まってしまっていた。

 「Aセットのチャーハンあがったよ。」

 「頂きます!!」

 「持ち込みのブリ照りあがったよ!!」

 「待ってましたっ!!」

 「Bのシチューお待ちっ!!」

 「コレはカタジケナイ。」

 このようにメニューがバラバラなのはこうした理由からである。因みに食事処はマーガレット一人が切り盛りしており、水(無料)やお絞り、配膳などのサービスはセルフサービスとなっている。

 「しかし、忙しいねぇ。」

 今日は何故かいつもより人出が多く、一般客が多い。厨房に籠もって働くマーガレットは額に玉のような汗をかきながら作業におわれていた。

 「マーガレットさぁん、メシー。」

 そこへ、情けない声を出しながら火星植物研究所、通称マーズ・ガーデンから帰ってきた一平太がやってきた。

 「腹減っ……てめちゃ混みじゃないですか。」

 「見ての通りさ。しばらく社員の賄いは後だね。」

 「そんなぁ……すげー苦いもん食わされて、口直ししてぇのに。何でこんなに混んでるんですか。」

 不平を漏らす子供のような一平太に、マーガレットは呆れる。

 「子供みたいなこと言ってんじゃないよ。あんたはお客様を喜ばす側なんだから、頑張る頑張る!!」

 「へぇい。じゃあ僕も手伝いますよ。やることありますか?」

 「そうだねぇ。あんたに鍋振ってもらう訳に行かないしねぇ……どうするかねぇ。」

 「鍋振れますよ。」

 「ん?」

 「鍋。」

 「あんた振れるの?お客様にお出しするものだからね。半端じゃダメよ?」

 「はい。こう見えて、学生時代まぁまぁ厳しい料理屋で働いてました。一瞬そっちの道で生きていこうかな、ぐらいには考えましたしね。」

 そういいながら、厨房に入ってきた一平太はテキパキと着替えて手洗いも済ませ準備を整える。

 「それで、オーダーどうなってますか?」

 「あ、あぁ。えーと、今はAが三、Bが二はいってるね。私は、『持ち込み』をやらなきゃ無らないけど、アンタだけでいけるの?」

 いつもとは違って、手際の良い

一平太に驚きながら聞くと

 「味付けは毎日食べてる飯で大体分かりますし、最終チェックさえしてもらえればいけると思います。Bの方は、継ぎ足しでいけそうですし。」

 そう言いながらすでに鍋に火をかけ、油をひいている。

 「なんだかいけそうね。じゃあ頼んじゃおうかしら。」 

 「任して下さい!!」

 そんな一平太の横顔は何時もよりたくましく見えた。



 通常(?)業務回でした。一平太に新たな才能が。って言うか本業頑張れよ。「任せてくださいっ」キリッ じゃねえよってことで。ご飯は大事ですね。因みに私はたまに料理します。でも最近はジャムばっかり作ってますね。リンゴの。めちゃくちゃ作って、もうジャム(邪魔)ですね。

 ……魔が差しました。反省しています。

 お読み頂きありがとうございました。


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