第二十一話
第二十一話です。随分時間が空きました。スイマセン。……なんだか投稿する度謝ってるような気がします。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
荒い息遣いだけが辺りに響く。
フェリーニ、クロード、マルス。今まで隣に居たはずの仲間は次々と離脱していった。
「ここを耐えきったら、一緒に一杯やろう。」
アレは誰の言葉だったか。今まで必死で耐えてきた多くの仲間たちはこの場に数えるほどしかのこっていない。
視界も悪い。目の前は真っ白だ。自分が出した呼気が霧になったがごとく白に覆われている。
体が熱い。このまま俺も仲間の方へ行った方がいいのかもしれない。
少しずつ意識が朦朧としてくる。このまま意識を手放して楽になりたい。夢か現か先程離脱していった仲間たちが、気持ちよさそうに水辺で腰掛け手招きしている。あれは黄泉の川だろうか。それにしては随分気持ち良さそうだな。
だがまだ早い。俺はまだやれる。ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るんだ。最後まで耐えきってこそ至高の一杯が味わえるんだ。そうだろ、皆。最後の最後まで、俺は………。
一平太にとって心と懐に衝撃的だった着陸から半日。ドッと来た疲れを狭いベッドで癒す。翌日、朝7時起床。寝起きが悪い一平太はまだ開きたがらない瞼を無理やりこじ開け、昨日までの制服とは違う、制服に袖を通す。胸にはバッチリ《憩いの湯》の文字。(あぁ俺は完全に銭湯の従業員なんだなぁ)と再認識し、自分の職場へと向かう。
他の社員達はすでに降りてきていて、忙しそうに動いていた。各社員は、メガロケートスに乗っていた時の船乗りの仕事から、銭湯の従業員へとスイッチを切り替えていた。
朝から気合いを入れて働く先輩社員を尻目に、番台の隣でたち尽くす一平太。まだ眠いし、何をやればいいか分からないという自分なりの身勝手理論を構築し、とりあえず指示を待つ。そうしていると、ローグから声が掛かる。
「一平太。お前はとりあえず、風呂場の整理整頓だ。ブラシと見回りセットをもってけ。」
ローグは一平太に向かってそう言うと、自分は受付に戻りロッカーキーの確認をする。
「あのっ、見回りセットって……」
そう声を出すと後ろから、いつの間にいたのか寿ジィが買い物カゴを渡してくる。意外と重量がある。一平太は素直に中を覗いて入っている物を確認する。何々、中身は風呂用洗剤とタワシ、業務用シャンプーとリンス。そして業務用ボディーソープと石鹸が複数個。どうやら補充と清掃が一平太の仕事らしい。
「恐らくそんなにする事もないが、確認だ。」
寿ジィはそれだけ言うと自分の仕事に戻っていく。どうやらこの会社は自分で考えて、行動しないといけないらしい。一平太は昨日ことを思い出し、それもそうかと納得して仕事に取り掛かる。
(取り敢えずは風呂の掃除と、アメニティの確認だな。)
ところで、一平太が作業する《想の湯》別館の簡単な間取りを紹介しておきたい。この別館は基本的に平屋の建物である。と言っても輸送船の中にあるものではあるが。メガロケートスは元々液体の輸送船であるので、船の下半分が大きなタンクになっている。それに特殊な改造を施し、船の上側の部分に銭湯の施設をつくっているわけだ。船外から直接館内に入れるように、船の二階部分にあたる場所にある玄関までタラップが延びている。
別館の館内は広々としており、玄関すぐ近くに受付。ここで入銭料と引き替えに、ロッカーキーをわたす。そこから通路を進むと、番台があり左右に男湯と女湯に分かれるのである。ちなみに番台にはノーマン社長が待機している。一般的な銭湯は番台が受付となっているが、《想の湯》別館ではその機能を有してはいない。ノーマン社長のこだわり、いわゆる様式美である。そして脱衣所があり、浴室へと続く。浴室内浴槽は大小合わせて3つ。大きい湯船で40℃の白湯と、ジャグジー風呂、そして水風呂である。更に15人ほどが入れるサウナもある。女湯も同じ様な造りになってはいるが、男湯には件の妖しいパーテンションに仕切られた空間があるので多少男湯の方が狭い。
さて一平太はその浴室で仕事しているが、ものの数分で確認がおわる。別段汚れている場所もなく、アメニティも補充が必要なほど減ってはいなかった。それも当然のことで、船が出発する前に一通り準備はしているし、航海中は船員が使用した際は持ち回りで掃除と補充はしている。他は《ファントム・ゴブリン》が使用したぐらいだ。たかがしれている。特に航海中の業務と変わらない仕事を終えた一平太は、浴室から出て受付があるロビーに戻る。ロビーには他の社員達が勢ぞろいしていた。
「今日から3日間、この《想の湯》別館は火星で営業します。この荒涼とした土と砂埃の星の一刻の癒やしを我々で提供しましょう。」
「「ハイッ」」
社長が皆に檄を飛ばし、社員はそれに応える。一平太はそれに応えるべく(給料を少しでも稼ぐ為に)気合いを入れ直した。いよいよ営業開始だ。
営業開始から三時間。客入りは上々だ。営業と同時に待ちわびていたスペースマン、スペースウーマンたちが続々と入ってきていた。後に聞いたところ、軽く行列もできていたらしい。そんな中、番台の隣で仕事もせずボーッとしていたら、一平太はローグに仕事を申し渡される。
「一平太、お前暇ならちょっと頼まれろ!!」
「何でしょう?」
「これ持ってサウナ行ってこい。」
ローグはそう言うと一平太に大きめのタオルのようなものを渡す。
「なんですか?ここ、タオルはお客様の持ち込みでしたよね?」
そう疑問の声をあげる一平太に、ローグは呆れた表情をする。
「お前ちっとは自分で考えろ。すぐ聞きやがって。オレはサウナ行けっつったろ?」
「?」
「あぁ、もうっ!いいか?サウナはな、汗をかく所なんだよ。だから座る場所とか、床にマットを敷くんだよ。室内の温度は約90℃。一応肌が触れる場所は木製で、それほど熱くならないようにはなっている……がそれでも当たると熱い。だからマットを敷く。それを定期的に変えるんだよ。なるべく汗まみれなマットに座りたくないだろ?」
「なるほど。」
「わかったら、お客様の為にGOだ。」
「了解!」
そうしてサウナへ大量のマットを抱えて向かったのである。
漸く、火星で営業が始まりました。少し説明が多い気がしますが、勘弁してください。ちなみに風呂のモデルは私がよく行くスーパー銭湯です。もちろん番台はありませんが。
最初の文章は誰のどんな胸中なのでしょうか。
見えっぱなしの伏線は次話回収予定!!乞うご期待。
お読み頂きありがとうございました。




