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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第十八話

 第十八話です。地味に間があきました。お詫びを込めて、ちょっと、長めに。消して2日分でこれだけしか行かなかったわけではありません。宇宙の事を考えるのは難しいです。

 《ルナ・ファミリア》でドジっ娘の新しい仲間が入った頃、宇宙はというと………。幻影の子鬼(ファントム・ゴブリン)の襲撃以来別段何かあるわけでもなく、暇で順調な航海を続けていた。

 「暇だぁ。」

 例の襲撃事件の興奮はとっくに醒め、襲い来る退屈や睡魔と戦う日々が続く艦内。思わず口をついてでるのはこんな言葉ばかりだ。

 「一平太。何か楽しい話しなさいヨ。」

 「そんなの無いですよ。」

 今のシフトは《チェイン・ブラザーズ》のお兄さんの方。リー姐と一緒だった。仲間には手を出さないのか飽きたのか、はたまた可哀想な子鬼達のおかげか。必然、違う人と話していても会話パターンが似通ってくる。

 「つまらない男ネ。早く火星つかないかしラ。」

 「でも後半分じゃないですか。もうすぐ《ジャンプ》するんでしょ!!」

 一平太はジャンプに期待を寄せていた。

 「何テンション上がってんのヨ。変な浮遊感に襲われて気持ち悪いだけヨ。」

 現在地は《ルナ・ファミリア》から距離約1700万km、日数にして約七日ほど来た地点である。ここから《亜光速航行》をして一気に5000万kmを稼ぎ、残り道のりは通常航行で七日かけて火星の補給基地へとたどり着く。

 「でも、やっぱり興奮しちゃいますよ!ほぼ光と同じ速度なんて!!」

 「あなた凄く子供っぽいワ。カ・ワ・イ・イ♪」

 少しキュッとなる尻に寒気を覚える一平太。

 「後二時間くらいで《ジャンプ》だけど、アナタ休憩時間ネ。まぁ、今回はたいして長く跳ばないから、艦橋に見に来ればいいワ。直にノーマン艦長が来るから、もう休憩入っていいわヨ。」

 今回の《ジャンプ》は三分弱、正確には169.875秒。カップヌードルがぎりぎり出来ない時間。それでも一平太にとっては楽しみな時間だ。

 「有り難うございます。」

 そういって船室に戻る一平太。ちょっとだけスキップしてウキウキだ。

 「なにやらウキウキだね、一平太。スキップまでして。」

 後ろから声を掛けてきたのは謎の気品を持った爽やかイケメン機関士サラス・マホール・クシャトリヤ、通称サラスだ。

 「サラスさん!!見られてたんですか。恥ずかしいな。」

 「気にすることないよ。誰だってハッピーな時は有るものさ。」

 背景にキラキラした物が見えてきそうだ。口元から覗く白く輝いた歯に目がくらくらしてくる。

 「で、なんでそんなにハッピーなんだい?彼女でもできた?」

 「……どうやって宇宙で作るんですか?相手がいないでしょう。」

 「自然にできないかい?」

 うっとうしいほどのイケメンオーラが嫌味なく一平太に降り注ぐ。

 (この人は素でこれなんだな。)

 「普通は自然にできないです。」

 「そうなのかい?」

 「もう、あれです。《ジャンプ》が楽しみでテンション上がってしまって。」

 「なるほど。《ジャンプ》ね。あれは、なかなか地上では出来ない体験だから、“初めて”は面白いかもしれない。僕ら機関士はそんなに悠長な事は言ってられないけどね。」

 「なぜです?」

 「一時的にとはいえエンジンの出力を100%近くまで上げて制御しなきゃならないんだ。その上、エンジン出力時間はコンマ以下の繊細な調整が必要、エンジン自体にも負担がかかる。ワープ中は機関士にとって鬼門。なかなか楽しめないのさ。もちろんしっかり仕事はするけどね。」

 「……爆発とかしませんよね?」

 「……しないよ。多分ね。そうならないようにするのが僕らの仕事だけどね♪」

 一瞬怖い間が有ったが、サラスは笑顔でそう返す。

 「それじゃあ、僕は機関部に戻るよ。仕事をしなきゃね。」

 「お疲れ様です。頑張ってください。」

 一瞬白馬が見えかけたが、サラスは颯爽と去っていった。

 (少し不安になってきた。)

 時間まで一平太は船室で休む。心は期待と不安が50:50でごちゃ混ぜになっていた。

 ベッドの上で少しだけ目をつむる。そうして、時間が過ぎるのを待った。

 

 {只今から30分後に《亜光速航行》に入ります。船員は所定の位置につき対ショック姿勢をとってください。繰り返します。只今から………}

 艦内アナウンスが入る。どうやら少しばかり寝ていたようだ。身体に残る寝起き特有の倦怠感を感じながら艦橋に向かう。緊張召集ではないのでそれほど急がない。今、艦橋に詰めている航宙士は艦長とリー姐。おそらくこの船で一番操船技術のある二人だ。

 「アラ、ほんとに来たノ。物好きネぇ。とりあえずそこらの席についてなさイ、スッゴい衝撃くるかラ。」

 「一平太。これから先、航宙士なら必ず《ジャンプ》の中の操船をする。ウチでも必ずやらせる。少しでも技術を学ぶといい。損はないはずだ。」

 ノーマン艦長は、そう言うと自ら操舵輪を握る。リー姐はエンジンの出力調整などサポートだ。

 「こちら艦橋。機関部、エンジンの調子はどうだ?」

 {こちら機関部。良い感じに仕上がってますよ、艦長。そこに一平太君もいますか。}

 「そうか。一平太なら殊勝にも艦橋へ上がってきている。」

 {一平太君にも良い所見せたいですからね。}

 スピーカーから爽やかな風が吹くようにサラスの声が聞こえた。

 「通信部、座標特定いいか」

 {こちら通信部。座標特定完了。オールグリーンです。}

 どうやらユーリが担当のようだ。

 「首尾よく頼む。当艦はこれより《亜光速航行》に入る。エンジン出力あげー。」

 「エンジン出力あゲー。」

 「カウントダウンはじめまス。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。イグニッション。」

 「《亜光速航行》全ー速前進。」

 「全ー速前進。」

 急激にエンジン音が高まる。自然と身体に力が入り、座席の手すりをしっかりと掴んでいた。

 (来るっ……。)

 すると突然、艦内に響いていたエンジン音が消えたかと思うと、地球を脱出するときのロケットの何倍もの力が一平太を襲った。光速の重みだ。

 (ぐぅっ……結構くる。)

 必死で耐えていると、重みの膜を破ったように身体が楽になる。《亜光速空間》に入ったようだ。

 《亜光速空間》とはワープ空間ではない。凄い速さ、即ち《光速》に近づく事によって周りのスピードが相対的に遅くなり、まるで周り止まったかのようになる。実際は物凄い速さで動いているので、周りは残像が置いていかれているだけである。

 一平太が身体を起こすと、艦橋の二人は何事もなかったかのように自分の持ち場で忙しそうにしていた。

 「残り《亜光速光速航行》時間、75.246秒。」

 「艦体制御、エンジン出力の調整を厳に行え。」

 「了解。」

 一平太が重さに耐えていた時間は一瞬だと思っていたが、どうやら一分近くだったらしい。改めて二人の凄さを感じる。

 「残り15秒。カウントダウン開始します。」

 「制動ブレーキ用意。」

 {エンジン逆噴射の準備整ってます。}

 ラサスから通信か入る。

 「了解。総員対ショック姿勢。制動ブレーキ……始めっ」 

 「4、3、2、1。空間を出まス。」

 リー姐の声が聞こえたかと思うと身体を艦の後方へ引っ張られる。

 そして重みの膜が多い被さる感じがしたかと思うと、衝撃が一平太を襲う。

 (くぅッ……二度目のほうがッ……キッ……。)

 一平太はそこで意識を手放した。


 

 初めての《ジャンプ》。何事も初めてはワクワクとドキドキが入り交じるものです。

 さて今回の《亜光速航行》は、例のごとく似非科学です。イメージは某加速装置を使うサイボーグの感じ。といっても規模と場所が違いますが。

 割と簡単に一平太は気絶していますが、設定上第三宇宙速度を軽々と越えているはずですので妥当な気絶。頑張れ主人公。


 お読みいただき有り難うございます。

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