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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第十七話

 第十七話です。今回で番外編らしき物が終わります。

 

 湯船に浸かりながら考える。柚希は入浴自体が嫌いなわけではない。自分の名前のおかげで銭湯嫌いになってはいるが、むしろ1日に一回は浸かりたい派だ。

 「ハァー、気持ちいい………。」

 実家の銭湯にはもう長いこと入っていない。名前の事を中学二年生の時にからかわれてからのことだから、だいたい六年ぐらいだ。柚希の実家は銭湯と別建てだったので、それからは家の方の風呂に入っていた。

 (うちの風呂もこんな感じだったかな。)

 少しだけ思い出してみる。

 (湯船は全部で三つ。大きい湯船は温度で分けられてて、小さいけど露天風呂もあって…電気風呂も有ったっけ。入らなくなるまではお手伝いもしたなぁ。やっぱり面倒だったけど。)

 今振り返るとそう悪いことばかりではなかったような気がしていた。

 (番台でお客さんを見るのも嫌いじゃなかった。常連のお客さんに小銭を貰ってロッカーの鍵を渡す。それだけの事なのに「ゆずちゃんえらいね」なんて言われて得意げだった。)

 段々のぼせそうになってきて、湯船から上がり身体を洗いに洗面台へと向かう。

 湯気で曇った鏡越しに自分の顔を見ると、少しだけ泣いていた。

 (湯気が結露しただけ。)

 自分に言い聞かせて頭から少しぬるめの水を浴びる。なんだか知らないけれど、目頭が熱い。

 (のぼせただけ。)

 一個一個の事実に言い訳をして、髪を洗い体を洗った。冷たい水で火照った身体をキュッと締めて、最後に湯船にもう一度浸かる。

 浴室から出る頃には、憑き物が落ちたみたいにスッキリしていた。

 ビバ、《銭湯》。ビバ、《想の湯》。


 ラルフは番台でボーッと柚希が出てくるのを待っていた。

 (今日、客来ねぇな。)

 不景気な事を考えていると、アレックスに頭をど突かれた。何故か風呂桶で。

 「痛いって、アレックス。なんで殴るんだよ!」

 「そりゃ、アホラルフがさっきからしごとしないからだろ!!」

 「したくても出来ないんだよ!客が来ないんだから。」

 「おんなぶろだれかはいってんじゃん!」 女風呂用の鍵置き場を見てアレックスが声をあげる。

 「あぁ、さっきのお姉さんが入ってるの」

 「からだうってるねぇちゃんな!」

 「売ってないからな、柚希ちゃんの勘違いだからな。」

 「ふーん。」

 興味なさげに返事をするアレックス。そろそろアレックスも電池が切れてきて、元気もなくなってくる。残りの電池量を気にしながら、柚希とアレックスの叔母エミリアが迎えに来るのを待つ。そうして、数分待って先に来たのは柚希の方だった。

 「ご無礼しました。」

 女の子の湯上がり姿は、どんな時代でも変わらぬ『良さ』がある。大きな髪留めでアップにして、そこから覗くほんのり桃色なうなじはとても『良い』。柚希のそれも健康的な艶っぽさが存分に発揮されていた。

 「どうだった?」

 「気持ち良かったです。」

 「そりゃよかった。」

 ラルフの目には「風呂に入って清潔なった」という物理的効果だけでない、精神的な充足感を柚希が得ているように見えていた。それだけ彼女の表情は清々しい。実際彼女の『入らず嫌い』は、克服され以前の柚希に戻っていた。否。戻っていたと言うよりは一皮むけたと言う表現が正しいだろう。

 「あの、雇用の件なんですけど…」

 「それはもういいよ。柚希ちゃんみたいな《銭湯経験者》は惜しいけど、元々社員が留守の時は僕ひと…」

 そこまで言うとアレックスが急に覚醒して桶を構える。

 「……大人は僕一人だったんだ。アレックスも手伝ってくれたし。」

 ラルフの言葉に満足したのか休憩所のマッサージ機に座り眠ってしまう。電池が切れたようだ。

 「そうじゃなくて。」

 「?」

 「働いてもいいかなぁ、というか働かせてください!」

 「いいの?そりゃ、願ったり叶ったりだけど。」

 ラルフは思わず聞き返した。

 「何だかスッキリしちゃって。それに私自身、選り好み出来る立場じゃなかったですし。」

 「そりゃよかった。じゃあ明日から働いてもらおうかな。」

 ラルフがそう言うと、柚希が大きく頭を振る。

 「今から働かせてください。」

 「ホントに?有り難いけど。」

 「それと、住む場所とかありましたら……」

 柚希は《コスモ・フライング・トラベル社》の寮で生活するつもりだったので、社の倒産と同時に宿無しになっていた。

 「ん~、寮は有るんだけど直ぐには許可が降りないかもしれないから、しばらくは社のオフィスでもいいかい?風呂やなんかはここ使ってもらえればいいから。それとまだ正式採用じゃないからそれも手続きしておくよ。」

 「十分すぎです。有り難うございます。」

 「じゃあ、よろしくね。柚希ちゃん。」

 「よろしくお願いします。」

 その後、二人は客足が鈍い、というか一歩も動いていないので早めに風呂を閉め、一応《銭湯》での作業手順を教える。流石に本職のの家庭で育ってきただけあって、ラルフがほとんど教えることもなく柚希はテキパキと作業をこなす。

 (良い買い物をしたかなぁ。)

 と一人ほくそ笑んでいるとまたもや覚醒したアレックスからニヤニヤしてて気持ち悪いとスルドいローをもらった。

 「ところでラルフさん。この子誰です?」

 「あぁと社員の息子。名前はアレックス。今仕事で長期出張している間、こことその子の叔母の家で預かってもらってるんだ。アレックス挨拶しな。新しい社員(仮)さんの大分柚希さんだ。」

 「大分柚希です。よろしくね。」

 「ねぇちゃんもしんじんか!!じゃあボクのこうはいだな!ボスってよんでいいぞ。」

 「じゃあ、よろしくねボス♪」

 初めてボスと言われたアレックスは嬉しいやら眠いやらでガクンガクンしている。そんな姿を見てラルフと柚希は二人で笑った。それからすぐにエミリア がやってきて、首の据わらない赤ん坊みたいなアレックスを引き取って行った。

 こうして《宇宙輸水水道社》に新入社員(仮)が加わった。

 《想の湯》は人の心も癒やす。イコール風呂最高!!ビバ、銭湯。

 というわけで、次回も頑張ります。風呂に入りながら。

 

 お読みいただき有り難うございます。

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