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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第十五話

 第十五話です。少し番外チックです。新たな登場人物出てきます。


 一平太達、メガロケートス組がなんやかんやありながらも順調に旅を続けていた頃。ルナ・ファミリアにある《想の湯》の本館はいつもの日常を送っていた。

 「あぁ、忙しい。どう考えても一人で切り盛りするのキツい。後一人は欲しい。特に女性!!」

 一人留守番を任された社長の息子、ラルフ・ブレタは誰に言うでもなく文句をつけた。

 「ボクもてつだってやってるだろうが!!このっアホラルフ!!」

 ……優秀な女性社員の置き土産たるアレックスがラルフに向かって鋭いローと可愛い罵声を浴びせてくる。

 「そうだな。アレックスが居なきゃ、お兄さん困っちゃうよ。」

 「そうだろ。もっとほめてもいいし、おかしもくれてもいいぞ。それにラルフはおじさんだ!!」

 どうあっても飛んでくるのは鋭いトゲ入りの言葉らしい。ちゃっかり労働対価まで要求して来る。しかし、アレックスの言うこともあながち間違ってはいない。ラルフは日中の客が殆ど来ない間に会社の営業活動を行っており、番台をアレックスにまかせている。当然ボイラー操作などの危険が伴う作業などはアレックスやらせるわけに行かないので、小型の外部端末で社外にいても簡単な操作ができるようになっている。その外にも女性客が来ている際の女風呂での軽作業なんかも手伝ってもらっていた。長距離輸送中の《想の湯》において、アレックスの存在をバカには出来ない。

 「アレックス!!ちょっと営業行ってくるから店番頼む!!」

 「おかしなぁ!」

 「了解さん。じゃあ行ってくる!」

 「いってらっしゃい!!」

 そう言って《想の湯》から出る。

 「やっぱり、必要だなぁ……。新入女性社員。」

 

 《宇宙輸水水道社》における営業活動は基本的にはお得意さん巡りである。今ある取引先に顔を出して仕事を貰うのだ。所謂飛び込み営業は余りしない。というか飛び込み営業するほどルナ・ファミリアには水を必要とする会社がない。

 ラルフは何回かお世話になった取引先の訪問を終え、次の会社へと足を向ける。時間は地球の標準時間でいうところの「夕方」。午後四時を回った所だった。

 「次でラストにするか。」

 一人呟きながら、歩みを進める。

 (そいやぁ、アレックスに菓子買ってやらないとな。)

 そんな事をボーッと考えているとドンっと胸部に衝撃が走った。

 「キャッ!?」

 「いつっ……だ、大丈夫ですか?」

 誰かとぶつかり反射的に相手を支える。ラルフの右目は事故で失われている為、右側の視野が狭い。日常生活を送るのにはなにも問題ないが、どうしてもとっさの反応が通常より遅れてしまう。ラルフの場合、訓練のおかげで一般的な人より対応が早くなっているが、それでも危機回避が一呼吸遅れてしまう。そのため、曲がり角などて人と接触してしまう事がままあった。

 「すみっ、スミマセン!!」

 「イヤ、あの……。」

 ぶつかった時にどうやら書類をバラまいてしまったらしい。よっぽど慌てていたのか女性は目も合わさずに謝罪をすると、糸の切れた凧のようにひらひらと無軌道に舞った書類を拾う。 

 ラルフは足元に落ちてきた紙を拾うと、内容が目に留まる。

 (なんだ?……履歴書?ここ(宇宙)で?)

 ラルフが驚くのも無理はない。今年の新入社員の一平太達もそうだったように、就職先がおか(陸)で決まってからが宇宙にあがるのが一般的である。したがって、宇宙に置いて就職活動の為の履歴書は非常に珍しいのである。特に《宇宙輸水水道社》は狙った(カモ)を逃がさない為に即断即決。資格、免許、個人IDさえ有れば履歴書なんてものは使わない。……怖い企業なのである。もちろん就職してから《宇宙賊》の様になってしまう場合も例外的にあるが。

 「君、コレ。」

 「あ、ありがとうございます。」

 履歴書を手渡されるとそそくさ立ち去ろうとする女性に声をかける。

 「あ、あの……」

 「な、ナンパはやめてくださいっ!!」

 「イヤ、そうじゃなくて。……就職先決まってないんですか?」

 「だったらなんなんですかっ!!」

 「ウチで働きませんか?」

 「えっ!?」

 女性はまた書類を盛大にぶちまけた。

 (やっぱりチョイス、ミスったかな……)

 選り好みできる立場にないことを忘れて、一人思うラルフだった。


 (何でこうなっちゃたかなぁ……。)

 まだ少女の面影を残す横顔は「可愛い」と言う言葉がよく似合いそうだ。女性の名前は。大分(おおわけ) 柚希(ゆずき)。バリバリの日本人。読んで字の如く日本の大分県出身。20歳のうら若き乙女である。

 (何でこうなっちゃたんだろ……。)

 同じような内容を二回呟くと、今自分が出てきた場所を見上げる。そこには会社名が書かれた看板が物憂げに佇んでいる。会社の名前は《コスモ・フライング・トラベル社》名前の通り宇宙旅行を企画するベンチャー企業で、なかなかの成長株だった。しかし、会社の社長が資金集めに行っていた株式売買で大損。資金繰りに困り社長は蒸発。あれよあれよと言うまに倒産。倒産直後に会社に着いた柚希は、受付に群がる債権回収の人々を見て

 (ものすごく流行ってんだなぁ……。)

 能天気に眺めて通り過ぎ、配属先の庶務課を目指した。流行ってるわりに、妙に人気の少ないオフィスの違和感には気付かず何とか庶務課のあるフロアにやってくると、

 「今日から庶務課で働かせていただっ、頂く事になります大分柚希です。よろしくお願いしまっしゅ!!」

 これまた能天気な挨拶をする。しかし歓迎の拍手はおろか、物音すらしない。

 (噛んだのがまずかったのかな……。お母さんにも『挨拶はきちんとしなさい。』って言われたからなぁ……。)

 恐る恐る顔を上げると8つあるデスクには一人しか座っておらず、禿散らかした顔面蒼白なおっさんが冷たい視線を向けているだけだった。

 「あの……みなさん営業に行かれてるんですか?」

 「……何を言っとるんだ君は?」

 (そうか、ここは庶務課だ。営業は営業課の人がやるんだ。じゃあ何で一人しかデスクに居ないんだろう。)

 見当はずれな事を考えていると、おっさんが書類に目を戻し柚希に声を掛ける。

 「君が誰で何しに来たのかは知らんがね。この会社はたった今不渡りを出して、倒産したんた。倒産だよ。まだ家のローンも子供の学費も残ってるのに、どうしろってんだっ!!大体俺はUTBからの出向組だぞ!なんで巻き込まれてクビなんだ!」

 おっさんは「ヤられたら……」とか「…い…しだっ!!」とか怒ってんだか笑ってんだか分からない表情で顔中の穴という穴から水を出してブツブツ言っている。

 (と……う…さん?……倒産っ!?)

 ようやく事態に気づき慌てる柚希。

 「と……倒産って!私はど、どうなるんですか?」

 バッドな方へトリップしているおっさんの肩を揺すり話を聞こうとする。しかしおっさんは「部…の手………司……のっ!!」完全に目が据わり聞く耳をもたない。

 何とか意識を保っているひとをフロア内から探しだす。

 「それは災難だったね。といっても会社から君に出せるもの何もないと思うよ。ボクもここ2ヶ月の給料未払いなんだ。新しい職でも探すしかないね。」

 「そんな、宇宙にあがるのに全財産使ってしまったんです。どうしたら……。」

 「……すまない。ボクが力になれれば良いんだけれど、スッカラカンなんだ。」

 「……そう……ですか……。」

 どうにもならない状況を理解すると、がっくりと肩を落としオフィスを出る。

 夢と希望の星に満ち溢れているように見えた宇宙は一転、やたらと暗黒物質が目立つ絶望の宇宙へと変わってしまった。

 柚希は意識も曖昧なままトボトボと歩く。

 (ハァ……。これからどうしよう。お金無いしなぁ。お母さんに迷惑かけたくないし。)

 その時、ドンっと誰かにぶつかる。

 「キャッ」

 ぶつかった衝撃で手に持っていた書類をおとしてしまった。

 「すみっ、スミマセン!!」

 反射的に謝罪のことばを出す。書類集めに夢中で相手の顔すら見れていない。

 「イヤ、あの……。」

 (急いで集めないと。)

 「君、コレ。」

 呼ばれてはじめて相手の顔を見る。

 (うわぁ、隻眼さんだぁ……。怖い人かな?)

 「あ、ありがとうございます。」

 (お礼はきちんと言わなきゃ。でも怖いから早く逃げよう)

 非常に身勝手な感想を抱いたうえに早々と立ち去ろうとする柚希。

 「あ、あの……」

 (はっ話しかけてきた!!な、なん、ナンパだぁあ!!)

 「な、ナンパはやめてくださいっ!!」

 「イヤ、そうじゃなくて。……就職先決まってないんですか?」

 ビックリして振り返る。

 (この人は心が読めるの?片目を失って心眼が開眼したとか?)

 「だったらなんなんですかっ!!」

 思わず怒鳴る柚希。傷口に塩を塗られた気分だった。

 「ウチで働きませんか?」

 思わず盛大に書類をぶちまける。今度は先程より広大な範囲に広がる。

 「えっ!?」

 どうやら天は大分柚希を完全には見捨ててはいなかったようだ。

 ドジッ娘登場。登場回数の少ないラルフをフューチャーしました。と言いつつまだ出てきただけの奴居るなぁ。

 別館の方も進めろっつう話ですね。頑張ります。


 お読みいただき有り難うございます。

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