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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第十四話

 第十四話です。何だか筆が進み、早めの投稿。

 風呂話は早く進むなぁ。

 無力化した船に接舷する。完全に反抗の意志を失ったかどうか分からないので、艦の周りにはカノープスを配置し有線で艦に直接通信をかける。いつでもシステムを落とす為の措置だ。

 「こちら、メガロケートス艦長ノーマン・ブレタ。ファントム・ゴブリン第三師団の責任者を出してもらおうか。」

 {わたしがファントム・ゴブリン第三師団の責任者。師団長のルイス・ハウゼンだ。『敗残の将は兵を語らず』ってわけにはいかないか。なにが欲しい?といっても語るほどの戦略も情報も持っていないが。}

 「なにも。」

 {なにも?じゃあなんで呼んだ?}

 「顔が見たかったのさ。我々に喧嘩売る奴は久しぶりでね。」

 {そりゃ、結構な事で。で、トドメは今から刺されるのか。じゃなけりゃあ警備にひきわたされるわけだ。}

 「そうだな。引き渡す。が、その前に少しだけ私に付き合ってもらう。」

 {好きにしろっ!!}

 「では、風呂に入れ。」

 ルイス・ハウゼンは耳を疑う。

 {ハァっ?}

 「私の湯船に浸かれと言っている。」

 今日一番の衝撃が彼を襲った。


 続々と収容されたファントム・ゴブリンのメンバーは戸惑いながらメガロケートス内の《想の湯》別館へと追い立てられる。中には《チェイン・ブラザーズ》に捕まった者もいる。そのうちの何人かは何故か惚けたようにブツブツと独り言をいっていた。元「イイ男」達だ。中には戦闘機部隊の隊長もいた。

 「しかし、なんでまた俺達風呂入ってんだ?理由が分からん。」

 「なんででしょうね。まぁ旅の恥は掻きすてなんて言いますしね。」

 「お前もわけがわからん。だが……まぁ、いい湯だな。」

 「そうですね。気持ちいいです。」

 「そうだろ。私の戦闘は《銭湯》で決着をつける主義でね。」

 「なんであんたが入ってんだよ!!」

 「私の湯船だ。私が入っても問題無かろう。」

 「イヤ、一応敵だったわけだし。俺達がアンタ達の船を奪う可能性も有るんだぜ?」

 「私もバカじゃない。万が一に備えて腕の立つ部下も配しているし、第一ここは風呂だ。隠せる武器もあるまい?」

 「『腕の立つ』部下……ねぇ……」

 チラリと部下らしき人物達が居る方へと視線をやる。

 「アラ、お兄さン。いいからだしてるわネ。私たちとイイコトしなイ?」

 「い、い、『いいこと』ってアンタ。まさか……エヘッ、エヘッ、エヘヘヘ♪」

 「い・い・こ・と・ヨ♪」

 「「一名様ァ、ごあんな~イ♪」」

 《垢擦り》と描かれた見るも痛い毒々しい看板は妖艶な光と、哀れな羊達の嘶きが奇妙なシンフォニーを奏でていた。

 「そんなとこまで、あっ、ちょっとまって。あれ……アンタ達見慣れた物が……あれ、違う。ちょっと、チョ、チョ、チョッ待てよっ!!ア……アッーー」

 絶望の嘶きは周りの音にかき消され、近くにいる艦長達にしか聞こえていないようだった。

 「……『腕も』立つんだよ。あ奴らは。」

 「……そうかい。」

 二人は少しだけ心を近づけることがで来たようだ。

 「それに湯船は心もフヤカす。徐々に戦う気持ちもなくなるだろう。」

 二人の艦長の耳には〈癒されるぅ〉とか〈染み渡るぅ〉とか〈ここはすべての傷を癒やすオアシス。なにもかも忘れ染み渡る温かさに身を任せていたい。……本当にナニモカモワスレタイ。〉とか言う言葉が届いていた。

 「まぁ、どっちにしろこいつらに戦意はねぇ。もちろん俺にもな。」

 あれだけ圧倒的にヤられたのだ。接舷された時点で反抗心はなくなっていた。

 「そうか。では心行くまで風呂を楽しむといい。」

 「あいよ。甘えさせてもらう。」

 そう言ってノーマン艦長は湯から上がっていった。

 「師団長。」

 「なんだ?」

 「先程より、表情が柔らかくなっておいでです。」

 「そうか?」

 「ええ。惚れてしまいそうです。」

 「………。」

 黙って距離をとるルイス・ハウゼン。

 「嘘です。そんなに間を取らないでください。」

 「……お前無表情で怖いこというな。わけがわからん。」

 「それは失礼しました。」

 それから一時間程ファントム・ゴブリンのメンバーは宇宙銭湯を楽しんだ。そのうち何人かはのぼせたのか、譫言をいいながら医務室に運ばれていった。


 風呂からファントム・ゴブリンの一団があがるとノーマン艦長が待ち構えていた。

 「警備には連絡をつけた。我々が一度引き返し、貴君らをルナ・ファミリアまで移送する。それでいいか?」

 ノーマン艦長は質問する。

 「イヤ、移送はいらない。」

 ルイス師団長の言葉にノーマン艦長は眉を顰める。

 「殲滅がご所望か。」

 宇宙輸水水道社側に緊張が走る。

 「そうじゃない。我々は自首する。だから移送はいらないといっている。」

 「艦長、危険です。ここからルナ・ファミリアまで距離があります。彼らの船が目的地に到達するためには、非常電源では無理です。エンジンを復旧させる必要があります。」

 エレノア課長が冷静に進言すると、ノーマン艦長は手で制す。

 「わかった。応じよう。」

 「艦長っ!!」

 「いいのかい?何なら武装を破壊するぐらいはやってもらっても構わんゼ。」

 「構わん。」

 「艦長っ!!」

 「エレノア課長、まぁ良いじゃないの。こいつらここまで言ってんだからさ。第一ここで奇襲しようもんなら、今度は《銭湯》のかわりにエネルギー砲を嫌というほど浴びせかけりゃいいさ。」

 「ローグまで。」

 「そうだよ、エレノア。牽引もタダじゃないんだ。これ以上こいつらに構ってやって赤字にしたらバカみたいだよ。」

 いつの間にか来ていたマーガレットもそう言う。

 「…仕方有りませんね。あなた達はここで解放します。ただしこちらの艦の射程圏に居る間は常に狙われて居ると言うことをお忘れなく。」

 「了解。世話になった、ノーマン艦長殿。」

 「よい旅をルイス師団長。」

 こうして一平太初めての宇宙戦闘は幕を閉じたのだった。


 「予定外の戦闘があったが、直ぐに行程に戻る。通常航行再開。全速前進。目的地火星補給基地ラガー・マーズ。」

 「全ー速前進!!」

 火星補給基地までの道のりはまだまだ長い。

 

 戦闘の疲れを銭湯に浸かって癒やす。最高ですね。ファントム・ゴブリンの人々は風呂で心も体も洗い流されて、真人間に戻った模様です。……何人かは汚れてしまいましたが。まぁ悪いコトしてたから仕方がない。

 そんなこんなで火星の旅はまだ続きます。


 お読みいただき有り難うございます。

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