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湯船始めました。  作者: 世良美素
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第一話

初めての投稿です。


更新ペースは恐らく遅いです。気長に待ってやってください。


基本的には作者はど文系ですので、宇宙の知識は漫画とSF小説とネットの聞きかじりです。「コレおかしいんじゃね?」みたいなのがあれば極力直していきたいですが、設定の根幹を揺るがす、どうしようもないものについてはお目こぼし、もしくはそういう似非サイエンスと言うことでよろしくお願いいたします。


誤字脱字の指摘、御意見、ご感想、お待ちしています。

 動物には抗えない「欲」がある。睡眠欲・食欲・性欲、いわゆる三大欲求である。人類が動物である以上、その理から大きく逸脱する事は出来ない。そしてその三つが、満たされた後にやってくる「欲」こそがただの動物と人類とを隔てる、決定的な違いである。


 西暦2189年。人類が初めて宇宙に飛び出してから約230年経ち、人類はその旺盛な好奇心と日々進化する科学技術で、広大な宇宙での領土を広げようとしていた。

 飛躍的に伸びたエンジンの航続可能距離は宇宙での乗り物の形をロケットから宇宙船と言えるべきものまで発達させ、それに伴う多くの問題を山積させた。

 今まで地球からロケットと共に運ばれてきた食料・水などの物資は他の惑星に作られた前線補給基地に一度集積され、そこから補給又は専用の宇宙船に載せ替え各船へと直接届けられるようになった。これらの技術の発達により当初考える必要のなかった問題を考える必要が出てきたのである

 宇宙船での「居住性」。人間が人間として生きる為の技術が求められた。”より快適に、より過ごしやすく、より楽しく。“娯楽の少ない密閉された宇宙空間で、スペースマン達の心はそれを渇望したのである。「心地よく寝られるベッド」「美味しい御飯」「楽しい娯楽」-。それらは徐々に満たされた。そして満たされれば次を欲した。”スッキリしたい、息抜きしたい“。

 -そう「入浴」である。-

 

 「う゛ッッ」

 轟音と共に身体を責める衝撃に耐えながら、小宮一平太は考えていた。

 (ようやくあの忌々しい地球から離れられる。)

 現在の地球は、科学技術の進歩に支えられ人々は何不自由なく暮らすことが出来るようになっていた。その結果、長閑で牧歌的ともいえる日常に刺激が少なくなっていたのである。多感な若者達にはそれに耐えられなかった。

 人類が今まで「母なる大地」として暮らして来た地球は、今を生きる若者-一平太達にとって巣立っていくためのゆりかごに過ぎなかった。多くの20才前後の若者は、何とかしてゆりかごから脱出しようと挙って息巻く。ご多分に漏れず一平太もその大波に乗ろうと躍起になり、何とかつかんだ小さな波がこの宇宙船の切符だった。

 (ツラい毎日だったなぁ……)

 一平太は地球での日々を振り返る。さして勉強が出来るわけでもなく、運動能力もそこそこの「中の上」の一平太にとって少なくない努力が必要だった。

 宇宙飛行士になるための席を「上」以上の「精鋭」何万人かで争う宝くじのような時代から幾分かハードルが下がったとはいえ、そこは一つ間違えれば「死」に直結する宇宙である。そう簡単に誰でも彼でも行ける場所ではない。

 一平太は短い己の人生の中で初めて全力で物事に取り組んだ。宇宙に行くための国家資格「惑星間宇宙船第三等航宙飛行士」通称〈航宙士〉の狭き門を三度の実技試験と二度の筆記試験を経た上で見事合格したのである。といっても、航宙士の資格があればすぐに宇宙に上がれる訳ではない。

 前時代の国家的な宇宙事業であるならば、NASAだのJAXSAだのに所属し国から給料を貰えたのだが、今は西暦2189年。多くの民間企業が、宇宙に上がりしのぎを削りあう時代なのである。

 一平太は宇宙で事業を展開する民間企業で就職先を探した。当然、宙域を広げるような花形事業を行う企業は大企業であり、「中の上」である一平太にはハードルが高く、不採用の連発。徐々にハードルを下げていき唯一受かった会社が「宇宙輸水水道社」なのである。この会社の主な業務は社名の通り、宇宙では貴重な水資源の輸送。各宙域はもちろんのこと、時には他企業の宇宙船に直接配送する事もある。

 生物は水がなければ生きていけない為、非常に重要な仕事であると言えるが、とある事情から同じような水輸送業社とはある意味で一線を画している。一平太は就活の忙しさから、その事実に気づいていないが、そう遠くない未来にちょっぴり、否。すごく後悔することになる。まだ地球脱出の余韻に浸っている彼にそのことを知る由もなかった。


 「ようやく着いた」

 一平太が就職した、「宇宙輸水水道社」は、月にある。月と言っても星条旗やら、ムーンウォーカーの足跡がある「地球」の衛星としての「月」ではなく、月周回軌道上にある巨大物流宇宙ステーション「ルナ・ファミリア」にその会社はあった。

 当然「月」にも補給基地があったが、その多くは宇宙巨大企業群が独占しており、日本で言うところの「ザギン」さながらの様相を呈していた。「宇宙輸水水道社」はその「ザギン」並の土地代だけでなく、輸送コストを下げるため、会社自体を「ルナ・ファミリア」に置き、地球の六分の一と言われる月の引力を脱出する燃料すら節約しているのである。

 中小企業の涙ぐましい企業努力と格差にあえぐ会社の懐事情が見え隠れしているが、一平太には関係ない。

 「体が軽い!!」

 たまらずそう叫ぶと、ステーションのロビーで飛んだり跳ねたりを繰り返し、まわりのスペースマンから白い目で見られているとも知らずにハシャぐ。その後、ステーションの警備員に普通に怒られ、ようやく会社があるルナ・ファミリアの物流区画へと足を向ける。時間にして15分。慣れない弱重力に苦戦しつつも、目的地に着く。

 「何……コレ……」

 着いた会社の外観は、立派な、「銭湯」でした。

お読みいただき有り難うございました。

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