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四人にご注意 ②

 

 この世界に人間と魔族が闊歩するよりもはるか昔からこの世界にいる二つの種族がいた。

 

 天使と悪魔である。

 

 二つの種族は絶対に手を取り合うことのない種族であった。お互いが敵対することを創生時から認識していた。

 

 そして天使は人間に加担し、悪魔は魔族に加担した。二つの種族の代理戦争が今この世界を覆っている事実は人間、魔族と知らない。

 

 そんな悪魔の一人、名前はアルフス。

 彼は一人の人間になり変わり、再び新たな戦乱を巻き起こそうとしていた。悪魔は実態を持たない。持っていないのではなく依り代に自分の魂をいれ影から操るのを手段ととっていた。

 

 その人間こそがアルカディア国防衛大臣のマルコである。

 マルコ大臣は欲深き人間であった。彼は自分の地位を利用し悪事を働いていた。

 アルフスはそんな欲深き人間に取り憑き、そして成り代わった。アルフスの演技は完璧であり、マルコお抱えの兵達すら気づくことはなかった。アルフスはこの人間を使い戦争をなんとか早く引き起こそうと模索していた。

 

 しかし悪魔が見落としていた事が一つだけあった。それがアルカディア王である。悪事の内容までばれてはいなかったが、マルコは王に目をつけられていたのだ。

 下手な事をして人間と魔族の戦争が頓挫しては意味がないと考えた悪魔は隙を伺いながら今日この日まで当たり障りなく、疑われる事もせずに演じて来た。

 

 そして、先の人間達の会議で王に嘘の報告をし理由付をして魔王軍の近くまで向かおうとしていた。警備の目を誤魔化す為である。

 魔王軍に彼は宣戦布告なしの襲撃を行い、聖都と魔王軍に血み泥の戦いをさせようとしていたのだ。

 

 悪魔は不気味な笑みを浮かべ、自分が持っている少しの私兵、もちろん私兵も悪魔が成り代わっている者達を連れ、魔王軍が駐在している山脈へと向かって行った。

 

「ふふ、何とも楽しい仕事(ロールプレイ)でした。これで陛下に喜んでもらえましょう。すべては陛下のために…」

 

 悪魔アルフスの主君、悪魔王を楽しませる為だけに今日まで頑張ってきていたのだ。自然と笑みも浮かべよう。

 

 しかし、悪魔アルフスは知らない。

 

 その山脈の向こうから、遥か昔より天使、悪魔よりもこの世界に君臨する村人達の存在をしらない。

 

 

 

 

 

 

 ーー時は同じくカジュの村。

 

 伊右衛門さんの言うとおりに村人みんなが働き始める時間より少し早く太郎さん、与作さん、仁さんは伊右衛門さんの家の前にいた。

 

「ふぁあぁぁ…おはよぅ…」

 

「眠い…」

 

「しっかり朝飯は食べてきたか?晩飯までには帰ってこれると思うんだけど、昼はあっちのほにゃらら国で食べようと思ってる」

 

 それはアルカディア国です。

 

「麹をもらいにいって、ついでにアルカディア国の食べ物を食べられることになるなんて。太郎さんのアイデアのおかげですね」

 

 仁さんがそう言うと太郎さんのテンションがみるみるうちに下がってきています。どれだけ後悔しているのでしょうか。

 

「ただ丘を超えるのもつまらねぇからなんか四人で遊びながらいこうぜ。こういう機会あまりないからな」

 

「そうですね、昔は四人でよく遊びましたね。」

 

 伊右衛門さんと仁さんの会話を黙って聞く太郎さんと与作さん。四人は年も近く子供の頃からいつも釣るんでいました。今日は四人ともお仕事はお休みです。基本的に自給自足の村なのでお休みの日などは各自が取れます。

 

 四人の男達はストレッチをしながらなにをするかを話し合っています。どうやらまだ決まらない様です。話をしている間に太郎さんと与作さんは開き直ったようにテンションが戻り始め、元気を取り戻しました。

 四人の服装は動きやすいと思われるジャージとサンダルです。

 

「それじゃあそろそろ行きますか」

 

「そういやあの丘の上からの景色ってかなり綺麗だったよな?丘の上までいったら一回休憩しようぜ」

 

「いいですね、それ」

 

「昼前にはあっちにつきたいから少しだけだぞ?」

 

「把握」

 

 こうして四人は村の外の国へと出向いた。

 もちろんなんの気負いもなくお気楽に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー場面は再びアルカディア国へと変わる。

 

 アルカディア城にある王族が使用する執務室の部屋でこの国の姫君、名をセント・ヴェルティ・ヴァン・アルカディアが机におかれている無数の報告書に目を向けていた。その顔は困惑を隠せない。

 

「まさか…そんな。この大臣の行動…報告が正しいならマルコ大臣は魔王軍とつながっている…?」

 

 彼女が見ている報告書にはマルコ大臣が魔王軍に対して大量の食料や武器を送ったこと、魔王軍の魔族と密会していたことなど魔王軍との密接な関係を示す事がびっしりと書かれていた。

 

 彼女は昨日行われた会議で感じた不安について自分の私兵達を使い徹夜で調べた。

 姫君の周りには徹夜と急に与えられた調査によって疲れ果てた兵達がいる。

 

「姫様、このことは至急王へと報告しなくてはなりません!我が国の情報が魔王軍に伝わっているはずです。今まさに魔王軍がこちらに向かっているかもしれません!」

 

「わかっています。お父様にすぐお知らせして、緊急会議を開いてください。そして軍の方へはなるべく穏便に民の避難を進めてくださいとお願いして来てください。必要なことがあれば私の名前を使ってもらってかまいません。急を要します、各々我が国、国民の為全力を尽くしてください」

 

「「「祖国の為に!!」」」

 

 足早に姫の指示を実行する兵達。

 姫はこの報告に間違いはないと思っていた。しっかりと裏付けされた報告だったのです。

 

 しかし姫は違和感を感じていた。

 

 …なぜ大臣はこの様な証拠が残るような行動をとっていたのでしょうか…?今まで暴くことのできなかったお金の横流しや不当なやり取りなどはひとつも証拠が残らなかったのに…まるで私たちにあえて調べさせる様な雑な隠蔽をしているようですわ。

 

 姫はそこまで考えたが今は民の為に動かなくてはいけないと思い執務室から出た。

 大臣が魔王軍に向かったということはこれから何かしらの動きがあるはすだからだ。下手に後ろ手にまわっては遅い。今できることを今のうちにするのに専念した。

 

 この姫達が調べた大臣の事柄はもちろんマルコ大臣に成り代わった悪魔アルフスが捏造したものであった。しかしこの報告を聞いた人のほとんどが捏造されたものと疑わない。大臣以外が捏造したものでないのであれば、大臣自らが自分が不利になる情報を捏造するはずがないと思っているからだ。

 

 疑問に思っているのはわずかな人数であった。緊急会議ののちに疑問を感じているもの達がなぜ大臣自らが捏造をしたのかに対していう答えは皆同じであった。

 

『アルカディア国、魔王軍以外の第三者が関わっているのかもしれない。』と…

 

 

 地上に光を降り注ぐ恒星が空の天辺にくる時間であった。

 アルカディア国は戦闘の準備をし始めた。

 悪魔アルフス達は目の前に広がる大きな山を登山する直前でした。

 

 

 

 

 

 そしてサンダルで山登りをする四人はちょうど山の頂上へと登ったところであった。

 

「着いたな」

 

「んー大体3時間くらいか?」

 

「『ぐりこ』しながら来たから時間取られたな。パーとキョキであまり進めなかったのが原因だな。うん」

 

 この四人はただ山登りするのはつまらないという理由で始めた『ぐりこ』、村に伝わる遊びでじゃんけんで勝った人が勝ったじゃんけんの時の手に応じて進む遊びをしていました。童心にかえった様に四人は楽しみました。じゃんけんをする際の四人の距離が何キロか離れてしまった時などは大きな声で自分の出す手を答えた。その際地面が震えたのは言うまでもないでしょう。

 

「仁の一人勝ちだったな、お前ひたすらグーなんだもん。ずるいわ」

 

「ははは、与作さんはキョキに執着しすぎですよ。少し考えればわかることです」

 

 ちなみに一番声が大きい与作さんがビリでした。ひたすらキョキを連呼していた。

 

「帰りはどうする?普通に帰るか。」

 

「うーん、時間によるな。こうやって四人で遊ぶのも久しぶりで楽しいからもっと遊びたいんだけどなぁ」

 

「でも、今日は早めに帰らないか?日がくれてくるとあのトカゲが山に出てくるから対処めんどくさいんだよ」

 

「あー、いたなぁ。あの火を吹く空飛ぶトカゲ」

 

「確かにめんどうですねぇ。だったら村まで飛んで帰ります?」

 

「飛ぶのは力がいるから疲れんだよなぁ。まぁ、必要な物をくすねた時にでも考えようぜ」

 

「把握」

「了解」

「そうですね。その時に考えましょう」

 

 四人は遊ぶことを考えていたがしっかりと当初の目的を思い出す。村から何十kmか離れた(やま)から見える景色はとても綺麗であり、少しの時間そこからの光景を眺めていました。

 

「はー空気がうまいな」

 

「こう少し小高いところに登ると叫びたくなるよな。ヤッホーーー!!ってな。」

 

「うるせぇ!与作は声大きいんだから音量に注意しろよ!あとやまびこは山に登ったときに言うんだよ。丘の上じゃ意味がない!」

 

 与作さんの声に伊右衛門さんが注意しました。与作さんの肺活量は村の中でも多い方です。

 

「…ん?みなさん、あれなんですか?」

 

 ふと仁さんが何かを見つけたようで三人に聞く。頂上からは豆粒に見える何かを見つめる四人。

 

「ん?あれ魔王軍じゃないか?なんでいるんだ?」

 

「まじ?」

 

「よく見つけたな」

 

 仁さんの見つけた魔王軍の基地を見て三人が反応を示します。

 

「結構な大きさですね」

 

「多分アルカディア国と戦争でもするんじゃないか?その前線基地や野営地とだと思うぞ。」

 

 太郎さんは魔王軍がこんな丘にいることを太郎さんと与作さんに説明します。仁さんはしっかりと理解してました。

 

「あーまた戦争するんだ。他の国の連中は好きだよな」

 

「俺らには関係ないな。攻めてきたら迎え撃つまでだ。」

 

「そうですね。早くアルカディア国に行きたいですからね。去年の恨みなどありますが今回は見逃してあげましょう。」

 

「仁。怖いこと言うな」

 

 四人は魔王軍に対して別段何かすると言う事もない様です。

 

「一応魔王軍の人にうちの村は襲わない様にいっておかないか?すずちゃんとかを危険な目に合わせたくないし」

 

 太郎さんがみんなに聞きます。すずちゃんは最近村の家族に加わった女の子です。村のみんなはまだ天使や魔王軍から自分の身を守れないすずちゃんを大変気にしていました。

 

「確かに。もしもって事があるからな」

「そうですね。いくら村長が守るとしても那由多の一がありますからね」

「それじゃあ基地の偉い人のとこ行こうぜ」

 

 四人は丘と称する標高5000mの山の頂上から見える山の中腹に建造されている魔王軍の基地にに向かいました。助走をつけて頂上からジャンプし、何十にも強固な結界が張ってある野営地の結界を透過し音もなく着地をする。

 

「あれ?誰もいないぞ?」

 

 与作さんが着地と同時に言います。魔王軍の基地なのに魔王軍の兵が一人もいないようです。これでは四人のいいたい事が伝えられません。

 

「もしかしたらお疲れで寝ているのかもしれませんね」

 

「なるほどな。だったら寝かしといてやるか。無理が祟ると体調崩すしな」

 

 仁さんと伊右衛門さんが魔王軍の心配をしてあげています。四人はなにも知りません。魔王軍がいち早く彼らの気配を察知して国に帰ったのを。

 

「それじゃあ書き置きでも置いておくか。一番偉い人の部屋にでも置いておこうぜ」

 

「それでいいんじゃねぇか」

「多分あの大きな建物の中だと思いますよ」

「確かに一番大きいな」

 

 太郎さんの提案で書き置きをおいていく事になった四人はこの場所で一番大きな建物の中へと入って行きました。

 

「なんか変な部屋だな」

 

「なんだこのだだっ広い部屋は?」

 

 建物の中はただ広いだけの部屋が一部屋でした。部屋の中央の台座に何かが置かれているのを仁さんが見つけます。それは火の元もないのにメラメラと燃え盛る大きな鉱石でした。

 

「みなさん。尺玉の元がここにありますよ。まだ加工されていないみたいですけど。」

 

「なに?魔王軍はこんな大きな部屋にそんなの置いてたの?」

 

 メラメラと燃え盛る鉱石を見て仁さんが尺玉の元と言いました。村の中で尺玉は花火の別の呼び名とされていました。

 

「それじゃあ魔王軍はここで花火を打ち上げる為に基地を作ったのか?」

 

「随分とお金を持っているようですね。羨ましい限りです。」

 

 太郎さんと仁さんが魔王軍の豪胆ぷりに呆れていました。

 

「まだこれ加工されてないよな?仁。お前加工しといてやってあげれば?」

 

「そうですね。この量の材料な十分な大きさの尺玉ができると思いますね。少し僕の研究で培った技術も導入しましょう」

 

 部屋に置いてある物を加工する仁さん。

 仁さんが今回の加工に使用する技術は原材料の持つ力を増幅させる技術です。彼はその技術で村で取れる果物などを美味しくしてくれました。

 

「いつ見ても仁の魔法はすげぇよな。今やってることだって3倍ぐらいの能力増加を加えたんだろ?」

 

「花火の大きさを三倍にするとなるとかなり大きくなるな。結構な高さを打ち上げなくちゃダメなんじゃないか?」

 

 四人は各々が考えていることを話し合っています。そうこうしていると仁さんの前には50個ほどの尺玉ができていました。

 

「サービスとして導火線もつけて置いてあげましたよ。長さもサービスです。これであとは魔王軍の人が打ち上げるだけです」

 

「終わったか?俺たちも書き置き書いたからこの尺玉の上にでも置いておこうぜ。多分誰か気づくだろ?」

 

 仁さんの作業が終わると同時に三人が書き置きを書き終えました。村を襲わないで。反撃しますよ。と言うことを端的に述べた簡単な手紙です。

 

「それじゃあ用事も済んだしアルカディア国に向かうか。」

 

「そうですね。少し加工に時間が取られたのでお昼の時間になってしまいましたか。いやはや、すいません」

 

「別に気にするなよ。元はといえば俺と与作が仁の煎餅食べたのが悪いんだし」

 

「え?そんなことがあったのか?」

 

 太郎さんが仁さんに言うと伊右衛門さんが声をあげます。どうやら今回の元となった事態を知らなかったようです。

 

「今から向かう国ってなにか美味いもんあるのか?」

 

「確か漁業が盛んだったはずですけど…」

 

「本当か?じゃあさっさと行って港巡りだ!すぐ行こう!」

 

「本当に太郎は魚関係の話になるとテンション上がるよな」

 

「困ったものですね。」

 

 一人足早にアルカディア国に向かう太郎さんのあとを飽きれた面持ちで三人が追います。

 昔から魚の話になれば太郎さんが、蜂や植物の話になると与作さんが、勉強や魔法の話になると仁さんが、米や味噌などの話になれば伊右衛門さんがそれぞれにテンションをあげ、その度他の三人はあとを追っていました。

 

 昔も今も変わらないなと思いながら笑い、変わっていないことに嬉しさを感じながら四人はアルカディア国に向かいます。

 

 

 

 丁度お昼の時間のようです。

 

 

 

 

 

 

 


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