四人にご注意 ①
聖都アルカディア
中央大陸にある大陸内で大きく発展している国である。そんな聖都アルカディアがある国が魔王軍の攻め手に困っていた。聖都から数十km離れた山々に魔王軍が野営地を展開していたのだ。次々と強固な防護壁で囲まれていき増えていく野営地に聖都の人々は落ち着いていられない状態であった。いつ攻めてくるかわからない敵が自分たちの住んでいる場所から見えるのだ。落ち着いて生活しろと言う方が酷である。
そんな国の重鎮が集まるアルカディア城、そこには代々聖都を治めてきた皇族が住んでいた。
まずはそのアルカディア城でのお話。
アルカディア城の会議室。
「それで魔王軍の兵数の予測は?」
「はい、軍部の方での会議の結果、魔王軍の規模はおよそ10万、我がアルカディアが保有する兵力とよりは少ないと思われます」
「ふむ、地の利はこちらにあるとしても目と鼻の先にまさか堂々と基地を作るとは思わなかったな。もう少ししっかりと周辺地域を警備していれば防げたことではないのか?のう、マルコ防衛大臣?」
「……」
「ん?お主なら何か言い訳が出ると思ったのだが黙りであるか?」
「言い訳のしようもございません。私が警備の兵数を減らしたことが今回の魔王軍の展開を許したことに繋がりますので…」
「理解しているのならわざわざ口にするでない。まったく使えん…」
「……」
アルカディア城の会議室にいるのは国の重要ポストの人物達とこの城の持ち主にして国の王、セント・ルーベンド・ヴァン・アルカディア王。その隣には王の娘にして国の参謀を務める姫君が座っている。
「でもお父様、あの魔王軍が展開している野営地はあの山々の中腹は標高2000mは超えてますわ。いくら国周辺の警備をしようにも毎回山登りしていては国の予算が消えてしまいます。」
そう現在魔王軍が展開している山々は標高5000mクラスの大きな山脈なのです。この山脈のおかげでアルカディア国は他国からの進行を阻止していると言っても過言ではない。海から攻めてくるものを迎撃すれば良かったからである。
本当はある村が関わっているのだがそんなことを彼らは知らない。
「わかっておる、娘よ。しかし忌々しい。まさか海を超えてわざわざ山に基地を展開するなど誰が想像できようか」
「海からくるかもしれない魔王軍の襲撃に備え、さらに山々から来る魔王軍にも注意をしなくてはいけなくなるとは…いくら地の利を持ってしましても優位にたてませんわね…」
聖都アルカディアの後方には広大な海が広がっており、漁業によって国の食料事情を満たしていた。アルカディア国の保有する海上軍力は四大大陸でも随一を誇っている。しかし地上となると話は別になってしまう。
「王様、私めに考えがござります。」
意を決して王に意見を願うはマルコ防衛大臣。彼は国の防衛を一手に任された人物であった。黒い噂の絶えない一癖も二癖もある大臣である。
「黙れ、我は無能に様はない。衛兵、直ちにやつを会議室から追い出してしまえ」
王の命令で近衛兵達がマルコ大臣を外に追い出そうとする。アルカディア王は代々容赦をしない。いるものいらないもの、すべてを瞬時に判断する力に長けていた。彼ら一族は他国の国民から非情王や無血王など誹謗中傷を含む名で呼んでいる。
「お待ちになってください。お父様、もしよろしければマルコ大臣の話をお聞きするだけでも良くありませんか?もしかしたらこの絶体絶命の状態をなんとかできるかもしれません!」
今は藁にも縋りたい状態。なにかと黒い噂の絶えないマルコ大臣でもこの絶体絶命の状態で発言をするのだ。なにか思惑があるに違いないと思い、発言の許可を願う姫君。
「…ふん!近衛兵、下がって良い。マルコよ。一度だけ今回の魔王軍に対しての軍事活動に関する発言を許可する」
「はっ!私めは此度の魔王軍が展開した山々に関して再度検討したところ奴らを一網打尽にできるかもしれぬ報を見つけました」
「なに?」
会議に参加していたものが一斉に騒ぎ出す。10万もの兵力を一度で消すことができたらどれほど此度の戦が楽になるか理解している王はマルコ大臣に怪訝とした目を向ける。
「あの山々の中腹に火焔流星のかけらなるものを見たと言う報告がありました」
「それはまことか!?」
火焔流星のかけらとは、空高くからこの世界を照らす恒星から太古の昔に落ちてきたとされる魔石である。見た目はその名の通り、常に燃えていると言う不思議な石。しかし一度でも大きな衝撃を与えたら、その内部に込められている恒星の焔が解き放たれ半系数kmを焦土とする最悪の魔石。
会議室に再度激震が走る。
強大な力は時として己の身を滅ぼすと言われる。あの魔石は手を出してはいけないと昔から言われている災厄。一度国の海域に出た海獣シーサーペントの撃退に使った際にも自国に多大な影響をもたらした過去があったのだ。
だが聖都は手段を選んでいられない。もう何日も過ぎれば魔王軍による挟撃作戦が決行され様としているからだ。
しかし今この会議室にいる重要ポスト達にかけらの回収を指示することは国力の低下に繋がってしまう。
そこで王は今回の防衛失敗でその職位を解こうとしていたマルコ大臣に指示する。
「マルコよ、お主の言うことがまことであると証明できる資料を軍部へ提出した後、火焔流星のかけらを私兵を用い目視して参れ。願わくばその場から持って帰ってくることを命令する。」
「王への忠誠、此度の件を必ずやり遂げ示しましょう。」
マルコはそう言うと足早に会議室から出て行った。扉が閉まる寸前大臣が不敵な笑みを浮かべていたのを皇女はしっかりと見ていた。
仮に嘘だとしてもなぜ彼はあんな自分が危険になるかもしれない嘘を言うのだろうか…
姫はひとりマルコの思惑を探ろうとしていた。
――時は同じくカジュの村。
「暇だな…」
「今日の仕事はないって喜んでたのはどこの誰だよ?」
いま太郎さんと与作さんは縁側に腰掛け、暇を持て余していました。二人の仕事は昼過ぎごろには終わってしまったのだ。太郎さんは今日の分の収穫を終え、与作さんは養蜂箱の蜂達がストライキを起こして蜜を出さない状態であったので仕事がない状態であった。
「なんかお茶請け持ってない?」
「あー、たしか戸棚の中にあったはずだけど…ちょっと待ってろ。いまとって来る」
「頼む。もうお茶なくなりそうだ」
太郎さんが与作さんにお願いして何かお茶請けを取りに行ってもらいました。
「あー、やっぱり緑茶には煎餅だな」
「確かに。」
煎餅を食べながら二人はまったりムードに入りました。どうやら本当にする事がない様です。
「あなた達はよく人の家でそこまでくつろげますね」
仁さんが寛ぐ二人に言います。
二人が寛いでいたのは仁さんの家の縁側だったのです。仁さんは自分の研究によって判明した論文を書いている最中です。
「別にいいだろ?」
「特に問題ないでしょ?」
「縁側で寛ぐのはべつにいいですよ。でも勝手に人の家の戸棚を開けるのは良くないと思います」
この村では基本来るもの拒まずなので誰が家に勝手に来てもいいのです。
だからと言って勝手に戸棚を開けて剰えその中身をあさり、食べるのは大変失礼な行為です。親しい仲にも礼儀ありです。
「って、これ最後の煎餅じゃないですか!人がせっかくとっておいたものを勝手に食べましたね!」
珍しく仁さんが怒ります。そこまで煎餅が好きな様です。
「もう、二人の家にある煎餅を私に差し出さなければあなた達に極大魔法ぶち込みますよ?」
とうとう脅しにかかる仁さん。
「わ…悪かった!お詫びとしてはなんだが俺の家にとってある餅で磯部焼きとか作って渡すから許してくれ!」
「お?太郎、おまえナイスアイデアだ」
「そうですね、太郎さんにしてはいい考えです」
「へ?」
どうやら与作さんと仁さんが太郎さんの言ったことで面白いことを考えた様です。
「今から村のみんなを呼んで餅パーティーだな!」
「そうですね、大量の醤油が必要になります。今から伊右衛門さんのところに行って譲ってもらいましょう」
「ちょっと!!」
いつの間にやら開かれることになった餅パーティー。もちろん餅はすべて太郎さん持ちです。
「足りなくなったら村のみんなで出し合うってことでいいか?いやぁ、楽しくなってきたぞ!」
「与作さんは村のみなさんが飲むお酒を持ってきてくださいね。」
「え?」
与作さんも煎餅を勝手に食べたのです。太郎さんと同罪ですね。
「それではすぐに伊右衛門さんの家に向かいましょう。二人ともどうかしましたか?」
「「……いや別に」」
二人とも極大魔法が怖い様で仁さんの言うことを聞くみたいです。
この村でも食べ物の恨みは怖いようです。
「伊右衛門さん、いまお暇ですか?」
三人はこの村1番の田んぼを持つ伊右衛門さんの家にきました。
伊右衛門さんは頭に帽子をかぶり、腰までつながった長靴を履いています。
「ん?別に今だったら大丈夫だぞ。なんか用事か?」
「いえ、今から太郎さんと与作さんが主催の餅パーティーを開こうかと思いましてね。伊右衛門さんには醤油をお借りしたくて」
伊右衛門さんは田んぼで日々お米を作っていましたが、ここ数年で大豆も自前の畑で育て始めました。どうしても米に醤油と味噌が必要だったからです。
「あー、なるほどな。それじゃあ大量の醤油がいるな。しかしなぁ…」
「どうかしましたか?無理にとは言いませんよ」
伊右衛門さんが言いしぶります。
「そうだぞ!無理だったら無理って言え!」
「むしろ言ってください!」
太郎さんと与作さんが大きな声で伊右衛門さんにいいます。どうやら彼らは貯蔵している酒と餅がすべてなくなると思っているのでしょう。
「あなた達は静かにしてなさい。僕の両手が文字通り火を吹きますよ」
「「ひぃぃ!!」」
仁さんが静かに言います。そんな三人漫才を見ていた伊右衛門さんが理由を教えてくれます。
「あれな。この間来たア…アル…なんとか国の商人共が全部持ってっちゃったわけよ。
なんでも醤油と味噌に衝撃を受けたみたいでな。」
「あー、たしか前にそんなこと言ってましたね。それ確かアルカディア国の商人では?」
「そうそう、アルカディア国だ。作り方も聞かずに持ってったから大丈夫って思ってたんだよなぁ…」
アルカディア国の商人は一二ヶ月前に初めてこの村に来ました。アルカディア国とカジュの村の間には大きな山脈が連なっているため商人がこちらの方へと足を運ばなかったのが原因だそうです。そして村に来た商人が食べた味噌汁とお魚にかかったおろし大根醤油を食べて大変喜んだそうです。それで勢いで二つの材料の大豆食品の発酵に必要な麹菌をkg単位で物々交換していきました。。
「今ある量じゃ心もとないしアルカディア国の人のところにもらいにいってこようか?」
「その国にいくいい機会ですね。ぜひ僕たち三人を同行させてください」
「「っえ?」」
太郎さんと与作さんが戸惑いました。まさか煎餅を食べただけでこんなことになるなんて思ってなかったからです。
「おお、三人とも来てくれるか。それじゃあ明日俺の家に集合ってことでいいか?」
「はい。それでは明日麹をもらったらすぐに醤油を作りましょう。僕の魔法があればすぐに熟成、発酵のお手伝いができると思うので」
「ついでだったらうちの米も酒にしてくれないか。そしたら餅で米酒がたくさん飲めるぞ」
伊右衛門さんの田んぼで取れるお米はとても美味しいので有名です。そんなお米で作られるお酒も美味しいに決まっています。
「伊右衛門いいこと言った!俺も自分の酒よりおまえの酒が飲みたかったんだよ!」
与作さんがこれはチャンスと言う具合に伊右衛門さんに乗っかります。自分の貯蔵している酒がなくなるかもしれないのです。他人が作る酒があるならそれに越したことはありません。
「与作もそう思うか?良かった。でも安心しろ。まずお前が持つ酒をすべて飲んだら俺の酒を出してやるから」
「なん…だと…?」
天国から地獄。
伊右衛門さんは与作さんを騙したようです。
「それじゃあ三人とも明日の朝に集合な、寝坊すんなよ」
「わかりました。では伊右衛門さんは、また明日」
「「…どうしてこうなった」」
太郎さんと与作さんが遠い目をしながらつぶやきます。
食べ物の恨みは怖いことを二人は心から知ることになりました。
今回はそんな四人がアルカディア国に向かうことで巻き起こる出来事のお話です。