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ある少女の生い立ち

地の文、細部を変えました。

 私は物心ついた時から名前がありませんでした。

 

 私は、生まれた時の姿から親に捨てられたそうです。私の耳が頭についているからだと言われました。

 

 町の孤児院の前に毛布一枚で捨てられていたそうです。

 だから私は親の顔がわかりません。

 

 孤児院の人たちも私の容姿を見ては薄気味悪そうに見てきます。他の人と違う耳を見られるのを嫌がった私はいつも頭に捨てられた時の毛布の切れ端をぐるぐる巻きました。

 

 私は自分の耳が嫌いです。

 耳が違うだけなのにこんなに気味が悪いと言われるからです。

 

 孤児院での生活は大変でした。でも私はいっぱい頑張りました。水汲みして、薪を取りに行き、薪割して、お風呂を沸かたり、トイレの中身を捨てに行ったり、暇があったらひたすら雑巾掛けをしていたりと毎日頑張りました。時には失敗もしてしまい、その度に私の小さな身体はムチで叩かれ、あとが残ります。このムチのあとを見て次は失敗するなと言われました。

 

 孤児院でのお手伝いで食事だけは手伝わせてもらえませんでした。そうだよね、こんなにゴワゴワで汚い手で作った料理を食べるのは誰だって嫌だよね。

 

 いつしか孤児院の人たちは私に名前をくれました。それもたくさんくれました。

 ヲイヲマエ、ヲマエ、バケモノ、マゾクなどと呼ばれるようになりました。

 

 私は名前を呼ばれるのが嬉しくなりもっともっと頑張ることにしました。

 

 でもそんな孤児院での生活も終わりです。孤児院のえらい人が言うには私は違うところで働くことになるそうです。こんな私に仕事をくれた孤児院の人に私はとても感謝しました。

 

 私はドレェと言う仕事につくそうです。

 引き取ってくれたのは、どうやら私みたいな耳の人でも若い女の人ならいっぱいお仕事をくれているとても優しい人だそうです。

 

 頑張ろうと意気込みました。そんな私を見て孤児院の人はネックレスをくれました。鉄でできている輪っかで首につけると少しぶかぶかでした。

 

 どうやらバシャと言うもので働くお屋敷に行くそうです。私は意気揚々にバシャに乗りました。そんな私を見て孤児院の人たちと馬車の持ち主の人たちはニヤニヤ笑っていました。私がいなくなるのが嬉しそうです。

 

 バシャに乗ると私と同じネックレスをつけている人たちが何人もいました。みんな元気がありません。近くのお姉さんに聞いてみると私はドレェになったの…と弱々しく言われました。

 私もドレェだよ!と笑顔で言うとお姉さんは頭を撫でてくれました。生まれて初めて頭を撫でてもらって少し泣きそうになります。

 

 ドレェの雇い主の家まで向かう途中で事件が起こりました。バシャが何処かに引っかかったようで進まなくなりました。バシャの持ち主の人たちが私たちをバシャからおろして持ち上げるように指示しました。

 その時です。ドレェの1人が雇い主さんを足蹴りして鍵を奪い、私たちのつながれている鎖の鍵を解きました。

 そしてドレェの人たちが一斉にバシャの持ち主さんたちを殴り始めました。私がやめてやめてと泣きながら言っても誰も聞きません。

 そうして私は頭を撫でてくれた人に手を引かれバシャから離れて行きました。

 バシャの持ち主の人たち一行に動きません。

 

 長い間走り、みんな森の前で休憩をとることにしました。森の前を流れる川はとても綺麗で飲んでみると、とても美味しかったです。

 ドレェになった人たちがみんな服を脱ぎ出し身体を洗い始めました。

 私は耳が見られるのが嫌で入らないと断りましたが頭を撫でてくれた人が何度も誘ってきました。私はこの人なら私のことを気味悪がらないと思い、川に入ることにしました。頭の布を取り綺麗な川で顔を洗っていると、みんなが私の名前を呼んでいます。

 教えてないのになんで知ってるんだろう?

 私のたくさんある名前の中のマゾク、バケモノと連呼しています。名前を呼ばれたので私は近寄りましたが、みんな私を気味悪がっています。

 

 しょうがないよねと思い、私は頭を撫でてくれたお姉さんのところにトコトコと近寄りました。すると力一杯跳ね除けられ、何か私に言っています。どうやらお姉さんも私が気味悪いそうです。

 

 やっぱりこの耳のせいなのかな。

 他のドレェの人も私から遠ざかって行って、いつしか川には私1人だけになりました。

 

 孤児院ではいつも1人だったのでそんなこと気になりませんでしたが、何故か勝手に涙が流れて止まりません。不意に頭を撫でてくれた時のお姉さんの顔を思い出すと胸の中がぎゅぅっと締め付けられた痛みが走りました。こんな痛みも知りません。

 

 私は頭にボロ布をかぶり、一人森の中を進むことにしました。

 ドレェの人たちは森とは反対方向に進みます。またあの胸の痛みを味わう事が怖くて追えません。

 

 森の中はとっても綺麗で空気が澄んでいます。何か森の空気を吸うだけで元気になりそうになりました。少しすると、私のお腹が音を鳴らしました。私はなにか食べれるものがないか森の奥へと向かいました。

 

 果物が生えている木を見つけましたが手が届きません。私はいっぱい飛び跳ねましたがまだまだ届く気配がしませんでした。

 

 少し休憩しようと大きな木の根っこに腰をかけると不意に地面が揺れ、そして森の空気がガラッと変わり、私は怖くてたまらなくなりました。地面の揺れがどんどん大きくなると木々の隙間から大きな動物がこちらに向かってきていました。それも一匹じゃなくて何匹もいました。10より先の数がわからないので数はわかりませんでした。

 

 私はその場にいるのが怖くなり必死に森の外へと走り始めました。私の足音に気づいたようでその大きな動物たちが木々を綺麗によけ一斉に走り出しました。

 私は食べられちゃうのかと思い、頑張って力の限り走りました。しかし、何匹かの大きな動物たちが先回りしたようで私は囲まれてしまいました。

 

 私はここで始めて自分が今から食べられちゃうのだと、死んじゃうんだと分かりました。私は足元に転がっていた木の枝を持って何とか逃げれないかと思いました。

 私はまだやりたい事があるんだ。

 

 そう思ったとき、急に孤児院での大変な日々を思い出した。

 

 孤児院の窓から見える外の世界で、お父さんとお母さんに手をつながれて幸せそうな顔をしている子を羨ましいと思った。

 

 私の食べてる黒いパンや冷たいご飯じゃなくて孤児院の他の子供や大人が食べている温かい食べ物を食べたいと思った。いつか自分も食べるんだと思い頑張った。

 

 外の世界の人や、孤児院の他の人が着ている綺麗な服を見て羨ましいと思った。いつか自分も着るんだと思い頑張った。

 

 他の人のように綺麗なお布団で寝たいと思った。いつか自分も暖かい布団に包まれて寝るんだと思い頑張った。

 

 いつか誰かが私に優しくしてくれるんだと思って頑張った。

 

 

 いつの日か私を必要としてくれる家族ができるんだと思って頑張った。

 

 

 もしここで食べられちゃったら私の今まで頑張ってきたことはなんだったの?

 そう思い始めるとまた私の目から涙が流れ出した。また胸の中がぎゅっとと締め付けられ、私を取り囲んでいる大きな動物たちが涙でぼやけて見えなくなる。

 

 私は食べられなくない、たたそれだけ思い、その気持ちを大きな動物たちに向けた。

 

「ーーーーーッ!!!」

 

 自分でも何て言ったかわからない涙混じりな言葉が口から出ます。大きな動物達は私のそんな言葉を聞いて私から興味を失うわけもなくジリジリとよって来て、今にでも飛びかかってこようとしました。

 

 私は目をぎゅっと目を閉じ、木の枝をぶんぶんと振り回しました。どこからでも来い、私は諦めないんだぞ、と自分に語りかけながら木の枝を振るいました。ただ必死になりました。

 

 

 するとさっきまで肌を指すような森の空気よりも大きな気配に一瞬押しつぶされそうになります。でもその気配を感じた瞬間、森全体を覆う気配がふっと消えました。

 私は不思議に思い、恐る恐る目を開けると先ほどまで私を囲んでいたおおきな動物達は全て地面に倒れこんでいました。

 そして私の隣に見たことのない服装をしたお姉さんがいました。

 

 私は極度の緊張からか、助かった安心感からかそのまま地面に倒れこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「気絶しちゃったのかな?…あの牛さん達にいっぱい怪我されてるじゃない!くそぅ、牛さんめ!」

 

 女性は、少女の首にかかる鉄でできている鉄の輪っかを腕力だけで外し、身体のいたるところにあるムチのあとを治癒魔法で綺麗に消す。

 

「これで怪我は大丈夫ね。さてとこの子は村で介抱かな。輪っかは私が持っておこう。」

 

 小さな女の子を片手で抱え、足早に女性は森の外にむかいます。

 

 

 

 

 

 小さな身体ひとつで、周りからのいじめに耐え、小さな願いの為に今日まで頑張ってきた一人の少女は、この世界で一番小さな、優しく、温かく、そして1番安全な村に招待されました。

 

 何故世界で一番安全かと問われたらこの言葉をおくりましょう。

 

 それは、その村ができたはるか昔から言われている言葉。

 

 どんな時も楽しく、のんびりと時が経つ穏やかな村を一言で表した言葉。

 

 

 

 

 

 

 今日もこの村は平和ですからと。

 

 

 

 

 


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