表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

魔族達の憂鬱①

四天王を消しました。

キャラは残しました。

 カジュの村からはるか彼方にある北の大陸。

 

 その大陸を支配しているのは人間ではなく魔族であった。

 姿かたちは人間とそう違いがない外見をしており、生活も人間達となんら変わりない。人間と違う点と言えばここの能力と種族による身体的特徴であった。魔族は多数の種族に別れており、其々の種族特有の能力を持っていた。

 そんな魔族を支配している存在がいる。

 

 

 魔王である。

 

 

 魔王は己が持つ力を使い魔族を支配し、魔族の頂点に立つ存在となっている。絶対的な強者の風格を備えて魔族の世界を作ろうとしていた。

 

 

 

 今回のお話はそんな魔王が住む魔王城でのお話です。

 

 

「ふむ、では帝国は未だに降伏をしないと?」

 

「はい、度々なる戦を行えど帝国は諦めず、ただ抵抗を続けるのみであります。このまま何度も攻撃を繰り返せば魔王軍が優位に立てるのも近いかと思われます。」

 

「帝国は実に愚かであると感じる」

 

「しかし、兵も僅かながらも疲弊して来ております。こう何日も続くと士気にも影響されます」

 

「うむ…お前ら、何かいい案はないか?」

 

 魔王城の玉座の間。

 今玉座の間にいるのは、魔王と魔王の支配する魔族の中でもとても高い能力、力を持つ魔族と魔族とは違う存在として人間と敵対している者がいた。魔王軍が誇る三人の王と一匹の龍人である。

 

「恐れながら私に妙案がございます」

 

「言ってみよ」

 

「現在の帝国に出兵している兵を一時的に退却をさせるとはいかがでしょうか?」

 

 発言するは三人の王の一人。吸血鬼の王アルカード。

 彼は常に冷静沈着であり物事を客観的に見て判断する頭脳派な魔族である。

 

「ふむ、なぜ退却させる?」

 

「一時的に兵を退却させれば帝国も兵の展開をしますまい。そして機を見て隣国のカルスティールを攻めに参ります」

 

 カルスティールと言う人間の国がある。

 その国も帝国と同じ程の規模を誇り、難攻不落の魔道国家であった。

 

「それではなんの解決にもならないんじゃない?あの魔道国家と帝国は同盟を結んでいるのよ?結局は帝国との戦争の二の舞よ?」

 

 吸血鬼に反対意見を述べるのは三人の王の一人。常闇の王リリアーナ。

 彼女はその美貌ですべてを魅了し支配する力に長けていた。そして支配された者を使役して彼女は世界各地の情報をリークしていた。

 

「そうである。アルカードの意図することがわからんぞい!そうなれば今度はカルスティールに帝国の兵が集まるではないか!!」

 

 常闇に同調するは三人の王の一人。暴獣の王、カリウス。

 種族ごとが持つ血に刻まれた力をすべて操る破壊の化身である。

 

「なるほどな。さすがアルカードだ、長い期間でものを見る目。確かであるぞ」

 

 吸血鬼の案に同調したのは魔族とは違う種族の王であった。

 龍にも多数の種族がいる。属性や体を構築する組織や細胞の違いからも種族が変わる。それぞれの種族の王を龍王と呼んだ。そしてその龍王をすべる存在を龍の皇帝、龍皇(りゅうおう)と呼ぶ。

 龍皇、オルドラン。それが魔王に協力する龍の皇帝の名であった。

 

「カルスティールに送る兵は囮であります。カルスティールは我らに攻められたと勘違いし帝国に兵の応援要請を行うはず。そして帝国がカルスティールに出兵させた時こそが…」

 

「なるほど、確かにその時こそが帝国を落とす絶好の機会であるな。」

 

「はい、そうであります。これであれば我らは何の痛手もなく帝国の兵を減らすことができるでしょう」

 

「ふむ、その案で行くとしよう。

 今すぐに帝国に出向いている兵、駐在している兵を全てさがらせよ」

 

「はっ!直ちに!」

 

 魔王は後ろに控える兵に言伝を言う。

 

「ま、魔王様、そんな急を要さなくとも…」

 

「いや、急を要さなくてはならん!必要以上に兵を失うわけにはいかん。唯でさえ我らの兵数は去年の敗戦で総戦力の9割を越す兵力を失っているのだからな」

 

 魔王はその言葉を言うと見てわかる様に顔に威厳がなくなります。四人もそれぞれ暗くなり、いつしかプルプルと震え始める。

 

「…そうでしたな。あれから一年ですか…」

 

「目を閉じると当時を思い出すな…」

 

「部下が次々と燃えカスになる光景がちょっとね…あれからお肉が苦手になったわ」

 

「私が率いる魔獣も次々と土に還されたわ!!はっはっは!」

 

「私は部下共々に永遠と穴あき包丁で刻まれ続けたな。死ぬに死ねんし、生き返るたびに億を超える肉片に切り刻まれる…あの女一人のせいで私の部隊の魔族は心の病にかかってしまったよ」

 

 四天王があの悪夢の戦いの不幸自慢を始める。

 

 そう、魔王軍は去年、ある大陸を支配する巨大国家に戦争を仕掛けた。魔王軍の兵力はおよそ持てる全ての兵力を導入した。魔族領地の警備部隊、国に残した訓練兵、教官などを除くほとんどの部隊を導入した。圧倒的武力による支配を魔王は目論んでいた。

 

 それまで魔王軍は常勝無敗を誇る世界最強の軍であった。

 

 その国に向かう際に立ち寄った村のある土地に野営地を設置しようとした。

 これから攻める国は山脈と海に囲まれていたのでここで軍の本部でも作ろうとしたのだ。

 

 

 

 

 それが悲劇の始まりだった。

 

 

 

 

 

「山に近づけば包丁でブロック肉…いや挽肉にされて」

 

「海と川という水辺に向かった者達は釣竿片手に消し飛ばされて」

 

「気を抜いたり怖気ついた兵には容赦なく鉛玉が打ち込まれ、畑に近づけば極大魔法が仲間を空高くまで飛ばし、森に近づくと肥料にされる…」

 

 三人の王が涙目になりながらその時の戦いのさまを述べる。

 

「壊滅まで二日もかからなかったな…」

 

「吸血鬼の王の私は死ぬことはないのだが初めて死の恐怖に晒されたな…」

 

「それで結局あの村人達はこちらから挑まなければ攻撃して来ない、とアルカードが肉片の状態で教えてくれたんだよな…あの時のアルカードは肉団子みたいな姿をしてたな。」

 

「あの敗戦の1番の手柄を立てたのは肉団子のアルカードだったわね」

 

「うむ、あの村は危険だが敵意はなかったんだったな。でもあの戦いのせいであの村は魔王軍を目の敵にしているはず」

 

「魔王様の仰る通りですね。近づかなければいいですけど、近づいたとしたらいくら不死身の身なれど本当に死んでしまいますわ」

 

「話がそれて済まんな…それで帝国の戦争の事だが…っ!!」

 

 突如、轟音と共に魔王城が大きく揺れる。

 魔王城には強固な防御魔法がかけており並みの攻撃、魔法では揺れひとつ起こらない筈なのだがと言っておきましょう。

 

「「………」」

 

 玉座の間を沈黙が襲う。

 

 

「またか…」

 

「「「「……多分」」」」

 

 声を同じく魔王に答える。

 それと同時に玉座の間に兵が今の音と衝撃の報告をしに来る。

 

「ま、魔王様!またこの城にベヒモスが投げ込まれました!!」

 

「あぁ、予想はしていた…直ちに城に飛んで来たベヒモスたちに対し封印を行い、北の海深くに沈めて来るのだ…」

 

「「…かしこまりました。」」

 

 弱々しく返事をするのはカリウスとアルカード。返事をしないリリアーナはしょぼくれていて、もう泣く寸前。オルドランも遠い目をしていました。

 

 そもそも何故太古の魔獣ベヒモスがこの城に、あまつさえあの村から投げ飛ばされて来るのか今でも魔王軍は理解できていなかった。

 魔獣ベヒモスはその巨体、それに似合わぬ機敏さ、そして強大な魔力で、魔王ですら扱いに困る最悪の魔獣。

 もちろん魔王軍はベヒモスになにもしていない。ここ一年で勝手に復活して、勝手にあの村近くの森に行き、勝手に繁殖して、勝手に狩られ、そして魔王城に投げ込まれて来る。ここ一年間、月に二度ぐらいこれが繰り返されている。

 

 投げ込まれた時にベヒモスたちは全てが死ぬ寸前であるので封印術は簡単に成功する。そして北の大地の先に広がる絶対氷河の海底深くに沈める。しかし、知らぬ間にまたあの村の森に住み着く。その行動が魔王は理解できなかった。魔王様はいつも感じていた。こいつらは犬かと。投げ飛ばされて傷を受けるのにわざわざまた村に向かうからです。ベヒモスにとってはお遊びなのかもしれません。命をかけた。

 

 あの敗戦から何度もあの村には使者を送り、ベヒモスをどうにかして欲しいと願い出るのだが帰って来る答えはいつも同じ。

 

 

 

「あの牛たちの管理は飼い主がしっかりしなくきゃだめだよ。飼う時に途中で手放しちゃダメって親に言われたでしょ?」

 

「でもそっちがいらないって言ってるから毎回数頭穫ってるけど大丈夫ですよね?」

 

 

 

 管理も何もまったく関わっていなかった魔王は毎回言われる村の回答に胃を痛めています。

 

 あの村に強く要求できない魔王はこの繰り返されるベヒモスキャッチボール、ドッチボールと言い換えた方がいいだろうか、をなにも言わずに眈々とこなしている。

 一度ベヒモスを殲滅しようと考えたが、それで兵を疲弊してしまっては戦争に影響が出てしまうので現状を甘んじていた。

 

 そんなベヒモスをあの村人たちは軽々と対処する。その所業だけみればあの村人の異常性が理解できる。

 

「…触らぬ神に…祟りも何もないか…」

 

 魔王はあの小さな村への対処に日々精神を削っていた。

 確かにこちらから何もしなければ問題はない。

 

 だが、国の、そして魔王としての地位、プライドがある為に、いつかは何とかしなければいけなかった。村の事で悩むのがこれからも続くのだろう、と思う魔王様は玉座の間で一人今日も胃に手を当てます。

 

 

 今日も魔王様は頑張っています。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――時は同じくカジュの村

 

 

「あ、はるかさん!また牛がでて来たの?」

 

 大きな牛を三匹、ロープで縛り、村に戻ってきたはるかさんに聞くのははこの村1番の大きな牧草地を持つ女性、しぐれさん。彼女の持つ牧草地には羊がたくさんいます。この村において羊は毛を刈り取る為の動物です。

 

 しぐれさんは村の子供達と一緒に小さく切った紙を輪っかにして数珠つなぎにしていた。

 

「そうなのよ、今日はみんなが大好きな牛肉料理をたくさん作れるわよ」

 

「村だとお肉は大切ですからね。私の家も羊じゃなくて牛を飼えばみんなが喜ぶのに…」

 

「何を言うのよ、しぐれのおかげで村のみんなの洋服やらができるんだからそれでいいじゃない」

 

 牛と呼ぶが、そもそも動物ではなく魔獣なこベヒモスの事を大きな牛と思っている村の人たち。それが幸か不幸かはベヒモスのみが知るところでしょう。村のみんなが知ったらベヒモスは絶滅まで追いやられるかもしれません。この村の森は世界で一番魔力があると魔獣特有の能力からベヒモス達はそこを住処にする為に村に来る。そう言う事を村人、魔王様は知る術がない。

 

「でもこの牛たちのお乳出さないのよね。乳が出ればデザートがもっとたくさん作れるんだけど」

 

「今のままでもはるかさんの作るデザートに村のみんなは満足してますよ。みんなもそうよね。」

 

 しぐれさんの言葉に続き村の子供達、そしてなぜか二人の会話を聞いていた村の男どもがしぐれさんと同じ言葉を言いました。

 

「はいはい。ありがとね。それじゃ私は解体作業するけど、みんなはどの部位が食べたい?」

 

 はるかさんがベヒモスの解体作業に移ろうとした時に村人たちにリクエストを取る。どうやら食べる部位によって味や歯ごたえが変わるそうです。

 

「断然カルビ。伊右衛門のお米で食べたい」

「タンだな。今日はレモンがたくさん取れたんだ」「獲れたて新鮮なんだから肝かしらね」「僕はロースで。」「ハラミが一番」

 

 村人達がそれぞれ好きな部位を言います。どうやらみんな久しぶりに食べられる牛肉に興奮しているようです。食べる部位の話で喧嘩が始まる雰囲気になり始めてしまいました。

 

「……今日は焼肉かしらね」

 

「……そうですね。それが妥当だと思います」

 

 はるかさんとしぐれさんが牛肉談議をする村人たちを見て呟きました。みんなで仲良く食べられる料理にすると。

 

 はるかさんは牛肉料理を諦めて、太郎さんがとってきた魚を使ってたくさんの料理を作り始めることにしました。そんなはるかさんのお手伝いをするのは、しぐれさんと村の子供達。みんなでサラダを作っています。

 

 この子達には私の好きな牛肉の部位をあげようと思うはるかさんでした。

 はるかさんの好きな部位はサーロインです。

 それは村の人たちが知らないはるかさんだけが食べられる特別なお肉でした。

 

 歓迎会開始まであと少しの様です。

 

 

 

 

 

 

 今日もこの村は平和です。

 

 

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ