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その村につきまして

設定から変えました。


 どこまでも広がる平原、緑生い茂る森、綺麗に澄んだ水辺に囲まれた場所にひとつの小さな村があります。

 村の名前はカジュの村。村の後ろに広がる森からとった名前です。

 

 村人たちはせっせと働き毎日を、のほほんと過ごしています。

 

 そんなカジュの村に住んでいるのは30人程度。

 みんな各々せっせと働いています。

 

 村の代表、村長。

 米を作る人。

 畑を耕す人。

 服を作る人。

 道具を作る人。

 森の木を切る人。

 魚をとる人。

 他の村や町と外交する人。

 羊を飼う人。

 果物を栽培する人。

 一人ひとりが村のために一所懸命頑張って生活しています。

 

 

 これから始まるは、そんな村に住む人々が人を笑顔にするお話です。

 

 

 カジュの村に住む人たちの朝はそこまで早くありません。

 陽の光が村を照らし始めてから村人たちは起床します。

 起床したらまず窓から降り注ぐ陽の光を体に浴び、その後顔を洗い、朝食を取ります。朝食には主に川や海で取れた魚が並びます。この魚は漁師の太郎さんがとってきてくれる魚です。

 

 この村一番の漁師、太郎さん。

 今回のお話はそんな太郎さんに森で助けた少女を連れてきた村娘に出会うところから始まります。

 

 

「鱗が傷ついてんな。これは食い、食い、売……食い」

 

 太郎さんが収穫した魚の選別を行っているようです。鱗に傷がある魚は売りに出さずに自分で食べるか村人に分け与えます。川魚であるので多少の傷があるのですが太郎さんは妥協をしません。今まで一度も太郎さんは川魚を売ったことがありません。一度やってしまった事なのでそれをやり通すのに必死です。

 

 太郎さんは海で取れた魚は妥協をしています。そうしないと生活できないからです。

 魚だけでなくタコなどの軟体動物、エビなどの甲殻類などもせっせと収穫します。

 

 

「この気配は…えみちゃんかな?」

 

 川魚を片手に太郎さんが女の子の名前を呼ぶ。

 川の和流が響く場所に腰掛ける太郎さんの後ろに広がる森から一人の女の子が出てきました。

 

「もう!太郎兄ちゃんは気配察知能力が高すぎるよ!」

 

 太郎さんに声をかけるのは村一番流行にうるさい女の子のえみちゃんです。

 

「やっぱりあってたね。それで一体どうし…なるほどね」

 

 太郎さんは振り向いたと同時に気づきました。

 えみちゃんは片手に本を持ち、もう片方の手でボロボロの衣服を着た意識のない女の子の腰に手を回して抱えていたのです。

 

「今日の手伝いが早く終わったから街まで買い物に行ってたの。その帰りに、森の中でこの子が一人ででかい牛さん達に襲われてたの」

 

 彼女の家はこの村一番の鍛冶職人弾さんの娘さん。彼女も年頃の女の子なので空いた僅かな時間で一人隣町まで行って本や洋服を見ているそうです。数十kmの距離を徒歩で行き来します。

 

「やっぱりあの気配はでかい牛か。その子の気配は感じなかっ……ちょっといいか」

 

 そう言うと太郎さんはえみちゃんの抱えている女の子の容態を確認します。あまり肉付きが良くない身体の女の子の姿を見て太郎さんはえみちゃんに問います。

 

「この子を見つけた時の状況は?」

 

「牛さんたちを気絶させるのに夢中でこの子がやろうとしてた事はわからないの。それで私が隣に立つと同時に気絶したの。傷だらけだったからその場で治療してきたんだ」

 

「ならよかった。でも目に見えない怪我もたくさんあるな…」

 

 太郎さんは女の子にはまだ傷がいっぱい残っているのを発見しました。

 

「そうなの?これでも特訓のおかげで治療はできてると思ったんだけど、治せてない傷があるの?」

 

「違うよ。俺が言った怪我は特訓とかじゃ身につかないよ。まぁ、年の功ってやつかな」

 

 年の功と言いますが太郎さんはこの村ではまだおじさんと呼べる年齢ではありません。

 

「その手首につけてるのはなんだ?」

 

「これは女の子の首についてた輪っかだよ。なんか鉄だけでできてるみたい」

 

 太郎さんはえみちゃんの左肘にかけてある鉄の輪っかを見ています。

 

「えみちゃん、この子を村長の家に連れてってあげてくれないか?多分だけど村長にしかその子の傷は治せない」

 

「うん、わかった。……太郎兄ちゃん怒ってる?」

 

 えみちゃんは先程からここ一帯の空気が重くなり始めているのを肌で感じたことから太郎さんが怒っているのだろうと予想した。

 そう指摘された途端空気に軽さが戻りました。

 

「ごめんごめん。どうも小さい子の怪我させられた姿を見ると怒りが湧いてきてさ」

 

「気をつけてよ!この子が起きてたら発狂するぐらいの威圧だったよ!そんな太郎さんの近くにこの子をおけないからすぐに村長のところ行くね」

 

「あまり早く走っちゃだめだぞ」

 

「大丈夫!この子の空気抵抗も減らしているから7割強の力で走れるよ。それじゃあ、またあとでね」

 

 えみちゃんがそう言うと足に力を込め、地面を蹴り村長のある家の方へと走り出しました。

 地面を蹴った時に発せられた音と衝撃は、えみちゃんの姿が見えなくなってから太郎さんに襲い掛かりました。舞う土埃と飛んでくる小石、土は太郎さんが片手を仰ぐと風が起き、消しました。その際森の木々が大きくしなってしまいました。

 

「えみちゃんも足が速くなったな。時が経つのも早いもんだ」

 

 太郎さんは、魚の入ったかごを持ち自分の家へと帰ってゆきます。今日の魚も村の食事に出ることになるみたいです。それが川で自分のお仕事をした日の一連の流れでした。

 

「……さて、あの子のためにも皆の心に火をつけるか」

 

 かごを片手に太郎さんは村人たちが集まると思われる場所へと向かった。

 

 

 

 場面は変わり、太郎さんが向かおうとしている場所。

 

「あぁ…暇だ」

 

「…そうですね」

 

「晩飯時まであと何秒?」

 

「大体29万秒くらいですね…」

 

「まじか…めちゃくちゃ長く感じる……」

 

「嘘つけ…それだと4日後だ……あと一時間半ぐらいだろ…」

 

 ある場所とは村の人たちが仕事終わりにこぞって集まる家の事でした。

 

「三人とも陰気臭いわよ!ほら、いつものお菓子よ」

 

 そう言って家の持ち主の人がお手製クッキーを大きなテーブルの上に乗せました。

 このクッキーを作ったのは、村一番の料理上手の女性はるかさん。彼女にかかればどんな物でも極上の料理に早変わりする。

 

「待ってました!今日は疲れたから太郎の分まで食べてやろう!」

 

「なんで与作さんはそんなに疲れているんですか?無尽蔵の体力自慢だったはずですけど…」

 

 疲れたと声大きくいうのはこの村一番の養蜂職人の男性、与作さん。与作さんの作る蜜は種類も豊富でとても美味しく村の食卓、お茶など様々なところで使われています。

 

「聞いてくれよ、仁。今日な、養蜂箱にいる蜂が全部逃げちゃってよ。全部捕まえるのにめちゃくちゃ走ったわけよ」

 

「確か去年から蜂と養蜂箱の数の桁を何個か増やしましたよね。少し多かったんじゃないですか?」

 

 与作さんと応答しているのはこの村一番賢い男、仁さんです。彼はずばぬけた知能と独創性を持っていて、常日頃独自の研究を行い村の生活を豊かにしています。

 

「桁増やすとか与作は後先考えないよな。普通は倍ずつ持っていくんだよ」

 

「よく言うぜ。伊右衛門だって新しく濁り酒作って田んぼをha単位で増やしてっただろ?」

 

 与作さんに注意したら逆に指摘を受けたのはこの村一番の田んぼの敷地を持つ男性、伊右衛門さん。彼は日々愛するお米のために働いています。

 

 三人はそれぞれのお仕事が予想よりも早く終わってしまったのではるかさんの家にお菓子を食べに来ていた。仕事終わりの時間になるとどんどんとはるかさんの家にお菓子を貰いに来るのです。

 

「はいはい!出来立てクッキーが冷めちゃうわよ。あと何分かしたらいっぱい来るんだから食ったら帰るのよ」

 

 手を叩きながらはるかさんが三人に言います。仕事終わりの村の女性陣がいっぱい来るから男は帰れと。

 

 するとすぐに、はるかさんの家に太郎さんが来ました。手には仕事道具を持ったままです。

 はるかさんは太郎さんが座れるように椅子を引きます。しかし太郎さんは座りません。

 

「お前ら暇か?」

 

 唐突に問いかける太郎さん。

 

「この家にくる時点で暇だ」

「暇を持て余しているのではなく、暇ができてしまうのです」

「それ結局同じ意味な」

 

「私もお菓子できたから暇かしら。一体どうしたの?」

 

 四人がそれぞれ暇と言う。四人は言葉にしないが少し太郎の考えに期待をしていた。

 太郎さんが導火線に火をつけたのです。

 

「森で怪我した女の子をえみちゃんが連れてきた。今は村長が治療してると思う」

 

 四人が驚きに顔を変えます。それは怪我した女の子の事を聞いたからではありません。

 最初だけ聞いたら四人とも怪我をした女の子について聞いたはずですが、村長が治療していると聞けば話は別です。

 

「ようするにだ。その女の子の歓迎会を開こうと思う」

 

 太郎さんがつけた火はとうとう四人の心を燃やしました。

 

「そうと決まったらすぐに準備だな!俺が村の全員に知らせてくる!!」

 

 与作さんは村の人たちに知らせるために走って出て行きました。

 

「なら僕は広場の整備をしてきますね。この間の雨でぬかるんでいたはずなので」

 

 仁さんは村の中央にある広場の整備に向かいました。

 

「俺は蔵に入ってる米と酒を持っていくぞ!!」

 

 伊右衛門さんは自分の蔵に歓迎会に出すお米とお酒を取りに行きますた。

 太郎さんは三人が走り去るのを見届けたあとにはるかさんが引いてくれた椅子に腰掛ける。

 

「私も料理を作らないとね。腕がなるわね」

 

 はるかさんは知らぬ間に片手に包丁を持っていました。やる気まんまんなそうです。

 

「はるかさん、森に例の牛たちが出たとえみちゃんが言ってましたよ?」

 

「そうなの?じゃあ今日はお肉がいっぱい食べられるわね。ふふ、頑張らなくちゃ。私はこれから牛を狩ってくるけど何匹くらいでいい?」

 

「そうだな…三匹くらいで十分だと思うな。あとはいつもどおりに北の大地に返せばいいと思うな」

 

「わかったわ。それじゃあ行ってくるわね。残ってるクッキーは食べていいわよ」

 

 太郎さんにクッキーを勧めた瞬間にはるかさんは森の方へと向かいました。

 はるかさんの家に一人残った太郎さんはクッキーをポリポリと食べながら物思いにふけていました。

 

 次第に村のあちこちから声が聞こえてきます。どうやら与作さんが村の人たちに歓迎会の事を伝え終わったみたいです。街の広場のほうからも音が響いてきます。仁さんが広場の整備を本格的に始めたようです。

 

 村人たちはこの村の生活が大好きです。毎日のんびりと過ごし、日々の糧をみんなで分け合う生活が大好きです。みんながそれぞれ働き、汗をかき、笑い合う。

 

 村人たちはみんなでさわいで楽しみ会うのがなにより楽しみにしています。祭り事がまさにそれにあたるでしょう。だから村人たちはなにかにつけてお祭りごとしようとします。

 

 客人が来ても、他国から使者が来ても、魔王軍が攻めてきても、天使がせめて来ても、悪魔が村を乗っ取ろうと躍起になっても、村の人たちはなにかにつけて騒ぎます。宴会や歓迎会、敵を倒したあとのお疲れ会など様々です。

 

 カジュの村の人たちは小さな女の子のためにみんなが一つになって歓迎会の準備をしています。

 

 太郎さんはそんな村がとても好きです。椅子から立ち上がり、歓迎会の準備を始めます。

 外に出るとみんな笑顔で準備していました。

 久しぶりのお祭りごとです。村に住む人ならみんなで楽しまなくてはいけません。

 

 

 

 

 今日もこの村は平和です。

 

 

 

 

 

 


13/11/19:句読点の修正

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