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姉妹にご注意③

初の戦闘描写を書きました。

うまくかけず他作品の作者様の戦闘描写はすごいと思います。今回で二人の話はおしまいです。

誰も死にません。無双回です。

「お…お礼って…あぁ…先ほどのことですか」

 

 奴隷の男性が元気なく返事をします。

 

「そうです。私はまだお礼をしてないので何かお礼をしたいと思いましてね」

 

 よみこさんの言葉を聞いた男性が黙る。その言葉を聞いていた周りの奴隷も王子も皆一同静かになります。皆が同じことを考えました。もしこの魔族の女性の魔法があれば、あの魔王軍を撤退させることもできるのではないかと思っています。

 

「…私たちのためにあなた様の魔法を使ってはくれますか?」

 

「…残念ですけど、私は魔法が使えません。ごめんなさい」

 

「「「…え?」」」

 

 宿舎にいる大人たち全員が声をあげる。その声には驚きの色を示していた。

 

「…そうですよね。魔族同士で戦闘などできませんよね。失言でした、申し訳ありません」

 

 奴隷達と王子が落胆します。この魔族の女性は魔王軍と戦いたくないために嘘を言っていると考えてしまったのです。よみこさんはどうやら奴隷達の反応が理解できていないようで不思議そうに思っています。多数の人間に囲まれているよみこさんは自分が獣耳カチューシャで変装していることを忘れています。

 すずちゃんは話に参加せずに子供達と外を見てキャッキャしています。相も変わらずに自由です。

 

「では、魔族様がお得意とされるものなどはございますか?」

 

「んーそうね。着物織りと舞踊かしら?」

 

「…舞踊?」

 

「あぁ。こっちではその言葉を使わないわね。ダンスのことよ」

 

 よみこさんのお得意技は着物織りと舞踊です。

 村一番の着物職人であるので着物織りが大変得意です。

 そして彼女ももうひとつの得意なこと、それが舞踊と呼んでいるものです。

 彼女の舞踊は村でも人気があり、お祭り事の際に酔っ払ったら踊り続けます。彼女は舞、踊り、振り、果てには剣舞やワルツなどとこの世界に伝わる全種類の舞踊/ダンスを熟知しています。

 

「そうですか…ダンスですか…では、ひとつお願いします…」

 

「はい。ではひとつ舞踊をお見せしますね。あぁ、そうだ。」

 

 子供たちを除く人たちが再度落胆します。

 そんな落胆した人たちの中の一人によみこさんは問います。

 

「そういえば、あなたはここから出ても逃げ続けるの?」

 

 その言葉は王子に向けて発した言葉でした。王子が答えます。

 

「仕方ないだろう。奴隷の身に扮してもバレたらその場所から離れ転々と活動をする予定だった。それも難しくなってしまったが…」

 

 これでは魔王軍と鼬ごっこでいつかは捕まってしまいます。

 そこでよみこさんは何かを思いつき、再度王子に問います。

 

「ならいい方法があるわよ。」

 

 そう言うとよみこさんは自分の獣耳カチューシャを王子につけてあげます。

 どんな魔族でも、人間を魔族と勘違いさせる変装道具(ほうぐ)です。これさえあればどこにいっても人間だとばれません。顔は確かに王子ですが種族の気配が違うので大丈夫でしょう。

 そんな行動をとったよみこさんを見て、みんながびっくりします。彼女が人間だったと気づいたのです。

 

「あ…あんた人間だったのか!!」

 

「誰が魔族って言いました?これであなたは人間だと思われないわよ。感謝しなさいよ、私が人にものをあげるなんて村の人たちだけなんだからね。まぁ…借り物なんだけど…」

 

 よみこさんは笑みを浮かべながら王子に言います。そんなよみこさんの笑みを浮かべた顔を見て王子は咄嗟に目を逸してしまいます。

 

「なに恥ずかしがってるのよ。王子なら胸を張ってなさい」

 

 そう言うとよみこさんはすずちゃんの方へと近づいていきます。何か伝えるようです。

 

「すずちゃん、これから私はこの人たちにお礼を披露しようと思うんだけどここで待っててくれる?」

 

「うん!いいよ!でも何するの?」

 

「それは見てたからのお楽しみよ」

 

 口に人差し指一本を当てて意地が悪そうによみこさんがすずちゃんに言います。

 すずちゃんとやり取りを終えたよみこさんは宿舎の扉の方へと向かいます。どうやら外に出るようです。

 

「お…お嬢さん!今外でたら危ない!出ちゃダメだ!何しに外にいくんだ?」

 

「あら?これから私はお礼をしようと思ったのですが…」

 

 よみこさんはシュンとふさぎ込んでしまいます。良かれと思いお礼をしようとしたのに止められたからです。

 奴隷の人たちは先程舞踊を見せると言っていたよみこさんが急に外に出ようとしたので止めました。

 

「…ちなみに…外でなにをするつもりですか?」

 

 奴隷の男性が問います。その問いによみこさんは先程と同じ笑みを浮かべ言います。

 

 

「外でひとつ踊りを披露しようと思いまして」

 

 

 ちょっと外まで買い物にと言う様に軽くよみこさんは言います。

 それを聞いた宿舎の人たちは考えました。もしかして踊ると言っておきながら、外の魔王軍を追っ払ってくれるのではないのかと。そういう期待をして彼女に言います。

 

「な…なら、お願いしようかな。でも危なくなったら戻ってきてくださいよ。そしたら私たちは降伏しに行くので」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。今回の私の踊りの相手は魔王軍ですから。」

 

 よみこさんの踊り相手を聞いた全員が期待します。彼女は本当にあの数の魔王軍を相手に戦おうとしいるのだと。

 

「それでは行ってきますね。ちゃんと見ていてくださいよ」

 

 よみこさんが再度宿舎の扉に手をかけます。しかしドアを開けきる前に王子が問いかけます。

 

「あ…あんたの名前はなんて言うんだ?」

 

「私?私の名前はよみこよ。村で着物織りをして生活しているしがない女よ。漢字で書くと黄泉路に送る女子と書いて黄泉子。あなた漢字はわかる?」

 

 そう言い残しよみこさんは外に出ます。

 魔王軍が展開している部隊の中央へと歩き始めます。

 奴隷の人たちと王子、子供達はよみこさんを見ます。一体魔王軍と踊るとはどう言う事なのかと疑問でいっぱいです。

 見ていると彼女の服装が変化していきます。

 それは、歩きながら彼女の着ている着物の袂の部分から、布がゆっくりと解け始めます。そしていつしか手から肩まで露出している状態です。それぞれの指につけている指輪からはその解かれたであろう着物の無数の糸が伸びて風に靡いて彼女は中央に到着します。

 

 

 

 

 

 

「隊長…ほんとに宿舎を壊すのですか?」

 

 魔王軍の一人が隊長と呼ばれる魔族に問う。

 

 捕虜として捕らえていた王子がこの街に潜伏していることを突き止め、魔王軍の大隊は王子がいると思われる宿舎を取り囲む。これで王子は逃げることはできないだろうと考えた部隊の指揮官はなぜこうなったのかを思い出す。

 

 そもそも人間一人に三千を越す兵を当てるのはいくらなんでもおかしい。しかし、この大隊は王子を捕らえる為だけに編成された部隊ではなかった。

 

 この部隊は、北の大陸にある魔族支配下の町や村を転々と移動し、その場所で諍いや問題などがあったら修復、改善し田畑などの手伝い、ガレキの撤去、逃げた奴隷の確保などを行っている部隊であった。

 活動をしているところに此度の大国の王子が逃げ出したの報を聞き、上司である常闇の王の情報網を使い王子が潜伏していると思われる街に来たのであった。

 

 展開する兵たちよりもすこし後ろにいるのはこの部隊の指揮官の集団。

 

 

「仕方ないことだ…ここで逃げられて、いらぬ戦乱を起こされては困るからな」

 

「でも、宿舎を破壊してもしも人間が死んだりしたら…」

 

「宿舎を破壊するのは最後の手段だ。奴隷の人間達はだれも傷つけてはならん!!」

 

「し…しかし…もしもというものが…」

 

「それでもダメなのだ。遺恨は我らの代で絶やさなくてはならん。それが魔王様の望みなのだから」

 

 隊長の魔族は言う。魔王様の望みのためにと。

 

 魔王はただ世界を混沌にするために戦争を行っているのではなかった。

 人間たちに奴隷とされている魔族のために戦争をしていた。奴隷を許さない国であってもいつかは欲が出る。それを未然に防ぐために魔王は戦争を引き起こした。

 

 魔族の支配下に人間をおけば、この世界から奴隷が消えると考えたのだ。

 

 そうして人間と魔族は戦争をし互いに多大な被害が出てしまうが、魔王は諦めない。大義のためだと割り切る。

 過去の遺恨を断ち切るために世界の人間の国々を支配するために必死なのだ。そうすれば世界が平和になると疑っていないのだ。

 しかし、魔族が支配する世界になったとしても魔族の下に人間が割り当てられるという事実だけは覆せない。ならばと人間を奴隷とし、生活と生命の安全を保証すればと魔王は考え実施した。そして北の大陸の人間に対して成功する。

 だが欲深き人間であるので、どこかで解放運動などでまた争いが起こるやもしれぬと考えた魔王は部下に街々の視察、調査を怠らせなかった。

 

 そして、今この街にいる彼らは魔王の意を汲みここにいる。

 我らが魔王様のご命令ならば憎き人間なれど手厚く保護するのである。

 

 魔王軍はそう言う面持ちで人間に接しているのだ。他の大陸の人間達とは違く、奴隷となった人間は傷つけない。それが彼らに課された事である。

 

「あちらが我らの問いかけに答えてくれましょうか…」

 

「わからぬ…せめて穏便に済ませたいものだ……ん?…んんん!!…あっあの女は!!」

 

「どうしましたか……ん、あれは?」

 

 隊長と部下が不意に声をあげる。この隊の隊長はすぐさまその存在を理解した様でカタカタと震え出す。

 

 それは宿舎から出てきた一人の人間であったからだ。女性だ。隊長以外の兵は一体誰だと言う事を考えていた。

 別に人間の奴隷の宿舎の中から出てくるのは人間であるのは当たり前なのだが、その女性の格好が可笑しいと魔王軍の兵達は感じた。

 

 見たことない生地の淡いピンクの布を羽織り、腰には真紅の布が巻かれている服装。

 髪は奴隷なのにとても綺麗で腰まで伸びており、この世界では珍しい黒髪。

 

 なによりもおかしいのが、その人間の羽織っている布の肩から腕にかけて本来は布があると思われている部分がなく素肌が露出している。足も胸元も隠しているのに肩から手までは露出している不思議な格好。

 

 そして極めつけに、その女性の全部の指についている指輪から伸びる無数の糸。一本がとんでもなく細く目視することが叶わないのに、その存在が認識できたのはそれが束になって風に靡いているからだ。

 とんでもない量の糸であることだけはわかった。

 

 まったく理解のしようがない格好の女性に魔王軍の兵たちは呆れ返った。

 この肩から手までを露出した女性は、その手から伸びた無数の糸で一曲踊ってくれるのかと冗談を言い始める兵士もいる始末。

 

 しかし魔王軍の隊長だけは違った。彼の顔は顔面蒼白で脂汗が滝の様に流れていて、脱水症状を引き起こす勢いであった。それを疑問に思った兵が問いただす。

 

「隊長どうしましたか?あの人間の女を知っているのですか?」

 

「…ス…鮮血音階スーサイダル・ブラスト

 

「え?……え!!ちょっと待ってください!!」

 

 魔族の隊長が言う。その畏怖の名を。そして部下の魔族も動揺する。その名を去年の悪夢から生き延びた上官から聞いていたからだ。

 

『ん?去年敗退した時の私の部隊の相手か?…思い出したくもないが…お前にも教えなくてはな。機密事項だから他の部下には漏らすなよ。

 いずれ出会うかもしれない災厄だ。俺たちの相手したのはたった一人の女だよ』

 

 部下の魔族は思い出していた…

 

『それも変な格好しててな、そいつが俺たちの前で踊りましょうって誘ってきたんだ。しかしその誘いに答えずに、俺たちはその女に魔法を放った。

 空を覆うくらいの量の魔法をな。しかし放った俺の部隊は壊滅した。そしてその女はただ踊っていたんだ。ただ一人でな』

 

 その異常な戦いぶりの話を…

 

『意味がわからないのもわかる。俺も理解していない。俺たちは耳を劈くほどの音の大量の魔法を浴びせた。しかしあの女はたた踊っているだけで俺たちを壊滅へと追いやった。その時の周りの惨状と爆音の中を踊り続ける女に恐怖した。

  それで俺はあの時戦った女に二つ名をつけて、報告書を魔王様に提出した。その名前なんだがな…――――』

 

 そして彼は思い出す。その二つ名を。

 

鮮血音階スーサイダル・ブラスト……実在したのですね」

 

 その言葉を口にした彼はカタカタと震え出す。周りの兵達は知らん顔だ。それもそのはず災厄の存在は、今年入隊した魔王軍の下の階級の者まで伝わっていないからだ。去年の戦いで九割の兵数を失ったから大量に兵を増強し、災厄の事を極秘にした。それが間違いであったことは誰も知らない。知らない者にとってはなんの変哲もない人間なのだから。

 

 冗談だと、どうせ面白話だろうと思っていた彼の目の前に実際に現れた災厄。話通りの不思議な格好をした女性。これがなにを意味するかを即座に理解する。

 

 全滅だ。

 しかし、こちらは三千を越える兵数。なんとかなるかもしれないと思った彼は彼女に攻撃をする様に隊長に言う。しかし隊長は恐怖のあまり口から泡を拭き気絶していた。

 

 これではこの部隊の指揮は自分に繰り下がると理解した彼は攻撃の合図を送ろうとする。しかし、彼は知らない。話してくれた上官の部隊が万をゆうに超える兵数だったことを。

 

 その時、件の女がこの部隊の丁度円中に来る地点に止まり、こちらに喋りかけてくる。

 

 

 

「ひとつ私の舞踊に付き合ってくれますか?」

 

 

 

 その言葉を皮切りに彼は合図を送る。

 ただ一人の人間に、三千を超える魔王軍から一斉攻撃。

 

 

 そして始まるパートナーを無視する舞踏会。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗…」

「すっげぇぇ…」

「ぱ…ぱねぇ…」

「お姉ちゃん、すごい!」

 

 子供たちが身を乗り出してよみこさんの踊りを見ています。みんなが興奮している面持ちです。

 彼女が手を振るい、指の先から振るわれる無数の糸に自ら触れたものは吹き飛ばされ意識をなくす。

 本数は軽く億を超えているだろうその糸は一本も切れることなくすべてを翻弄していく。

 魔王軍が放つ魔法を手を振るい、糸を伸ばし、すべてを魔法を放った場所へと威力を倍増させて返す。

 

 その光景はまるで彼女の踊りを魔王軍が演出を手伝っているようにすら思える光景だった。

 

 

 

「…これを…あの女性が一人で?」

 

 奴隷の人たちは目の前で起きている光景を理解できていなかった。脳の処理が追いつかないのだ。

 

 彼女はただ踊る。躍る。踴る。

 

 一人でただ踊っているだけ。彼女から攻撃は一切していなかった。兵が勝手に向かい、攻撃し吹き飛んでいる。彼女の踊りを邪魔するものをすべてなぎ払って行く。

 

 彼女の綺麗な黒髪は柔らかく靡いて、着物の丈から垣間見得る足は妙美であり、その顔は実に美しかった。誰もが彼女の舞踊に夢中である。

 無数の魔法を糸で反射し、魔王軍の兵たちを次々と気絶へと追いやっていった。なぜ気絶していると分かるのかというと血の匂いがしないのだ。肌が焼ける匂いもしない。彼女が糸で反射するときになにか糸に細工をしているのだろう。

 

 そして続く炸裂音と魔王軍の兵たちの叫び声。

 それさえも彼女の演目の演出のひとつなのだろう。そう思える程に彼女は美しかったのだ。奴隷の人達は考える。彼女は魔法が使えないと言っていたが嘘であると。彼女は人を魅了する魔法の使い手であった。

 

 まるで夢でも見ているのかと錯覚するほどの光景に一同は観客へと変わっていく。

 自ら死地に向かい、阿鼻叫喚の兵たちと優雅に踊る女性。まったく似つかわしくない二つの要因が観客たちを魅了する。

 演目の時間はすぐに終わる。

 夢はすぐに覚めるのだ。

 

 いつしかその場に音は響かなくなり、その場に立つのは一人の女性。

 

 踊り終わった彼女は汗もかいておらず、息も乱れていない。

 彼女はその場で宿舎の方を向き、両の手を下に下ろした際に振るわれる糸で土埃をすべて宙に散会させ、両の手を前で合わして一礼する。見ていた観客に向けるものであった。

 

 そして知らぬ間に宿舎の人たちは拍手をしていた。

 

 それは助けてもらったことへか、それともただ美しかった踊りに対するものへの拍手なのかわからない。

 しかし分からなくても良かったのだ。今彼らは、拍手をしながら演目を終えた彼女の笑みを浮かべたとても美しい顔を眺めているのだから。

 

 乱れて耳にかかった黒髪を撫でる。

 彼女が再度腕を振るうと無数の糸はゆっくりと指輪を通して着物へと姿を戻していく。

 それがカーテンコールとなり、演目が終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、すっごい綺麗だった!!まこちゃんの言ってたことの意味がわかったよ!」

 

 よみこさんが宿舎に戻るとすずちゃんが興奮した様子で話しかけます。

 すずちゃんはまこちゃんから彼女の戦い方がとても綺麗ということを聞いていてよく理解できていなかったようです。

 

「ありがとね。喜んでもらえてうれしいわ」

 

 よみこさんはそんなすずちゃんにお礼を言い、頭を撫でてあげる。

 

 そんな二人をただ見ることしかできない他の人たち。なんて話しかければいいのか言葉を迷っているようです。

 奴隷のおじさんがよみこさんに声をかけます。

 

「あ…ありがとうございます。まさか魔王軍の方々をまさかここまで…」

 

 それは感謝の言葉であるのかはわかりません。よみこさんは答えます。

 

「私はお礼として踊りを披露したまでですよ?魔王軍の人たちは勝手に倒れただけですよ」

 

 軽い口調で答えます。彼女にとっては魔王軍の攻撃など特に気にも止めない様なものだったのです。

 

「それじゃあ私たちは帰るとしますね。私の変装道具はそこの王子にあげちゃいましたし。それと外の魔王軍の人たちはみんなのびてるだけなので大丈夫です。そのうちにでも起き上がると思うので気にしないでいいですよ」

 

 そう言うとよみこさんはすずちゃんの手を取り、王子と奴隷の人たちに別れを言って帰ろうとします。

 ドアに手をかけた時にまた王子が言葉を問いかけ止めます。

 

「ま…待ってくれ!」

 

「…さっきから人が外に出ようとする時に声をかけないでもらえるかしら?」

 

「…すまなかった…」

 

 不機嫌そうに答えるよみこさんにヴァリー王子が答えます。こんな自分を助けてくれた事への謝罪の言葉でした。

 

「別に私はあなたの為にしたわけじゃないわよ。そこの人達にお礼をする為に踊っただけ。それにあなたに謝られるのはなんか釈然としないわ」

 

 あなたの為にじゃないとよみこさんは言います。その言葉を聞いた王子は彼女の顔をしっかりと見つめたまま言葉を変えて答えます。

 

「…ありがとう。これから頑張ってみる…」

 

「………」

 

 王子の言葉は謝罪ではなく感謝の言葉。ここまでしてくれた彼女へ送る言葉でした。さっきまでとは顔つきが変わっていると感じたよみこさんは笑顔を浮かべた顔を王子に向けて言います。

 

「……どういたしまして。これから大変だと思われますけど頑張ってくださいね、ヴァリー王子」

 

 彼女は王子に答えます。

 始めて彼女に名前を読んでもらった王子は顔を赤くして彼女から目をそらします。

 そらしている間に二人は宿舎から出て行ってしまいます。

 

 宿舎に残る人達はここで気づきます。

 畑がすべてだめになってしまったことを。

 

 

 

 

 

 

 二人は街の門まで来ました。

 

「お?さっきの姉ちゃんじゃ……ってあれ?姉ちゃん魔族じゃなかったのか?」

 

 声をかけるのは衛兵さん。よみこさんとすずちゃんがこの街で始めて出会った魔族です。

 

「いや……もう魔族とか関係ないだろ。めっちゃ別嬪さんじゃねぇか…」

 

 もう一人は追加で来た衛兵さん。ここから衛兵さんBとします。

 

「少し諸事情がありましてね、変装をさせていただいておりました。騙してしまってすいません」

 

「すいません」

 

 よみこさんとすずちゃんはペコリとお辞儀をして謝ります。よみこさんはすずちゃんの真似事をしているだけです。

 

「あ…あぁ、別に気にしちゃいねぇよ。気づかなかった俺が悪いし。」

「妹さんも……あと五年…いや三年待てば……?」

 

 衛兵さんは特に気にしてない様子です。衛兵さんBはすずちゃんを見て何かブツブツ言っています。

 

「そういえば街の中で激しい爆発音とか炸裂音が鳴り響いてたけど何かあったのか?」

「そういやうるさかったな。」

 

 衛兵さんの二人が、当事者の方に質問します。しかしその質問に答えたのはすずちゃんでした。

 

「お姉ちゃんと一緒にみんなで踊ってたんだよ!!」

 

 確かにそうなのですが答えになっていません。

 

「???……まぁ別にいっか。俺達には関係ないことだし」

「だな。踊って騒いでたのか。俺も混ざりたかったな」

 

 衛兵さん達はよく理解していない様ですが納得した様です。その舞踏会に参加しないで良かったと事は誰も知りません。

 

「それじゃあ私たちは帰るとしますね。失礼します」

「しつれいします」

 

 よみこさんとすずちゃんは軽く会釈してその場を去ります。二人は手を繋いで仲良く帰っていきました。そんな二人を見えなくなるまで眺める衛兵さん達。

 

「俺の言ったとおりだっただろ?」

 

「あぁ、やっぱり美人に魔族も人間も関係ないな。種族の違いなんて些細なものだと改めて実感できた」

 

「なんかすっげぇかっこいい事言ってるけど、それ意味履き違えてるぞ?」

 

「うるせぇ。それよりもあの二人はどこの街から来たんだ?この大陸の人間はほとんどが捕虜か奴隷だった筈だが…」

 

「別にどうでもいいだろ。美人さんなんだから」

 

「だな。別嬪さんだからな」

 

 衛兵さん達は二人が別の大陸から来た事なんて知りません。知っていても特に気にしないでこう言うでしょう。美人さんなら仕方ないと。

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 すずちゃんを背負って海を歩いているよみこさんが声をあげます。何かに気づいた様です。

 

「さくやに買う予定だったお土産忘れてたわ」

 

「お土産?お土産ならいっぱいあるよ!!」

 

 よみこさんにすずちゃんが言います。

 

「さくや姉ちゃんには帰ったらいっぱい今日の事をお話しようよ!」

 

「…そうね。一緒にお土産話をたくさんしてあげようね」

 

 クスッと笑ってよみこさんがすずちゃんに言います。

 

 そうして村に戻ったよみこさんとすずちゃんは村長の家とさくやさんの家に行きました。

 村長には社会科見学とよみこさんの踊りの事を身振り手振りで話しをするすずちゃん。

 

 よみこさんはさくやさんに錆鉄納戸色の着物を作れる事になったことを言い、すずちゃんと二人でとって来たから酒樽を倍の8個要求してさくやさんを泣かしました。

 

 そうしてよみこさんは、お目当ての酒を樽ごと飲み、すずちゃんは泣いているさくやさんに今日あった出来事を話す。そんな三人の声を聞いて村人達がわらわらと集まり出していつの間にか二人のお疲れ会と称して宴会が始まります。

 

 酔っ払ったよみこさんはその場で踊りだし、鈴ちゃんも一緒になって踊りました。そんな二人を見て村人達はほっこり顔です。

 

 踊っている二人は本当に仲良しで本当の姉妹の様でした。

 

 

 

 今日もこの村は平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーその後

 

 

 北の大陸の大国ウィードに突如として現れた魔族の男性が、魔族とだけではなく人間の奴隷と手を組み新たなウィード王国の設立を提唱します。その発言を聞いた魔王は二言目程度の問答をして、それを受理しました。

 

 北の大陸に始めてできた行政特区。

 

 その行政特区の名前はヨード公国。

 

 その初代の代表者はウィード王国の王子にそっくりだと言われていましたが、魔族だったので誰も気にしませんでした。

 

 人間の奴隷達も公国にいる場合は魔族と対等な関係を保ちます。そして、その公国は次第に世界にその存在を知らしめ、人間と魔族が仲良く住む国造りの足掛かりとなることはまた別の機会にお話します。

 

 ただ、その国にはひとつだけ問題がありました。その公国の代表者は着物を来た黒髪の女性をひたすら探していました。それに費やすお金がバカにならなかったので住んでいる人達が必死になって止めたそうです。

 

 そして代表者と始めてその人物に協力した者達しか知らないことでしたが、公国の名前に代表者の想い人の名前の文字が入っているのです。

 

 

 

 

 

 ひたすらに嘆くだけで歴史を繰り返そうとする王子と、その王子に悩まされる奴隷の人たちがいました。

 

 そんな人達が偶然出会ったのは仲良しの姉妹。

 

 それから王子達は嘆きを行動に変えて、頑張ったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 その日から北の大陸の人間と魔族の関係が変わり始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 めでたしめでたし

悪者はいない勧善懲悪に似た話にしました。

テーマは繰り返される歴史と変える者達です。


黄泉子さんの武器は某ゴミ処理係を参考にしました。

今後も少しづつ村人の戦闘能力を出そうと思います。


誤字脱字のご指摘、ご感想お待ちしております。

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