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姉妹にご注意②

よくある奴隷と違う設定にしました。

ゴリ押しですがご了承ください。

 

 魔王軍が支配した土地は魔族の植民地とされる。

 敗戦国の人間の人々は魔族の奴隷、捕虜として扱われている。

 

 この世界で奴隷とは、生きながらにして他者の所有物として扱われるモノを表す言葉である。持ち主の命令を聞き、仕事などをさせていた。

 この世界で捕虜とは、敗戦国での権力などを持つものたちが拘束された状態の人を表す言葉である。この捕虜にされた者は利用価値があると言われ、奴隷とは違い身の安全などは確実に守られた。

 捕虜になったものは利用価値があるという理由で隔離されながらも日々の生活を送っていたが、奴隷にされた者はそうならなかった。

 

 

 奴隷という言葉はあったがまだ概念が理解されていなかった時代、まだ人と魔族が争ってない時代があった。

 人と魔族はお互いに持ちつ持たれつの関係を持っていてお互いの生活圏内に少なからずいた。

 

 

 この世界で始めて国が奴隷を認めたのは北の大陸にある人間の国であった。その国は小さく辺境にあったため魔族が何かをしても防ぐ手立てがなかった。その国の人間は自国にいる魔族を戦力とし国の発展に貢献させるため、自分たちで管理することでその脅威から身を守るために国の支配の元においた。

 その時はまだ国お抱えの召使いと言う意味を含んでいた。そうして魔族を扱い、その小さな国は豊かに発展した。

 

 それを真似した人間がいけなかった。

 その豊かになった国を羨ましがり、自分の国でも魔族を奴隷にした。力を封じる首輪をつけさせて無理やりに仕事を強要し、自由を許さなかった。力を封じられた魔族たちはひどい扱いをされていた。

 だが残酷な事に、その国は奴隷によって豊かになってしまった。

 

 それをまた羨ましがる国が現れる。

 それを真似した国はどのように奴隷を扱ったかを知り、実行する。そして発展する。

 それをまたと芋蔓の様に魔族の力を欲する国々が現れる。

 

 

 そして世界に奴隷と言う概念が生まれた。

 

 

 その人間達の行いに激怒した当時の各部族の魔族の王達。

 魔族の王達の頂点に君臨する当時の魔王は人間との衝突を好まず、奴隷制度を撤廃しようと軍を動かそうとした。

 しかし、魔王が動く前に他の魔族の王達が行動を起こしてしまった。人間を大量に捕らえ奴隷とし自由を奪ってしまったのだ。人間と言う種族に怒りを感じていた王達は人間達よりも更にひどく奴隷を行使した。倒れようと関係なしに働かせ、多数の人間を亡き者にしてしまったのだ。

 

 そのことを知った人間側は魔族を国ごと奴隷にするために戦争をしかけた。

 そして魔族も人間の国ごと奴隷にするためにに戦争をしかけた。

 

 最初は協力を求めて国で管理しただけであったのが、いつの間にか人間と魔族の戦争となったのだ。

 

 そして現在も世界で起きている戦争によっての勝敗が奴隷を決めるものになってしまった。

 禍根はお互いに残り、もう取り返しがつかない状態へとなっている。

 世界の大半の魔族と人間互いがその種族自体を忌み嫌う世界になっていた。

 

 

 

 

 だが、現在の魔王はこの奴隷の扱いを一新させた。

 自分に何よりも協力してくれる三人の王と龍皇の協力を得て、奴隷に対する扱いを劇的に変えた。魔王の支配する国の決まりごとに以下の項目を追加する。

 

 一 奴隷に対する悪質な仕事、要求を強いることを禁じる

 二 奴隷となる者は魔王の名において、生命と生活を保護する。何びとも犯してはいけない。

 三 奴隷の譲渡、売買を禁止し国の管理のもとに置く。

 四 捕虜と奴隷を同一視する事を禁ずる。

 五 上記四項を守らぬものを魔王の名において罰する。

 

 本来であったら今の魔王は奴隷制度の撤廃を行おうとしたのだが、遥か昔から続いている奴隷制度。自分の親族、大切な隣人を取られた者たちが容易に認めてくれるはずもない。人間では、同じ種族内でも奴隷にされているものがいる始末。そんな事をしている人間を奴隷から解放してしまったら、また攻めて来るのではないかと思っているのもある。

 

 魔王自身が考えられる程度の奴隷への対応を改善した。

 やはり魔族の中で反論するものたちも現れたが三王と龍皇の説得により渋々了承させる。現在の人間の奴隷たちは、日々魔族が支配する発展途上の国で無理のない程度に仕事をし、国でお抱えの召使として過ごしていた。

 

 捕虜になった者たちは何も変わらずに少し質素ではあるが、奴隷になった者よりも優雅な生活をしていた。いつ自分が利用されるのか、いつ奴隷の身に落とされるのかと恐怖しながら。

 

 魔王はそんな事をする気もないのであったが、人間の権力者たちは知らない。強大な力を持つ魔王の考えなどをしる由もない。

 

 捕虜になった者の一人は奴隷たちを率いて魔族に反乱を起こし、人間の威光を取り戻そうと動き出した。それが、北の大陸にある大国ウィードの王子であった。彼の父にしてウィード国の王は自分の身を呈して魔王軍の刃に事切れる。最後に王は、王子に国を頼むと口にした。しかし王子はその後に魔王軍に捕まり捕虜としての生活を送っていた。彼は国を取り戻すために街にいる奴隷の力を借りる事で国を取り戻す計画をたて、そして決行する。

 

 彼は腹痛を訴え、医療室に連行される時に空いた扉から脱走を試みた。そして、それが成功する。

 

 王子はひたすらに街を目指して、街にいる奴隷に扮した。

 彼は街の奴隷となった人間たちに街を取り戻そうと言いながら協力を得ようとする。

 

 しかし、奴隷となった者達は王子に協力を申し出なかった。今の生活でも十分将来に未来が持てるからだと。王子がそんなことを知ることなどつゆ知らずであった。

 街にいる人間を説得できなかった王子は次の街に、次の街にと転々に訪れていった。

 時には奴隷の管理をしている魔族に正体がばれるときもあったが、王子はなんとか逃げ延び生活をしていた。その生活は魔王が改善した奴隷と違く、一昔前の奴隷のような生活であった。

 

 王子が暗躍していることを知った魔王軍は、王子を捕える為に軍を動かした。大軍はやりすぎる事であったが捕虜になった大国の王子を捕えるには、それほどの大義名分があった。一国の王族が奴隷に争いごとの相談をしているのだ。見過ごせるわけがない。

 

 そうして王子は北の大陸にある、とある街に潜伏しながら奴隷たちに協力を得るために今日も動き出そうとする。この街に魔王軍が来ることを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お弁当美味しかったね」

 

「そうね。さすがはるかと言ったところかしらね。冷めても美味しいおかずがたくさんあったわね」

 

 よみこさんとすずちゃんは街にある公園でお弁当を食べ終えたところでした。お弁当の中はベヒモスの肉を使った料理などが入っていて、ふたり仲良く食べました。食休みの間によみこさんは錆鉄御納戸色の原料になる植物をしっかりと採取していました。その植物はすずちゃんの肩から掛けているポーチに入れてもらっています。

 

 よみこさんは本来の目的をすずちゃんに問います。

 

「…これからすずちゃんに見て欲しいところがあるの」

 

「ん?どこ?面白いところがいいな」

 

「……面白くはないけど知らなくちゃいけない事よ。戦争の傷跡をね」

 

「???…なんか少し怖いかも…」

 

 よみこさんはすずちゃんにこの街の人間たちを見せようとしています。なぜなら少しではあるがすずちゃんも奴隷となっていた時があったからです。自分が奴隷になったらどの様な扱いをされるのかを知らせなくてはいけなかったのです。いつか酷い扱いを受けいる奴隷を見て取り乱さないようにと。

 

 今の魔王が人間を魔族の下に新しく割り当てるために戦争をしていることを知っているよみこさんは、魔族が奴隷にしている人間であるなら酷い扱いをされていないことも知っていた。

 村長ももちろん知っていることであったので、すずちゃんに今回の社会科見学を願い出たのだ。悲惨な光景よりもマシであったからです。

 

「これからすずちゃんと一緒にこの街に住んでいる人たちを見に行くのよ」

 

「住んでいる人なら見てきたけど…?」

 

「この街は元々人間の住んでいた街なのよ」

 

「っ!!」

 

 すずちゃんが気づきます。人間が住んでいる街であったのなら、この街にいる人間はどうなっているのかなど想像していなかったのです。考えたくなかったすずちゃんでしたが、自分が想像している言葉をいいます。

 

「…奴隷さん?」

 

「…そうよ。この街の人間は、魔族の奴隷になっているのよ」

 

「………見たくない。」

 

「知らなくちゃだめなのよ。もしかしたらすずちゃんも奴隷となっていたかもしれないんだから…」

 

 残酷な言葉をよみこさんはいいます。自分たちの平和な生活の裏にあるモノの存在を知らなくてはいけないと。すずちゃんは元気を失くし、耳がペタンとたれてしまう。よみこさんも心の中で村長に憎しみの念を送っています。なんで私なのよと、こういうのは村長やいぶき姉がするべきだと。

 

 二人は先程と同じように手をつないで歩きます。向かう先は街の裏側。人間が住んでいる宿舎です。

 街の離れにあり、宿舎のまわりには畑などがあるだけです。見晴らしのいいその場所はまるで街から隔離されていると錯覚させるような佇まいです。

 

「…お姉ちゃん。私怖いよ…」

 

「大丈夫よ。多分だけどすずちゃんの想像している様な生活をしていないわよ」

 

 すずちゃんは村の授業で奴隷のことを少しだけ左京さんから教わっていました。昔の奴隷は無理やり働かされて、死と隣り合わせの様な生活を強いられていたと、魔族側の奴隷は改善されているが奴隷は未だに世界にたくさんいると。

 そういうことを聞いて村の子供たちの中ですずちゃんだけは怯えました。自分も奴隷になって連れてかれそうになっていっていたからだ。他の子供たちはすずちゃんが村に来る前に社会科見学で学んでいたことでしたが、すずちゃんの怯え方は尋常ではありませんでした。

 

 その時のことを思い出してしまい、すずちゃんの足取りはどんどん重くなっていきます。いくらよみこさんが隣にいても、怖いものは怖いのです。それは暴力や死などによる恐怖ではなく、ただ知ることについて恐怖しているのです。

 ここですずちゃんはよみこさんの自分に言った言葉の意味を理解しました。

 

『今まで感じた事ない気持ちになるかもしれないけどしっかり学ぶのよ』

 

 今まで感じたことない感情に悩まされるすずちゃんの手をよみこさんはしっかり握り歩幅を合わせてあげます。これはすずちゃんが自分で見て、知り、判断しなくてはいけません。顔と耳を下に向けたまま歩くすずちゃんの耳に子供たちの声が聞こえてきました。

 

「…あれ?」

 

 二人のいる場所は奴隷の宿舎から少し離れた場所です。そこから宿舎のある場所はしっかりと見えます。すずちゃんは自分が見ている光景にびっくりしました。

 

「…知ることの怖さがわかったかしら?」

 

 よみこさんがすずちゃんに問いかけます。とても優しい声です。

 知ることと知らされる事は違います。知らされるとは他人から聞いて学ぶことです。知ることとは自分で知らなくてはいけなく、とても勇気がいることなのです。そのことをすずちゃんは知ります。

 

「うん。お姉ちゃん、ちゃんとわかったよ」

 

 すずちゃんは見ます。宿舎の畑近くで笑顔で走っている子供達とそれを見守る大人たちを。自分が想像していた奴隷の光景とまったく違うことで先ほどの恐怖が嘘の様に消えたのを感じました。

 

「今の魔王が奴隷の生活を変えてくれたの。魔族の奴隷になった人間の人たちは、それで笑顔を取り戻したのよ」

 

「…そうだったんだ。私何も知らなかった。知らないのにただ怖がってた」

 

「これから学んでいけばいいことよ。それがわかっただけで上出来よ」

 

 よみこさんは言います。自分がしっかりと目で見て学んで感じることの意味がわかったならもう大丈夫と。

 

「これで今日の社会科見学はおしまいよ。ちゃんと今日の事を村長に教えてあげるのよ」

 

「うん!」

 

 すずちゃんの顔に笑顔が戻ります。よみこさんは安心しました。これですずちゃんが欝ぎ込んでしまったら村にいる連中になにを言われるかわかったものではなかったからです。特に村の男どもです。

 そういうやり取りをしている二人に奴隷の子供たちが近づいてきました。どうやら挨拶に来たようです。

 

「魔族様、こんにちは。」

「こんにちは」「こんちゃす」

 

 奴隷の子供たちは魔族の支配下のもとにいるので、魔族に敬意を表します。すずちゃんより少し年が上の子達で、女の子一人と男の子二人です。若干ふてぶてしい子供がいますがご愛嬌です。

 

「こ…こんにちは。」

「こんにちは。元気に遊んでいるわね。お仕事は終わったの?」

 

 二人も子供たちに挨拶を返します。二人は実際に魔族ではないのであるのだが、いらぬ混乱を起こすので黙ったままにします。

 

「はい。午前中のお仕事は畑に種を植える仕事だったのですぐに終わりました」

「簡単でした」

「まじ楽勝っすよ」

 

 しっかりと仕事を終えたのであれば自由時間が与えられるので特に問題もありません。相変わらずふてぶてしい子供がいますが気にしません。そうすると、この子達を見ていた大人たちがこの場に近づいてきます。

 

「どうも、魔族様。こんな宿舎と畑しかない場所に何か御用で?」

 

 大人たちの一人が二人に問いかけます。

 

「私の妹にあなたたちの事を知ってもらおうと思いまして。生活が改善していることなどを知らないので」

 

「そうだったんですか。我々のようなものに対してありがとうございます。

 おや?お連れのお子様はハーフでいらっしゃいますか?」

 

 よみこさんの答えに奴隷の大人のひとりが感謝を述べます。そしてすずちゃんを見て、衛兵さんが言った言葉をもう一度問いかけました。

 

「お姉ちゃん、ハーフって何?」

 

 すずちゃんが質問します。

 

「ハーフについて知りたい?もしかしたら怖いことかもしれないわよ?」

 

「私もう知ることを怖がらないよ。だから大丈夫だもん!」

 

 よみこさんの知ることの怖さへの問いにすずちゃんが大丈夫と言います。この社会科見学で、すずちゃんはまた一歩大人に近づいた様です。

 

「ハーフってのはね、魔族と人間の混血児の事を言うの」

 

「こんけつじ…??」

 

「すずちゃんのご先祖様は魔族と人間の間に生まれたってことよ。だからすずちゃんにも魔族と人間の血が流れているのよ。その可愛いお耳がその証拠ね。」

 

 ハーフの説明をするよみこさんがすずちゃんを生んだ父親と母親のどちらかが魔族だったかもしれないと言わないのはすずちゃんを捨てた親の事を喋りたくなかったからです。

 

「…私は人間でも魔族でもないの?」

 

 すずちゃんが落ち込んでしまいました。混血と言う事はどちらの血も流れる中途半端な存在なんじゃないのかと思っている様です。

 

「差し出がましいですが、魔族のお嬢様。ハーフということは人間でもあり、魔族でもあるということです」

 

「…どっちでもいいの?」

 

「そうです。人間と魔族の本来相容れない間に生まれたハーフは、人間と魔族の希望の架け橋なのです。人間と魔族の間に生まれたハーフの方は我々奴隷の身になった者たちが、心より敬意を払わすでしょう。それが望まれぬ生まれなどで有ったとしてもお嬢様はハーフである事を誇ってください。

 それが奴隷となった我々の希望になります」

 

 奴隷の人は言います。どんな形で生まれてきたとしてもあなたは自分を乏してはいけない、奴隷として連れてかれて愛のない間柄に生まれたとしても、人間と魔族が相容れることができるという存在そのもののハーフは奴隷の身に落ちた者にとっては将来の架け橋になると考えているのです。

 

 他国ではハーフを穢れた者とする場所もあるが、そんなことを伝えるのは場違いです。目の前で自分のことを疑問に苛まれている少女がいるのだ。助けなくてどうする。

 

 難しい言葉で言われてよく理解できていないすずちゃんであったが、言葉の端々に感じる熱意を受けたのは理解できた。すずちゃんは自分の生まれ出をしり、その事を乏したりしないことに決めます。

 

「とても可愛いので羨ましいです」

「将来が楽しみですね」

「ぱねぇっす」

 

 奴隷の子供達もすずちゃんに励ましの言葉を送ります。ふてぶてしい子供の言っている意味はもはや理解できない言葉です。

 

「では我々はお暇させていただきますね」

 

「お時間をお取りしまして申し訳ありませんでした。我々もあと数刻したら街に出てガレキの撤去作業がありますので、お下がりしたいと思います。」

 

「おじさん、色々とありがとうございました。お仕事頑張ってください!!」

 

「これは…奴隷の私などにお礼などもったいないお言葉です。」

 

「お礼を言うのにそんなの関係ないよ。お姉ちゃん、そうだよね?」

 

 村で学んだ事をちゃんと実践するすずちゃん。誰であろうと助けてもらったり、教えてもらったらちゃんとお礼をするようにと言われているのです。

 

「そうよ。ちゃんとお礼ができたわね。偉いわよ。」

 

「…えへへ。お姉ちゃんもお礼しなくちゃだめだよ。代わりにおじさんが教えてくれたんだから!」

 

「そうね。あとでお礼をするわ」

 

 頭を撫でてあげるよみこさん。そんな光景を人たちは笑顔で見ていました。

 

 そんな光景で静かになった場所に宿舎から聞こえる怒鳴り声が響きます。

 

「…これは喧嘩かしら?」

 

「…!!!いや、これは…そう!奴隷同士の喧嘩なので気にしないでください!!」

「そ…そうです!魔族様は関係のないことです!!」「大丈夫です!」

 

 奴隷たちが一斉に騒ぎ出します。どうやら何かを必死で隠しているようです。

 

「…気になるわね。すずちゃん、すこし寄り道しましょうか?」

 

「お姉ちゃんがしたいっていうならいいよ」

 

 二人は周りの人たちの説得を無視して宿舎へと向かいます。それは単なる興味からか、すずちゃんにハーフの事をちゃんと説明したお礼に喧嘩をなだめてあげようと思ったかのどちらかでしょう。

 奴隷の人たちは皆顔を青くしたままそんな二人の後を歩きます。人間の奴隷が魔族に手をあげたら大変なことになるからです。

 よみこさんとすずちゃんは宿舎にある窓がすこし空いているのに気づいて中の様子を伺います。

 

 中には何人もの奴隷の人がいます。どうやら一人の奴隷が他の奴隷に怒鳴り散らしているだけのようです。

 

「だからなんで分からない!このままでは私たち北の大陸の人間はダメになってしまうのだぞ!」

「で…でも、王子様。我々は今の生活に満足していますので…」

「その満足している気持ちは魔王が欺瞞させられていることをなぜ理解できない!

 今こそ人間が手を取り合って魔族をこの大陸から追い出さなくてはならないのだ!」

 

 どうやら王子と呼ばれている人物が奴隷の人たちを決起させようとしているようです。そんなやり取りをよみこさんとすずちゃんは静かに見ています。すずちゃんは現状が理解できていないようでボーっと見ています。

 

「確かに奴隷となった身を恨んだことはあります。でも、われわれ人間も魔族を奴隷にしていました。その事実は変わりません。なのに魔族の王はそんな人間を許し、この様な平和な生活を送らせてくれていますので…」

「それは魔王の策略だ!なにが平和な生活だ!現に魔王軍は他大陸に戦争をしかけているではないか!!そして人間を奴隷としていってこの世界を魔族の世界にしようとしているのだぞ!!」

「で…でも、それは人間も同じ事をしていて…」

「人間と魔族を一緒にするな!!私はあんなのと一緒にされたくはない!!」

 

 王子と呼ばれる人と奴隷たちは言い合っています。協力を要請するように言っていますが奴隷の人たちの反応はよくありません。協力したくないようです。

 

「なぜわからないのだ!他の街の連中も!私はウィード王国のヴァリー王子であるのだぞ!」

 

 自分をウィード王国の王子というヴァリー王子は一人憤慨をしています。他の街でも奴隷たちに協力を頼んでいたようです。

 

「お前たちは奴隷になって人間の尊厳を失ってしまったのだな。私は悲しい。だからこうやって尊厳を取り戻すためにお前たちに協力を求めているのに…なぜ答えてくれない」

 

 そして王子と奴隷たちは静かになります。王子は奴隷たちに失望してしまったようです。もうこの人たちは奴隷の身を甘んじていると、そう思っているのでしょう。

 そんなやり取りをただ黙って見ていたすずちゃんとよみこさん。

 

「……聞いちゃいられないわね」

 

「…お姉ちゃん?」

 

 よみこさんが呟き、窓から離れて宿舎の入口のドアに手をかけます。

 部屋に入るよみこさんとすずちゃん、そして先ほど二人と話していた奴隷の人たちも一緒です。

 宿舎の中はとても綺麗に整頓されていて、目立つ汚れ等はありません。入口から入ると話し合いの広場のように広いスペースがあり、その先にある廊下から各自の部屋に分かれているようです。

 入口から入ってすぐの広い場所に沢山の人が狭そうに座っていました。その人たちの向こうに王子がうなだれた様子で一人立っています。

 

 宿舎に入ってきた王子はよみこさんを見るなり叫びます。

 

「な…!魔族がなぜ奴隷の宿舎なんかに来る!?まさか私を連れ戻しに来たな!!」

 

 王子は怒鳴ります。王子はどこかに幽閉されており、そこから逃げてきてこの大陸の街に隠れながら赴き奴隷たちに協力を要請していたようです。

 

「別にあなたの身柄をどうこうするつもりはないわよ」

 

 よみこさんは王子のことなど知ったこっちゃなかったので興味がないようです。しかしその顔には不満を隠せない様子です。そんなよみこさんを見た他の奴隷の人たちは一斉に立ち上がり壁の方へと交代します。今二人の間にはだれも立っていません。

 

「ただね、あなたの考えに反吐が出ただけよ」

 

「なっ!私の考えを馬鹿にするか!!魔族の癖に!!」

 

「魔族だろうと人間だろうとあなたの考えには誰も賛同しないわよ。現にこの場にいる人たちはあなたに呆れてしまってしょうがない状態じゃない。」

 

 ヴァリー王子によみこさんは指摘します。あなたの考えはとても愚かなことであると。

 

「魔族などに理解されたくはない!みんなもそうであろう?」

 

 ヴァリー王子の発言に誰も賛同しない。みんな下を向いたまま沈黙する。

 

「…なんで魔族を追い出そうとするの?」

 

 すずちゃんが質問します。その質問は幼いながらも的を得ていて王子の魔族に対する考えを求める言葉であった。王子はそんなすずちゃんを見て、不満を口にする。

 

「なんでだと?それは魔族が人間を奴隷にするからだ。奴らはいつかわれわれ人間を無下にするはずだ」

 

 王子は今の魔王が政策する人間の奴隷を一切信用していないようです。

 その回答を聞いていたすずちゃんをヴァリー王子は何か気づいたようで口にしてしまう。

 

「ん?お前はハーフか?…ふん!汚らわしい!魔族に人間の血を混ぜるなど我らが崇める天使を冒涜するこうぃ…うぉっ!…ぐぅうっ!!!」

 

 王子はすずちゃんに最後まで言えませんでした。正確には言うことを中断せざるを得なかったのです。

 王子の足がなにか見えないものに引っ張られるように天井まで持ち上がり、背中を床に叩きつけられたからです。叩きつけられた王子は肺の空気を全て吐き出した様子であまりの痛さと苦しさから床の上を転げ回りました。

 

 奴隷の人たちは、今の王子の身に起きたことが理解できていませんでした。

 いきなり部屋に入ってきた魔族の綺麗な女性と子供、その二人と言い争う王子。ここまでは理解できた。

 しかし、王子が魔族の少女をハーフと言い乏しめた発言をすると同時に魔族の女性が右手の人差し指を上下させる。

 その女性の動きに合わせて王子が天井に叩きつけたれ、床に背中から落ちたのです。

 

 奴隷たちは瞬時に考え出しました。彼女が無詠唱で魔法を唱えたのだと。

 

 この世界で魔法は詠唱が必須である。しかし熟練の魔法使い、魔道士などは詠唱を省略して戦闘効率を上げると言われています。しかし無詠唱など聞いたことがない。目の前にいる魔族の女性が名だたる大魔導師だと奴隷たちは理解した。

 

 

 

「…別に私をなんて言おうと構わないけど、この子を乏しめる言葉を言うなら容赦しないわよ。

 それにね、あんたの崇拝するへなちょこ天使達なんて関係ないのよ」

 

 よみこさんは怒りを言葉に表しています。王子は彼女の怒髪天を衝いたようです。

 のたうち回る王子に近づくよみこさん。

 

「あなたに言わなくちゃいけないことがあるわ」

 

 そう言うとよみこさんは苦しむ王子の髪を無理矢理に掴み、自分の顔の前に近づけます。

 王子は未だに呼吸が満足にできていないようで言葉が途切れとぎれにしかでません。

 

「あなたはただ嘆いてるだけよ。私を助けてぇ、助けてぇってね」

 

「…ち…ちが…」

 

「そうやって助けを求めた相手にまた戦争を強いるのか?」

 

 よみこさんは静かに怒りを込めて王子に問います。いままでのよみこさんから絶対出ない口調です。それほどまでに彼女は王子に怒っているようです。そんな変わりようをした姿を見たすずちゃんも驚愕しています。

 

「ここにいる人たちはもうあんな思いをしたくないからここで生活をしている。

 あんたが魔族を憎もうが知ったこっちゃないけどね、この子に自信を持たせてくれた人の想いを壊す様なら私が許さない。」

 

 よみこさんが怒っているのは、すずちゃんに酷い事を言った事だけではありません。

 戦争で疲弊し、奴隷の身に落ちたが魔王のおかげで普通に生活を送れるようになった者たちを無理に戦わせようとしていることに対してです。

 

「さっきも言ったけどね、あんたは嘆いているだけ。それだけ。」

 

「ち…違う!俺は皆を先導して…それで……それ…で…」

 

 また争いを繰り返す、と王子は答えを見つけてしまいました。

 王子は必死になって今の国の現状を変えようとしていたが、それは戦争をすることと同じことだったのです。ヴァリー王子はその事について理解してしまいました。

 ヴァリー王子の狼狽を見たよみこさんは王子の髪を放します。

 

「…あなたは争いでしか変えようとしないで、ただ嘆いている馬鹿よ」

 

 よみこさんの口調が戻ります。そして王子に辛辣な言葉を投げかけます。

 周りの奴隷もすずちゃんもそんな二人をただ眺めています。

 

「で…では私はどうすれば国を取り戻せる!?父が私に託した国を!!」

 

 王子は涙ながらに訴えかけます。死した父が託した国を魔王軍に支配され、自分は捕虜として生活するだけの日々。これで争いを起こさずにどう変えていけばいいのかをよみこさんに問います。

 

「そうなの私が知るわけないじゃない」

 

 知らないの一言で切り捨てるよみこさん。これは彼がなんとかして答えを導き出さなくてはいけない問題なのです。

 

 

「私が言えることはただ一言」

 

 

 今も嘆いている王子に向け真剣な顔をするよみこさんは言います。

 

「現状を嘆くだけなら誰でもできるわ。

 その嘆きを行動に変えられる人が現状を変えることができるの。あなたはどちらの人かしらね」

 

 そう言い終わるとよみこさんは王子に笑みを浮かべます。

 行動を起こしたものだけが何かを変えられる。歩みを止めて泣く者にはなにも変えることができないと王子に言います。

 王子はそのよみこさんの言葉を心の中で繰り返し考え、そして立ち上がります。

 

「わ…私は後者だ!!私は争わずにして国を取り戻してみせる!!魔族も下卑しない!!」

 

 王子は声高らかに言います。奴隷たちを争いのために使わないで、魔族に支配されたウィード王国を取り戻すと宣言します。

 

「…わかったなら行動に移しなさい。あなたはさっき私に連れ戻すとか言ってたわね?もしかして追われてるんじゃないの?」

 

「ああ…捕虜として捕まっていたので…そこから逃げてきたのだ」

 

 王子は自分が逃げてきたこと、逃亡しながら街を転々と回っていたと説明します。時には魔王軍に追われることもあって、なんとかその身を躱しながら過ごしてきたことを説明する。

 その説明はよみこさんだけではなく、すずちゃんや奴隷の人たちも聞いています。

 

 

 

「私は…本当に変われるのだろうか…まだどこかで魔族を憎んでいるのだ…」

 

 先ほど高らかに宣言しときながらなにを言うのか…とよみこさんが注意しようとした時に、横に居たすずちゃんが王子に言います。

 

「大丈夫だよ。私でも皆と仲良くなれたんだよ。王子様だけにできない事なんてないよ!!」

 

 どこまでも純粋な心、酷い生い立ちを持つすずちゃんのその言葉は王子の心に再度響きます。

 こんな小さな子に心配されるとは王子として恥ずかしいと考える。

 

「そうだな…私にもできると思えばできるな。これから頑張ってみるか…」

 

 王子が静かに決意を表します。その目はやる気に満ちていました。

 

「…王子様。微力ながら奴隷の身になった我々にもなにかできることはないでしょうか?」

「そうです!私たちも争わないのであるなら助力致します!!」「魔族と対等に関係を持てる国にしましょう!」「ともに頑張りましょう!!」「まじぱねぇっす。尊敬するわ」

 

 奴隷の人たちも王子に賛同をすると言い始めます。彼らもやはり国を取り戻したかったのです。しかし、ここまでの生活を与えてくれた魔族と争う気持ちを持てなかっただけだったのです。相変わらずふてぶてしい子供がいます。

 

「ありがとう。どうかこんな私に力を貸してくれ…」

 

 王子が奴隷に頭を下げます。今は支配されていますが大国ウィードの王子が街に住んでいた民に頭を下げるのです。彼の決意の表れをよみこさんとすずちゃんはしっかりと見ました。奴隷たちは言葉ひとつで了承します。一緒に頑張りましょうと。

 

 奴隷の宿舎に熱気が広がり出します。彼らは本気です。本気で人間と魔族が争わないで国を取り戻そうと躍起になっています。

 

 

 そんな彼らは外から響く魔族の声で静かになります。

 

 

 

『ウィード王子に告げる。即刻その身柄を我らに差し出せ。さもなければ宿舎を破壊する』

 

 

 

 外から響く魔法で増幅された魔族の声。外を窓から覗くと宿舎の周りにある畑の先に魔王軍が展開しています。その数は三千程にのぼるでしょう。彼らの熱気が嘘のように瞬時に冷めます。せっかく王子と共に頑張ろうとした矢先の事態には誰もが落胆しました。

 

 周りを囲まれて逃げることは困難を極めています。魔王の決めた法があるので魔王軍も命までは奪わないだろうが、何か罰を受けるのではないかと奴隷たちに不安が広がります。

 

 王子も落胆します。せっかく自分の答えを見つけることができたのに、スタートラインにやっと立てたのにここで捕まってしまってはなにも変えずに、また嘆きながら捕虜の生活をするのかと思います。

 

 すずちゃんは初めて見る魔王軍の光景に目を輝かせながら奴隷の子供達と一緒にワイワイ騒いでいます。とても自由です。

 

 

 そんな中、よみこさんは先ほどすずちゃんにハーフのことを説明してくれた男性に近づきます。

 

「あぁ…魔族様ならすぐに宿舎から出れば大丈夫でしょう。私に何か?」

 

 その男性によみこさんは胸の前で指を組み、顔を傾げ言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はまだお礼をしていませんでしたね?」

 

 それは天使の言葉か悪魔の囁きでもない。

 それは天使も悪魔も恐れる災厄(むらびと)の申し出であった。

 

 

 

 


魔王の考えは今後の話で出します。

王子がヘタレなのはご了承ください。


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