姉妹にご注意①
自分の解釈で戦争について書きました。
分割話です
晴れた空の下。カジュの村。
「んーよみこ。これとこれの組み合わせはどうかな?」
「その組み合わせだったら、こっちの色のが映えるでしょ?」
さくやさんとよみこさんが二人で着物の試着をしています。よみこさんの新しく作った着物です。この村では、みんな様々な服を着ています。着物を着たり、シャツやらジャージだったり、ジーパンだったりと色々です。服などにうるさい右京さんとえみちゃんのせいかもしれません。もっぱらさくやさんとよみこさんは好んで着物を着ています。
「あ!だったらあの色ないかな?あの濃い緑に濃い青を混ぜたような変な名前の色!」
「錆鉄御納戸色のこと?だったら申し訳ないんだけど、染料がないのよね…」
錆鉄御納戸色は、納戸部屋の入口に使われていた垂れ幕の色として有名です。藍染の一種とされています。
「あの色がとってもこれに似合うと思うんだけどなぁ…欲しいなぁ…」
さくやさんが物欲しそうによみこさんに言います。どうやらどうしてもその色でないといけない様です。
「さくや、あの色が出せる染料の元の植物は魔王軍に支配されてる場所にあるんだけど…」
「そこを何とか!次の祭りで着たいのよ!もしお願いを聞いてくれたら酒樽4個渡すから!」
「任された。すぐに行ってくる」
間を置かずにさくやさんのお願いを聞くよみこさん。
かなりの酒好きなので大抵のお願いことは酒樽を渡すといえば叶えてくれるのです。
「ありがと!って今すぐいくの?」
「うん、すぐに行けばさくやから酒をすぐにもらえるものね」
「わかったわかった。よみこは、ほんとにお酒好きよね。血液までお酒なんじゃないの?」
「冗談はやめて。それじゃあ私は村長の所に行ってくるから。外出事を伝えないといけないからね」
この村に住む女性は村から外出する際に村長にひとこと言わなくてはいけないのです。防犯対策ですね。もし帰りが遅いと村長自らが例え火の中水の中だろうと連れ帰りに来ます。
「行ってらっしゃい。お土産だったら甘いの願いね」
「さくやは図々しいにもほどがあるわね。少しは節制しないとまた太るぞ」
捨て台詞を言ってよみこさんが村長の家に向かいました。よみこさんが出た家からは、さくやさんがなにか怒鳴っているようで騒いでいる音が聞こえます。
村は小さいので歩いてすぐに村長の家につきます。
「あっ!よみこお姉ちゃん!」
村長の家の扉を開けると、すずちゃんが出迎えてくれました。すっかりこの村に慣れたようで、とても人懐っこい子になりました。
「おお、よみこか。また村の外まで原料採取か?」
村長がよみこさんの姿を見つけた瞬間に彼女の目的を言い当てます。
「そうなんだけど、今回は魔王軍が支配してる場所までいかないと取れないんだ。だから少し遅くなるかもしれん」
魔王軍の支配する場所は人間にとってはとても危険なのです。だから無闇に近づくことは絶対によくないと人間たちには知られています。
「うむ、別にそれは許可してもいいが…ひとつお願いを聞いてくれんかの?」
「村長がお願い?無茶なお願いはごめんだよ」
「すずに社会科見学をさせてやってくれんか?」
村長がよみこさんにすずちゃんに社会科見学をさせてとお願いします。すずちゃんに魔王軍の占領地を見せてくれと言う事を村長はお願いして来た。
「…本気?すずちゃんは何も知らないのよ?」
「そこも含めてお主が説明してやってくれ。すずにも知っといてもらいたかったのでの」
どうやら村長は前からすずちゃんに今起きている人間と魔族の戦争のことと、その意味を理解してもらおうとしていたそうです。すずちゃん以外の子供達はもう学んでいます。
村長は、丁度と言うタイミングでよみこさんがそこに向かうということからお願いしたのです。
「…わかったわよ。あと現地で説明やらをしてあげればいいんでしょ」
「了承してくれるか、助かるわい。すず、ちょっとこっち来なさい」
村長がすずちゃんを呼びます。すずちゃんはトコトコと走ってきました。どうやらまだ縮地はできないようです。伊右衛門さんの指導のもと特訓中です。
「おじいさん、どうしたの?」
「今日はすずにこの間説明した外をみてきて欲しいのじゃよ。心配入らんぞ。よみこはこう見えて村の女子の中でもかなり強いから安心せい」
おじいさんはすずちゃんに確認を取ります。すずちゃんはこの村に来るまで孤児院と馬車から降りた周辺の土地しか見てないのです。一般教養などを教えてもらって覚えることはできますが実際に体験するとまた違った感じ方が多々あります。目で見て、肌で感じることで初めてわかることがあります。百聞は一見に如かずということです。
村長は事前に魔王軍の事をすずちゃんに話してました。魔王軍が人間にしている事をしっかりと知ってもらうためです。そして今日がその日だよとすずちゃんに言います。
すずちゃんは最初怖がりましたが、村の優しいお姉さんが付き添うと知り、安心した様で社会科見学に行くと言いました。
「よみこ姉ちゃん今日はよろしくお願いします。」
頭をぺこりと下げ、お願いをするすずちゃん。よみこさんはそんなすずちゃんの手を取り魔王軍が占領する場所へと笑顔で北の大陸へと向かいました。よみこさんはまだ水の上を歩けないすずちゃんを背にのせ海を歩いて渡り始めます。
今回はそんな二人の女の子のお話です。
北の大陸は魔王が支配する北の大地から一番近く、最も人間が被害にあっている大陸です。大陸にある国はほとんどが魔族に占領されています。その支配している土地は魔族の植民地として支配されています。
この世界で言われている植民地とは戦争などが起き、敗戦国の土地に自国の文化を導入させて国の属国とさせるものをいいます。人間たちを魔族たちと同じ教育を施さし着々と魔王様の考える世界を魔族の支配下にする野望に近づけていました。
「お姉ちゃん、私の耳隠さなくていいの?」
すずちゃんが自分の耳の事についてよみこさんに聞きます。今から向かう場所の人が自分の耳を見て化け物と言われるのかと不安な様です。
「安心しなさい。ほら、私の耳を見て」
「あ、お姉ちゃんに耳がある!」
よみこさんはさくやさんお手製変装道具のひとつの獣耳がついているカチューシャを頭につけています。
よみこさんの格好は綺麗な淡い桃色の着物を着ていて、彼女の両の手の指にはそれぞれ全部に綺麗な指輪がついています。そして長い黒髪の中に本当の耳を隠して、頭の天辺からは作り物の獣耳か生えています。
すずちゃんはよみこさんとお揃いのピンクのワンピースを着ています。首には村長が緊急の際に吹くようにと言われている笛が括りつけられている首飾りをつけています。
「これで私も怪しまれずに済むわね。すずちゃん、今から向かう場所だと人間の方が怪しまれちゃうの。だから気にしなくていいわ」
「そうなの?ちょっと不安だけどお姉ちゃんと一緒なら大丈夫だよね」
よみこさんの背に乗りお話をしながら目的地へと海を歩いて向かっていきます。すずちゃんは外の世界に興味しんしんで、よみこさんがいるので恐怖は感じていません。何故ならすずちゃんは村の子供達からこの村の大人たちの強さを聞いていたからです。
「すずちゃん!村の大人達まじ強いしおっかねえんだぜ!!こう空間を圧縮してバーン!ってして相手をいっぱい倒すんだ。それで一番おっかねえのは…いぶき姉だな…」
「すずちゃん!何があってもいぶき姉には逆らっちゃダメだよ。あの人ね、どんな人にも容赦しないから!!あの人のぐりぐりとっても痛いんだよ!!」
「もしも何か無茶な事させられちゃう事になったら優しいはるか姉ちゃんやよみこ姉ちゃん、他の大人たちを頼るのが一番だぞ!魔族の王様でも村の大人たちならワンパンだぜ!シュッシュッ!」
「…よみこ姉ちゃんの戦い方…とても綺麗…だよ」
村の大人達の強さは双子の兄妹しのぶちゃんとはやて君、そしてまこちゃんから聞いていました。村の人の強さが魔族などよりも強い事を教えていたしのぶちゃんとはやて君は、その話を偶然聞いていた一番恐れられているいぶきさんに拳骨両手で頭をぐりぐりされました。
「お姉ちゃん、人間と魔族の人たちはなんで戦争してるの?」
すずちゃんが疑問を投げかけます。
「んー難しい質問ね。戦争ってのはね、理由がたくさんあるのよ。お互いの主張のためだったり、食べ物のためだったり、住む場所のためだったりとたくさんよ」
「へぇーそんなに理由があるんだ」
すずちゃんが感心しています。身近に戦争と言うものがないのでどういうものであるか知りたかったようです。よみこさんはそんなすずちゃんにわかる様に戦争について教えてあげます。
「争っている人たちそれぞれがね、『自分は正しいんだ』と思っている事を相手に無理やり押し付け合っているの。自分の正しさをちゃんと相手に言えない同士が互いに喧嘩して、それが大きくなって戦争が起きると私は考えてるわ。」
戦争が起きる理由なんてただの意見の違いから来る小さな諍いから起きるのだと説明する。
「それじゃあ魔王軍の人たちは自分達のやりたい事のために戦争なんかしてるの?それが正しいと思ってるって事?やっぱり魔王軍って怖いね。魔族の人もそうなのかな?」
「……そうね。それは目でみて肌で感じて、すずちゃんが自分で確認することなのよ。そろそろ着くわね。私から離れちゃダメよ」
「うん!」
すずちゃんの返答に少し言葉が詰まるよみこさん。この社会科見学で理解する事がどれくらい影響を与えるのかについて少し不安を感じていたからみたいです。もう北の大陸にはあと少しで到着です。
「あれ?人間と魔族の人って戦争してるんじゃないの?」
大陸に上陸してみると戦争をしている様子がなくすずちゃんが不思議に思っています。
すずちゃんが想像する戦争とは人間と魔族の喧嘩だと思っているようです。
「他の場所みたいに魔王軍の基地がある場所だと争い事がいっぱいあるけど、ここはもう魔王軍が勝ったから戦う必要がないのよ」
勝敗がついてまで争う理由なんかありません。この北の大地は魔王軍が人間から勝利を勝ち取ったからです。あたりに戦争の血なまぐささが感じられない場所を選んだよみこさん。抜かりはありません。
他の大陸では今も大きな戦いが起きているのだが、その戦いは勇者ご一行が日々減らしています。
「すずちゃん。あなたに言っておきたい事があるわ」
「ん?何?」
よみこさんがすずちゃんに言います。これからいく魔王軍の支配する土地についてです。
「村長に言われていると思うけど、これからすずちゃんが、見て聞いて感じて学ぶ事は村のお勉強とは違うわよ。まぁ、この大陸ならそんなひどくないんだけどね。今まで感じた事ない気持ちになるかもしれないけどしっかり学ぶのよ」
「??…よくわからないけどわかった!」
二人はそれから近くの街に歩いて行きました。すずちゃんは見たことない土地を見た事で興奮した面持ちです。
そして魔王軍が支配する元は人間の街につきました。今では魔族が支配する街です。その街は戦争の際に建てられた壁で覆われていて大きな門が入口になっています。
一応戦時中との事で街の入り口で一人の魔族に二人は止められました。
「そこの二人。止まりなさい」
すずちゃんはよみこさんの後ろに隠れてしまいました。どうやら魔王軍の衛兵の人が怖い様です。衛兵さんは硬いウロコをまとい、ワニのような顔つきをしています。
「ん?ずいぶん若い魔族だな。何しにこの街にきた?」
「北の大地から観光に来たの。この子は生き別れてた妹よ」
二人は耳のおかげで魔族と勘違いされている様です。魔族は見た目で人間か魔族かを判断します。魔力などでは判断しません。本来であったら魔族に変装している人間を瞬時に判断できるのですが、そこはさくやさんお手製変装道具の獣耳カチューシャのおかげで何も問題はありません。
「わざわざ本国から来るなんて物好きだな。ん?妹さんはハーフかい?」
「ハーフ?」
門兵さんがすずちゃんを見て質問します。すずちゃんは自分がハーフと言われ不思議に思っています。
よみこさんはすずちゃんに聞かれない様に衛兵さんに近づき耳元で囁きます。
「声大きく言えないけど、魔族と人間の戦争で連れて行かれた母の子なの。この子はその事を知らないわ。だから黙っておいてください」
そう言うとよみこさんは衛兵さんから離れてすずちゃんのもとに戻りました。衛兵さんは急に近づかれたことで少し戸惑ってしまいました。よみこさんをとても綺麗な魔族と勘違いしているみたいです。美人さんに耳元で囁かれて戸惑ったりするのはどの種族でも同じ様です。
「わ…わかった。ずいぶん苦労してきたんだな。この街はまだ開発途中だから少し作業の音とかでうるさいが大丈夫か?」
「気にしないわ。それじゃあ街に入っていい?」
「お…おう。ゆっくりして行ってくれ」
衛兵さんが道を開けてくれます。
二人は無事に魔族の支配する街に入って行きました。
二人は街に入りました。
街には少しだけであるが戦争した際に壊れた家や建物が残っていました。それを片付けている音と生活の音が響きます。
その光景は人間の街と何ら変わりません。
街には兵だけじゃなく普通の魔族の人たちもいっぱいいます。どうやらこの街に来た兵のご家族の様です。他にもこの街に生活の拠点を変えている人もたくさん生活をしている。今後発展したら土地の値段が上がるから発展途中の街に移り住んでくるそうです。
「これが街なんだ!村の木の家と違うんだね!それに建物高いね!」
すずちゃんがそんな街並みを見てはしゃいでいます。初めて見る光景なので壊れている建物なんかも街の一部だと思っているようです。
「あまりはしゃぐと怪我するわよ。いい、すずちゃん。魔族の人を怖がっちゃダメよ。すずちゃんも魔族って事になってるんだからね。あとこの街にいる間、私とすずちゃんは姉妹って事にするからね。いい?」
「うん。わかった!さっきの魔族さんも魔王軍の兵隊さんみたいだったから怖いと思ったけど話してみると普通の人だったね。
でもお姉ちゃんの質問の意味がよくわからないや。お姉ちゃんはもともと私のお姉ちゃんでしょ?違うの?」
「そ…そうね!元からそうだったわね!」
すずちゃんに姉妹を偽装しようと言ったよみこさんはすずちゃんの予想外の返答に戸惑いました。すずちゃんの言葉に嬉しくなったよみこさんは口元に手を当て溢れでる笑みを隠します。すずちゃんにとって村の人たちは自分の大事な家族のようです。
「それにしても魔王軍がいる街なのに平和なんだね!みんな笑顔だよ!」
街の中にいる魔族達はお店でせっせと働き、ワイワイと騒いでいます。
「そうね、みんな笑顔だね。ほら、あそこにいる子を見て見なさい。全身毛むくじゃらでもみんなとああやって遊んでるのよ。」
みこさんが指差す方向では魔族の子供達が走り回っていました。翼の生えた子、角が生えた子、肌がゴツゴツした子、そして頭の先から足の先まで毛で覆われた毛玉のような子が仲良さそうに遊んでいます。
「ほんとだ。誰も気味悪がってない…」
その光景を見てすずちゃんが少し静かになります。自分よりも人間とかけ離れた姿をしている幼い子達が仲良く、周りから気味悪がられないで遊んでいる姿を見たからです。
その光景は村に来る前のすずちゃんが孤児院で毎日夢見た姿そのままだったのです。
「みんな違う姿でも仲良くできるのよ。」
「うん……村のみんなのおかげでわかってた事だけど…」
聞いて知るのと見て知るのは大きく違います。それを実際に経験したすずちゃん。
「この街の魔族さん達は村のみんなみたいに優しいんだね!驚いちゃったよ!」
すずちゃんはおくびれる事もない反応をします。よみこさんはいらん心配だったかと肩の力を抜きます。
「そうね。すずちゃん、ちゃんと見ると新しく見えてくることもあるでしょ?今見た事は理解できた?」
「うん!私魔族って怖いと思ってたけど違うんだね!」
すずちゃんは大きな声でよみこさんに話します。よみこさんは内心周りに怪しまれないか冷や冷やです。自分たちが他の大陸から人間だと知られると面倒くさいからです。
「それじゃあ街を歩いてはるかが作ってくれたお弁当食べられる場所探そうね」
「うん!」
二人は手を繋いで魔王軍が支配する街を笑顔で練り歩き始めました。歩くたびにゆれる四つの耳。作り物の耳と本物の耳。二人の姿は本当の姉妹のようでした。
二人が街を探索している間も先ほどの衛兵さんは交代の人が来るまでお仕事です。
「それにしてもさっきの姉ちゃん綺麗だったなぁ…」
どうやらよみこさんの事を想っている様です。彼は先ほど顔を近づけてもらった時の彼女の顔、声、匂いなどが脳内を埋め尽くしている様でした。
「それにいい匂いだった…げへへ」
笑い方はとてもお下品です。
「おい。何笑ってんだよ。気持ち悪りぃな」
「お!交代の時間か?」
衛兵さんと交代するために別の魔族の兵隊さんが来ます。
「そうだけどよぉ。お前なんで笑ってたんだ?なんか変なもんでも食べたか?」
交代にきた魔族の人が質問します。
「それがな。めちゃくちゃ綺麗な姉ちゃんが妹さん連れてさっき街に来たんだよ。妹さんの方は可愛かったな」
「へー眼福させてもらった人の事を思い出して笑ってたわけな。気色悪りぃ!」
「うるせぇな。そういや見たことない格好してたな」
「ん?どんな格好だったんだ?」
「本国から来たってのにおかしな格好だったぜ。見たことない生地のピンクの服を一枚羽織っただけみたいな格好しててさ。なんか腰を赤い布でこうキュッと巻いててよぉ。普通上下で別の服着るだろ?それにワンピースやらじゃなくて裾も丈も長くてさ。手まですっぽり隠れてたんだよ。あと魔族では珍しい黒髪だったな。いやぁ、いい匂いだった。髪が揺れるたびに鼻をヒクヒクさせて必死に嗅いだよ。今日まで門の警備しててよかったわ!」
熱烈に説明する衛兵さん。
「へぇーなんか災厄とそっくりな格好してるな」
衛兵さんに答える交代しに来た衛兵さん。
「災厄?」
「お前も俺と一緒でずっとこの街の門を守っていたから関係なかったけどさ、去年の魔王軍の大敗しってるだろ?」
「あぁ。なんか人間達の国が全て協力して来て負けてきたっていう戦争のことだろ?」
衛兵さんは答えます。去年の大敗は人間と魔族の大戦争だったと、魔王軍はその時に大敗をしたと。
去年の戦いの後、魔王さまは魔王軍に箝口令をしきました。まさか30人程の人間に負けたと知られたら魔王軍の信用は落ちてしまうからです。魔族の他の人や戦争に関わっていないあまり階級の高くない兵にはあの村人たちのことが知らされていません。
「実はよ…どうやら魔王軍は人間の連合軍とは戦争してなかったらしいんだよ。どっかのひとつの国と戦って負けたって話なんだよな」
「嘘だろ?だってあの時九割ほどの兵がやられたんだぜ!?普通撤退する場合全体の三割がやられたら撤退するのが相場だろ。それを人間たちが執拗に攻めてきたから九割の多大な被害を受けたって俺たち言われたじゃねぇか」
戦争の際に戦闘を行っている兵たちが全体の三割を超えたら全面撤退をすることは魔王軍の軍機に書いてあることだったのです。もうひとりの衛兵さんがいいます。
「俺も城のお偉いさんたちの話しを横耳にしか聞いてないから詳しくは分からねぇけど、その戦った国の人間はこの世の者とは思えない無類の強さを誇ってたらしいんだよ。それでその国の連中を災厄と呼んでいるらしいんだよ」
衛兵さんに災厄の名の由来を教えてあげます。
衛兵さんは知りません。国に所属していない小さな村のことを。
「それでその国の戦っていた女の格好が今おまえのいった格好と同じことを言ってたんだよ。もしかしたらその綺麗な姉ちゃんも災厄の一人なのかもな!なんてな」
「人間は魔族を憎んでるんだから。そんな強い人間が来たらこの街なくなっちまうな。」
「そうだな。俺たち魔族にも人間を憎んでいる奴はいっぱいいるがいつか昔の本とかに書かれているような仲のいい関係に戻りたいぜ」
「俺もそう思う。人間の作る飯うめぇんだよな。あとセンスがいい!」
二人の衛兵さんがそれぞれ思っていることを口にします。
魔族と人間がいつか昔の言い伝えのように手を取り合って仲良く過ごせる時がくればと。
「あ!お前に報告するの忘れてたわ」
「ん?午後の警備の話か?」
「いや。結構前にこの大陸の人間の大国の王子が逃げたって話しってるだろ?その王子を探すため今日この街に本国の大軍が来るんだってよ」
「あーあの話か。でもなんで大軍で来るんだ?」
「知らね。上の考えはわからねぇ。だから街の人たちはいつも以上に頑張ってんだよ」
「だから今日はこんなに街の中が騒がしいのか。まぁ俺たちには関係ないな」
「だな」
今日の午後に街に魔王軍の大軍が来ることを説明するもうひとりの衛兵さん。でも二人は今日もこの街の門を守るためのお仕事をするだけなので関係ないようです。
「あと俺はお前の交代要員じゃなくておまえの仕事の手伝いに来たってわけ。二人で門の警備だってよ」
「まじでか…まぁいいけど」
魔王軍が街に来るので街の入口の警備を増やすそうです。
「それよりもさっきお前が話してた綺麗な魔族の姉ちゃんの話聞かせろよ?こう身体のラインとかよ」
警備の仕事なんて常に暇との戦いです。二人は仲良くお話をしながら街の外からの魔族を待つようです。
「いいぜぇ…こうよ、引き締められた感じじゃないのに淫靡な雰囲気を醸し出しててよぉ…げへへ」
「ほう……たまらんな…うへへ。」
「それでなんと言っても匂いがよぉ…―――」
二人の衛兵さんの笑い方は大変お下品です。
街にいる笑顔のよみこさん、天真爛漫のすずちゃん、お下品な衛兵さん達はそれぞれ楽しく過ごしています。
しかし、すずちゃんだけは知りません。戦争で負けた国の人がどうなっているのか。この街にいる人間がどうなっているのか。
そして、その中に衛兵さんたちの話に出る件の人物が紛れ込んでいることは誰も知りません。
戦争はどんな理由でも起きてはいけないものです。
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