天使の憂鬱
キャラを細かく設定できる作者様はすごいと思います。
日刊ランキング50位以内に入れました。
読者様には多大なる感謝の気持ちでいっぱいです。
遥か昔より悪魔たちに対抗する種族がいた。悪魔たちが広げようとする戦乱の種を潰すため日夜戦い、古来より人間たちから信仰されている種族がいた。
天使である。
彼らはこの世界を別次元の地から見守り世界の平和のため、そして世界の均衡のため頑張っていた。
天界に座する天使たちは今日も頑張っています。
天使には位がある。そんな天使の位の中でも最高位の位を大天使と言う。そんな大天使の名を持つ四人の天使が神のいる天界の会議場に集まっています。
天使の軍を指揮する大天使ミカエル、神の言葉を伝える大天使ガブリエル
人々に癒しを与える大天使ラファエル、人々に神罰を与える大天使ウリエル
そしてそんな大天使たちを生み出したとされ、天使達の頂点に君臨する神様。
今回のお話はそんな天使さんたちのお話。
「えっと、それでここ最近になって急速に増えていく神力の理由についてラファエルから説明してもらおうか?」
今回の会議の議題にされている事についてラファエルさんに説明をお願いするのはミカエルさん。
「それがですね…どうやら例の村人を、我ら天使と勘違いしているアルカディア国にすむ人間たち全てが毎日これでもかというくらいお祈りをしていまして……結果、半端ない神力が毎日あつまっています」
天使の力の源とされているのは人々の信仰心。そしてその信仰心の事を神力と言います。それは天使たちの生活に必要なものである。本来は微々たるものであり、通常であったら勇者への信仰を通して分けてもらうぐらいのものであった。最近では勇者だけでなく、とある一般人の戦士からも通してもらえているらしい。
「まじか…あの村人たちと私たち同じと思われてるのか…」
「いやいや、なんで俺たちとあいつら同格なの?」
「そもそも、あの村人たちが私たちと同格だと思われているのを知ったら、ここに文句言いに来ませんかね?」
「「「ありえる…」」」
大天使の三人が各々発言する。その発言には陰を潜めているのが気になる部分です。
「神様、今回の神力についての騒動。どうお思いになりますか?」
「…ふむ、別に良いのではないか?こちらからは何もしてないのだ。勝手に人間たちが行った事、なんも問題はないであろう」
神様がミカエルさんに返答する。しっかりと的を得ていて説得力のあるお言葉です。
「そ…そうですよね!私たち天使は何もしてませんよね!」
「そうだ!まったくもって無関係だ!これであの村人が天界に文句言ってきてもちゃんと言い訳が出来る訳だ!!」
「うむ、そうである。あの村人達が来たら丁寧に今回の事を説明しお帰りになってもらおう」
「「「「はい!」」」」
神様と大天使さん達は極端にあの村との関わりを持たないようにしている。しかし関係を持たなければいけない理由も実は存在していた。そしてなぜ天使たちがここまであの村人を恐れているのかというと理由は一つ、完膚なきまでに叩きのめされたからである。
「それにしてもあの村のおかげで神力がここまで増えるとは…」
「本当に…あの村のことを知ってからは驚きの連続ですね…」
「そうね…私たち天使があの戦いから毎日をしっかりと生きるように始めたんでしたっけ?」
神様と天使たちが皆遠い目をして去年のことを語りだす。
話は時を遡る…
「か…神様!この世界の地中に含まれる異常な魔力の原因が判明いたしました!」
「なに?!誠であるか!!」
「えぇ!原因がわかったのか?!」
「すごいじゃない!さすがガブちゃん!!」
「まじか、お前よく数世紀頑張ったな…」
当時、天界では地上で発生している謎の地中に含まれる魔力の増加について調査していた。ここ数世紀かけての調査の結果、ガブリエルさんが突き止めたのであった。ちなみにガブちゃんと呼ぶのは同じ大天使のラファエルさん。
「それで…その原因なのですが…」
ガブリエルさんが答えにくそうにその原因を言おうとする。
「む?どうしたのだ?何をあらたまっている?」
神様とほかの大天使たちが、なにをそんなにいい渋っているのだろうかとガブリエルさんをみつめる。
「それが…どうやら世界樹の植林のせいだったようです…」
「「「…へ?」」」
変な声が喉から出る神様と大天使達、一同ガブリエルさんの言葉の意味がわかっていなかった。
世界樹という樹が地上には存在している。世界の中心に存在すると言われ、その葉は死したものを蘇らせ、その雫は万病に効き、瞬時に身体の疲れを癒すとされ、その樹になる実を食べると超越的な生命力を付与されると言われ、その根は地上、天界、地獄など多次元、多元宇宙にまである世界を支えていると言われる伝説の樹。
そんな世界樹が植林されていると聞けば誰でも耳を疑う。
「え…ちょっ…おま…」
「神様落ち着いてください!これはちゃんとした調査結果の元判明したことなのです!」
壊れた神様に対して落ち着きを取り戻させようとするガブリエルさん。
「いやいや、ガブリエル。流石に冗談きついぞ?世界樹と言ったら神様がこの世に顕現する際にその根を辿ったって言われる程の伝説級の代物だぞ?それを植林しているとか…ないわぁ…」
「そうですよ。そんな伝説級の存在を…植林するなんて世界の理を根本からぶっ壊してるわ!もしそれが本当なら許されないことよ!」
ウリエルさんとラファエルさんが信じられないことだとガブリエルさんに反論する。
「なら今回の調査結果した映像をご覧下さい…こちらになります…ちなみにリアルタイムで映像は映ります…」
そう言うとガブリエルさんは持っていた天使たちの手によって作られた撮影機の魔道具を起動する。
会議場に映し出される映像には、大地に広がる自然が映し出されていた。綺麗な海や川、そして小さな村でせっせと働く人間たち、その小さな村の後方に広がる緑いっぱいの森。
「のどかな光景ね。争いごとのない平和な村ね」
「うむ、実に平和であるな」
神様がやっと落ち着きを取り戻したようで、会議場に映し出された映像を見ていた。
「それでこの映像のどこに世界樹があるのだ?この映像には世界樹が見当たらないんだが…」
「…映像にしっかりと写っています…」
ガブリエルさんの言葉に一同戸惑う。
そう、彼らは森を見たときから嫌な予感がしていたのだ。
しかしそれを認めるわけにはいかなかった。それを認めたら先ほどの神様のように壊れてしまうと感じていたからだ。しかし話を聞かなくては、現実を直視しなくては先に進めない。そう感じたラファエルさんがガブリエルさんに聞く。
「…え?も…もしかして…あの森の事全てを言ってるの…?」
コクリと頷くガブリエルさん。村の後ろに広がる画面いっぱいの木々一本一本が世界樹と言うのだ。皆が驚愕し困惑した。
「は?あの森全てとか…まじ?」
未だガブリエルさんの言葉を理解できないウリエルさん。
「う…嘘よ…そんなことあってはいけないわよ…」
目を虚ろにして自分に語りかけるラファエルさん。
「え、冗談だったらもうやめてくれよ。私の心臓と胃が爆発四散する」
既に胃に手を当てるミカエルさん。
「あばばばばば」
そして壊れる神様。
世界樹がこれほど生えているということは本来あってはならないことである。その樹には全ての事象の理が詰まれている。それが多数ということは、それだけの数の本来、交わることがない別次元に存在する事象の理が詰まれていることであった。悪用されるようなことがあれば簡単に世界が崩壊する。そんな現実を認めることができなかった天使たちと神様。
「調査の結果、この村の人々が世界樹を独自の方法で植林して、これほどの規模になったそうです。そしてですね…なんと品種改良までしていて世界樹の大きさを普通の木々の大きさにしたり、色々な果実などを実らせていました…」
さらに驚愕の事実を告げるガブリエルさん。世界樹を品種改良するという発想。おそらくこの世に生きているものが考えることではなかった。
「そ…そのようなことが許されてたまるかぁぁあ!!」
「神を恐れぬ悪魔の所業!万死にあたいするぞ!!」
とうとうウリエルさんと神様が怒り爆発する。
「神様。今回の事態、どのように致しますか?」
「うむ、世界の理を根本から変えようとしている事態を見過ごすことはできん!あの村人たちも同じである。ガブリエルよ、あの者たちは世界樹のことをちゃんと理解しているのか?」
「えっと…ですね、どうやら普通の木々だと思っているようです。映像でもわかるように、今現在も村の木こりが世界樹を伐採していますし、何人かが葉を煎じて飲んでいます。」
「…世界樹の葉を煎じて飲むなんて…我ら大天使ですら味わったことないのに…」
映像に映っている村人たちの普段の生活ぶりを見て一同がどうしたらいいのかと悩んでいた。村の広場で遊ぶ子供たちを見て微笑む村人、縁側でお茶を飲んでお話する村人など。
神様がミカエルに命令を下す。
「…ミカエルよ。軍を率いてあの村の森を全て燃やして来るのだ」
「神様…それは!!」
「当然、あの村の人間たちもだ。世界樹の存在を少なからず肌で感じている人間達が、いつあの憎き悪魔どもに取り入られるか…見過ごせないのだ…」
「し…しかし、自ら進んで悪事を働いていないのですよ!こちらから忠告をすれば…」
「我ら天界に住む者の使命を忘れたか?」
「…っ!!」
天使はこの世界の平和と均衡を司り、平和と秩序をもたらす存在である。確かに人間に加担する天使達であったが、彼らは救わない。病を、飢えを、戦争を、小さな諍いすらも天使は救わない。それが世界の理であるかぎり天使たちは世界に介入しない。悪魔や世界の秩序を破る者が現れた時に一切の情けをかけずに粛清、裁かなければならない。それが使命であった。
今回の村人たちの行いはそれほどまでに常軌を逸していたのだ。
神の命令は絶対であり、使命を全うすることこそ天使の存在理由。しかし何の罪もない人間を裁くことは余りにもミカエルにとって耐えられないことであった。それほどまでに彼は優しかったのだ。
「ミカエル。あなただけに辛い思いはさせないわ。」
「そうだ。せめてあの村人たちを痛い思いをさせずに…な」
「みんなで弔ってあげましょう…」
ミカエルに他の大天使たちが軍に参加すると言い出す。
「すまない…私の志が弱いばかりに…」
「…大天使たちよ。明日、使命を全うして参れ…」
「「「「はい」」」」
そして次の日、ミカエル率いる天使の大軍勢が、小さな村へと進行を始めた。
せめてひと思いにと天使たちは皆そう思い、世界樹の森がある場所へと向かい、一斉に森と村の粛清を行おうとした。
それが悲劇の始まりだった。
「いやぁ、本当に情け無用で最初から本気出してれば村人たちに汗をかかせることができたんだけどなぁ…」
当時のことを思い出し、悔しがるのはウリエルさん。
「私もまさか人間が作り上げた兵器で身体を貫かれるとは思いませんでしたよ。死を覚悟しましたね、死にませんけど」
笑いながら自分の味わった45cmの鉛玉の事を語るのはラファエルさん。
「私も、天界が誇る歴戦の天使の兵達が次々に羽をもがれる事になるとは想像していなかったなぁ。もちろん私ももがれたんだけど」
自慢の大軍勢、自分自身も羽をもがれた事を語るのはミカエルさん。
「私は最初から嫌な予感してたんですよ…特にあの村の村長みたいな老人と太刀を振り回す女性…半端なかったです」
村の老人の強さを思い出し、プルプルと震えるのはガブリエルさん。
「確かにあの老人はやばかった。まさか素手で裁きの炎を受け止めて投げ返してくるんだもんな。あれは本当にやばかった」
「それに、多分村人達はあれで全員じゃなかったですもんね。私達の戦いを遠目に眺めて魚をとってる人や干物作ってる人とかいましたし。」
当時の村人達との戦いを思い出す大天使達。その戦いはあまりにも一方的であったのだ。
「それで最終的に村人達が怒って天界まで殴り込みに来たんだったな…」
「そうそう、あの太刀を得物にする女性が次元の壁を切り裂いて天界までの道を切り開いたんでしたね。」
「それでわしが村の代表者の老人に赦しを請うて何とかその場は治まったんだったな…」
村人達と天使の戦いは天使側の大敗北で終わった。その時の事を神様と大天使達は懐かしんでいた。
よく生き残れたと。
そして神様はその村にお願いをしたのであった。
「世界樹の事を教えて、悪用しない様にお願いしたんでしたっけ?」
「うむ、あの村人達の所に悪魔が来ても大丈夫であろうと思ってな。あと世界樹の葉じゃ」
あれほどの強さを誇る村人たちなら悪魔の大軍勢が来ても汗一つかかずに追い払うだろうと考えた神様は世界樹の管理を村人たちにお願いした。ついでに世界樹の葉をお願いしたところ快く承諾してくれたらしいです。
「あのお茶おいしいですもんね。疲れが吹っ飛びますからね」
お茶の味を覚えてしまったラファエルさんが嬉しそうに語る。それ程までに美味しいようです。
「逆にあの村に悪魔が行ってくれる事を願いますね。彼らなら瞬殺ですよ」
「確か、あの村に幽霊に擬態して近づく悪魔の兵が斧で瞬殺されてるんだっけ?」
「そうでしたね。こちらからお願いしてないのにどんどん狩ってくれるので天界としては大助かりですよ」
勝手に天使の敵、悪魔を葬ってくれる村人たちに感謝する天使の皆さん。仕事を丸投げです。
「ふむ、話がそれてしまったな…なんの話であったか?」
「えっと、近頃増えた神力の件についてで―――」
天界にある会議場で日夜、論議をする神様と大天使達は今日も頑張っています。
世界の秩序のため、憎き悪魔のため、そしてあの村人たちと取引する世界樹の葉のために。
今日も神様と大天使たちは頑張ります
―――――時は同じくカジュの村。
「おじいさん、この布団なんでこんなにフワフワなの?」
フワフワの布団に包まって疑問を投げかけているのはすずちゃん。
「その布団はな、天使の羽が詰まってるんじゃよ」
そんなすずちゃんの疑問に答えるのは村長のおじいさん。
「天使さんの羽って本当なの?私、天使さんなんて見たことないよ?」
「いずれ見ることができるぞ」
そういい村長はすずちゃんの頭を撫でる。
「ん…そっか、いつか会えるんだ…楽しみだなぁ、えへへ」
すずちゃんの顔は期待に胸を躍られる少女の顔でした。
今日もこの村は平和です。
この世界の神様は、国の王様の様な立ち位置です。
天使の事について調べたらたくさんの天使がいるみたいですね。厨二心をくすぐられました。
誤字脱字のご指摘、ご感想おまちしております。