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優しい理由

改変しました。


人間と魔族の亀裂についてです。

 カジュの村にはどの家よりも大きな家があります。しかし誰も住んでいません。その大きな家はこの村人たちが寄り合いをするために設置した会議室みたいな建物だからです。多目的な用途で使われます。

 

 

 本日は仁さんが伊右衛門さんの大豆で味噌と醤油、そして1番大事な米から作ったお酒の試食会、試飲会を寄合会場を借りて行っています。

 

 そんな日に魔王軍から使者の人がひとり来ました。顔を青くしてずいぶんお疲れだなと感じた村人達はすぐに外交を取るための部屋に案内しました。そのあとこの村1番他国に詳しい女性、りえさんが対応することになりました。

 

 

「うん!すっごい濃厚な白味噌だね!風味がすこし足りないけど…まぁ、合格かな。」

 

 味噌を直接舐めて味を確かめるのははるかさん。彼女の舌は誰よりも正確なのです。

 

 仁さんの魔法により早期熟成発酵をさせて作ったため那由他の一程度普通に時間をかけて作った味噌より風味が落ちてるそうです。

 

「うぇー、すごいしょっぱいよぉ…」

 

 醤油を直接舐めてしまったすずちゃん。最近この村の家族になった女の子です。

 

「実においしくできてます。流石伊右衛門さんです」

 

 米酒を樽ごと飲んでいるのはこの村1番の着物織りのよみこさん。酒豪です。

 

「俺だけじゃなくて太郎と与作、そして仁の手助けがなけりゃ作れなかった。特に仁の時空魔法がなければこんなに早く酒を熟成できなかったしな。」

 

「ほんと仁にはいろいろ助けられるな。俺も時空、空間魔法覚えときゃよかったなぁ」

 

「太郎さんと伊右衛門さんは魔法の練習怠ってましたからね。これは努力の賜物ですよ」

 

「「「くぅ、その余裕が羨ましい!!」」」

 

 

 

 

 

「…みんなぁ、力を貸して…」

 

「ん、どうした?なんかあったか?」

 

 魔王軍の使者の人とお話をするために部屋にはいったりえさんは30分も立たないうちに試飲しているみんなのところに戻ってきたのです。少し疲れた顔をしています。

 

「なんかね、とってもビクビクしてて何も話さないんですよ」

 

「は?何それ?」

 

「国の使者が何も喋らないなんて、理恵さん何かしたんじゃないですか?」

 

 太郎さんと仁さんがりえさんに聞きます。

 

「わ、私は本当に何も知りません!あっちが勝手にしょぼくれているだけです!もう!」

 

「おいおい、仁。りえもこう言ってるんだ。何かあったんじゃないか?」

 

「そうだな。何かこの村に来るまで大変なことがあったんだと思うぞ」

 

 与作さんと伊右衛門さんがりえさんと魔王軍の使者のフォローをします。

 

「それじゃあ、その使者がいる部屋にいこうぜ!みんなで話していれば自然に元気になるだろ!」

 

「あ、そうかも知れない!与作さんナイスアイデアです!」

 

 りえさんに褒められて与作さんは顔を赤くしています。

 

 試食、試飲会はその場で一旦中止して今いるみんなで魔王軍の使者のいる部屋に向かいました。

 

 村人達は知らないのです。魔王軍の使者の悩みの本元が自分たちだと言うことを。

 

 

 

 

 

 

(ちくしょう…なんで俺が使者なの?真面目にいつも魔王城の掃除してたよね?)

 

 カジュの村の待合室で一人震えているのは魔王城の清掃を担当する魔族の男性、フラータルさん。普段通りに城の窓を拭いていたところ吸血鬼の王に呼ばれ、離れたカジュの村へと一人で外交に赴いていた。

 

(なんで城の掃除当番からいきなり外交官になるんだ?どれだけ俺は出世したんだ?)

 

 魔王軍にもしっかりと他国と外交するための部署は存在していた。しかし、この村の外交を担当するものが次々と仕事を辞めると言い始めるので外交の際には幹部の方が城や街で見つけた魔族を適当に見繕うのであった。

 魔王城の清掃から幾つも役職を飛ばして外交官になった彼はそんなこと知らない。

 

(ちくしょう…恐怖のあまり唾液が出てこない…足が震えてくる)

 

 彼は去年の魔王軍の大敗の事を人伝で聞いていた。

 曰く、この世の悪夢が集約された戦争、生きた災厄たちの住む巣窟など、この村に対するイメージを聞いて彼は恐怖していた。

 

(うぅ…早く家に帰りたい…給料とか今のままでいいから普通に城の窓を拭いていたい…)

 

 彼は外交官を担当するなら今の10倍昇給するということを聞いてその場で任を承諾してしまった。その後、この村の事を聞いて激しく後悔することになったのではあるのだが。

 

 

「すいませーん。花を摘むのにお時間がかかってしまって…」

 

(き…きた!やべぇよ、こぇよ。)

 

 すこし照れ顔でりえさんが部屋に戻ってくる。彼女は部屋を出る時に花を摘みにいくといって出て行った。そしてそれから20分ほど立ってから戻ってきたのです。本当は違うとしてもこれはちょっと恥ずかしい。

 

「それで今日はなんのお話をしに来たんですか?また牛の話だったら前話した通りですな…」

 

 りえさんがベヒモスのことについて語る。

 ベヒモスは魔王城のある城下町では月の日付を知らせるのによい目印となって来ている。

 

(そのことじゃなくて、基地の破壊されたことへの賠償を…)

 

 フラータルさんはちゃんと今日来た理由を言おうとします。アルカディア国近くの山脈に設置した前線基地の賠償要求が本来の目的であったのです。

 しかし、唾液は枯れ果て、目は瞬き一つできず、足は震えて、緊張のあまり血行が悪くなり顔は青くと余命幾ばくかの状態へとわずか30程でなる。

 そんな状態でしゃべれるわけでもなく、彼はついに失神してしまう。

 

「あぁ!ちょっと!」

 

 フラータルさんは薄れゆく意識の中、自分を心配そうにする女性の顔を初めて見た。

 村に来てから恐怖のあまり村人の誰とも顔を合わせていなかったのだ。

 

 フラータルさんは意識を失いながら思いました。

 

(普通の女性じゃないか…………な…)

 

 そこまで思い、暗転する。

 

 

 

 

 

「…なんでこの人気絶するのよ…」

 

 りえさんは気絶する使者を見やりながら考えます。私なにか悪いことしたかなと。

 

「……」

 

 りえさんはそんなフラータルさんを見つめて何かを考えています。

 

 部屋の外で待機していた人たちもみんな困っています。

 

「なんであの使者気絶すんだよ…」

 

「疲れが限界に達したんじゃないでしょうか?外交と言うのはかなり気を使うと言います。舐められたら付け込まれてしまいますからね。」

 

 与作さん他多数の村人の疑問に仁さんが答えます。外交は国と国との対話と同じですからと。確かにそうであるのですがフラータルさんの気絶の理由はまったく違いました。それを知る術など村人にはわかりません。

 

「うーん、あの使者このままじゃ国に帰ってから怒られちゃうんじゃないか?」

 

「そうだな。太郎、なんかいい案ないか?」

 

 伊右衛門さんが太郎さんに聞きます。村の人たちにとって太郎さんはこう言う時に頼りになる存在なようです。

 

「うーん、疲れているならそれを労ってやらないか?って言っても…この間のすずちゃんの歓迎会と大宴会で酒やらたくさん飲んであまり残ってないけど……あ!」

 

「「伊右衛門の酒!!」」

 

 

 

 かくして宴の準備が始まった。

 

 決まるまで僅かな時間しかかからずに。

 

 

 

 

 

「うーん……ん?」

 

 フラータルさんが目を覚まします。どうやら彼は外にいるみたいです。

 日の光はもう辺りを照らしておらず、逆に夜の星の光が広がってくる時間帯でした。

 彼は自分の近くに誰かがいるのを感じた。どうやら何かを言いあっているようです。

 

 

「だから!何回も言ってるじゃないっすか!

 カレーにナスは邪道っす!」

 ナスは邪道と言うのはこの村1番のオシャレ、右京さん。

 

「まだそれを言うの!もうほんっとうに右京の考えが陳腐すぎるわ!

 カレーはやっぱり野菜カレーよ!」

 野菜カレーを愛するのはこの村1番手先が器用な女性、さくやさん

 

「違う!馬鈴薯、玉葱、南瓜がカレーに1番合うんだ!

 ナスは麻婆茄子が1番だろ!!」

 ナスは麻婆茄子だというのはこの村1番の医療技術を持つ左京さん。右京さんのお兄さんです。

 

「さすが兄貴っす!でも南瓜は勘弁してくださいっす!身崩れして味を損なうっす!」

 

「シーフードカレーが私は1番いいと思うんですが…

 誰も聞いてないですよね…」

 シーフードが…と呟いているのはこの村1番の牧草地を持つ女性、しぐれさん。

 

「しぐれ姉ちゃん、私たちが聞いてるよ?」

 

「……海の幸…美味しい」

 そんなしぐれさんに言葉をおくるのはすずちゃんと左京さんの娘でありすずちゃんと1番仲が良い女の子、まこちゃんです。

 

「おまえら、私の言うことが聞けないの?私は牛肉のカレーがいいって言ってんの」

 牛肉カレーを所望するのはこの村1番の姉御肌、いぶきさん。

 

「いぶきねぇでも今度の祭りで出すカレーだけは譲れねぇ!太郎、伊右衛門、サポートよろしく!」

 そう叫ぶのは与作さん。

 

 太郎さんと伊右衛門さんは仁さんと一緒に離れた場所でお酒を飲んでゲラゲラと笑い合い楽しんでいました。

 

「ほぉ、私に口答えか。成長したな、与作よ」

 

「与作兄さん…ドンマイっす」

「言っていいことと悪いことの区別もつかないのかしら…」「ざまぁ」

 

 言い争っていますが、村人達は楽しんでいます。

 

 フラータルさんの寝ている場所から少し離れた所にいる人たちが皆カレー談義に花を添えていた。燃えていた。

 

 話に参加していない村人がひとり、フラータルさんが意識を取り戻したことに気づいたようでフラータルさんの横に座る。

 

「体調はどうですか?」

 

 フラータルさんはそこで気づいた。隣に座った人物が先ほど失神する前に目の前にいた人物だと。

 

「大分お疲れのようでしたので部屋で寝ててもらったんですが、何人かの人がそろそろ起きるだろうと言ってこの場に転移させちゃったんですよ。」

 

 りえさんがフラータルさんに何故外で寝ているのかを話。

 

「あ…あの大変申し訳ありませんでした」

 

「…やっと目を見て喋ってくれましたね。」

 

 フラータルさんは自然とりえさんに謝っていた。そんなフラータルさんにりえさんは優しく答えました。

 

「あなたが気を失ったあとに私気づいちゃったんですよ。もしかしてこの人は私たちが怖くて倒れたのかと」

 

 ドキンっと音が胸に響く。

 

 …怒らせたらどうしよう

 

 フラータルさんの額に汗が滲む。

 

「まぁ、去年私たちの村が魔王軍にした事を聞いたんだったとしたらそういう反応になると思いますよ」

 

 りえさんは答えます。

 

「この村に住んでいる人はみんな優しい心の持ち主ばかりですよ。

 自分たちの敵になる者には容赦しないですけど、本来は争いごとが大嫌いですから。自分からは他の人を襲ったりしません」

 

 この村の人たちの誤解されている部分を訂正するりえさん。

 

 これでも彼女は村の外交官です。

 

 相手の挙動一つがすこしでも変わればどういう心境かを即座に理解する能力に長けていた。しかしフラータルさんは村に来た時から心ここに在らずという状態だったので判断の仕様がなかったのです。

 

 気絶する寸前のフラータルさんの心を読み取るまではわからなかったのです。彼が怯えていたことを。

 

「私たちは自分が思う大切な何かを守る事でしか力を振るいません。私の場合は代わり映えのない生活を変えるモノに対してですかね。それで、あっちにいるサングラスのーーー」

 

 りえさんはひとりで語る。フラータルさんは、彼女が静かにゆっくりとであるが村の人たちの誤解を解こうと必死に考えて喋っているのを理解した。それは今まで掃除して来て些細な埃であろうと見つけて来た観察眼からか、それとも初仕事での直感(ビギナーズラック)からかわかりません。

 

「あ…あなたは、や…優しいんですね…」

 

 なぜそんな言葉が出たかフラータルさんはわかりません。りえさんは驚いた顔をしたあとフラータルさんの言った言葉に対していいます。

 

 

「…私が優しくするのは優しい人にだけです」

 

 

 りえさんは言います。

 

「もしよければ貴方の名前を教えてもらえないですか?お互い使者さんとも呼べないので」

 

 フラータルさんはここで自分が名前すら言ってないということに気づきます。

 

「フ…フラータルと言います!そ…それで…この村が…その危ない…とか聞いて」

 

 緊張からか焦りからかフラータルさんは言葉足らずで自分の思いを説明しようとする。

 災厄の村と聞いていたので国に帰れるかで緊張していたと、極度の緊張で気絶したんじゃなくて根拠のない恐怖から気絶したと言おうとしたのだがうまく言えない。なんで大事な部分で極めれないのだと自分に怒りを感じていました。

 そんな拙い説明をりえさんはぶった切り自己紹介をしました。

 

「私の名前は、りえと言います。フラータルさん、お互い外交官としてお話する機会が多いと思いますが仲良くしましょうね」

 

 そう良いりえさんは握手をフラータルさんに求めます。フラータルさんはそのまま握手をしてこの村についての印象をひとり考えました。

 

 この村は本当に危険なのかと

 

 村は木でできた家しか見当たらず、基地や兵器、武器すらも見当たらない。

 村の中にいるのに血の匂いや火薬の匂いもしない。

 そして1番の問題の村人達は食事のことで言い争っているだけで、敵意も殺気、争う気配をなに一つ発していない。

 

 自分の故郷の村そのものじゃないかと拍子抜けしてしまいました。

 

 去年の戦いを実際見ていなかったからこそそう言うことを考えだせたのだ。

 

 でもフラータルさんは知っています。人間が魔族を憎んでいることを。戦争でたくさんの人間を傷つけている現状、人間と魔族は絶対に分かり合えないと知っているのです。

 

 ひとり考え込んでいると、りえさんが笑みを浮かべてフラータルさんに言います。

 

「たびの疲れで倒れたとみんなは思っていまして、それで細やかながらもフラータルさんを労う為の宴会をみんなで準備したんですよ。まぁ、もう初めてるんですけど」

 

 魔族の自分を労う為に宴会をするなど聞いたことのないフラータルさんは驚きました。

 

「あ!みんな!使者の人が起きたっす!ほら!」

 

 宴会会場にいる右京さんが気づいた様で他の村人に知らせます。

 

「おーい!こっちこっち!」

「早くこねぇと料理なくなるぞぉ!」

「家帰って予備の酒持ってくるか…」

 

 村人達はそれぞれ大きな声でフラータルさんを呼びます。

 

「早く行った方がいいですよ。これ以上酔うとフラータルさんを呼ぶ為に何をするかわからないので」

 

 どうすればいいのか判断に困っているフラータルさんをりえさんが急がせます。

 

「私は自分の家から追加の果物を持ってくるので先に行っててくださいね。もちろんフラータルさんにもあげますよ」

 

「あ…え…」

 

 フラータルさんは本当に困っています。困り続けています。魔族は人間が憎むべき相手であり自分は魔王軍の外交官。絶対に疎まれると思っていました。それなのにこの村人たちは自分のために宴会をするなんてと、魔族に優しくするなんてと思考がごちゃごちゃです。

 

「あ、夜は冷えますからね。これを羽織っておいてください」

 

 りえさんは自分の肩にかかっていたポンチョをフラータルさんにかけてあげます。人肌に温められたポンチョは寝起きのフラータルさんに温かさを与えます。

 

 意を決してフラータルさんが、りえさんに声大きく聞きます。

 

「あ…あの!魔族の私にこの村の人たちはなんでこんなに魔族を客人としてもてなすんですか?

 なぜりえさんはそこまで優しく接してくれるんですか?」

 

 疑問が疑問を呼ぶ状態に陥っているフラータルさんには、この村の人たちの考えが何一つわからなかった。目の前にいるりえさんの考えすらもわからなかった。

 

「うーん、みんなはただ何かにつけて祭と称して騒ぎたいだけですよ。それが誰であろうと関係ないです」

 

 

 りえさんは言います。

 

 

「私が優しくするのは優しい人にだけです」

 

 

 あなたが優しいからと。

 

 

 

 

 

 

 今日もこの村は平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー魔王城

 

 

 

 いつもの通りの玉座の間。

 

「あの村で…飲んで来ただと…」

 

「はい、どうやら本当の様です」

 

「それで無事なのか…?」

 

「はい。本人は未だ意識を取り戻しませんが、しっかりとあの村で酒を飲み、村人の衣類を持ち帰って来ています。こちらになります。」

 

 アルカードが魔王様にポンチョを渡す。

 

「…これはどう着るのだ?」

 

「私にもわかりません」

 

「…これは持って来て良いものなのか?」

 

「…わかりません」

 

「…あの爆発した基地については?」

 

「……わかりません」

 

「「…はぁ」」

 

 

 

 今日も魔王様は頑張っています。

 

 

 

 

 

 


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