やさしさきょあく
「というわけで、無事付き合うことになったので、二人にご報告させていただきます。」
都内の神宮院邸で三人はお茶を飲みながらくつろぎ合っていた。
「おー、取り敢えず一回死んでみたらいいと思います。というか一回殺したい。てかこのお茶苦くない?」
「そうですね、取り敢えず一度地獄に落ちてみるといいのではないですか。お茶は苦いものですから。」
「まぁいいか。というわけで、過半数を超えたから一回死んで地獄に落ちたらどうよ。」
花梨と紫子の罵倒を受けながらも平然と受け流しているのは新たな交際宣言をした陵 禊だった。
「勝手に言ってろ。なんていうかお前らは一回転生したほうが俺と椿の為になる気がする。」
「おーおー、『俺の椿』だってさぁ。声をかけることもできなかったチキンのくせに彼女になった瞬間、俺様キャラかよ。これだから最近の男は軟弱だって言われるんだよ。なぁ、ゆかり。」
「そうですねぇ。少なくとも『好きだ、好きだぁ。』と一ヶ月以上女々しく言っていた人とは思えませんね。とりあえずその女々しい姿をヒナさんにお見せするほうがよろしいかもしれませんねぇ。」
「勝手に言ってろ。用事がないなら俺はもう帰るからな。今日は椿とデートだからな。お前らに割く時間はない。お前らは精々仲良く慰め合っていればいいんだよ。それと絶対にあのことは言うなよ。」
禊は言いたいことだけ言って、紫子の部屋から出ていった。
敵の出ていったことを確認してから花梨は静かにため息を吐いた。
「いいんですか、ヒナさんを禊さんに譲ってしまって。」
紫子の馬鹿らしい一言に花梨は睨みつける。
「良くないに決まってるでしょ。禊のお願いだから聞いたんじゃないの。ヒナのお願いだから聞いたのよ。」
「お願いを聞いた、という割にはヒナさんを泣かせてしまったようですが。」
急所を突かれた花梨はそっぽを向きながら、弱々しく吐き出す。
「泣かせるつもりは無かったんだけどね。なんていうか、泣き出しそうなヒナが可愛くて、その可愛いヒナが禊の恋人になるのかって思うとちょっとムカついて、つい、ね。」
「そんなことだから欲しいものを手に入れることができないのですよ。本当に欲しいのであれば、必要な時を見定める。必要な手札を揃える。必要な時に必要な手札を使う。そして何よりも決して諦めないことですよ。」
紫子の言葉を聞いた花梨は戦慄する。
そして花梨が戦慄するよりも早く、制御を失った花梨の身体がベッドに沈んだ。
「心配しないでください。私は誰かのように奥手ではありませんし、私は誰かのように決心ができないわけでもありません。そして何より好きな人には優しくできますから、ね。」
花梨は生まれて初めて幼馴染の本当の笑顔を目の当たりにすることになった……
Fin.
以上で本編は終わりとなります。
明日のあとがきでは本編での伏線と登場人物の関係を説明させていただきます
興味のある方は自分の答えが合っていたか、答え合わせしてみてください




