まよいこねこ
「ヒナ!キスしちゃえ、キス!どうせ男なんて延髄で考えてる生き物だから、その気にさせてしまえばこっちのモノよ!イケメンでもフツメンでもブサメンでもね、男なんて女から精神年齢マイナス三才なんだから。透かしてるヤツほど子供なのよ、子供!以上!」
と、三園 花梨ちゃん。通称花梨ちゃん。
身長は一七〇ちょっとでモデル体系。ハニーブラウンの髪は産まれ付きらしい。
あととても後輩に慕われている。いろいろな意味で……。
一言で言い表すならば、私は迷いなく『竹みたいな人』と言う。
カラカラと笑い、『竹を割った』のような性格。
行動は感情的で『竹の中身』のような、と形容できる。
実家は薙刀の道場を開いていて師範代――師範代がなんなのかは知らない――に次ぐ強さらしい。
本人が言うには性格・行動は道場で養われたらしい。
薙刀ってコワイ……
「確かにそうですね。確かに下半身に脳がついていらっしゃる方ばかりですねぇ。カリンさんの言ったようにヒナさんが男の方をリードできるのなら、それが一番良いと思うのですが。ヒナさんは基本的にマグロですからね。いっそのことお酒でも頂いてみてはいかがですか。うふふ。」
と東宮院 紫子ちゃん。通称ゆかりちゃん。
身長は一五〇ジャスト。
新雪のように白い肌と漆のような黒髪という出で立ちで、校内でも大和撫子として有名。
ゆっくりとした話し方が癒し系。
でも不意にキワドイことや黒いことをいきなり言ってくるので、私の印象は掴みどころのない娘。
実家は有名な華道の本家らしく、去年の夏お泊りした時は思わず『様』を付けてしまうほどの豪邸だった。
そしてちなみに『ヒナ』って言うのはひよこの雛みたいだから、とのことでついた私のニックネーム。
それが二人を経由して家族にまで普及してしまい、非常に不満。
「そんなに積極的なら二人には今頃結果報告してるよ……。困っているからヘルプ出してるの!」
私は至極マジメに相談しているのに二人は対極的な笑い声を上げるだけだった。
ヒドい……
「ごめん、ごめん。だってヒナってカワイイからついつい、苛めちゃうんだよね。結論、ヒナが悪い。」
「確かにそうですねぇ。ヒナさんからは小動物的なオーラが漂っていますから。自業自得では?」
「なんでそうなるのよ!二人が私のこと苛めなかったら良いだけでしょ。」
私はまじめに怒っているのに二人は楽しそうに笑うだけでマジメに答えてくれない。
「ソレは無理。」
「ご冗談を。」
息の揃った二人を恨めしい気持ちで睨むけれど、二人は笑顔を返すだけで、私は追撃を諦めた。
嘆息が聞こえたのか、花梨ちゃんは破顔を引き締めて身を乗り出してきた。
「で、冗談はここまでにして、ヒナを誑かした不届きモノはドコのドイツ?嬲り殺してやるわ!」
嬲り殺すって……。
花梨ちゃんが言うと冗談に聞こえないよ……
「えっとね、透明感があって、フワッとしてて、優しそうで、綺麗な人かなぁ。」
「くっ。けほっ、けほっ……」
「だ、大丈夫!?これハンカチ。いきなりどうしたの?」
いきなり噎せた花梨ちゃんは苦しいからか、目尻に涙を溜めながら苦しんでいる。
それなのにどうしてだろう、笑ってるように見える……
「ありがと。そうじゃなくて私が聞きたいのは性格とか、ルックスとか、学校とかさ、そういう情報。ヒナが今言ったのは全部アンタの主観でしょ。もっと詳しい情報とかはないの?」
情報?
情報……。
情報……?
う~ん、あっ!
「電車通学。毎朝私と同じ電車に乗ってるよ!たまに帰りの電車でも一緒になるよ。」
「ヒナさ。」
「うん、なに?」
「それって相手からしたら、ただの通行人Aでしょ、A。ケー番とかメルアドとかは?」
「そんなの知ってるわけないでしょ!知ってたら二人に『お友達になったよ!』って報告するよ!」
花梨ちゃんは大きなタメ息をついて、ゆかりちゃんはデフォルトの笑顔が凍りついている。
なんで?
「お疲れ様でしたー。次回の相談をお待ちしておりませーん。さて、お昼、お昼。」
「ご愁傷様です。次の相談、卒業までにあるといいですね。ふぅ、デザートでも食べましょうか。」
なぜか花梨ちゃんも、ゆかりちゃんも聞く体勢から一変してリラックスモードに入った。
「ちょっと二人とも、私の相談はまだ終わってないよ!なんでリラックスしてるの!相談乗ってよ!」
「だって、なぁ……」
「そうですね、えぇ……」
とお互いに頷き合う二人。どうしてだろう、さっきよりも体感温度が冷たくなったような気がする。
いくらなんでも相談の甲斐がないなぁ……
「アドバイス、プリーズ!」
「けどさ、マジメに話すと相手の特徴も分からないのに、アドバイスのしようはないでしょ。」
「そうですよ。いくら花梨さんが男の子を虐めることが上手くても、情報がない限り無理ですよ。」
「そんなこと言われてもなぁ……。本当にメルアドも番号も知らないもん。」
知らないものを催促されても困るんだけどなぁ。
なんて私は深刻には考えていなかったけれど、二人にとっては違ったらしい。
「わかった、わかった。わかったから泣きそうな顔をしない。はぁ、なら電車で一緒になった時にメモにアドを書いて渡せば?脈がちょっとでもあれば、そのヤロウからメールが来るでしょ。」
「だから、渡せるなら二人に相談なんてしないんだってば。それになんで投げやり?他にないかなぁ……」
「それなら、み、その男の人が一緒居る時、ケータイを失くした振りをしてケータイを借りて鳴らしては?」
「そんなことしたらその人に迷惑が掛かっちゃう。それにドジな娘だと思われたくないよ。…………へぷっ」
ゆかりちゃんと喋っていると急に両手が伸びて、私の視線はマジメな顔の花梨ちゃんに捕まってしまった。
「ヒナ、あんたさ、その男の事好きなの、嫌いなの、どっち。」
「えっと、好きとか、嫌いとかじゃ……」
「好きなのか、嫌いなのか、はっきりしなさい。自分の気持ちがはっきりとしないのに、アクション出されたら、その相手にとっては迷惑なの。気持ちをはっきりと決めてから行動しないと結局自分が苦しむことになるんだよ。で!もう一度聞くけど、ヒナはソイツのことが好きなの、嫌いなの、どっち!」
「……たぶん、好き、です……」
「イチかゼロ!」
「イチです!」
「イチじゃ分からない!」
「好きです!」
「良しっ。それなら私たちも一緒にヒナにも出来そうなコト考えてあげるから。けどね、覚えてときなさい。誰かを好きになったら自分で行動を起こしなさい。映画みたいな運命なんてそんなにゴロゴロ転がってないの。本当に好きだって分かったなら自分から行動しないと誰かに奪われるんだからね。恋は早い者勝ちよ。」
花梨ちゃんの言葉には重みがあって、思わず涙腺がウルウルと滲んできた。
花梨ちゃんとゆかりちゃんを抱き締めようと立ち上がったところで、私たちは自分たちの状況を理解した。
「あぁ、青春に燃え上がるのは勝手によろしくやっててくれ、って思うんだよ、俺ぁ。でも『T・P・O』はしっかりと弁えてくれ。出来ればお前らみたいにキャラクターの濃い生徒らは苦手なんだよ、俺ぁ。」
教卓には数学Bの担当の黒木先生がいた。
そして私たち三人は本鈴が鳴り続く中、いそいそと机とお弁当を片付けた。




