その4~勇者の伯父さん~
とある貴族がいる。
城の中にある本などの資料を整理をしたり、過去のデータを引き出したりする仕事をする城勤め。勤勉、真面目がとりえである。どこにでもいそうな、そんな男である。そんな男が寝室で寝ていたら起こされた。
『伯父さん~』
半泣きの情けない声を出す甥っ子に。
「…どうしたんだ?」
鶏が鳴く時間帯に甥っ子から連絡が来た。遠くの場所でも会話ができると言う‘会信’と言う魔道具で。
…眠い。何故、こんな朝早くから甥っ子から会信がくるんだ?
と、思っても態度にも出さない。男はベッドから出るとテラスにある椅子に座り、朝日を眺めた。
『あっ!! …ごめんなしゃいっっ!!! 寝てたよね!!!…うぅぅ…』
今、気が付いたのか甥っ子よ。そして、泣くのは止めなさい。言っている事が分からなくなるから。
『また、掛けなおしますぅぅ…』
「大丈夫だ。何かあったのだろう? 話してみなさい」
君の事だから今度は夜中に会信をしてきそうだ。
『………』
「?」
『…伯父さんは…僕に学園を勧めて、援助してくれた人だから、報告…した方が良いと思って…』
「何だ? また、留年したのか?」
甥っ子は泣き虫で頑張りやなのだが…不器用でドジだ。課題のレポートを提出しようとした教員の目の前でレポートが風で飛んでいってしまったあげく回収に失敗したと言う話や、剣術の時間に剣を落としたあげく、その剣につまずいて怪我をした話など、様々な話を風の便りで耳にする。実際、補習と留年は数え切れないくらい経験している。
『…ううぅぅ…違う……。退学になった……』
「……は?」
お金が払えない者か、通う意思のない者、問題のある者が退学となる。甥っ子はお金は私が援助してるから問題はない。通う意思はある。(じゃなきゃ、初めての留年で止めてるだろう)…って事は余りのドジっぷりにとうとう学園が見放したか?
「何をしたんだ?」
『こけた』
…日常茶飯事だなそれは。
『こけたら…僕のお昼ご飯が飛んで……』
何となく分かった。それが厄介な相手の服を汚したんだろ…。確か今は王族の血筋を持つ子供が通っていたな…。
『学園の結界が壊れちゃったよおおぉぉぉぉ!!!!』
甥っ子よ、いったい何を食べようとしてたんだ? たかが飯くらいで結界は壊れないと思うのだが?
「……そうか」
『うぅっ…だから…今まで…有難うございま…した…ぅううぅぅ…』
「…」
さて、どうしたものか。せめて何年かけようが学園を卒業してくれれば就職はどうにかなったと言うのに。このままでは…。
『うぎゃっ!!』
「……どうしたんだ?」
『肥溜めに落ち……た…うぅぅ』
外にいたのか。
『昨日も落ちたのに…怒られるぅ…じゃぁね…伯父さん』
「あぁ…」
…大丈夫だろうか。
甥っ子のドジは今に始まったことではない……が、朝から肥溜めは災難だなと同情する。
「寝直す気にもなれないし…着替えるか」
その判断が賢いとはその時思っても見なかった。
勇者は書きやすいなぁ…。