その2~魔王さまの条件~
魔王さまの視点です。
魔族には百年に一回、繁殖期間があるのをご存知かしら?
種族によっては年がら年中発情している奴もいるけど、繁殖期間しか子供は出来ないの。だから繁殖期になるまでに魔族は伴侶をつくるの。
誰でもいいわけじゃないわ。
魔族は百年をかけて唯一の伴侶をつくるの。うふふ。気合入ってるわよね!
「魔王様。いつになったら伴侶をつくるのですか?」
城で働いている片目ゾンビのドナーが溜息混じりに私に質問をするの。
…その質問は嫌いよ。
「…」
その瞬間、空気が重く冷たくなる。…無駄に魔力が高いといくら抑えても少し苛立ったりするだけで漏れて周りに影響を与えちゃうの。まぁ、ドナーは大丈夫だけど。
何故その質問が嫌いか?
答えは簡単よ。後、一年しかないというのに伴侶が居ないから!!それは、魔族にとって非常に馬鹿にされる事なのよ。人間の言う‘余り者’‘いき遅れ’と呼ばれるものと似たようなもの。百年に一度しかない繁殖期間は魔族にとって重要な事なの。だから、魔族のトップでもある魔王に伴侶が居ないのは…非常に不味い…。
私だって好きでいないわけじゃないのよ?!
仕方が無いじゃない!
「…昔からお付き合いのある方々は?」
ドナーが私に質問をする。
え?
お付き合い???
あー。体の関係がある者のこと言ってるの?
「餌を伴侶にしたくないわよ」
私は淫魔と吸血鬼のハーフ。食事が色っぽい行いになるのよね~。
「ステーキが大好物だからって、牛を伴侶にしないでしょ?」
それと一緒よ。
その言葉に溜息をつくドナー。
「…一族の者達は?」
「…それこそ最悪よ。絶対無理。お断り」
あー思い出しただけで吐きそう…。
私の言葉に不思議そうな顔をするドナー。
「…一応他の種族からダントツの人気の方たちですよ?」
確か吸血鬼は優しそうな顔した美形やインテリちっくな美形が多かったかしら? 分かりやすく言うなら物語に出てきそうな王子様の様な美形ね。
…で、流し目が最高! っとか言ってたわね。
淫魔は整った筋肉美を持つ格好良い系の美形や渋い系の美形が多かったかしら? 分かりやすく言うなら物語に出てきそうな騎士の隊長ね。
…で、色っぽい声が最高! っとか言ってたわね。
「…外見は一応美しく出来てるし? それを武器にして餌を釣るわけだしね…」
だーけーど! 性格? 性質って言うの? 吸血鬼はドSなのよっ!!!
現に私の母様は吸血鬼で、強そうな筋肉だるまがヒーヒー言うのが堪らないとか言ってたわね。
奴らのイチャイチャな光景はトラウマになるわ。
私には夫婦の営みの寝室が拷問部屋にしか見えなかったわ…。
だから吸血鬼は嫌。絶対に嫌。血を飲むのも見るのも好きで特に血の匂いを嗅ぐと興奮するのよ。
その事実を知った時は手遅れ。既に虜。肉を切り刻まれても喜び…。
…誰がなりたいか!!! そんなもの嫌ぁ~
「…そう言えば同属嫌悪する種族でしたね」
…私の中にも同じ血が半分だけど流れてる。
「いじめっ子がいじめっ子を好きになる確率は果てしなく低いのよ。…それに見ただけで腰が砕ける色気だったかしら? 私には効かないしね」
「…あぁ。魔王でしたね」
ドナーは思わず納得をする。
奴らの魅力的なチャームポイントは私の前ではマイナスに変わるの。
一族のヤロー達より何千倍もの魔力がある所為か、奴らの魅了の力は私には効かないのよね。
色っぽい声は野太いだみ声に。
色っぽい流し目は喧嘩売る一秒前に。
一番酷いのは淫魔。快感が大好物の奴らは私の魅了は快感に変わる。目が合えば興奮する。一言話せばイク。
…うざい。
「同属と会話らしい会話した事無いわね…」
「……そう言えば…広間を汚して下さったのは淫魔でしたね」
ドナーは思い出したらしく声が低くなる。ドナーはこの城を愛してるから汚すもの、破壊するものは嫌うの。
昔、私が魔王の職についてから初めての報告会があったの。派遣先で起こったトラブルの報告を聞く予定だったんだけど…。
「話してみなさい」
私の一言に、広間にいた淫魔が暴走。喘ぐ、イク、そこにいた力の弱い生き物も支配され、更に暴走。一瞬にして乱交パーティーの出来上がり。
どうしたかって?
…知らないほうが幸せよ。
「…私も歓迎できませんね。…土族や蛇族はどうですか?」
ドナーも考えたくも無いのか、別の候補をあげる。
「人の形をしていない者との生殖行為は流石に遠慮したいわ…」
私、人型だし。
彼らは大きい石や泥の塊や全身鱗だったりするのよ。それを見て興奮する趣味は無いわよ。
「…確かに。物好きじゃないと出来ないですね…。じゃぁ、人型タイプのゾンビは如何です?」
「……生まれた時から死んでいる冷たい我が子を抱けって? 初の出産で?」
精神的に…キツイでしょ…。
私は遠くを見る。
「ですよね…」
ゾンビは死体が陰の力と魔力を体内に取り込む事によって生まれる。繁殖期に生まれた子供は生まれてから直ぐに呼吸と心臓が止まり、ゾンビへと姿を変える。
「…どこかに涙顔が最高に可愛い、吸血鬼でも淫魔でも無い人型いないかしら?」
「……難しいですね…」
すっと、目を逸らすドナー。
うん、分かってるわ。居たら伴侶にしているわよ。
「別に私より強くて、賢くって、整った顔で、お金持ちで、優しくって、私を愛してくれる~的な事は一切望んでないのに?!」
「…人間の女性の理想の男性ってやつですね? 無茶苦茶ですが。」
「魔族にもっと人型が居ればっ……あ」
「?」
私は気付いたの。
「そうよ! 何で気が付かなかったのかしら?!」
別に魔族に絞んなくってもいんじゃないの!!
「ふふふ」
思わず笑みがこぼれた。
人間の国王様へ
条件に当てはまる若い男性を募集いたします。
魔族の王より
人間の国々に送られた私からの手紙に人間の王達は頭を悩ませたみたいだけど、私の知った事じゃないわ。
次は不幸の手紙を受け取った人間の王たちの話~。