EP 3
22歳の誕生日に刻まれる「10桁の数字」と、純資産10億円到達のクロージング!
一月中旬。寒の入りを過ぎた地方都市の寒波は底を打ち、鉛色の重い雪雲から吹きつける地吹雪が、三晃紙器工業・第一工場のトタン壁を激しく打ち鳴らしていた。
外気温は氷点下二度。スリット加工機から吐き出される冷たい風と、フォークリフトの白い排ガスが混ざり合い、暖房設備のない吹きさらしの荷積み場は冷蔵庫以下の極寒と化していた。
指先を温める術もなく、かじかんだ手で段ボールのパレットを運ぶ工員たちの吐く息は、吐き出したそばから白く凍りついていく。
だが、正午のサイレンが鳴り響いた社員食堂の空気は、猛吹雪の寒風すら一瞬で蒸発させるほどの、生々しい阿鼻叫喚と怨嗟の絶叫に包まれていた。
「……ぎゃあぁぁぁっ! 正月休み! ただカレンダーが一枚めくられただけなのに、なんで俺の財布から野口英世も樋口一葉も全員脱走して跡形もねえんだよぉぉぉっ……!!」
ガシャアァンッ! とけたたましい金属音を立ててパイプ椅子を派手に蹴倒し、床板に突っ伏して両手両膝をバンバンと激しく叩きつけていたのは、同期の山岸だった。
毛玉だらけの安物フリースの両肘には無残な穴が空き、目の下に張り付いた三重の隈を真っ赤に充血した両目で痙攣させている。
手元のテーブルには、ガソリンスタンドの【給油500円】という絶望的な印字のレシートが、冷え切った麦茶のコップの横に虚しく転がっていた。
「おい山岸、床で跳ね回るな。埃が舞って味噌煮込みうどんに入るだろ」
俺――倉科湊が、保温ランチジャーから熱々の豚汁と、母が持たせてくれた若鶏と根菜の黒酢あんかけ弁当を取り出しながら声をかけると、山岸は涙と鼻水を撒き散らし、狂気じみた形相で床を這いずりながら俺の作業着の裾へすがりついてきた。
「冷たいカビ餅に埃が入ったって構うかよ倉科ぁぁぁっ!
正月休み、実家の親戚の集まりに顔を出したのが運の尽きだったんだよ!
クソ生意気な姪っ子と甥っ子に『おじちゃんお年玉!』って四方からたかられて、見栄張って三千円ずつ包んで!
親戚のオヤジどもに『山岸、酒が足りねえぞ!』って使い走りにされて万札が消え!
手元に残った全財産……【九百八十円】だぞ!?
軽自動車のガソリン警告灯がピカピカ点滅して、五百円分だけ給油したけど針が一ミリも動かねえ!
今月二十五日の給料日まで、あと十日以上あるんだぞ!?
残金四百八十円で、この極寒の中をどうやって生き延びろってんだよぉぉぉっ!!」
周囲のベテラン工員たちも、手元の給与明細を睨みつけながら「正月なんて親戚への上納金で一瞬で赤字だよな」「お年玉と親戚付き合いで十万消し飛んだよ」「一月の給料日までカップ麺を半分ずつ食って耐えるしかないな」と、死んだ魚の目で冷めた茶をすすっている。
機械油と紙埃の匂いが立ち込めるこの食堂で、四年もの間、俺は毎日この光景を見つめ続けてきた。
時給労働という名の檻に閉じ込められ、どれだけ真面目に汗を流しても、インフレと税制のルールによって手元から富を吸い尽くされていく大衆のリアル。
俺自身、この現場を「時給労働の限界を絶対に忘れないためのペースメーカー」として利用し続けてきたからこそ、資本主義の冷徹な構造が骨の髄まで理解できる。
俺は小さく息を吐き出し、水筒の温かいほうじ茶を一口喉へと流し込んだ。
「山岸。中学生でもわかる、慣習的搾取イベントの同調圧力とキャッシュフロー枯渇の算数をしよう」
「算数なんか聞きたくねえ! 俺の財布にガソリンを満タンに入れろ!」
「入れるわけがない。
正月のお年玉や親戚の飲み会代は、経済的自立を果たしていない弱者から容赦なく現金を巻き上げる【日本型親族システムの合法カツアゲ】だ。
残金数千円の人間が、世間体や見栄を気にして身銭を切ること自体が、自ら首根っこを差し出す自殺行為だ。
カレンダーが新しくなろうが、自分が仕組みを持たない労働者である現実は一ミリも変わらない。
環境も行動も変えず、新年の空気に流されて小銭をばら撒く人間が、一年中金欠に喘ぐのは当たり前の物理法則だ」
「ぎゃあぁぁぁっ! 正論で俺の親戚付き合いを粉砕するなよぉぉぉっ!!」
耳を塞いで食堂の隅へと逃げ出していく山岸。
だが次の瞬間、山岸は震える指でスマホを取り出し、自暴自棄に画面をスクロールするやいなや――その血走った目をカッと見開き、狂喜の笑みを浮かべて奇声を上げた。
「……ぎゃははははっ! おい見ろよ倉科ぁぁぁっ!
東京の大学四年組の同級生エリートども、完全に息の根が止まりかけてるぜぇぇぇっ!!」
「同級生がどうした?」
「ざまぁみろだぜ! 本物の地獄絵図が炸裂してやがる!
先週の卒論提出をなんとか乗り切ったと思ったら、今度は来春からの『新生活準備ローン』で完全に破滅してんだよ!
北関東の物流倉庫や地方営業に飛ばされる連中、アパートの敷金礼金・家電・車代で一人百万円必要なのに、貯金ゼロ!
学生ローンと消費者金融の審査に駆け込んだけど、学生時代のクレカ延滞が響いて『信用ブラックで融資不可』の門前払い!
大学のグループLINEで『金がねえ!住む家がねえ!誰か十万貸してくれ!』って発狂してタイムラインが完全に阿鼻叫喚の焦土と化してやがるんだ!
高卒四年目の俺たちを見下してシャンパングラス掲げてたエリート大学生どもが、入社前からホームレス寸前の多重債務者だぜ!?
ざまぁみろぉぉぉっ!
あいつらの断末魔を聞くためだけに、俺はこの凍える工場で生きてるんだよぉぉぉっ!!」
他人の転落を唯一の心のストーブにして、狂気じみた雄叫びを上げる山岸。
だが、その山岸自身も、残金四百八十円と猛吹雪に怯えて震えているのだ。
(山岸、お前には見えていないんだよ。
東京の内定者どもが新生活の初期費用に絶望し、お前が数百円の残金に泣いている横で……
目の前にいるライン工が、今日この日、どんな【歴史的瞬間】を迎えようとしているのかがな)
今日、一月十五日。
高校卒業から四年、二十二歳を迎えた俺の誕生日。
そして――先月調印したD2C子会社『株式会社シオリ・コスメティクス』の株式譲渡に伴う、巨額資金の【最終クロージングの日】だ。
「定時で上がるぞ。今夜、俺たちの城は十桁の山頂へ到達する」
午後十七時零二分、定時退社。
タイムカードをパチンと切った俺は、吹雪を切り裂き、地方都市の駅前に構えたミナト・ホールディングスのオフィスへと自転車を疾走させた。
◇ ◇ ◇
午後十七時三十分、合同会社ミナト・ホールディングスのオフィス。
ダイキンの最新エアコンが静かに二十四度の快適な室温を保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモット、そして上品な白檀と完熟柚子の温かなアロマがふわりと漂っていた。
「湊くん、お帰りなさい!」
扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。
淡いスノーホワイトの上質なカシミヤ混ハイネックニットに、清楚なチェリーレッドのロングスカート。
手元のiPad Proには、東証プライム買い手企業との最終送金ステータスがリアルタイムで表示されていた。
デスクの上には、最新のM4搭載iPad Proと、湯気を立てる特製の耐熱グラスが用意されている。
「白石、待たせたな」
「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、雪が舞う中の工場のライン作業お疲れ様……!
これ、外はすっごく凍えそうなくらい寒かったでしょ? 買収したハーブ園の無農薬エルダーフラワーと、静岡県産の初摘み完熟紅ほっぺ苺をじっくり煮詰めた『特製ホットハニーベリーティー』だよ! 温かいうちに飲んでね!」
「サンキュー、白石。生き返るよ」
グラスを受け取り、一口喉へと流し込む。
苺の濃厚で華やかな甘みと、エルダーフラワーのマスカットのような爽快な香り、そして蜂蜜の上品なコクが、冷え切った身体の芯までじんわりと温めていく。
めちゃくちゃうまい。
だが、俺は彼女の華奢な指先に、最終着金データおよびグループ全アセット統合ダッシュボードの集中UI監修による微かな強張りがあるのを見逃さなかった。
(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)
俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。
銀座の老舗名門サロンが完全予約制で仕立てた『最高級・完熟章姫苺とフランス産ショコラの極上初春ジュエルミルフィーユパフェテリーヌ』と、高密度ナノグラフェン温熱と超音波ナノミスト温冷機能で指先から手根管までを深層ケアする最新型コードレスメディカルハンドエステ機だ。
「ほら、白石。これを受け取れ」
「えっ……!? これ、真っ赤な大きな章姫苺が何層にも重なったミルフィーユ……! それに、最新のエステ機……!?
湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに高価なものをくれるの……?」
「勘違いするなよ」
俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。
「中学生でもわかる組織財務と純資産10億円到達に伴う人的資本BCP防衛の講義だ。
純資産八億九千万円を突破した我がグループの最高アートディレクター(お前)が、厳冬の急激な気温低下によって浅指屈筋および手根管周辺の柔軟性を低下させ、これから即時執行される全グループ統合最終決算ダッシュボードの最終ベクター検収を〇・四秒遅延させた場合、十桁の資産管理プラットフォームへのデータ同期遅延に伴う事業機会損失は【試算で最低でも月額一億七千万円】に跳ね上がる!
章姫苺の高純度ビタミンCとポリフェノールによる抗酸化作用、ならびにグラフェン温熱による指先の微細神経機能維持は、グループ中核クリエイターの【中長期的アジリティを担保するための戦略的厳冬BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!
お前への甘やかしなどではない!
今夜生み出される何億円もの超富裕層純利益から逆算すれば、このミルフィーユテリーヌ代などROI(投資対効果)は【実に二十一億%】を超える!
極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて手を突っ込め」
息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。
詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。
「ふふっ……あはは! 十桁のプラットフォーム……? ROIがにじゅういちおくパーセント……?
湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」
「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」
「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『防衛経費』で美味しく手をポカポカにして、二十一億パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!
……あ、湊くん! テリーヌ、苺がすっごくジューシーでパイがサクサクだよ! はい、あーん!」
フォークにサクサクのパイ生地と濃厚なショコラクリーム、そして艶やかな章姫苺の果肉をたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。
至近距離から漂う甘酸っぱい果実のアロマと香ばしいバターの香り、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。
「お、おい……自分で食える……」
「ダメー! お誕生日と十億円到達の景気づけなんだから! ほら、あーん!」
観念して口を開けると、サクッとした極上のパイの食感とともに、濃厚なショコラの甘みと章姫苺の溢れんばかりの果汁が口いっぱいに弾け飛んだ。
めちゃくちゃうまい。
そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。
(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんな強固なセキュリティをも一瞬で溶かしてしまう……)
「ふふっ、美味しい? 湊社長!」
「……ああ、最高だ。……よし白石、本題に入るぞ」
◇ ◇ ◇
その時、デスクの上のノートPCから、低く鋭い電子音が鳴り響いた。
ピロリン――。
ネットバンキングの専用端末が、大口着金の確定を告げていた。
俺と詩織は視線を交わし、モニターの前へと移動した。
画面を開くと、東証プライム買い手企業からの送金明細が更新されていた。
株式会社シオリ・コスメティクスの発行済株式譲渡代金。
湊の保有割合七十パーセントに相当する売却額、二億四千五百万円。
そこから即座に分離課税用の納税引当資金(二〇・三一五%=四千九百七十七万円)を別口座へ自動スイングさせ、手元に残った純手取り額が普通預金口座へと着金していた。
『【入金完了】株式譲渡代金(手取り純額):+195,228,250円』
一億九千五百二十万円の、税引き後純現金。
数字はそれだけに留まらない。
年末年始にフル稼働した翠月亭の宿泊料、古民家茶房の物販、全国の大学および東証プライム企業から毎月振り込まれる就活SaaSのARR、メディア事業の確定利益――そのすべてが、親会社であるミナト・ホールディングスと俺個人の口座へ雪崩れ込んでいた。
俺は資産管理スプレッドシートを開き、全口座の残高を同期させた。
カタカタ、ターンッ!
エンターキーを叩いた瞬間、画面中央の総資産残高が再計算され、黄金の数字がドカンと刻まれた。
【合同会社ミナト・ホールディングス グループ連結確定純資産(1月15日現在)】
・既存純資産残高:891,000,000円
・シオリ・コスメティクス株式譲渡手取り純利益:+195,228,250円
・老舗旅館『翠月亭』年末年始確定純利益:+24,800,000円
・古民家茶房『花咲庵』迎春特需純利益:+9,400,000円
・BtoBエンタープライズ+大学包括SaaS月割純利益:+27,200,000円
・個人向け就活SaaS+メディア連合純利益:+28,100,000円
・コア資産運用配当&米国債利息:+1,640,000円
・東証プライム主要株主配当金(月割り分):+1,800,000円
・法人税等追加引当金プール:▲92,968,250円
★ 確定総純資産残高(純資産ベース):【1,066,200,000円(祝・純資産10億6,620万円完全突破!)】
★ グループ運用総資産規模(バランスシート総額):【21億4,000万円】
★ グループ月間経常純キャッシュフロー:【+1億5,800万円】
画面に並んだ、一、〇、六、六、二、〇、〇、〇、〇、〇。
十桁。
カンマが三つ並ぶ、十億円という数字。
高校を卒業したあの日、ポケットの中にあったのは、バイト代の残りわずか三万二千円。
「高卒の工場勤務とか無理w一生ライン工頑張れよw」と同級生たちに嘲笑されてから、丸四年。
手取り十四万の食品工場ライン工が、
資本主義のルールを完璧にハックし続けた結果――
ついに、二十二歳を迎えた今日、純資産十億円の神の領域へ到達したのだ!
「……十億、本当に超えたね」
詩織が画面を見つめたまま、静かに呟いた。その声には震えはなく、深い実感が込められていた。
「ああ。だが白石、浮かれるなよ。入ってきた金から、税金分は約五千万円、すでに別口座へ隔離してある。手元にある十億円は、一円の濁りもない純粋な自己資本だ」
「うん。わかってる。湊くんの隣で見てきたから……お金が増えるほど、冷静にならなきゃいけないってこと」
詩織は力強く頷いた。
歓声を上げて抱き合うような騒がしさはなかった。ただ、二人が積み上げてきた年月の重みと、到達した数字の重厚さが、部屋の中に静かに満ちていた。
◇ ◇ ◇
午後二十一時、地方都市の小高い丘の上に建つ、九条源蔵の屋敷。
障子の向こうで庭木に積もる雪の音がかすかに聞こえる書斎で、石油ストーブが低く唸っていた。
欅の一枚板テーブルの前。
俺が提示した『1,066,200,000円』の資産管理シートを見つめていた源蔵が、ふっと老眼鏡を外した。
そして――。
「……カッカッカッ!! ワッハッハッハッ!!」
屋敷の太い梁をビリビリと震わせるほどの、豪快な大爆笑が冬の夜空に轟いた。
源蔵はバシバシと欅の一枚板テーブルを叩き、テーブルを揺らした。
「二十二歳にして【純資産十億円】の大台を蹴破りやがったか!
ワッハッハッハッ! 痛快だ湊!
ガソリン代五百円に咽び泣く山岸や、新生活の借金でホームレス寸前の大卒どもを尻目に、四年前のガキが十桁の山頂に立ちやがった!」
源蔵は豪快に笑い飛ばし、力強く俺の肩を叩いた。
老いたとはいえ、その握力にはまだ芯の通った力強さがあった。
だが、その直後――源蔵は胸元を押さえ、小さく咳き込んだ。
俺の目は、机の片隅に置かれた吸入器と、硝酸薬のピルケースを見逃さなかった。カプセルの減り方が、明らかに早くなっている。
源蔵は咳を一つ落とすと、自嘲気味にニヤリと笑い、それから真剣な眼差しで俺を真っ直ぐに見据えた。
「いいか、湊。一億までは『稼ぐ技術』の勝負だ。労働者を抜け出し、仕組みを作り、事業を回せば誰でも辿り着ける可能性がある。だがな、十億を超えた瞬間から、ゲームのルールは完全に変わる」
老人のぎょろりとした眼光が、冷徹な光を帯びて俺を捉えた。
「十億という金は、人間を狂わせる。周囲には甘い汁を吸おうとする詐欺師や銀行屋が群がり、国家はあらゆる網を張って毟り取ろうとし、何より、てめえ自身の内側から『もう十分だ』という怠惰と驕りが湧き上がってくる。……十億を稼ぐ才能と、十億を守り抜く器量は、まったく別の筋肉なんだよ」
ストーブの炎が爆ぜ、二人の影を障子に揺らした。
「てめえが築いたこの十桁の城を、生涯にわたって維持し、次世代へ繋ぐための『守りの要塞』をどう組むか。……莫大な富を手にした瞬間、最大の敵は他人の悪意ではなく、己の慢心と怠惰だ。手に入れた数字の重さに、決して呑まれるなよ」
「はい、じいさん!」
俺の力強い返答が、冬の静寂を切り裂いた。
屋敷を出ると、空には雲が切れ、張り詰めた冬の夜空に冴え冴えとした星が瞬いていた。
数百円の残金に怯える工場の現場と、見栄の果てに多重債務者へと転落していくかつての同級生たち。
彼らが囚われている労働と消費の檻の外側で、俺の目の前には、かつて誰も足を踏み入れたことのない十桁の荒野が広がっていた。
【現在の倉科湊ステータス】
・肩書:食品工場ライン工・合同会社ミナト・ホールディングス 代表社員(祝・純資産10億円・ビリオネア到達)
・確定総純資産残高:1,066,200,000円(前話比:+175,200,000円 ※M&A株式譲渡手取り+冬期事業収益)
・グループ運用総資産:2,140,000,000円(バランスシート21.4億円突破)
・月間不労/事業キャッシュフロー:+158,000,000円(グループ連結月間純利益)
・【今日の源蔵のマネー格言】:「一億までは『稼ぐ力』で到達できるが、十億からは『守り抜く器量』が試される。莫大な富を手にした瞬間、最大の敵は他人の悪意ではなく、己の慢心と怠惰だ。手に入れた数字の重さに呑まれるな」
読んでいただきありがとうございます。
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