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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 10

第4章クライマックス「19歳ライン工社長の誕生と、就活に怯える大学生たち」

 六月中旬、蒸し暑い梅雨の湿気を切り裂くように、正午のサイレンが三晃紙器工業の敷地内に鳴り響いた。

「……あ、あいつら……東京でエリート気取ってた連中が……全員、地獄に落ちかけてるぞ……!」

 社員食堂の冷水機の横で、スマートフォンの画面を食い入るように見つめながら、カタカタと肩を震わせていたのは同期の山岸だった。

 作業着の胸元をはだけさせ、油染みのついた指先でX(旧Twitter)のタイムラインを狂ったようにスクロールしている。

「おい山岸。冷水機の前を塞ぐな、水が汲めないだろ」

 俺――倉科湊がステンレスボトルを構えながら声をかけると、山岸は振り向き、画面を俺の鼻先に突きつけてきた。

「見ろよ倉科! 東京の大学に進学した高校の同級生たちの裏アカウントだ!

 大学三年生の六月って言ったらよ……【サマーインターンのエントリー開始時期】だろ!?

 『大手メガバンクのインターン選考、Webテストで即落ちした』『外資コンサルのES(エントリーシート)通過率ゼロで鬱になりそう』『ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)に書くネタがバイトとサークルしかなくて死ぬ』って、阿鼻叫喚の嵐だぜ!

 あいつら、高校を卒業した時は『高卒で田舎の工場勤務とか無理w一生ライン工頑張れよw』って俺たちを見下してただろ!?

 それがどうだ! いざ就活のリングに上がった瞬間、何万人ものエリートたちにボコボコにされて、ただの量産型ゴミクズとして足切りされてんだよ! ざまぁみろだぜぇぇっ!!」

 他人の転落を肴にして下品な歓声を上げる山岸。

 だが、その歪んだ笑顔の裏には、自分自身の手取り十四万の人生に対するどうしようもない劣等感がべったりと張り付いていた。

 俺は冷水ボトルのキャップを締め、冷ややかな視線を投げかけた。

「山岸。中学生でもわかる就職活動(労働市場)の算数をしよう」

「ああん!? 就活の算数だと!?」

「そうだ。

 日本の大卒就活生の数は毎年約四十五万人。

 そのうち、誰もが名前を知る人気上場企業やメガバンク、大手メーカーの総合職の採用枠は、せいぜい上位【5%〜10%】だ。

 四十五万人に対して、椅子は数千席しかない。

 三流私立大学でサークルで酒を飲み、授業を代筆させ、何の専門スキルも実績も積んでこなかった人間が、東大・京大・早慶のエリートたちと同じ椅子を奪い合って勝てると思うか?

 面接官が求めているのは『頑張りましたという感想文』じゃない。『この学生を採用したらいくら売上が増えるか』という【ROI(投資対効果)の証明】だ。

 何の実績も出せない人間が、エントリーシートの一行目で機械的にシュレッダーに放り込まれるのは、資本主義の需要と供給の法則通り極めて当たり前の現実なんだよ」

「う……っ、ぐ……っ」

「それに山岸、他人の就活失敗を笑っている暇があるのか?

 あいつらはこれから就職して手取り二十万の社畜になるが、お前はすでに手取り十四万の回し車の中で、住民税の増額に怯えて夜勤に入り続けているんだぞ」

「ぎゃあぁぁぁっ! トドメを刺すなよぉぉぉっ!!」

 頭を抱えて食堂の出口へと脱兎のごとく逃げ出していく山岸。

 その背中を見送りながら、俺は胸ポケットから一通の封筒を取り出した。

 法務局から届いた、特別送達の封書。

 中に入っていたのは――

 公的な透かしが入った重厚な用紙に、漆黒の印字が刻まれた【現在事項全部証明書(商業登記簿謄本)】、そして法人の実印登録を証明する【印鑑カード】だった。

『商号:合同会社ミナト・キャピタル』

『会社成立の年月日:2025年6月5日』

『代表社員:倉科 湊』

『資本金の額:金3,000,000円』

「……正式に、法務局の登記簿に刻まれた」

 指先で文字をなぞると、冷たく張り詰めた紙の質感が、静かに俺の覚悟を研ぎ澄ましていく。

 高校卒業からわずか一年と三ヶ月。

 手取り十四万の食品工場ライン工・倉科湊は、本日をもって、国家に登録された資本金三百万の法人の【代表社員(社長)】となったのだ。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時零二分、工場のタイムカードを切って定時退社した俺は、地方都市の駅前にあるシックなデザイナーズ・シェアオフィスのミーティングルームへと向かった。

 ガラス張りの個室の扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。

「湊くん……! お疲れ様!」

 淡いラベンダー色のサマーニットに、風に揺れる白いマーメイドスカート。

 ショコラブラックの髪を後ろで緩くハーフアップにまとめ、黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。

 机の上には、真新しい法人の角印と丸印、そして開設されたばかりのネット銀行の法人デビットカードが大切そうに置かれていた。

「白石、待たせたな。……どうだ、手続きは?」

「うんっ! 法務局で登記簿謄本を受け取って、その足で住信SBIネット銀行の法人口座の最終確認、全部終わらせてきたよ!

 見て、湊くん……! 『合同会社ミナト・キャピタル 代表社員 倉科湊』名義の、ピカピカのブラックの法人カード……!」

 詩織は両手でカードを掲げ、まるで宝物を見つめるように目を輝かせた。

 資本金三百万円、自己資本一千万円をバックボーンに持つ新設法人。

 無駄な固定費を極限まで削り、圧倒的な利益率を誇る俺たちの会社は、審査の厳しいネット銀行の法人口座も一発で通過していた。

「おめでとう、湊くん……! ううん、『湊社長』だね!

 ふふっ、なんだか本当に実感が湧いてきちゃった……! 私、本物の社長さんのパートナーになっちゃったんだね……!」

 詩織は嬉しそうにはにかみ、耳まで真っ赤にして上目遣いで俺を見つめてきた。

 至近距離から漂う爽やかな柑橘系の香水と、彼女自身の甘い石鹸の香り。

 その圧倒的な透明感と可愛らしさに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。

 いかん、平静を保て。

「……コホン! 社長など単なる税務上の肩書きだ。

 それより白石、今日のこの記念すべき日に、お前に渡すものがある」

「えっ……? 私に……?」

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 京都の老舗茶舗が極上の初摘み宇治抹茶を惜しみなく使用して焼き上げた『最高級・特選完熟濃茶オペラケーキ』と、長時間のiPad作業でも手首や首のリンパを優しくほぐす、医療機器認定の温熱パルスネックケア機だ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……!? これ、すごく高そうな抹茶のケーキ……! それに、最新のネックケア機……!?

 湊くん、今日は会社設立のお祝いなんだから、私が湊くんにお祝いしなきゃいけない日なのに……!」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と人的資本リスクマネジメントの講義だ。

 新法人『合同会社ミナト・キャピタル』における筆頭デザイン統括役員(お前)が、登記完了後の急激な安堵感によって副交感神経を優位にさせすぎ、血圧低下と集中力散漫によって次期自社メディアのUI/UX設計を〇・四秒遅延させた場合、新法人の月間スケーラビリティ計画における機会損失は【試算で最低でも月額百五十万円】に跳ね上がる!

 最高純度のカテキンとテアニンによる抗ストレス作用および脳内アルファ波の急速誘導、ならびに温熱低周波パルスによる胸鎖乳突筋の血流改善は、組織の基幹クリエイターの【中長期的アジリティと事業継続性を死守するための戦略的役員就任記念BCP防衛経費】だ!

 お前への甘やかしなどではない!

 今後生み出される何億円もの法人純キャッシュフローから逆算すれば、このオペラケーキ代などROI(投資対効果)は【実に百万%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上のリスクヘッジだから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて首に装着しろ」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! きょうさにゅうとつきん……? ROIがひゃくまんパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『就任経費』を美味しく食べて、百万パーセントのお返しができる神デザインを描き続けるね!

 ……あ、湊くん! オペラケーキ、金箔がキラキラしててすっごく美味しそう! はい、あーん!」

 フォークに濃厚な抹茶クリームが何層にも重なったケーキを一口乗せ、満面の笑顔で差し出してくる詩織。

 至近距離から漂う芳醇な抹茶の香りと、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! 社長就任のお祝いなんだから! ほら、あーん!」

 観念して口を開けると、濃厚でビターな抹茶のコクと、極上ガナッシュの滑らかな甘みが口いっぱいに広がった。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に焼き切れそうになる。

(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんなアルゴリズムをも瞬時に無力化する……)

「ふふっ、美味しい? 湊社長!」

「……ああ。最高にうまいよ」

 見つめ合う二人。

 夕暮れのオフィスに、甘く温かい時間が流れていた。

 ◇ ◇ ◇

 同じ頃、東京・新宿の高層ビル街。

 ガラス張りのオフィスビルの就職説明会会場から、ゾンビのようにふらふらと出てくる二人の姿があった。

 一人は、金子拓海だった。

 就職活動用に買った安物のリクルートスーツの肩は落ち、目の下には消えない土気色の隈が張り付いている。

 指先は、消費者金融の返済のために夜通し働いている解体現場のバイトで傷だらけだった。

「……ハァッ、ハァッ……また落ちた……。

 エントリーシート三十社出して……書類選考通ったの、たったの一社もねえのかよ……っ!」

 拓海の手元のスマホには、就活サイトからの無機質な『お祈りメール(不採用通知)』が滝のように並んでいた。

 消費者金融のサラ金残高五十万円、リボ払い五十万円。

 毎月三万円以上の返済に追われ、授業もサボり、資格も実績も何一つない。

 自己PR欄に書けるのは「サークルの副代表として飲み会を盛り上げました」という薄っぺらい嘘だけ。

 面接官に見透かされ、グループディスカッションでは有名大のエリートたちに手も足も出ず、ゴミのように切り捨てられ続けていた。

 そして、その数メートル後ろを、同じように青ざめた顔で歩いていたのは佐伯凛だった。

 綺麗に髪を黒く染め直し、ブランド物のバッグを隠して就活用の黒いビジネスバッグを握りしめている。

 だが、その表情は絶望に染まりきっていた。

(……なんで……なんで誰も私を選んでくれないの……!?

 私、東京の私立大学に来て、メイクもファッションも一番垢抜けて……!

 それなのに、面接官はみんな『あなた自身の成果や強みは何ですか?』って……!

 誰の彼氏が金持ちかとか、どこのバーに行ったかとか……そんなこと、就活の面接では一ミリも評価されないじゃない……っ!!)

 拓海を切り捨てて新しいサークルに入ったものの、就活という名の冷酷な「人間の市場価値査定」の前に、凛の張り子の虎は一瞬で剥ぎ取られていた。

 大手航空会社も、大手メーカーも、広告代理店も、すべて一次面接で全滅。

 手元に残ったのは、大学卒業後に迫る奨学金の返済と、空っぽのプライドだけだった。

「……なぁ、凛……」

 前を歩いていた拓海が、擦り切れた声で振り返った。

「お前も……全滅だろ?

 俺たち、東京で何やってたんだろうな……。

 あいつは……地元の工場で段ボール折ってる倉科は……今頃、笑ってんだろうな……」

「話しかけないでよ……!」

 凛は涙を拭い、拓海から目を背けた。

 だが、その胸の奥底で、かつて自分が嘲笑って切り捨てた倉科湊の姿が、手の届かない遥か雲の上の巨人のように肥大化していくのを、止めることはできなかった。

 ◇ ◇ ◇

 午後二十時、地方都市の丘の上の九条源蔵の屋敷。

 欅の一枚板テーブルの前で、俺は登記完了したばかりの登記事項証明書と法人通帳を源蔵の前に差し出した。

「じいさん、報告に来ました。

 合同会社ミナト・キャピタルの設立登記、および法人銀行口座の開設、すべて完了しました」

 源蔵は老眼鏡を押し上げ、登記簿謄本の文字をじっと見つめた。

 そして――「カッカッカ!」と低く喉を鳴らした。

「資本金三百万、代表社員・倉科湊。

 ケッ、十九歳の工場ライン工が、国家公認の法人の城を築きやがったか。

 上等だ、文句のつけようがねえ」

 源蔵は湯呑みを置き、ぎょろりとした鋭い眼光を俺に向けた。

「いいか湊。東京へ行った小僧どもは今、就職活動という名の『奴隷の品評会』で、他人に自分を値踏みされて泣き叫んでる頃合いだ。

 だが、てめえは違う。

 他人に給料を決めてもらう奴隷を卒業し、自分の手で富を生み出し、国家と対等に税金をコントロールする【本物の資本家(社長)】のリングに立ったんだ」

「ええ。ですが、これでゴールだとは思っていません」

 俺はノートPCを開き、最新の資産管理スプレッドシートを表示させた。

【第4章・最終純資産集計(合同会社ミナト・キャピタル設立時)】

・個人普通預金+運転資金キャッシュ:7,600,000円

・新NISA運用資産(世界株・米国株評価額):2,640,000円

・法人設立資本金(ミナト・キャピタル出資金):3,000,000円

★ 確定総純資産残高:【10,240,000円(純資産1,000万円完全突破!)】

「現在の事業純利益は月二百四十万円ペース。

 アフィリエイトの特単報酬とDRMの仕組みは、完全に自動化されています。

 ここから、第5章で狙うべきは――

 他人の商品を売るアフィリエイトの枠を超えた【自社オリジナル商品の開発と、D2C・スクール事業の完全内製化】です」

「ほう! ついに【商流の最上流(メーカー)】へ登るか!」

 源蔵が獰猛な笑みを浮かべ、机をバシッと叩いた。

「そうだ湊!

 他人の商品を売っている限り、広告主の機嫌一つで案件が終了するリスクはゼロにならねえ。

 だが、自分の商品を自分のリストに向けて売る【完全自社プラットフォーム】を構築すれば――

 利益率は【驚異の99%】!

 成約のすべてが、一円の中抜きもされずに会社の金庫に雪崩れ込んでくるんだよ!」

 老人の咆哮が、静かなリビングに響き渡る。

「目標の一億円へ向けて、第5章のターゲットを叩き込んでやる!

 ――【純資産3,000万円(アッパーマス層の完全突破)】だ!

 同級生たちが就活のスーツを着て頭を下げている横で、てめえは資本家の最上流へ駆け上がり、圧倒的な暴力的な富を築き上げてみせろ!」

「はい、じいさん!」

 俺の返答に、一ミリの迷いもなかった。

 窓の外を見上げると、初夏の澄み切った夜空に、北極星が凛として輝いていた。

 高校卒業から一年と三ヶ月。

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て「答え合わせ」を迎えるまでの、残り九百九十日。

 十九歳の工場ライン工社長と、覚醒した天才美少女絵師。

 法人の盾を手に入れた二人の快進撃は、ここから「自社商品の爆発的マネタイズ」と「純資産3,000万円突破」という、第5章の超絶怒涛のステージへと突き進んでいく!

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・合同会社ミナト・キャピタル 代表社員(第4章完結・法人化完了)

・総資産残高:10,240,000円(第4章累計:+2,200,000円 ※純資産1,000万突破維持)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+2,400,000円(特化ブログ3サイト自動化純利益)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「他人に雇われるために必死で頭を下げる奴は一生奴隷、他人の評価を捨てて自分の器(法人)を作った奴が資本家だ。19歳で社長の切符を握ったてめえに、もう二度と負け犬の檻は見えねえよ」

読んでいただきありがとうございます。

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