EP 5
白石詩織のメガネが外れる日(自己投資のROIと過保護な言い訳)
梅雨の晴れ間が広がった、土曜日の午前十時。
実家の六畳間の作業部屋には、カリカリ、カチカチという硬質な電子音だけが静かに響いていた。
デスクの向かい側で、白石詩織がパイプ椅子に身体を丸め、古いAndroidタブレットの画面に額がくっつきそうなほど顔を近づけている。
高校時代から使い倒しているというその端末は、液晶ガラスの四隅に蜘蛛の巣のような白いヒビが走り、タッチペンが触れるたびにジジジと鈍いノイズを立てていた。
「……あ、また描画の線が途切れちゃった。うぅ、取り消しボタンを押して……あれ? また固まっちゃったかな……?」
詩織は少し重たそうにずり落ちてきた黒縁メガネを、細い指先でクイッと押し上げた。
充血した茶褐色の瞳をしょぼしょぼと瞬かせ、トントンと華奢な首筋を叩く。
メモリ不足のせいか、イラストアプリの拡大縮小をするたびに二、三秒の画面硬直が発生し、彼女の作業を容赦なく寸断していた。
前話で立ち上げた俺たちの特化ブログ『高卒逆転マネーハック』。
その次なる主力記事――『残クレのミニバンを売却して借金をゼロにする全手順』のための4コマ解説図解を、彼女は朝の八時からずっと一人で描き続けていたのだ。
「白石、作業を止めろ」
「ふぇ……? あ、湊くん! ご、ごめんなさい、作業が遅くなっちゃって……! あと一時間……ううん、お昼休みを返上すれば、このコマの色塗りまで絶対に終わらせるからね!」
申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる詩織。
その姿を見つめながら、俺は胸の内で冷徹な計算機を高速回転させていた。
(端末の処理遅延によるタイムロスが、一動作あたり平均二・五秒。一時間で約九十秒の完全な機会損失。さらに、画面のフリッカー(ちらつき)とブルーライトによる毛様体筋の疲労、前傾姿勢による頚椎への負荷……。このままいけば、一ヶ月以内に作業効率が三割以上低下する)
頭の中で、東京へ行った同級生たちの顔がふと浮かんだ。
今頃、金子拓海は年利一五%のリボ払いで買ったブランド物のクラッチバッグを抱え、中身のない大学の飲み会で『一気!一気!』と金を溶かしているだろう。
佐伯凛も、拓海にねだって買わせた流行りのアクセサリーをSNSにアップし、『彼氏からのプレゼントしか勝たんw』などと自己顕示欲を満たしているはずだ。
世間の人間は、なぜこうも「価値の残らないゴミ(浪費)」には惜しげもなく万札をばら撒くくせに、自分の生産性を支える「生命線」には一円も投資しようとしないのか。
「タブレットの充電器を抜け。スケッチブックをトートバッグにしまえ」
「え……? ど、どうして? 私、まだ全然描けるよ……?」
「出かけるぞ。駅前のバスターミナルだ」
「ええっ!? ど、どこに行くの……!?」
「県庁所在地の中心街だ。――【我が事業部における基幹設備の全面刷新】を行う」
「き、きかんせつび……??」
目を白黒させる詩織の細い手首を取り、俺は作業部屋のブレーカーを落として立ち上がった。
◇ ◇ ◇
急行バスに揺られること四十分。
降り立ったのは、ガラス張りの高層ビルと百貨店が立ち並ぶ、県内最大のショッピングエリアだった。
「う、わぁ……すっごく人がいっぱいだね……」
詩織はおどおどと周囲を見回しながら、自分の着ている洗いざらしのチェックシャツの裾をぎゅっと握りしめた。
休日の駅前ロータリーは、お洒落な服を着た大学生やカップルたちで溢れかえっている。
「あのね、湊くん……。私、こんな街中に来るなんて聞いてなかったから、いつものバイト用のボロいスニーカーだし……なんだか場違いで恥ずかしいよ……」
身を縮める詩織を、俺は真正面から見据えた。
「白石、歩きながら中学生でもわかる算数をしよう」
「えっ……? こ、こんな人混みの中で算数……?」
「そうだ。てめえの錆びついた金銭感覚を叩き直すための、極めて重要な講義だ」
俺は歩調を緩め、詩織の横に並んで指を一本立てた。
「いいかい白石。
世の中の人間がお金を使う時、その支出は例外なく【三種類】に分類される。
一つ目は、生きていくために最低限必要な【消費】。家賃、光熱費、最低限の食費だな。
二つ目は、一瞬の快楽や見栄のために金を払い、後には一円の富も残らない【浪費】だ」
「浪費……」
「そうだ。
拓海がリボ払いで買っている見栄の時計や、パチンコ、意味のない飲み会、衝動買いの服……。
これらは買った瞬間に価値がゼロに暴落し、将来一円のキャッシュも生み出さない。資本主義の敗者が大好きな毒キノコだ。
だがな、大半の人間はこの『浪費』と、三つ目の支出の区別がまったくついていないんだよ」
俺は二本目の指を立てた。
「三つ目――それこそが、資本家が最も愛する【投資(自己投資)】だ」
「投資……株とか、不動産のこと……?」
「それだけじゃない。
今日使ったお金が、明日以降の【時間・健康・生産性・将来のキャッシュフロー】を増大させて戻ってくる支出のすべてを『投資』と呼ぶんだ」
俺は立ち止まり、目の前にそびえ立つ、巨大なガラス張りのショールームを指差した。
リンゴのマークが白く浮かび上がる、Apple Storeの正規旗艦店だった。
「入るぞ」
「えっ……!? あ、Apple……!? 湊くん、ここパソコンとかすっごく高いお店だよ……!?」
「高いから買うんだよ」
怯える詩織の手を引き、俺は白を基調としたミニマルな店舗の中へと踏み込んだ。
休日の店内は、最新のガジェットを試す客たちで賑わっている。
俺は迷うことなく、プロ向けのハイエンド端末が並ぶ中央のウッドテーブルへと直行した。
展示されていたのは、最新の『iPad Pro 11インチ(M4チップ搭載・Ultra Retina XDRディスプレイモデル)』だった。
その隣には、最新型の『Apple Pencil Pro』が鎮座している。
「白石、そのペンを握って、この画面に適当に線を描いてみろ」
「えっ……? う、うん……」
おずおずとスタイラスペンを握り、ガラスの上にペン先を走らせた詩織。
その瞬間――彼女の大きな瞳が、零れ落ちそうなほど見開かれた。
「……っ!? な、なにこれ……!?」
ペンの傾き、筆圧の強弱が、一ミリ秒の狂いもなく完全なリアルタイムで線となって画面に追従する。
紙の上に本物の鉛筆で描いているのと全く同じ……いや、それ以上の超絶的なレスポンス。
有機ELが発する発色の鮮やかさは、部屋の古いタブレットの液晶とは次元が違っていた。
「画面を二本指で拡大縮小してみろ」
「す、滑らか……! 全然カクカクしない……! レイヤーを三十枚重ねても、一瞬で色が塗れちゃう……!」
詩織は興奮で息を荒らげ、夢中になってペンを走らせ始めた。
わずか十秒で、画面の隅に描かれた小さな女の子のラクガキが、まるで命を宿したかのように生き生きと輝く。
そこへ、爽やかな青いTシャツを着た店員が歩み寄ってきた。
「お客様、すごくお上手ですね! こちらのM4チップ搭載モデルは、従来の端末と比べてグラフィック処理性能が最大四倍に向上しています。重いペイントソフトの書き出しも一瞬ですよ」
「ですよね」
俺は店員に向かって、財布からクレジットカードをスッと差し出した。
「これのスペースブラック、容量512GBを一台。
それからApple Pencil Proを一本。
画面保護用のペーパーライクフィルムと、純正のSmart Folioケースをセットでください。一括で」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
「へ……? え……? い、いっかつ……?」
レジ端末に表示された合計金額を見た詩織の顔から、完全に血の気が引いた。
『お支払い合計:218,600円(税込)』
「に、にじゅういちまん……!? う、嘘でしょ!? 湊くん、何買ってるの!? だ、ダメだよそんな大金!! 私、返せないよ……っ!!」
パニックになり、涙目で俺の腕にすがりついてくる詩織。
だが俺は、工場の正社員属性で作った年会費無料カードをリーダーにかざし、ピピッという決済完了音を鳴らした。
「白石、勘違いするなよ」
俺は店員から渡された真っ白なショッパーを受け取り、真顔で言い放った。
「これはお前へのプレゼントでも施しでもない。
中学生でもわかる算数をしよう」
「さ、算数……っ?」
「お前はさっきまで、描画遅延とフリーズのせいで、図解一枚あたり【三時間】の時間を浪費していた。
だが、このM4搭載iPad Proを使えば、動作の引っ掛かりがなくなり、作業時間は確実に【二時間以下】に短縮される。
作業スピードは一・五倍だ」
俺はショッパーを詩織の両手に抱えさせた。
「短縮された一時間で、お前は何ができる?
ブログの追加図解を描くこともできれば、一記事一万五千円の高単価案件をもう一本受託することもできる。
月に四本余分に案件をこなせば、それだけで毎月の純利益は【+30,000円】増えるんだ。
二十一万八千円の初期投資は――わずか【七ヶ月】で元本を完全に回収できる!
八ヶ月目以降は、このマシンがお前の寿命の限り、何百万円もの追加キャッシュフローを半永久的に生み出し続けるんだよ!
さらに、画面のブルーライトカットと色精度の向上によって、お前の毛細血管の疲労と頭痛のリスクを未然に防ぐ。
――いいか、これはお前への甘やかしじゃない。
我が事業部の最重要グラフィックプロセッサ(お前)に対する【生産性倍増のための純然たる設備投資】だ!
ROI(投資対効果)を極限まで計算した、極めてドライな経営判断だから、一ミリも罪悪感を抱く必要はない!」
息もつかせずにまくしたてる俺のプレゼン。
詩織は腕の中の重たいショッパーを抱きしめたまま、ポカンと口を開けていたが――やがて、その目元がふにゃりと緩んだ。
「……ふふっ。さいじゅうよう……グラフィックプロセッサ……?」
「な、何がおかしい。至極真っ当な財務諸表上の判断だぞ」
「ううん、おかしくないよ! 湊くんの『せつびとうし』、すっごくあったかくて重たいね……! 大切に、大切に使うね……!」
詩織はショッパーを胸にぎゅっと抱き寄せ、子どものようにくしゃりと笑った。
その無邪気な笑顔の眩しさに、俺の心拍計が異常アラートを鳴らしそうになる。
「……フン、当たり前だ。減価償却しきるまで使い倒してもらわないと困るからな。
――さあ、次に行くぞ」
「えっ……? 次……? まだ何か買うの……?」
「設備のアップデートは終わった。
次は――【UI/UX(外見とセルフイメージ)の根本的リファクタリング】だ」
◇ ◇ ◇
俺が詩織を連れて入ったのは、駅前の一等地に店を構える、洗練された完全予約制の高級ヘアサロンだった。
アロマの香りが漂い、間接照明に照らされた大理石のフロア。
「いらっしゃいませ! ご予約の倉科様ですね。お連れ様はこちらのセット面へどうぞ!」
現れたのは、雑誌の撮影も手がけるトップスタイリストの男性だった。
詩織は高級ホテルのような内装に完全に気圧され、「ひゃぅ……! わ、私、近所の千円カットしか行ったことないのに……っ!」と俺の背中に隠れようとする。
「ビビるな。……スタイリストさん、オーダーを伝えます」
俺はスマホのメモ帳を開き、あらかじめリサーチしておいた要件を淡々と伝えた。
「重ために切り揃えられた黒髪を、毛先に柔らかな動きが出るナチュラルなレイヤーカットに。
パーソナルカラーに合わせた髪質改善トリートメントで、自然な艶感を引き出してください。
眉の形も整えて、仕上げに薄付きのナチュラルメイクのレクチャーをお願いします」
「お任せください! お客様、もともとの髪質も骨格も素晴らしいですから、絶対に素敵に変身しますよ!」
「湊くん、ま、待って……! 私、メガネがないと何も見えないよ……っ!」
俺は詩織の顔に手を伸ばし、彼女の鼻梁に乗っていた少し重めの黒縁メガネを、スッと指先で外した。
そして、来る途中の眼科で処方箋を出してもらったワンデーの使い捨てコンタクトレンズのケースを差し出した。
「これをつけて視界を確保しろ」
「えっ……あ……」
メガネを外された詩織の顔。
視界がぼやけて戸惑うように細められたその瞳は、息を呑むほど澄んだ茶褐色をしていた。
陶器のように白い肌、長い睫毛、形の良い唇。
フレームに隠されていた「本物の原石」が、白日の下に晒された瞬間だった。
「……じゃあ、二時間後に迎えに来る」
俺は動揺を悟られないよう、早足でサロンを後にした。
◇ ◇ ◇
二時間後。
サロンの受付で待っていた俺の前に、スタイリストに促されて一人の女性が歩み出てきた。
「……湊くん……」
サロンの自動ドアが開き、午後の柔らかな自然光が彼女を包み込んだ瞬間――。
俺の思考プロセッサが、完全に焼き切れた。
「……っ」
そこに立っていたのは、俺の知っている「地味な美術部の同級生」ではなかった。
重たかった黒髪は、光を透かすような艶やかなショコラブラックのレイヤーヘアへと生まれ変わり、歩くたびにふわりと肩の上で揺れている。
黒縁メガネを脱ぎ捨てた素顔には、プロの手によって最低限のハイライトとリップが施され、透き通るような美肌と、吸い込まれそうなほど大きな瞳が露わになっていた。
さらに、サロンを出た後に立ち寄ったセレクトショップで見立てた、淡いラベンダーカラーの上品なブラウスと、風に揺れるオフホワイトのロングプリーツスカート。
清楚で、透明感があって、それでいて大人の気品を漂わせる――
街ゆく誰もが二度見し、息を呑むほどの【本物の超絶美少女】がそこにいた。
「ど、どうかな……?」
詩織は顔を耳まで真っ赤に染め、恥ずかしそうに両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。
上目遣いで、おずおずと俺の顔を伺ってくる。
「変……じゃないかな? 私、こんなお洋服着たことないし、メガネがないと何だか落ち着かなくて……やっぱり、いつもの私の方がよかったかな……?」
「…………」
「湊、くん……? ど、どうしたの……? 怒ってる……?」
不安そうに小首を傾げる詩織。
俺は必死に息を吸い込み、頭の中の暴走する演算回路を力づくで鎮火させた。
危ない。心拍数が二百を超えている。
油断すれば、「可愛い」という語彙力ゼロの単語が口から漏れ出るところだった。
「……コホンッ!」
俺はわざとらしく咳払いをし、冷徹な仮面を貼り直した。
「怒っているわけがないだろ。
……中学生でもわかる行動経済学の講義をするぞ」
「ふぇ? こ、行動経済学……?」
「そうだ。
心理学において【ハロー効果(初頭効果)】という絶対の法則がある。
人間は、相手の見た目や第一印象の清潔感によって、その人物の能力や知性までも無意識に高く評価してしまうバイアスを持っているんだ」
俺は早口で捲し立てた。
「今後、我が事業部は法人との大口アライアンスやM&A交渉、高単価な受託ディールに打って出る。
その際、ボロボロのチェックシャツと曇ったメガネのデザイナーが出てくるのと、洗練された知性と清潔感を纏ったアートディレクターが出てくるのとでは、相手企業の信頼度と提示してくる契約金額に【最低でも数百万円の開き】が出る!
美容院代二万五千円、衣装代三万円。
合計五万五千円の支出など、将来のクライアント獲得率向上と成約単価の引き上げを考慮すれば、ROIは【無限大】だ!
つまりこれはお前のファッションショーじゃない。
我が法人の【無形固定資産(ブランド価値)の評価額を最大化するための戦略的広報投資】だ!
……だから、その……変なわけがないだろ。完璧だ」
一気に言い切った俺の顔は、自分でもわかるほど熱くなっていた。
詩織は目をパチクリさせながら、俺の長い長い言い訳をじっと聞いていたが――やがて、その桃色の唇をきゅっと結び、嬉しそうにクスリと笑った。
「ふふっ……あはは! むけいこていしさん……?
湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一優しいね」
「い、言い訳じゃない。純粋な財務戦略だ」
「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『無形固定資産』として、もっともっと価値あるお仕事しなきゃね!」
詩織はサラサラの黒髪を耳にかけ、天使のような満面の笑みを咲かせた。
その圧倒的な輝きに、すれ違うサラリーマンや男子大学生たちが一斉に足を止め、呆然と振り返っている。
俺はなんだか猛烈に独占欲を刺激されるのを感じながら、「行くぞ」と詩織の手首を引いて早足で歩き出した。
◇ ◇ ◇
夕暮れ時、駅ビルの静かなオープンテラスのカフェ。
涼やかな風が吹き抜ける席で、詩織はさっそく新品のiPad Proを開き、夢中になってペーパーライクフィルムの上にペンを走らせていた。
「……すごいよ、湊くん!
線画がいつもの半分の時間で描けちゃう! 画面の反射もないから、目が全然疲れないの……!」
彼女の指先から、驚異的なクオリティのミニバン売却フローチャートが、次々とデジタルのキャンバスに生み出されていく。
生産性は劇的に跳ね上がっていた。
設備投資と自己投資のROIは、すでにこの初日から凄まじい数値を叩き出し始めていたのだ。
アイスコーヒーを飲みながら、俺は手元のスマホを開き、資産管理シートを更新した。
【本日の設備投資・自己投資収支】
・前回までの総資産:1,079,000円
・高単価記事パッケージ追加着金(2記事分):+30,000円
・最上位iPad Pro一式購入(設備投資):▲218,600円
・ヘアサロン&セレクトショップ衣装代(外見投資):▲55,000円
★ 確定総資産残高:【835,400円】
残高は一時的に八十三万円台へと減少した。
だが、俺の心には一握りの焦りもなかった。
(お金は、銀行口座にただ眠らせておくためにあるんじゃない。
事業を加速させ、生産性を極限まで高め、未来の莫大なキャッシュフローを連れてくるための【兵隊】として前線に送り込むんだ)
最強の武器(iPad Pro)と、誰もが目を奪われる美しさと自信を手に入れた最高の相棒(詩織)。
投資した二十七万円など、これから始まる快進撃の前には、瞬時に回収できる端た金にすぎない。
ピロリロリーン♪
テラスのテーブルの上で、スマートフォンが短く震えた。
画面を見ると、九条源蔵からのショートメッセージだった。
『道具は揃えたようだな。
だが坊主、ここからがネットビジネスの【最大のデスバレー(死の谷)】だ。
どれだけ綺麗な城を建てようが、どれだけ神がかった絵を描こうが……検索エンジンって怪物は、最初の3ヶ月間、お前の記事を誰の目にも触れさせねえぞ』
源蔵の冷徹な警告。
そう、開設したばかりの新規ドメインには、Googleからの信用がない。
どんなに素晴らしい記事を投稿しても、アクセス数が完全に「ゼロ」のまま推移する、精神をすり減らす暗黒の潜伏期間が待っているのだ。
だが、俺は隣で生き生きとペンを走らせる美しい相棒の横顔を見つめ、不敵に口元を吊り上げた。
(検索エンジンが俺たちを無視するなら……別の大陸から、読者を力づくで引きずり込むまでだ)
手取り十四万の工場男子と、覚醒した天才美少女絵師。
二人のデジタルの城に、最初の読者(富)を呼び込むための奇策が、静かに動き出そうとしていた。
【現在の倉科湊ステータス】
・年齢/肩書:18歳/食品工場ライン工(特化ブログ運営・設備投資断行)
・総資産残高:835,400円(前話比:▲243,600円 ※高単価記事入金+3万、iPad Pro・美容外見投資▲27.3万控除後)
・月間不労/事業キャッシュフロー:+96,000円(受託Webライティング累計純利益)
・【今日の源蔵のマネー格言】:「浪費は買った瞬間にゴミになり、投資は将来何倍もの金を連れて帰ってくる。道具と仲間に金をケチる奴は、永遠に資本家の椅子には座れねえんだよ」
読んでいただきありがとうございます。
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