鐘櫓
職場での、前田さんと岡さんの会話。
「ああ、あそこからの途中にさ、鐘楼って程じゃないけど、火事なんかの時に鳴らす鐘が吊ってあってさ、鐘のとこまで高い梯子になってる鐘叩き台あるだろ。櫓っていうか」
前田さんは言った。
「ああ、あるある。ちょっと古い感じで、近くに何かの祠だか小さいお堂みたいなのがあるとこだろ」
岡さんは昼の弁当をほおばりながらうなずいた。
「あそこさ、ちょっと前、日が暮れかかった頃に通ったんだ。そしたらあの鐘叩きの梯子の近くに消防団の格好した人がいてさ。白髪頭のおじいちゃん。自警団か何かの消防団の黒い半被着てさ。頭にねじり鉢巻きまでして地下足袋履いて、で、あれ何ていうのかな。長い棒の先に鎌みたいな刃物がついてるの。延焼を防ぐのに家を壊すやつかな。それ持ってさ。ずーんと立ってるんだ。鐘の下でさ。仁王立ち。日暮れの中に立ってるから、ちょっとびっくりしたよ。時々立ってるのかな。それとも町内会で何かあったのかな」
「ああ、それさ」
岡さんは言った。
「お化けだって」
岡さんは両手を胸の前でぶらんとさせた。
「ええ?」
前田さんは飲みかけていたお茶を吹きそうになった。
「お化け?何で?」
「さぁ。でもよく出るんだって。昼間でも見たって人もいるって。今もあそこで番してるのかな」
「……」
昼休み、昼食を食べながらの同僚の会話である。




