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どうしても君より愛するものが僕にはある。私にも実は何より愛するものが……今連れて来ておりまして

掲載日:2026/07/10

しいなここみ様の『やきにく短編料理企画』の一品なります。オリジナルの異世界王国です。

 




「もう()えられない! そのあなたにまとわりつく()()を早く外に出して!! ソレと同席の食事なんて私は絶対(ぜったい)(いや)です!

 これから先もそうなら、もうあなたの婚約者では いたくありません」


 その大声に周囲(しゅうい)のテーブルもざわめき、視線(しせん)が集まる。


()()ではない、"マリアンヌ"だ。今日はマリアンヌのためにここに来たんだ」


 向かいの席を立つ伯爵(はくしゃく)令嬢──であり婚約者──だった?カッサンドラを僕は引き()めはしなかった。


 歩き出したカッサンドラは一度 振り返った。が、僕が何もする気が無いことを確認(かくにん)すると、最後の言葉を投げつけてきた。


「婚約破棄(はき)よ!! 王族だからって……あなたはみんなの(うわさ)通り、非常識(ひじょうしき)()ぎます! 私にはとても無理よ、()()()の妻なんてゴメンだわ」


 座っている僕の左腿(ひだりもも)には、ゴールデンレトリバー(犬!)のマリアンヌが頭をのせて次の肉を待っている。

 その重みと(ぬく)もりと信頼(しんらい)を裏切ったりする気は微塵(みじん)()き上がらない。

 僕は立ち上がらず追わず、カッサンドラの言葉を受け入れて見送った。外に出るのがカッサンドラで異議(いぎ)無しだ!


 マリアンヌは焼き肉が大好きなのだ。

 それで高級焼肉店に来たのだ。

 カッサンドラは自分も僕と出かけたいと(さわ)


『多分あまり君には楽しくはないよ』


 と忠告(ちゅうこく)したのに


『パリス王子とならどこでも楽しいです』


 などと言うから連れて来てしまったのだ。

 だけど、もういい────


 焼けた牛ロース肉を何度もフーフーしてよく冷まし、調味料(ちょうみりょう)は何もつけずに 黒いツヤツヤの鼻の前に差し出すと、マリアンヌは立派(りっぱ)犬歯(けんし)のあるクサい口を開けた。

 肉を(ほう)るとゴムパッキンのような黒い縁取(ふちどり)のついた口をモグモグと動かし一瞬で飲み込む。

 フッサフッサの黄金の尻尾(しっぽ)は喜びに左右に()床掃除(ゆかそうじ)をしている。

 合わせた黒い瞳は期待(きたい)にキラキラと(きら)めき、ハッハッと(あら)い息をさせてピンク色の舌を出し、ヨダレも人のズボンに()らしながら──次の肉を僕からもらえるものだと海よりも深く空よりも広く信じている。



 可愛(かわい)い──ただひたすらに カ・ワ・イ・イ


 こんな可愛い生き物が他にいるか!!!!!!!


 マリアンヌの僕に向ける(じゅん)っっっ(すい)親愛(しんあい)に比べたら、父上に与えられた婚約者からの 見せかけの愛のおぞましさよ



 婚約(こんやく)破棄(はき)上等(じょうとう)



 僕は夢中(むちゅう)でただ肉を焼いていた────マリアンヌのために。周囲(しゅうい)のざわめきも気にしない。




「ご一緒してよろしいでしょうか、王子。注文と清算(せいさん)は自分で(いた)しますので」




 その声に顔をあげると、公爵令嬢のシルビアが僕を見つめていた。少し(おどろ)いた。


 彼女は"王都(おうと)の氷の(はな)"と呼ばれている──愛嬌(あいきょう)がなく言い寄る男性達が相手にされずに泣いているという逸話(いつわ)のある──抜群(ばつぐん)美貌(びぼう)の女性だったから。


 僕は"王子"だが 第14王子と言う──継承権(けいしょうけん)からは(はる)か遠ーい末席(まっせき)だ。国王が子沢山(こだくさん)でしかも王妃(おうひ)側室(そくしつ)も男児を多く産んだと言う(まれ)環境(かんきょう)だった。

 14番目にもなると、もう貴族とたいして周囲も(あつか)いが変わらない。平和だしマリアンヌもいるので、護衛(ごえい)もいない。

 実際(じっさい)、何かあれば僕が剣を抜いてマリアンヌを守るが……


 いろいろ考えながらも とりあえずシルビアにうなずいていた。

 カッサンドラの分もと注文した肉の皿だけは沢山(たくさん)あったので


「気にあったものがあれば取って食べていいよ。……よっぽど肉が好きなのかな?」


 と、ほぼ初めて会話する女性に聞いた。

 シルビアはそれには答えず、鳥もも肉のカットを焼き出した。


「さっき見ておりました。婚約破棄なさったんですね」


 なるほど、説教(せっきょう)


「もともと()りが合わなかったんだ。僕は変わり者だし、お互いに結婚までいかなくて()んで幸せだと思うよ」


 僕は言いながらマリアンヌにまた肉を与え、その無邪気(むじゃき)な食いっぷりに見惚(みほ)れた。



 こんなに肉をうまそうに食べる令嬢などいない……!



 それから自分でも焼けた肉をタレにつけてから口に入れた。マリアンヌと食べるとまた美味(うま)い!!


「パリス王子、私と婚約(こんやく) (いた)しませんか?」


 シルビアが(まった)予期(よき)していなかった言葉を発したので、僕は肉を(のど)()まらせてしまった。


「ゔぅ……!!」


 僕が苦しむと、マリアンヌは()れた耳ながらもピクリと動かし、口を閉じて顔を上げ真剣(しんけん)に見つめてきた。

 水を飲んで(あわ)てて流し込む。息を(ととの)えてマリアンヌの耳の後ろを()でて"大丈夫だ"と伝えながら──


「どうして!? 全然(ぜんぜん)話が分からない!!」


 とシルビアに向けて言った。シルビアは冷静に


「パリス王子の犬を愛するお気持ちが素敵(すてき)だからです。

 あなたが何かを(しん)に愛せる人だと言う(あかし)です。私はそれがある方が安心できます。ですから あなたと結婚したいと思いました」


 と説明してくれた。そして彼女もフーフーと鶏肉を冷ましている。


「…………いやぁ、でも僕は……マリアンヌが世界一美顔(びがん)だと信じているし、外出といえばマリアンヌとの散歩が最優先(さいゆうせん)だし。マリアンヌの部屋の方が……多分 妻の部屋より快適(かいてき)さも目指(めざ)してしまうと思う。

 現実的(げんじつてき)には、僕のマリアンヌへの愛に耐えられる女性なんか……いないと思っているよ」


 シルビアは小さく うなずいただけだったが、胸の中ではより多く同意(どうい)をしていた。


 分かります! パリス王子! 私も愛してやまないものがいますから。

 幼い頃から共に遊び、暮らし、寝て参りました。

 フカフカでしなやか。小さな入れ物に入りたがって、高いところからのジャンプもへっちゃら、追いかけっこが大好きでセミやスズメやネズミを捧げまくってくれた私の騎士(ナイト)────


 パリスがマリアンヌに目を向けている間に、シルビアは鶏肉を下に落とした。

 愛する"ガーランド"は、今はすっかり老いてしまって焼いた肉の方が消化(しょうか)がいいようだ。彼はもう昔のように()ねたり走ったりはしない。

 この世界には動物を()る専門医は無く、ガーランドの腹部の()()()は手で(さわ)って確認した以上は何も出来(でき)ない。猫としては充分(じゅうぶん)高齢(こうれい)だしこれ以上はなす(すべ)が無いと父には言われている。

一日一日、私の騎士(ナイト)は弱っていくのに私は見守ることしかできなくて……


 せめてこの先の未来で私は──

 私の気持ちをわかってくれる伴侶(はんりょ)()しかった。



 私が結婚相手に望むのは それだけ



 シルビアはマリアンヌを愛してやまないパリス王子の姿を見て──微笑(ほほえ)んだ。


 すると、パリス王子の方がそれに気づいた。


「"氷の華"シルビア・ヴァンセン嬢の笑顔が見れるなんて希少(きしょう)なんだろうね。魅力的(みりょくてき)だけれど……残念(ざんねん)、マリアンヌには負けるよ」


 そう彼は言った。そしてマリアンヌはシルビアを見て、ピンクの舌を()らしてハッハッと──確かに笑っているかのように口を開けている。

 シルビアは嬉しくなって笑い出した────なんて理想的(りそうてき)な方!

 "王都の氷の華"の高らかな笑い声に、周囲の人々もおやおやとテーブルに注目する。

 パリス王子は(おどろ)いて目を見開いている。


 今の言葉で楽しそうに笑うなんて……変な女性だ


「君は鶏肉が大好物(だいこうぶつ)なのかな?」


 と、今まさに鶏肉を(あみ)に上げている彼女に(たず)ねると 首を左右に()ってさらに笑うので──いよいよ変わり者なのだと確信(かくしん)した────僕と同じく。


 それなら……いいのかもしれない


 僕は僕のために焼いた牛カルビの肉の皿をシルビアに差し出した。


「いいのかしら? マリアンヌにはあげなくても?」


 シルビアが不思議(ふしぎ)そうに聞いてきた。


「いいよ。僕の分だから。マリアンヌのはあげられないけれど、僕の分は────婚約者と美味しさを共有(きょうゆう)するくらいはできるよ」


 言って何故(なぜ)か赤くなった。肉を焼く炭火(すみび)のせいかもしれない。


 シルビアもシルビアで何故(なぜ)か瞳を(うる)ませたんだ──(たし)かに


 (けむり)が目に()みたのかもしれない


「ありがとう。…………本当にありがとう」


 彼女は何故か2回()り返して、(はし)で肉を取ると塩を付けて頬張(ほおば)った。


美味(おい)しい!! あぁ、コレ本当に美味しいわね?」


 そう声をあげるシルビアは、もう"氷の華"では無かった。


 微笑み合う2人は気がついていなかったが、テーブルの下ではおっとりした大きなゴールデンレトリバーと老齢(ろうれい)のトラ猫が鼻を合わせて挨拶(あいさつ)をしていた。



 周囲の人々はにこやかに見守っていた。



 先程(さきほど)とは打って変わって──(なご)やかで(あたた)かな食事の風景(ふうけい)がそこにはあった




 ────────未来を(うつ)すかのように












お食事処に動物が入っておりますが、しつけられた大型犬と走れない老いた猫様です。大目にみてあげて下さいm(_ _)m


ゴールデンレトリバーもトラ猫も飼いました。なので、いつか犬と猫に愛情を注ぎまくっている話を書きたいと思っていました。


本文の中にありますが、犬の口(の周り)には、キクラゲのような黒いビレビレがついていませんか?アレ、私は自分の家のワンコで当時本当に"ゴムパッキン"と呼んでいました。正式な名称ってあるんですかね……


どんなワンコもどんなニャンコも飼ったら世界一可愛くなってしまうことあります(ᵔᴥᵔ)。そんな2人と2匹に焼き肉屋で出会ってもらいました。


お読みいただきまして、誠にありがとうございました。

<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
 シロクマシロウ子さん、こんにちは。 「どうしても君より愛するものが僕にはある。私にも実は何より愛するものが……今連れて来ておりまして」拝読致しました。  犬連れの主人公、パリス。犬の名前はマリア…
お互いに動物を愛する者同士で通じ合う物はきっとあったのでしょうね。 カッサンドラ嬢も何か飼っていたならまた考え方は変わったかもしれません。 そして調べてみました所、タレや塩などの調味料をつけず尚且つし…
 本当にほのぼのしたいいお話ですね❗゜+.゜(´▽`人)゜+.゜  動物を愛せる人に悪い人は居ないと言いますし、このお二人は同じ価値観を持っているからきっと素敵な家庭が築けますね❗ヾ(o゜ω゜o)ノ゛…
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