表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デッド・ライン・ディール ~王都の闇を飼い慣らす、背徳のギャンブラー~  作者: レブラン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

1話 フルハウス

 テーブル中央には、私、マーヤ・ディラントが持つ全財産――そして、背負いきれないほどの借金の証文が乗る。ここで負ければもう後がない……。

 震える私の手と5枚のトランプのカード。


「おかしい……」


 私はそう呟く。

 視線をカードから目の前の男に移す。男の名はクラウゼ。このカジノの闇を束ねる者の一人だ。

 活気と喧騒、金と野望が、煉瓦と大理石の建物から溢れ出す。王都の煌びやかな表の光景とは裏腹に、私は『闇カジノ』の核心に立っていた。

 魔石のシャンデリアが黄金色の光を降らせるが、私の目の前のポーカーテーブルに広がる闇を照らしきれない。熱狂的なざわめきの中、喉が渇き、唾を飲む。


 現在3戦して3敗。掛け金(コイン)もだいぶ削られた。

 男の冷酷な目つきが私の動揺を見透かし、テーブルをトントンと指で叩く。そのリズムは私の心臓を締め付けるようだ。

 相手の不安を煽りミスを誘う。男の性格を表すような行動。

 私は呼吸を整えた。レイズは済ませた。

 一か八かの命懸けの勝負!


「フルハウスよ!」


 叫ぶように声を絞り出し掌中のカードを叩きつける。

 ♥5♠5♦5♣8♥8。

 5のスリーカードと8のペア――フルハウス。

 ポーカーで4番目に強い役。これを超える手が来る可能性は、ほぼない。勝った――そう確信したはずだった。


「どう?」


 私は男に視線を向けると、男は一瞬眉間に皺を寄せ、渋い顔をしながら指輪をさする。だがそれはすぐに消え失せ、口元を上げニヤつく顔をした。

 男はゆっくりと、まるで時間を引き延ばすかのように自分のカードを開いた。


「惜しいな。実に惜しい、ほらフルハウスだ。ただし……役はこっちが上だがな!」


 テーブルに現れたのは――♠K♥K♣K♠9♣9。


「なっ……」


 驚きと同時に血の気が引く。

 カジノの闇は私を容赦なく引きずり込んだ。

 テーブルに積まれたコインが男に取られ、次第に減っていく。

 男がコインをかき集める瞬間、その指輪の光が私の目を射た。

 そして場のカードにわずかな揺れ。ノイズが走る。

 ハッと気づくと、男の嘲笑が響く。


「ようやく気づいたのかね」


 男の指輪についているそれは、魔石の指輪でありカード操作用の魔道具。

 毎回出すカードが私よりも少し良い手だったのはそのせいか。

 初めから勝てるわけがなかった。


「イ、イカサマ。これはイカサマよ!」

「なーに言っておる。負けているからって、周囲をみてみなされ」


 笑い声が突き刺さる。

 負け犬の遠吠えなど、誰も聞く耳を持たない。

 額を伝う汗が視界を滲ませ、私はそれを手の甲で拭った。


「もうすぐお前の借金が確定する」


 下卑た笑みを浮かべる男の顔が、黄金色の魔石の光の中で歪んで見えた。

 イカサマだと気づいても、叫んでも、この闇の中では何もできない。絶望が喉を締めつける。

 するとカジノ全体の光が数度点滅を繰り返す。

 客はざわめき、男は従業員に怒鳴りつけた。


「なにがあった!」

「原因は不明です……あと外で暴れている者が……」

「そんな奴さっさと追い出せ!」

 

 私はその言葉を聞いてにやりと笑う。


「どうした。ついに絶望して狂ってしまったか?」


 先ほどの絶望的な表情とは裏腹に、不気味に見えたのだろう。

 そうこの男はまだ私の――いや、私たちの作戦に気が付いていない。

 その瞬間、カジノを照らしていた全てのシャンデリアの光が一斉に消滅した。

 周囲の熱狂的なざわめきが一気に恐怖の叫びに変わる。

 誰もが何が起きたのか判断できず、一瞬で場が凍りついた。

 ただ唯一光っている物がある。私が今、頭に身に着けているリボン。


「こっちだ」


 突然、強い力で手を掴まれ「マーヤ」と叫ばれた。私はその手をゴツゴツした男の手の感触に覚えがある――ニックだ。

 暗闇の中、ニックが先導して私を連れ出し、その場を離れるように駆け出した。


「待て、止まれ!」


 暗闇の中でも光る物が動いているのだから当然目立つ。

 カジノの警備兵はその光目掛けて追いかける。

 捕まればどんな目に遭うのか目に見えていた。

 警備兵は「ぐえっ」と喉を押し潰したような声を漏らし倒れた。


 ニックが暗闇の中で警備兵を気絶させ、道を開いてくれた。

 戦闘担当の彼は頼りになる。

 私は必死についていき、重い扉を抜けて裏路地へ飛び出した。


「これを被ってくれ」


 私は彼が持っていたマントを手渡された。

 彼もマントで顔を隠している。私も急いで羽織る。

 これで薄暗い月明りで追手から見えにくいだろう。


「すぐそこの建物に隠れるぞ」


 入り組んだ路地裏を、迷路を走り抜け建物内に駆け込んだ。

 しばらくして追っ手と思われる数人が建物をスルーして、遠くへと行く。


「ありがとう、タイミングはバッチリよ」


 息を切らせて言うと、彼に短い言葉を返した。

 建物の中でようやく私たちはフードを外した。

 ニックは短い灰色の髪、角ばった輪郭。鋭いが穏やかさの残る目で私を見つめた。


「一時的にだが上手く魔石を無効化できる反発石が機能して良かった。あいつらは……もう来てはいないな」


 私たちは深く呼吸を整えた。

 息苦しいほど熱い闇夜の中、私は壁に背を預ける。


「しっかり撮れたか?」

「ええ、もちろん」


 私は頭に付けていた宝石を外す。

 多面カットしている緑の宝石が埋め込まれていた。見た目は普通のアクセサリーの類となんら変わらない。

 魔力を込めると映像が浮かび上がった。

 私があの男と対決した一連の流れを記録した360°映像。イカサマしている部分までバッチリ映っていた。


「上手くいったな」

「そうねニック。これで交渉して後ろ楯と軍資金が得られるわ」

「ああ、それがあればあの男『セブンズミラーのジュランテ』と約束をしたからな。間違いない」

「全財産は失ったけど。これで第一歩を進めるわね。問題は途中で中断したとはいえ借金による手形」

「中断しているならまだ大丈夫。手形の効力はまだ残っているが決着がつくまでは確定しないはずだ」


 私はなにも言わない。

 言葉にはしないが、内心成功するかやはり不安。

 察したのか、ニックが私の肩を力強く掴んだ。


「マーヤ、僕たちはもうやるしかないんだ。勝って、闇カジノを手中に収める」


 私は同意するように頷いた。


「ニックの言う通り。夢の為に諦めないし負けるわけにはいかない!」


 そう、私たちには夢がある。裏で王都を牛耳り、掌握するという途方もない夢が。

 王都に来る者全てが、地位、名誉、権力、金といった憧れを抱き、そして絶望に堕ちる。

 私もその絶望を味わった一人だ。

 村を出てから、王都で冒険者として日銭を稼ぎカジノをする日々。

 そんなある日、あるカジノで人物に決定的な絶望を目にした。

 このままでは約束したあの子はあれに盗られてしまう。

 唯一回避し、対抗し、成り上がるには――力。

 そう考え、私が彼を説得して辿り着いた場所、それが『カジノ』。しかも、ただのカジノではない『裏カジノ』だ。

 今回、100%勝てないと分かっていながらも挑んだのはこの為。

 危険な目に遭いそうになりながらも、記録媒体に録画した動画も全て交渉材料を得るためだ。


 これも全ては、あの巨大な闇(リーシャ)に対抗する必要がある。

 そして頂点に立つためには、最後のピースのあの子が必要だ。

 私の脳裏に一人の少女の笑顔が浮かんだ。

 村で出会った、あの小さな女の子。

 いつも私の後ろについてきて、「マーヤお姉ちゃん!」と目を輝かせていた。

 あの日、村を出る私に泣きながら叫んだフェルの声が耳に残っている。そして約束したあの指切り。


 ああ、フェル。


 今はまだ幼く、私もスタート地点にも立っていないから連れてくるわけにもいかない。

 それにあなたを迎えに行くには、ただの冒険者じゃ足りない。

 王都の闇に飲まれない力が――いや、この闇そのものを支配する力が必要なんだ。

 あなたが成人の15歳になるまで、あと5年。

 王都に来たあの子が、リーシャに見つかれば間違いなく玩具にされる。

 それまでに私たちが基盤を作らなければならない。

 その時、私はこの王都で誰にも侮られない地位を築いている。


「待っていてフェル。私は、この闇を全て支配する」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ