第3話:綻びる信頼と「白い聖域」の露出
あの夜、私が目撃したものは、この平穏な地方都市Y市の裏側に潜む、どろりとした悪意そのものだった。
会社での残業を終え、駅裏の駐車場へ向かっていた私は、古い倉庫街の路地から漏れ出す異様な熱気と、戦い特有の金属的な響きに足を止めた。
そこでは、この街の守護者と噂される「セイントレディ」が、数多の怪人ドロルを相手に、孤高の戦いを繰り広げていた。
物陰から息を潜めて見守る私の目に映ったのは、月明かりを弾く鮮やかなロイヤルブルーの影だ。
163センチほどの、しなやかでありながら鍛え抜かれた肢体。彼女を包むレオタードは、一分の隙もなく肉体に密着し、その強烈な弾性で彼女の躍動を支えているように見えた。
「はあっ……! たぁっ!」
凛とした掛け声とともに繰り出される鋭い蹴りが、ドロルを次々と沈めていく。どれほど激しく動いても、そのレオタードの裾はびくともせず、彼女の「気高さ」を物理的に証明しているかのようだった。
だが、ドロルたちの狙いは、彼女の命を奪うことだけではなかった。
一体のドロルが、泥のような粘液を撒き散らしながら彼女の死角に潜り込み、その強靭な足首を掴んだのだ。
「っ……!?」
バランスを崩した彼女に、別のドロルが飛びかかる。セイントレディは必死に身をよじったが、連携を強めた怪人たちの重圧に抗いきれず、冷たく硬いコンクリートの上へと叩きつけられた。
ドサッ……!
私は思わず声を上げそうになり、口を押さえた。
仰向けに倒れた彼女の四肢は、四方から群がるドロルたちによって地面に釘付けにされた。
「離しなさい……っ! この汚らわしい怪物ども……!」
彼女の声には、まだ戦士としての誇りが満ちていた。しかし、ドロルたちはその誇りを踏みにじるための、卑俗な儀式を開始した。
一体のドロルが、彼女の股間へと這い寄る。その節くれ立った指先が、彼女が「完璧な結界」として信頼していたであろう、レオタードの裾ゴムにかけられた。
「な、何を……やめなさい! 来ないで!」
セイントレディの肉体が、恐怖でびくりと跳ねる。
ドロルは彼女の拒絶を楽しむように、じりじりと、その強靭なゴムに指を潜り込ませていく。
「ミセル……ミセロ! 聖女ノナカ、ミセロ!」
ドロルは嘲笑いながら、一気に、強引にその裾を捲り上げた。
パチンッ! ズルリ……ッ!
「ああああああっ……!!」
夜の静寂を切り裂くような、彼女の悲鳴。
腰の上まで剥ぎ取られたロイヤルブルーの生地の下から、白日の下に晒されたのは、あまりにも場違いで、あまりにも清潔な「白い下着」だった。
パンストの薄い膜越しに、清楚な純白のフルバックパンティが、その全貌を晒している。そしてその中央、下腹部の位置で、本来は誰の目に触れることも許されないはずの「ブルークリスタル」が、屈辱に震える彼女の腹部の上で、皮肉にも神聖な輝きを放っていた。
「ヒヒッ……シロイ、ミエタ! 聖女、ナカハ、タダノオンナ!」
「アハハッ! キレイナ、シロ……。クリスタル、キラキラ、シテル!」
ドロルたちの卑俗な嘲笑が、路地裏に木霊する。
彼らは戦うことも忘れ、地面に張り付けられた彼女の最も秘められた「神聖な空間」を覗き込み、粘液を垂らしながら指を差して笑い転げている。
私は、物陰で拳を握りしめ、ただ震えていた。
正義のヒロインが、その「誇り」の象徴であるはずのレオタードを無残に捲り上げられ、パンスト越しに下着を晒されている。夜の冷気が直接、その白い布地に触れ、彼女の肉体は屈辱と羞恥で痙攣していた。
「……殺して……。お願い、もう殺して……」
掠れた声で懇願するセイントレディ。
だが、クリスタルに指が触れ、その神聖な輝きが汚らわしい泥で汚された瞬間――彼女の中で、死に体だった「誇り」が最後の一火を燃やした。
「……っ……ふざけないで……ッ!!」
クリスタルが、これまで以上に眩い光を放つ。
その輝きにドロルたちが怯んだ隙に、彼女は無理やり自由になった片足を振り抜き、眼前で嘲笑っていたドロルの頭部を粉砕した。
「ああああああっ!」
裂帛の気合とともに、彼女は残る力を振り絞って立ち上がる。捲り上げられたレオタードの裾を、震える手で乱暴に引き戻し、再びその「白い聖域」をロイヤルブルーの闇へと封じ込めた。
満身創痍。しかし、彼女の瞳にはまだ、消えない正義の炎が宿っていた。
立て続けに放たれる回し蹴りが、周囲のドロルたちを次々と霧散させていく。
最後に一体を蹴散らした彼女は、膝をつき、肩で荒い息をつきながら、捲り上げられていた裾の感触を確かめるように、何度も何度もその位置を直していた。
「……っ……」
彼女は私の方を一瞬だけ見たような気がしたが、すぐに夜の闇へと消え去った。
後に残されたのは、戦いの傷跡と、私の脳裏に焼き付いて離れない「捲り上げられた青」と「晒された白」の残像だけだった。
私はその時、確信していた。
彼女は勝った。ドロルを蹴散らし、ヒロインとしての品格を辛うじて守り抜いたのだ。
だが、同時に、彼女の「完璧な結界」には、決して消えない亀裂が入ってしまったことも、私は直感していた。
それが、さらなる深い奈落への序曲であることを、その時の私はまだ知る由もなかった。




