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【外伝 File 10】 密室の解体新書 ―聖女の言い訳と特撮ヒロイン論―

敵の愛撫に屈してしまった自己嫌悪から、頑なに本音を隠し、難解な理屈や言い訳で自分を守ろうとする麗子。

健一は、そんな彼女を救うため、あえて残酷な現実を突きつけ、彼女が必死に隠す「4度も絶頂に達してしまった」という深い羞恥を無理やり引きずり出していく。

泣きながら意地を張り、それでも本音を言えない不器用なインテリヒロインのプライドを、健一は「どんな君でも愛おしい」という絶対的な肯定で包み込もうとする。

これは、本編第10話の裏側で繰り広げられた、彼女の心を開かせるための泥臭くも愛おしい、1時間の密室の対話の記録である。

あの夜、アジトの扉を開けた私が目にしたのは、自らレオタードの裾ゴムを深くねじ込み、堕落の儀式に溺れる「セイントレディ」の姿だった。


扉を開けた瞬間に鼻腔を突いたのは、冷え切ったアジトの空気と、神代麗子の激しい喘ぎ、そして吸水性のない化繊生地がこすれ合う、乾いた摩擦音だった。

「麗子……」

僕の声に、床に膝を突いていた彼女の肩が跳ねた。

そこには、僕の知らない「セイントレディ」がいた。新調されたばかりの強靭な裾ゴムは、自らねじ込んだことによって臀部の深淵へと沈み込み、本来は「規律」の象徴であったはずの純白のフルバックパンティが、黒いリボンと共に鋭角なVラインから無残に剥き出しになっていた。

「見ないで……健一、お願い、見ないで……!」

彼女は這いずるようにして僕から距離を取り、震える手で食い込んだ裾を隠そうとした。だが、弾性の死にかけた生地は彼女の指を裏切り、かえってその惨めな露出を強調させるだけだった。

「……4〜5年前だったわ。あの青い光に触れた時から、すべてが変わってしまったの」

絞り出すような彼女の声が、静まり返った部屋に響いた。

「理由は分からない……。でも、こうして戦っていないと、この窮屈な衣装に身を包んでいないと、私は自分でいられないの。……正義なんて、そんな立派なものじゃない。ただ、続けていないと落ち着かない。……これが、私の『生』への執着なのよ」

彼女は自嘲気味に笑った。

「ゾディアックに教え込まれたの。私のこの『正義の皮膚』は、今や彼の手つきを快感に翻訳するだけの道具に成り下がったわ。自分で自分を慰める時でさえ、私はあの怪人の影を追いかけている……。汚らわしいでしょう? 健一」

……ここまでは、本編で語られた通りだ。

彼女は「生への執着」という重い使命感を口にすることで、目の前の恥態をどこか高尚な悲劇にすり替えようとしていた。

しかし、この直後、僕が彼女の隣に膝を突き、「俺を、君の共犯者にしてくれ」と告げるまでには、語られなかった**「空白の1時間」**が存在する。

あの時、僕はすぐに彼女を抱きしめ、安易な慰めの言葉をかけることはしなかった。

自嘲する彼女の瞳の奥に、深い自己嫌悪と、分厚い「理論武装」という名の鎧が張り付いているのを見たからだ。

「……勘違いしないでほしいのだけれど」

床に座り込んだまま、麗子は乱れた呼吸を整え、ふいによどみない口調で語り始めた。

「私がこうして、自分を慰めるような真似をしているのは、決して肉体的な快楽に屈したからではないわ。あの夜……ゾディアックが私の耳元で『麗子』と、本名を囁いた。その精神的ショックが私のアイデンティティを根本から揺さぶり、脳の防衛本能が異常な信号を……そう、精神支配の罠が、一時的な身体反応を引き起こしたに過ぎないの」

某東京の有名女子大を卒業し、厳格な英語教師として自分を律してきた彼女のプライド。それが、自らが肉体的な快感に屈したという真実から目を背け、綺麗な言い訳で逃げ込もうとしていた。

教壇で生徒に解説するかのようなその高飛車で理路整然とした語彙力は、無残に食い込んだままのレオタード姿と致命的に噛み合っていない。

「嘘をつくな、麗子」

僕は、彼女の弁明をあえて強い声で遮った。

本当は今すぐ抱きしめてやりたかった。だが、彼女は必死に本音を隠し、自分自身を許せずにいる。このまま同情で包み込んでしまえば、彼女は一生、ゾディアックの幻影と自己嫌悪に怯えながら生きていくことになる。

だから僕は、嫌われ役になってでも、彼女の心の奥底にある本音を引き出さなければならなかった。

「名前を呼ばれた精神的ショックだけで、君の身体がそこまで乱れるはずがない。君は『手つきを翻訳する』と言ったな。あの夜、本当は何があった?」

「え……? 何を……一度だけよ。名前を呼ばれて、少しだけ乱れただけ……」

麗子は視線を泳がせ、防衛線を張る。なかなか本音を言ってくれない。

「一度だけ? あの状況でか?」

僕は彼女から目を逸らさずに一歩近づいた。

「思い出せ。君は地上数メートルの虚空に宙吊りにされた。自重と、拘束された両腕の牽引によって、レオタードの生地は容赦なく上方へと引き上げられた。そうだろ?」

「っ……! そ、それは……物理的な状況の話であって……」

「物理の話をしているんだ。パンストの滑らかさと生地の摩擦の少なさが、君の裾ゴムを、君自身の体重を使って臀部の奥深くまで沈み込ませた。体操選手が鉄棒にぶら下がった時の力学と同じだ。ゾディアックは触れる前から、君の神聖な空間の構造を見透かしていた。黒いストラップも、ステッチの縁取りも、君は自重でTバック状態になりながら彼に晒し続けていたんだ」

「や、やめて……」

「そして彼は、君のニップレスを剥がし、胸の突起を弄った。その状態で、本当に『一度だけ』か?」

息を呑む音が響いた。

麗子の瞳が大きく見開かれ、唇がわなななき始めた。彼女の強固な鎧に、決定的な亀裂が入る。本音を隠しきれなくなった感情が、決壊しようとしていた。

「……っ……4回よ……!」

耐えきれなくなった麗子が、悲鳴のように自白した。

「満足!? 摩擦と重力で、胸を愛撫されただけで、私は4回も絶頂に達したわよ! 普段の自分の声からは想像もつかない、裏返ったような嬌声で喘ぎながら……っ! 自分で自分の身体が制御できなくて、ただ腰を跳ねさせて……っ!」

「ああああああっ……!!」

吐き出した直後、麗子は自らの言葉の醜さに耐えきれず、耳を塞いで床に突っ伏した。

「やめて……もう言わないで……! 私は……私はただ……っ!」

言葉が詰まり、彼女の呼吸が激しく乱れる。もはやそこに、理路整然と「精神支配」を語る女教師の姿はない。高潔な使命感を背負いながらも、ただの羞恥に震える一人の女がいた。

しかし、それでも彼女の不器用なプライドは最後の抵抗を試みた。

完全に追い詰められた麗子は、顔を涙で濡らしながら、最後の砦として学術的な哲学の知識にすがるように逃げ込んだのだ。

「ちが、違うの……っ! エピクロスの言う心の平静アタラクシアが、あの時は不可抗力で乱されただけで……っ! カントの義務論によれば、私の核にある正義は、快楽という現象には左右されないはず……! だから、私はセイントレディとして……っ、あ……でも、私の身体は……っ、あぁっ……」

トラウマを学術的に処理しようと早口でまくしたてるが、もはやその声は嗚咽にまみれ、震えきっている。理屈と本能がショートし、彼女自身がパニックに陥っていた。その必死に理屈をこねて自爆していく姿は、高飛車なインテリの悲しい末路でありながら、不器用なまでに真っ直ぐで、どこか滑稽で、哀れで、そしてひどく愛おしかった。

「……難しい哲学で自分を縛るのはやめろ、麗子」

僕は彼女の言葉を遮り、ゆっくりと彼女の前に跪いた。そして、震えるその両肩を力強く掴み、まっすぐに僕の目を見させた。

「かつて、日曜の朝にテレビで見た気高い特撮ヒロインを覚えているか? 彼女はあんな短いスカートで戦い、敵に拘束されてパンティを晒し、蹂躙され、辱めを受けた。それでも彼女は、人々から愛され、その品格と美しさを決して失わなかった」

「……え?」

突然の泥臭いヒロイン論に、麗子が涙で濡れた目を瞬かせる。

「完璧な正義なんて、どこにもないんだ。敵の愛撫に震え、無残な食い込みに羞恥し、己の快感に自己嫌悪して涙を流す。4回達してしまったその『隙』こそが、君の美しさと品格をより一層際立たせているんだよ」

「私の、隙が……?」

「ああ。理屈の鎧なんて脱ぎ捨てろ。俺は、ゾディアックの愛撫に裏返った声で喘ぐ君も、腰を跳ねさせる君も、今こうして必死に言い訳をして泣き崩れる君も……そのすべてを、愛おしいと思っている」

絶対的な、無条件の肯定。

その言葉が響いた瞬間、彼女の瞳の奥で、自分を縛り付けていたカントもエピクロスも、某有名女子大のプライドも、完全に砕け散った。

張り詰めていた糸が切れ、麗子は力なく僕の胸に崩れ落ちた。

「……負けたわ、健一」

絞り出すような声だった。

「あなたの言う通りよ……。私、快感に溺れた自分が許せなくて……必死に、綺麗な嘘をついてた。怖い……自分の身体が、自分でなくなるのが怖い……っ」

「大丈夫だ。君のその汚濁ごと、俺が引き受ける」

麗子は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を僕の胸に押し付けながら、消え入りそうな、けれど確かな声で言った。

「私に……快感を与えることを……許可します」

心の底からの本音。不器用な彼女がようやく見せた完全なる受容の言葉だった。

その瞬間、僕は彼女を縛り付けていた孤独な迷路の扉が、ついに開いたことを知った。

僕は彼女を抱きしめようとした腕を止め、あえて彼女の隣に膝を突き直した。そして、その震える細い肩に、静かに手を置いた。

ここから、本編のあの一瞬へと繋がるのだ。

「麗子、君がこれを選んだんじゃない。この使命が、君を選んだんだ」

僕は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「俺を、君の共犯者にしてくれ」

その言葉が届いた瞬間、麗子の瞳から、ゾディアックに支配されていた絶望の色が完全に消え去った。代わりに宿ったのは、長い冬を終えたばかりの地面のような、初めての「安らぎ」だった。

「健一……。あ、ああ……」

彼女の目から、一筋の涙がこぼれ、レオタードの青い生地に吸い込まれて消えた。

沈黙が支配するアジトの中で、麗子は震える指を伸ばし、僕のシャツの裾を縋るように掴んだ。

「……健一。私、もうずっと、この感覚の迷路から出られないの。一人で耐えるには、この生地が運んでくる記憶は……あまりに重すぎて。お願い、私を……独りにしないで」

それは、彼女が初めて僕に差し出した、剥き出しの内的欲求だった。

僕は彼女が差し出した弱さに寄り添うように、ゆっくりと手を伸ばした。

言葉による懸命な対話は終わった。

ここから先は、理屈ではない。僕と彼女の肌が直接触れ合い、過去の汚濁を愛で上書きしていく「共鳴の儀式」が始まる。

僕は静かに、彼女が自ら捲り上げていたロイヤルブルーのVラインへと、指を滑らせた。


エピローグ

神代麗子よ。

君の身体に刻まれた記憶は、決して消えることはない。

理屈で武装しても、過去の汚濁は君を追い詰めるだろう。

だからこそ、受け入れろ。

恐怖に震え、快感に喘ぎ、無様に泣き崩れたその事実から目を背けるな。

完璧な聖女などいない。

その泥まみれの「隙」を抱えたまま、それでも立ち上がる君だからこそ、美しいのだ。

次こそは、己の意志で戦え。

俺がそのすべてを肯定し、背中を押し続ける。

もう、一人ではないのだから。


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